第149話
いよいよ身体強化を利用しての、出発が行われようとしていた
これまでに砦に向かうまでに5日間、訓練を含めてこの山道で5日が経っている
ダモンが蜂起するまでどのぐらいの余裕があるかは不明だし、フランドールがどう動くかも分からない
そうなると時間に余裕が無いのが分かる
当初の予定が2週間程度だが、ここから何日で越えられるのか
それが鍵になりそうだった
日が昇り始めて、野営地にも日が差し込み始める。
今が秋の始めなので、時刻は7時前後といったところだろう。
みなが起き始めて、さっそく出発の支度を始めた。
御者も準備をするが、今回はその隣に冒険者も乗る事になる。
その間の馬は、他の冒険者が手綱を持って移動する事になる。
「すっかり準備も出来たな
それでは出発を…」
「ちょっと待て」
「ん?
何だ?」
ギルバートが出立の号令を発するのを、アーネストが止める。
ギルバートは怪訝そうな顔をして振り返る。
いざ出発と言う段になって、何で止めるのか理由が分からなかった。
「ギル
出発するのは良いが、途中でペースが落ちた時の事は考えているのか?」
「え?」
「だから!
魔力切れか維持が出来なくて、ペースが落ちたらどうするかだよ」
そこまで言われて、ギルバートは気が付いた。
昼前まで行軍して、そこで休めば良いと思っていた。
しかし冒険者達が、そこまでもたなかった場合の事を言っているのだ。
そこまで考えていなかったので、そこでギルバートは答えに窮した。
「ううむ…」
「考えていなかったな」
「う…
そうだ」
「よし
それでは、冒険者の方で無理そうなら、すぐに連絡をしてくれ
そうすれば速度は落とす」
「はい」
「伝令は近くに居る仲間でも兵士でも良い
兎に角無理はするなよ
魔力枯渇は相当に苦しいからな
後々の行軍にも響く」
「はい」
「ギルもそれで良いな?」
「ああ
兎に角気を付けて行こう」
「はい」
分かっているんなら最初から言えよ
平気そうな顔してて、本当は知っているんじゃないか
冒険者達はそう思ったが、内心を隠して了解の旨を伝える。
そこはアーネストが、全体の指揮を執る訳にはいかないからだ。
あくまでも指揮は、この場の主であるギルバートが執るべきなのだ。
それが分かっているので、アーネストは忠告だけをしているのだ。
「無理はするなよ
あれはキツイからな」
「分かりました」
「無理だと思ったらすぐに伝えます」
「うん
そうしてくれ」
そう言いながら、アーネストは念の為にマジックポーションも配らせた。
もし気を失うほどの場合は、すぐにでもポーションを飲ませて処置をしなければならない。
その為には本人よりも、周りの者がポーションを持っている必要があるからだ。
だからポーションを、御者や周囲の兵士に持たせる。
「よし
これで準備は良いだろう
改めて出立の号令を頼む」
「ああ」
ギルバートは頷くと、改めて出発の号令をする。
今度はアーネストも、途中で水を差す事も無かった。
「それでは訓練の成果を発揮して、少しでも先に進もう
「おお」
「無理はしない様に、それだけは気を付けてくれ
それでは出発だ!」
「おお」
「はいよ」
ピシッ!
ブヒヒイイイン
ギルバートの掛け声に、御者が応えて馬に鞭を与える。
それに合わせる様に、横に乗った冒険者達が魔力を練り始める。
馬は嘶き、力強く出発を始める。
その行軍速度は、先日までとは違って早かった。
まるで荷物を載せていない様な、空の馬車を曳く速度で走り出していた。
「速度は申し分ないな」
「ああ
後は馬車の車がもつかだな」
このまま速度が維持出来れば、行軍速度は格段に上がる。
だが、ここは平坦な公道ではなく、山脈の凸凹した畦道であった。
これでも整備して、小石や岩はなるべく取り除かれている。
そうしなければ馬車の車が壊れて、公道を塞いでしまうからだ。
その辺はあの駄目守備隊長にしては、しっかりと働いていると言えるだろう。
「それと、彼等がどこまで頑張れるかだな」
「そうだな」
昨日の晩も、こっそりと練習しているのを知っている。
消費を抑えて少しでも長く、疲れない様に練習していたのだ。
それで朝に響くと問題なのだが、冒険者達はその辺も考えて慎重に訓練していた。
その為に今朝は、全体に魔力量も上がってしっかりと回復していた。
アーネストは心配していたが、行軍は順調だった。
このまま行けば昼過ぎには、予定していた野営地より一つ先の野営地まで行けそうだった。
馬車は順調に進んで、次の野営地へと向かっていた。
しかしその時、ナンディが小さく叫んだ。
「不味い!
