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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
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第145話

そこはノルドの街に近い、小さな野営地だった

険しい竜の背骨山脈を越えて、街に入る前の最後の野営地

そして街を発った者達が、最初に休憩をする場所でもあった

今日は誰も居なかったが、よく隊商が休んでいる場所でもある

それでナンディが泊っていても、決して怪しい場所では無かった


何よりも街から逃げ出した者達が、この様な場所で休んでいる筈が無い

そういう先入観が、彼等の判断を誤らせていた

そして応対した者達が、子供と商人達だったのも良かった

冒険者も数人見張りに立っていたものの、あまりに無警戒だったのだ

これでは怪しむ要素が、あまりに少なかった


「一体何があったのです?」

「そ、それは…」

「やっぱりこいつ等…」

「そうだな

 何も知らないんじゃあ…」


ナンディの様子を見て、兵士達は頷き合っていた。

それは逃げ出した者達にしては、あまりに落ち着いていたからだ。

内心はナンディは、足が震えるぐらい緊張していた。

しかし持ち前の度胸と、商売で培ってきた経験があった。

だからこの場面で、平然と会話するという事が出来るのだ。


「むう…

 知らぬのなら構わん」

「騒がしてすまなかった」

「おい

 一応確認するが…

 この辺りを通過する者は見なかったか?」

「通過…ですか?」

「ああ

 ここを抜けて行かなかったか」

「いいえ

 ここで一晩居ますが、誰も見てませんねえ」

「おい

 やっぱり…」

「ああ

 おかしいと思ったんだ

 そのまま逃げる訳がねえ」

「そうだな

 関所は破られていたが…

 その後の姿が確認出来ていない」


どうやら兵士達は、関所が破られた事は確認していた。

しかしその後に、この山脈に入るところは目撃していなかった。

それで逃亡者達が、こちらに向かっていないと判断していた。

ここに来た兵士達も、恐らくは確認の為なのだろう。

それで僅か数機の騎兵しか、山の中に入らなかったのだ。


「関所がどうかされましたか?」

「いや!

 な、何でも無い」

「そうですか?」

「ああ」

「そうだなあ

 念の為に、数日は入れないかも知れない」

「ええ!

 そんな!

 困ります」

「困ると言われてもなあ」

「ああ

 領主様のご命令だ」

「ダモンの?」

「おい!