すぐに全体を左に寄せるんだ」
「何だ?」
「向こうから馬車が来ます
それも相手がマズい」
「え?」
ナンディの指示に従って、馬車は左側へと移動する。
こうした公道で、対抗する馬車があった時には左に寄せてすれ違う。
これはどこでも同じ方法で、商人の間では当たり前の事であった。
しかしナンディは、更に下馬して寄せる様に指示を出していた。
それは貴族や王族など、目上の者が通る際の儀礼的な方法である。
「何だ?」
「こんな所を…
貴族か?」
平原の公道なら兎も角、こんな山脈で貴族と行き合う事は非常に珍しい。
ギルバートの乗っている馬車は、商人が使う一般的な馬車だった。
しかしギルバート自体は、廃嫡しているとはいえ貴族の子息だ。
それも辺境伯の嫡男なので、よほどの相手でなければ譲る必要は無かった。
それでも今は、身分を隠して同乗している。
それでナンディの指示に従って、ギルバートも馬車から降りていた。
しかしその先から向かって来たのは、派手な金ぴかの悪趣味な馬車だった。
こんな山の中の隘路に、その派手な馬車はゆっくりと進んで来る。
見た目だけならば、それは貴族の馬車よりも派手だった。
そんな馬車が近付くと、ナンディは急にソワソワし始める。
「え?」
「何…あれ?」
「何て派手な馬車なんだ…」
「あ、あれは!」
二人共絶句して、兵士も呆然として馬車を見ていた。
その一行の前で、馬車は不意に停止した。
まるでその馬車が、ギルバート達に用があるとでも言う様だった。
そしてナンディは、いよいよ冷や汗を掻き始める。
不味い
これは非常に不味い事になったぞ
何で奴がここに…
くそっ!
ナンディは内心、舌打ちをしながら頭を下げていた。
そしてギルバートは、ナンディの隣で同様に頭を下げる。
彼の息子のふりをしているので、彼の隣に座る必要があった。
しかしギルバートは、何でナンディがひれ伏しているのかが分からなかった。
ヒヒーン
「ふん
平民共か」
「道を開けろ」
「邪魔だ」
「ああ
臭い臭い
平民共の汗臭い事
まったく…」
ガシャン!
停まった馬車から怒鳴り声が響き、ガラスが割れる様な音がした。
ガラスは高級品で、王都や領主の邸宅ならいざ知らず、こんな所へ持って来る物ではなかった。
そんな物を持っているという事は、この人物は相応の立場の者なのだろう。
しかし貴族が、今の時期にこの山脈に入る筈が無かった。
そう考えると、この人物は謎の存在だった。
どうやら彼は、平民である隊商の事を嫌っている様子であった。
馬車の中では、男の苛立った様子の声が聞こえる。
そこで馬車の傍らに立っていた兵士が、大きな声で誰何してきた。
「貴様ら!
このお方がどなたか知っておるのか!」
「何だ?」
「どなたかって、知らないぞ」
二人は聞こえない様に、小声で話していた。
それはそうだろう。
ギルバートもアーネストも、この馬車の事は知らなかった。
しかしナンディ達だけは、顔を歪ませていた。
「こちらの馬車は、王都でも有名なガモン商会の馬車であるぞ
そして乗られている方も、ガモン商会の商人ダブラス様であるぞ
頭が高い!」
「へ?」
「何だって?
デブだす?」
アーネストの言葉が聞こえたのか、御者台に座った兵士が苦悶の表情をする。
ギルバートの代わりに身体強化をすると乗ったのだが、それが彼の不運であった。
彼は笑いを堪えながら、必死に頭を下げて震えていた。
それを見て、恐怖に震えていると判断したのだろう。
気を良くした兵士は、更に居丈高に宣言した。
「そこな馬車の者
何故下車して頭を下げぬ」
「はあ?」
「何言ってんだ、あいつ」
二人の意見は当然だった。
彼が何者であろうと、たかだか商人でしかない。
いくら偉いとしても、ここでナンディ達を平伏させるのはおかしな話だった。
やはりそうなるか…
マズいぞ
奴を怒らせれば…
ナンディが危惧していた通りな展開になり、彼は内心で溜息を吐いていた。
さて、どうしたものかと周りを見回す。
しかし当てになりそうな者は居ない。
この場に居る者達は、単なる平民でしか無いのだ。
そして貴族であるギルバートは、今は身分を隠しているのだ。
それがバレない為にも、何とか誤魔化す必要があった。
「どこの貧乏人か知らんが、王都の礼儀も知らんのか
もういい、降りぬのならこの場で、切って捨てるまで」
「す、すいません
長く辺境に暮らして、知らなかったもので…」
「ええい!
良い訳なんぞ聞きたく無いわ」
兵士は馬から長柄の斧を外して、構えながらゆっくり向かって来る。
それは鉄製の、柄の長い斧だった。
兵士はそれを構えて、馬車に乗った御者に近付こうとする。
「おいおい、本気か?」
「商人同士だろう?」
二人の言葉に、兵士が正気に戻った。
まだ思い出したら吹き出しそうだが、彼は必死になって弁明を始める。
このまま騒ぎになれば、ギルバートの素性が知られてしまう。
そうならない為にも、何とか誤魔化す必要があったのだ。
「申し訳無いが、我々は王都の事を知らないんだ」
「だからどうした?
逆らったからには、死で償てもらうぞ」
「おい!
死だなんて…」
「ふん
ダブラス様に逆らったのだ
当然の事だろう」
「な…
くそっ
こうなれば…」
「いけません」
「こちらの方はダーナが領主、クリサリス公爵様のご子息様だぞ
そちらこそ頭が高いだろう」
ナンディはマズいと思ったが、既に遅かった。
兵士は何とか収める為に、貴族の名を使ったのだ。
貴族であるならば、平民である商人は従うべきだろう。
しかしそれは、普通の商人が相手である場合だ。
兵士の言葉を聞いた兵士は、ヘラヘラと笑って小馬鹿にした態度に変わった。
「クリサリス公爵?
田舎の貧乏貴族なんぞ、知らんなあ」
「なっ!!」
「それにどこの貴族だか知らんが、我々に逆らえると思うのか?
王都で名高い、ガモン商会に盾突いたらどうなるのか
思い知らせてやろうか?」
「貴族に
公爵家に所縁の有る者に、手を出そうと言うのか!」
「ああん?
公爵だか何だか知らんが、ここはダモン様が治める地だ
ここで逆らえると思っているのか?」
男はゆっくりと近付くと、持っていた斧の柄で兵士の顔をペシペシと叩く。
彼からすれば、ダーナ公爵などどうでも良いのだろう。
どうやら彼等は、貴族に対しても偉そうな態度を取れると勘違いしているらしい。
男のあまりの態度に、ギルバートは思わず拳を握り締める。
「な、何なんだ
あいつは…」
「落ち着け」
「さっさと降りて、地に頭を着けて平伏すんだな
そうすれば、命ぐらいは赦してやっても良いぞ」
まるで野党か何かの様に、その男は下卑た顔で御者台に近付く。
そして斧の柄で、兵士の顔をを殴り付けた。
ズガッ!
「ぐっ」
「な!」
「止せ、ギル」
ギルバートが思わず立ち上がり掛けるが、アーネストがそれを止めた。
「ふん
田舎者共が」
男はそう言うと、主の乗った馬車へ声を掛ける。
「どうしやすか?
商人と護衛、それとガキが二人だけみたいです
この場でバラしますか?
それとも身代金でも取りますか?」
後半は面倒臭そうに言っていたが、その言葉から慣れているのが窺えた。
彼等はこうして、隊商を襲う事に慣れているのだろう。
兵士は指示を受ける為に、金ぴかの馬車に近付く。
そして馬車の脇に控えた兵士が、何事か聞いて頷く。
「さっさとガキを降ろして、金品を確かめろだとよ
ガキの始末はそれからだ」
「分かったよ
ちっ、面倒臭えなあ」
「おい!