 貴様!」

「許してやれよ

 いつもの事なんだ」

「しかし…」

「おい

 ここでの事は不問にしてやる

 しかし、街ではやるなよ」

「は、はい

 すいません

 思わず…」

「だろうな

 あの方の気紛れで、迷惑を被っているからな」

「おい

 そんな甘い事を…」


どうやら兵士の一人は、商人達の不満を理解していた。

いきなり入れなくなれば、商売にも影響するだろう。

それに待たされている間は、食料の問題も出て来る。

関所を抜けなければ、こちらからは街に入れない。

その間には魔物や、食料に悩まされる事になるのだ。

商人達の不満も尤もだった。


「すまないが、数日は門の外で待ってもらう事になる」

「そこを…

 何とか出来ませんか?」

「ならん

 しかしあそこでは待機出来んからな」

「ええ

 場所を停めるとなると」

「そうだな

 もう二晩ぐらい、ここで待ってもらう事になるな」

「そんな!」

「それぐらい我慢しろ

 その代わり、さっきの事は不問にしてやる」

「は、はい…」

「行くぞ」

「お、おう…」


兵士達は踵を返すと、再び山道を下り始める。

ナンディの言葉を信じて、逃走者がこちらに居ないと判断したのだろう。

関所は抜けたが、近場に隠れていると考えたのだ。

それで暫くは、関所の近くには誰も近付いて欲しくない。

そう考えて、兵士達は街に入れないと言ったのだ。


「ナンディ…」

「上手く行きましたね」

「そりゃあそうだが…」

「これで数日は稼げるでしょう」

「大した度胸だよ」


ナンディの芝居に、冒険者達は舌を巻いていた。

彼等は襤褸を出さない様に、遠巻きに周囲を見張っていた。

しかし兵士達は、逆にそれで信用していた。

冒険者達が周囲を警戒するのは、魔物を警戒している証拠だ。

兵士を警戒するのならば、近付いて身構えている筈だからだ。


そしてアーネストの存在も、兵士を油断させていた。

アーネストは普段と違う、平民のチュニックを身に着けていた。

それで見た目も、商人の使用人に見えていたのだ。

子供らしく、思わず不満を漏らしたのも良かった。

それで兵士達も、何の害も無い子供だと判断していた。


「兎も角、今は下手に動かない方が良いでしょう」

「そうなのか?」

「ええ

 今動けば、下から見える恐れもあります」

「そうか…」

「ここは夜明けまで休んで、日が昇ってから動きましょう」

「それで大丈夫なのか?」

「ええ

 その方が、却って怪しまれません」

「そうか

 ナンディがそこまで言うのなら…」

「ええ

 一先ずは休みましょう

 まだ時間はありますので」

「そうだな

 途中で起こされたからな」

「交代で休もう」


襲撃に遭った事で、昨夜は途中で起こされていた。

中には本当に眠っていて、毒蛇に嚙まれそうになる者も居た。

それで碌に眠れていなかったのだ。

ここで一旦休息を取るのは、眠たい者にとっては救いだった。

休憩の順番を決めて、兵士達は交代で休む事になった。


「やれやれ…

 静かだと思ったら」

「ふふふ

 良いじゃないですか

 騒がれるよりは」

「それもそうか」


そしてギルバートは、いつの間にか本当に眠っていた。

実は昨晩の事で、終始興奮して気が昂った状態だった。

それが急に横になって、周りが静かになってしまう。

それで気が抜けて、いつの間にか本当に眠ってしまったのだ。


「オレも眠るよ」

「そうだな

 魔力切れに近いんだろう?」

「ああ

 少しは回復したけど、まだまだ頭が痛いよ」

「ははは

 ゆっくり休んでくれ」

「そうですぞ

 今夜はさすがに、何も起こらんでしょう」

「そう願いたいよ」


アーネストはそう言って、ギルバートの隣に腰を下ろした。

そうして寝具に包まると、すぐに寝息を立て始めた。

よほど疲れていたのだろう、そのまま朝まで眠ってしまう。

それだけアーネストは、魔力を行使していたのだ。


朝になって、森の上にも日が差し始める。

ギルバート達が居るのは、砦を抜けてすぐの休憩場所だった。

そこは野営が出来る様に、開けた場所になっていた。

そこで野営をして、何とか追っ手の目を誤魔化したのだ。


「さあ

 日が昇ってから移動しましょう

 向こうもまだ、我々が逃げた者だとは気付いておりません」

「そうだな

 この隙にゆっくりと逃げれば…」

「ええ

 下手に騒いで逃げ出すより、向こうは油断しています

 確実に距離が稼げます」

「ああ

 気付いていないからな

 暫くは関所の周辺を探すだろうな」


砦の兵士達は、負傷者の収容を行っていた。

それで追跡が遅れて、関所に着いた時には逃げられた後だった。

だから山を登って行く、ギルバート達の姿は見られていなかった。

その上で兵士達は、野営地で寛いでいるギルバート達に追い付いたのだ。


まさか逃走者達が、そんな場所で休んでいる筈が無い。

そんな先入観が、彼等の視野を狭めていた。

彼等は逃走者達が、関所の周辺に隠れたと判断した。

それは逃げ出した時刻が、周囲も暗い夜中だった事もある。

そんな真っ暗な中を、まさか山に逃げ込むとは思えなかったのだ。


「しかし関所の周りだなんて…

 隠れる場所なんてあるのか?」

「それは難しいでしょうが…」

「暗闇を山に登るよりは、確実でしょうな」

「そうか?」

「ええ

 森もありますから、馬から降りていれば…」

「それはあり得るのか?

 馬車に乗って来ていたんだぞ?」

「その馬車を見付けていなければ、あるいは…」

「そうだな

 馬車に乗っているのを知っているのは、最初の兵士達だけだ」


馬車に乗っている事を知らなければ、森に逃げ込む事も考えられるだろう。

夜の闇の中で、山に逃げ込むのは難しい。

それならば関所を抜けた後に、一旦森に隠れた方が安全だろう。

まさか危険を冒してまで、山に登ろうとは思わなかったのだ。


「まさか?

 宿に泊まったのは確認しているんだろう?」

「それは最初の兵士達でしょう?