さっさと降りやがれ!」
男は斧を構えて、御者台の兵士の首に突き付ける。
「貴様あ!
こんな事をし…がっ」
兵士は最期まで言えずに、頭に斧の一撃を受けて吹っ飛んだ。
頭から地面に落ちて、地面には血の染みが広がった。
「ちっ
頑丈な奴だ、普通なら首が跳んで見ものなんだがな」
「貴様あああ!」
遂にギルバートが押さえれずに、立ち上がって飛び出した。
後ろからアーネストが左手を掴み、必死になって押さえる。
このまま飛び出せば、如何なギルバートでも危険だ。
アーネストはそう考えて、ギルバートを制止する。
「まあまあ
ギル
こいう事には順番があるんだ」
「そんなの関係あるか
今すぐ叩き切ってやる」
「武器も無いのにどうやって?」
「そ、それは…」
そんな二人を見下ろし、興味無さそうに男は馬車を振り返った。
「どうしやすか?」
「手前の小僧が貴族だろう?
顔は好さそうだから、小姓にでも使うってよ
横の小姓は好きにしろ」
馬車からの応えに、男は舌なめずりをしながら下品な笑顔を浮かべる。
どうやら男は、アーネストを自由に出来ると考えたのだろう。
その頭の中には、どんな下卑た事を想像しているのだろうか?
彼はニヤニヤと笑って、ギルバート達を見下ろした。
「だとよ
良かったな、小僧
ダブラス様に気に入られれば、たっぷりと可愛がってもらえるだろうさ
そっちの小僧はオレのもんだ」
「こいつ等…
本気か?」
「ああ
本気の馬鹿なんだろう」
「ああん?」
男は二人の言葉に、理解出来なくて顔を歪める。
まさかこの後に及んで、泣き喚く事も無く命乞いもして来なかった。
それどころか馬鹿にした様な、蔑んだ目で見ていた。
それが理解出来なかったのだ。
「どうやらギルは
そのデブだすとやらの慰み物らしいぞ?」
「何だ?
その慰み物って?」
「おま…
良い、後で教えるよ」
「おい
今教えろよ」
「碌でも無いって事だ
それよりも…」
アーネストは呆気に取られた男の方を向くと、ニヤリと笑った。
「それで?
オレをどうにか出来ると…
思っているんだろうな」
「はあ…
馬鹿だなあ
そんな事は出来ないって」
「な、何だと?」
わざと溜息を吐いてみせて、肩を竦めて馬鹿にする。
隣でギルバートも、やれやれと首を横に振る。
それに男は反応して、肩を震わせて怒り始めた。
ここまで子供に、馬鹿にされるとは思わなかったのだろう。
「こ、小僧!
このオレを馬鹿にして、生きていられると思うな!」
「へえ?」
「全身の骨を砕いて、命乞いをするまでいたぶってやる
その後に首を刎ねて、内臓は…」
「もういい
マインドスタン」
事前に呪文を唱えておいたのだろう。
アーネストは結句だけを唱える。
指先から雷の様に電気が迸り、男の頭に電流が流れる。
男はアーネストの魔法をまともに受けて、そのまま身体を痙攣させて、白目を剥いてその場に倒れる。
「あれえ?
この魔法は余程の馬鹿でないと掛からないんだけど…」
「おい
殴れなかったじゃないか」
「そう言うなよ
まさかまともに受けるとは思わなかったんだよ」
「だけど…
今のは新しい魔法か?」
「ああ
まだ練習中の魔法なんだ
こんなに効くとは思わなかった」
「へえ…
それじゃあ今度は、オレの出番だな」
「ほどほどにしろよ」
「ああ」
ギルバートは男の腰から、簡素な鉄製の剣を引き抜く。
そうして今度は自分の番だと、金ぴかで悪趣味な馬車を睨んだ。
残りの兵士達は、あまりの事に驚いていた。
まさか子供と思っていた者達が、魔法を使うとは思ってもいなかったのだ。
「あの中に居るデブだす?
あいつを倒せば良いんだな」
「出来れば殺さない方が…」
「でも、拘束するのも面倒だろ?
どうやって連れて行くんだ」
「それは…
やっぱり殺した方が良いか
面倒臭し」
「だな」
「き、貴様等…」
「ぶふっ
デブだすって…」
「おい
デブだす様に…
ぷくくく…」
デブだすという言葉に後方で吹き出す音が聞こえたが、それは聞き流されていた。
相対するダブラスの兵士達も、数名が思わず笑いを堪えている。
どうやらかれらも、主をデブだすと感じているのだろう。
だからギルバートの言葉に、思わず笑いを堪えていた。
「貴様ら!
重ね重ねの無礼
もういい、全員殺してしまえ!」
「は、はい」
「ぷっ
くくく…」
「止めろ
オレまで笑ってしまう…」
金ぴかの馬車の兵士がそう叫んだが、直後に頭に矢が突き刺さっていた。
冒険者の一人が、後方から矢を放ったのだ。
それは身体強化もあって、見事に兵士の頭に刺さっていた。
普段よりも力が強い分、より正確に射れたのだ。
ヒュン!
ドシュッ!
「がっ?」
「私も怒っているのよ」
御者台の女冒険者は、次の矢を番えながら呟いていた。
冒険者達はそれを見て、攻撃して良いのか雇い主であるナンディを見る。
ナンディも覚悟を決めたのか、冒険者達に攻撃の命令を出す。
「もういい
こうなったら、残さずやってください」
「おうさあ!」
「行くぞおお!」
ナンディは投げやり気味に呟き、冒険者達は一気に突っ込んで行った。
金ぴかの馬車の後ろにも、3台の馬車と護衛の兵士が居たが彼等も纏めて捕らえられた。
戦闘は一方的で、魔物と戦い慣れた冒険者からすれば、王都の破落戸風情では相手にはならなかった。
ほとんどが一撃で武器を弾かれるか、腕や脚を失って倒れていた。
「おい…
本当にオレの…
オレの怒りのやり場が…」
戦闘は兵士達の手で、あっという間に終わらされていた。
それでギルバートは、不満の捌け口が無くなって不満そうだった。
彼としては、生意気な私兵達も懲らしめたかった。
しかし冒険者達や兵士の手によって、その場はすぐに押さえられる。
「まあまあ
こういうのは部下の仕事だから
ギルが一々出て行っては駄目なんだよ」
「だってさあ…
仕返しをしたかったのに…」
「仕方が無いだろう
普通の兵士なんだ。
アーネストが肩を叩き、意気揚々と金ぴかの馬車へ近付く。
そうして馬車の入り口を開けると、彼は中に居る男の方を見る。
「さて
おや?
本当にデブなんだ」
アーネストは馬車を覗いて、嫌な物を見た後の様な不快そうな顔をしていた。
兵士に顔を向けると、頷いて彼等は馬車の扉を開ける。
そうして馬車から、ダブラス引き摺り出させた。
「貴様
このワシに向かってこんな事を…」
ダブラスが何か言おうとするが、アーネストはそれを手を上げて合図を出す。
すぐさま兵士が猿ぐつわを噛ませて、ダブラスを黙らせた。
「さて、こいつの処置だが…」
「王都へ連れて行く」
「うん
ギルならそう言うだろうな」
アーネストは意味ありげに言うと、ナンディの方を見た。
ナンディはそれを見て、困った様にそれに頷く。
どうやら彼としては、そのまま拘束したかったのだろう。
しかし捕らえたとしても、運ぶ術が無かった。
だからアーネストは、そのままダブラスを捕えて良いものか悩んでいた。
「ん?」
呆気に取られるギルバートに、アーネストは静かに告げた。
「ここはボクに任せて欲しい
頼んだよ」
「は、はあ」
兵士は不満そうに、ギルバートに近付く。
「では
坊っちゃんは、あちらに参りましょう」
「え?」
兵士二人に挟まれて、ギルバートは少し離れた場所へ連れて行かれた。
「どういう事なんだ?」
「それは…そのお…」
「今は黙って、お待ちください」
そう言った直後に、くぐもった悲鳴や怒号が聞こえる。
「え?
何だ」
「坊っちゃんにはまだお早いです」
「そうです
ここは堪えてください」
「そうは言われてもなあ
兵士に押さえられながら、ギルバートは悲鳴が上がるのを聞いていた。
それは数分で収まり、やがて野営地は静寂に包まれるのであった。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。