 昨晩の兵士達は、恐らくは非番の兵士でしょう」

「非番の?」

「ええ

 見張りに立っていた兵士達は、粗方気絶させています」

「残った兵士達も、負傷させましたからね

 そいつ等を治療する為に運ぶとなると…」

「そうか

 運んだり、別の場所を探していたから少なかったのか」

「ええ

 非番の者を急遽呼んだのでしょう

 ですから我々を見ても、逃げている者だとは分からなかったんでしょう」

「なるほどねえ…」


彼等は最初に関所で見張っていた、兵士達とは違っていた。

だからこそ彼等は、ギルバート達を見ても気付かなかった。

あの時追い掛けて来たのが、その兵士であれば違っていただろう。

しかし関所を守った兵士達も、ダーナの兵士達が倒していた。

彼等も負傷したり、気絶させられていた。

それが無ければ、彼等も状況が変わっていたのだろう。


「運が良かったのか…」

「いいえ

 アーネストの機転です」

「そうだぞ

 オレがそう判断して、兵士を拘束させたんだ」

「そうなのか?」


兵士を拘束させるのは、アーネストの案だった。

ギルバートが連れ去られた後に、アーネストがそう指示を出したのだ。

アーネストは当直の兵士達に、顔を見られている事を警戒していた。

だから彼等が動けなくなる様に、気絶させる事にしたのだ。


「良い判断だったと思いますよ」

「そうですよ

 それで追手が見失ったんですから」

「なるほどねえ

 さすがはアーネストだ」

「よせよ

 それほどの事でも無いさ」


アーネストは、褒められた事で照れていた。

それを誤魔化す為に、わざと素っ気ない態度を取る。

しかし照れているのは、誰が見ても分かり易かった。


「ははは

 こいつ照れていますぜ」

「うるさいなあ

 照れていないぞ」

「ははは

 分かり易いな」

「う、うるさい」

「さて

 それはどうでも良いが…」

「どうせも良いって…」

「坊っちゃん

 それは可哀想ですよ…」


ギルバートはアーネストが照れているのを、取り敢えず放置する事にする。

それよりも今は、この先をどうするかが重要だった。


「ナンディ

 それでこの先はどうすれば良い?」

「そうですなあ…」


この先は、商人であるナンディの方が慣れている。

この先の日程も判断して、ナンディの意見を先ずは聞いてみる。


「先ずは昨晩の事です

 一体何が起こったんです?」

「昨晩の事か?」

「ええ

 一体何が起こったんですか?」

「そうですよ

 我々は連れ去られた後の事しか知りません」

「領主の館で…

 あのダモンに何をされたのか…」

「良かったら教えていただけませんか?」

「アーネスト?」

「ああ

 教えても構わないだろう」

「そうか?

 それならば話そうか…」


ギルバートはそう言って、昨晩の事を話す事にする。

どの道まだ出発までには、まだまだ時間がある。

それまでに昨晩、ダモンの館で何が起こったのかを話す事にする。


「そうだなあ…

 先ずは煙の事は覚えているか?」

「ええ

 あの気味の悪い煙ですよね」

「アーネストに予め言われていましたからね

 すぐに布を巻いて対処しました」

「え?

 何かあったのか?」

「こいつは…」

「こいつの事は放っておきましょう

 ぐっすり眠っていましたから」

「ええ?

 何があったんだ?」

「言われてたのに寝るからだ」

「そうだぞ

 起こされるまで寝ていやがって」


兵士の一人は、言われていたのに眠ってしまっていた。

他の兵士達は危険を感じて、口に布を巻いて対処していた。

しかしその兵士だけは、しっかりと煙を吸ってしまっていた。

だから叩き起こされるまで、彼は熟睡をしていた。


「そいつの事も放置しよう」

「そんな…」

「寝てるからだ」

「そうだぞ

 みんな真面目に対処してたのに、一人だけ熟睡しやがって」


寝ていた兵士の事は放置して、話は進んで行く。


「オレはアーネストの用意してくれた、薬を飲んでいたんだ

 それであの煙を吸っても、意識を失う事は無かったんだ」

「特製のポーションで、少しの間だけ異常に耐性が出来るんだ」

「へえ…」

「便利なポーションがあるんだな」

「アーネスト様

 そのポーションは売っていただけるんで?」

「ナンディ

 それは無理だよ」

「どうしてですか?」


特性のポーションと聞いて、思わずナンディは商人の顔になる。


「気持ちは分かるが、本当に特製のポーションなんだ

 作るのは簡単だが、材料が滅多に手に入らないし…

 長時間保存出来ないんだ」

「そんな…

 そこを何とか」

「だからさっきも言っただろう?

 短い時間に異常の耐性を上げるだけなんだ

 それよりも回復のポーションの方が売れるだろう?」

「それはそうなんですが…

 戦場で売れませんか?」

「ああ

 それは魅力的だろうが…

 保存が利かないからな」

「そうですか…

 無理ですか…」

「ああ

 数日しか効果が無いからな」

「なあ」

「ん?」

「話しを続けても良いか?」

「あ、ああ

 すまない」

「すいません

 つい気になって…」


ギルバートは話を中断されて、不機嫌そうな顔をしていた。


「それでポーションが効いていたからな

 オレは気絶していなかったんだ」

「ああ

 ポーションが効いていたからな」

「それでも連れて行かれたんですか?」

「ああ

 情報が欲しかったからな

 どうしてオレが必要なのか…

 それが知りたかったんだ」

「それで?

 何か分かりましたか?」

「ああ

 何とかな」

「フランドール殿が情報を流していたからな

 オレ達を狙っているダモンからすれば、渡りに船だよな」

「そうなんだが…

 そもそもどうして必要だったかなんだよな」


ダモンはギルバートを、欲していたのだ。

その為にダーナに兵士を送り込み、情報の収集も行っていた。


「それで?

 どうしてダモンは、坊っちゃんの事を必要としていたのですか?」

「それは父上が関りがある事だった」

「アルベルト様が?」

「ああ

 どうやらダモンは、父上に負けたく無かったみたいだ

 それでオレを捕えて、ダーナを奪おうとしていたみたいだ」

「ダーナを?」

「どうしてです?

 アルベルト様に負けていると考えたとしても…

 ダーナを奪ってどうするんですか?」

「父上が守ていたダーナを手にする

 それで父上よりも、自分が上だと証明したかった…のかな?」

「だろうな

 コンプレックスを抱いた者は、その者よりも上だと証明したいものさ」

「アーネスト?」

「オレじゃあ無いぞ

 一般の話しだ」

「あ、ああ…」


ダモンは優秀である、アルベルトよりも上だと証明したかった。

それでダーナを奪って、アルベルトよりも上手く統治してみせようとしていた。

そうすれば自分が、アルベルトよりも上だと証明出来る。

そう考えて、彼はダーナを狙っていたのだ。


「しかし何故…

 坊っちゃんを誘拐したとしても、ダーナを奪える訳では…」

「そうなんだよな

 そこが分からなかったんだ」

「それはな、フランドール殿がダモンと親戚だからだ」

「え?」

「フランドール殿が?」

「ああ

 彼は商家の妾腹だと言っていただろう?」

「そういえば…」

「そうなんですか?」

「ああ

 父親が商人で、子供の頃に捨てられたと…

 しかし、何で今さら?」

「その商人が、ガモンだからだ」

「ガモンって…」

「ガモンですか?

 あのガモン商会の?」

「ああ

 そのガモンだ

 そしてダモンは、その息子なんだ」

「何だって?」

「それじゃあ貴族では無くて…」

「ああ

 貴族籍を、金で手に入れた者なんだ

 だからアルベルト様も、ダモンを信用していなかった

 正解だったがな…」


ダモンはガモン商会の会長の、ガモンの息子である。

同じ息子のフランドールは、そのまま母共々捨てられていた。

偶然が重なって、それから彼は貴族に拾われる。

それが王都の近くに住む、バルトフェルド卿だった訳だ。


バルトフェルドは、フランドールの素質に期待をしていた。

それで彼を引き取り、養子にする事にした。

その際に調べてみて、ガモンの息子だと知った訳だ。

それでガモンは、バルトフェルドに取り引きを申し出た。


「ワシの息子に、貴族になりたいという者が居る

 その者を取り立ててもらえないか?」


ガモンはそう言って、ダモンを貴族に推す様に申し出た。

それでダモンは、男爵の地位を得たのだ。

しかしダモンは、それだけでは満足しなかった。

彼は金を出す事で、竜の背骨山脈に砦を建てる事を申し出る。

それが今の、ノルドの街が作られた理由であった。


「そうした理由があってな

 ダモンは砦の建造を許された

 しかし許されていたのは、あくまでも砦の建造だけだった」

「それが街を作ったという訳か…」

「ああ

 勝手に作ったんだ

 親の貴族である、辺境伯に内緒でな」

「それで父上が…」

「ああ、そういう事だ

 アルベルト様が大いに怒られてな

 あわや内戦って状況だったのさ」


アーネストの説明で、ダモンとアルベルトの関係は分かった。

しかしそれと今回の事が、どう繋がって来るのか…。

それはフランドールだけが知っていた。

実はギルバートを捕らえる様に、焚き付けたのはフランドールだったのだ。

しかしギルバート達は、その事を知らなかった。


「まあ、奴が何を考えているのか…

 分かったのは捕らえようとしているという事だけだ」

「ああ

 結局はそこまでなのか…」

「それと…

 奴隷だな」

「奴隷?」

「そういえば、昨晩も仰ってましたね

 一体あそこで、何が起こっていたんですか?」

「それがな…

 少年少女達が居てな

 オレも危うく、その奴隷にされるところだったんだ」

「坊っちゃんが?」

「許せねえ」

「ちょっと待ってください

 その前に確認させてください

 本当にダモンは、奴隷を集めていたのですか?」

「ああ

 子供を…

 少年少女達を鎖で繋いで、よとぎ…だったかな?

 それをさせるんだって」

「何だって?」

「坊っちゃんにそんな事を?」

「何て事だ

 ダモンがそんな事を…

 これは王都に報告せねば」

「ああ

 そうだな」


ダモンはギルバートに、夜伽を強要しようとしていた。

あのまま逃げ出せずにいれば、彼も危なかっただろう。

しかしギルバートは、身体強化を使う事が出来る。


「それで?

 どうやって逃げ出したんです?」

「あ!」

「ああ…

 ナンディは知らないのか」

「え?」

「そうだな

 オレは身体強化を使えるんだ

 それで簡単に引き千切れたんだ」

「え?

 身体強化?」

「ああ

 その事で恐れられてな…

 ダモンには逃げられるし、子供達も怯えて…」

「そういう事か…」

「それはまた…」


ギルバートはここで、鉄製の首輪を壊したとは言わなかった。

それは昨晩に、散々子供達に怖がられたからだ。

鉄製の首輪を引き千切るのでも、兵士が必死にやってやっとなのだ。

それを鉄製の首輪を壊したとなれば、それこそナンディに恐れられてしまうだろう。


「それで?

 奴隷の子供達はどうされましたか?」

「それがなあ…

 オレを怖がってしまってな…」

「ああ

 鎖を引き千切ったからですか?」

「そういう事だ

 それで逃げる様には言ったんだが…」

「怖がって着いて来なかったと?」

「ああ

 だから残して来るしか…」

「残念です

 その子達が居れば…」

「だよな

 証拠にはなっただろうな」

「しかし連れて行けないぞ

 なんせ山脈を越えて行くんだ」

「そうですな

 それに連れて行っていれば、昨晩も誤魔化せなかったでしょうな」

「だろうな」


結局は彼等を、連れて来なかったのは正解なのだろう。

しかしギルバートとしては、出来れば彼等も救いたかったのだ。


「どうにかならなかったのかな…」

「仕方が無いだろう

 それに今さらだ」

「しかし…

 ギルを奴隷になんてな」

「無茶な事を考えるもんですな」

「ああ

 何でそんな事を…」

「さあな

 よとぎだっけ?

 それが関係しているんだろうな

 それでよとぎって…」

「さあ

 出発の準備を始めるか」

「そうですな

 そろそろ日も上がります

 先に急ぎませんと」

「おい!

 さっきはゆっくりとって…」

「追い付かれたらマズいからな

 その話はまた今度な」

「あ!

 おい!」


夜伽の話が出ると、アーネスト達は話しを逸らした。

それはギルバートが、まだそういう事を知らないからだ。

ナンディだけは、何で教えないのかと首を捻っている。

しかし話題が話題なので、それ以上は突っ込まなかった。

そうして一行は、山脈を登る為に出発をした。

まだまだ続きます。

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