第142話
ギルバート達は、ノルドの街の宿に泊まっていた
それは鉄の蹄亭という、隊商のナンディが行き付けにしていた宿だった
宿の主人のハドソンは、快くナンディを迎え入れてくれた
それは治安の悪いこの街で、唯一安心出来る場所であっただろう
ハドソンは領主であるダモンに、不満を持っていた
それでアーネストは、彼に素性を明かす事にする
彼を信用して、正直に話す事にしたのだ
それでハドソンも気を良くして、秘密を守ると言ってくれた
ギルバート達は安心して、宿で寛いでいた
「それではこちらが、当宿の自慢の一品です」
「待ってました!」
「おい
行儀が悪いぞ、ナンディ」
「そんな事を言うなよ
これが楽しみで泊っているんだ」
「そういう事を言うか?」
「はははは
すまないすまない
葡萄酒も楽しみだわい」
「…
お前には出さないぞ」
「そんなあ」
二人の遣り取りを見て、他の隊商仲間は笑っていた。
これがいつもの、二人の恒例の遣り取りなのだろう。
ハドソンは仕方が無いなと、ナンディにも食事を用意する。
それをナンディも、頭を下げながら受け取る。
そうした遣り取りの後に、全員に食事が行き渡った。
「へえ…
牛のスープか」
「ええ
牛の乳を煮込んで、その中に肉を入れております」
「旨い
牛の乳と聞いて、ちょっと匂いがどうかと思ったが…
匂いも良いな」
「ええ
パンを砕いた粉や、大蒜を加える事でコクを出してます」
「へえ…
これはこの地方の料理なのかい?」
「いえ…
それは…」
「ハドソンは元々、東の国の出なんです
ですからこの料理も、東国の料理なんですよ」
「東国?
帝国かい?」
「いえ
実はもっと東の…」
「東?」
「帝国の東から来たのかい?
ずいぶんと長い旅をしたんだな」
「へへへ
そうです」
クリサリス聖教王国の東側は、帝国領が広がっている。
そのほとんどが広大な砂漠になっており、その東は未開の地となる。
遊牧民が住む国があると言われているが、こちらからは分からない事だった。
そしてハドソンは、恐らくその国から来たのだろう。
それだけでも、数年は掛かる長旅になる。
彼はそんな遠方から、この王国にやって来たのだ。
だから彼の作る料理は、王国の料理とは違った一風変わった料理であった。
この日出されたスープも、そうした珍しい料理だった。
その事が、ナンディがこの宿を選ぶ理由なのだ。
ナンディからすれば、懐かしい故郷の料理なのだ。
「しかし…
何でこの国に?」
「そりゃあ…」
「こいつも昔は、うちの隊商の一人だったんです
それが嫁さんが出来て…」
「へえ
それは良かったじゃないか」
「そういえば、リディアは?」
「それが…」
「ん?」
ハドソンは元々は、ナンディ達と同じ隊商の仲間だった。
それがこの地に訪れた時に、一人の女性に惚れてしまった。
それで熱心に通い詰めて、何とか結婚にまで漕ぎ着けた。
それで隊商を抜けて、彼はこの地に残ったのだ。
彼は隊商で振るっていた腕で、自慢の料理を振舞う道を選んだ。
それが奥さんである、リディアと宿を行う事だった。
彼等は珍しい東方の料理を目玉に、宿を行っていた。
それで暫くは、この地でも設ける事が出来ていた。
「実は…
昨年に亡くなっちまって…」
「え?」
「それは…
辛い事を聞いてしまって
申し訳無い」
「いえ
もう…
気持ちは吹っ切れているんですよ
大丈夫です、はははは…」
ハドソンはそう言って笑うが、その表情は翳っていた。
よほど辛かったのだろう。
思い出して顔を顰めていた。
それでも明るく努めようとするのは、自分が宿の主人だと分かっているからだ。
暗く湿っぽくしては、客も気分が暗く沈んでしまう。
だからハドソンは、何とか明るく振舞おうとしていた。
「一体どうして?
リディアは別段病には…」
「あ、ああ…
ダモンの兵士にな…
ら、乱暴されて…」
「な!?」
「何だって!」
「くそっ
やはり許せんな」
「ギル
今は駄目だぞ」
「しかしだなあ…」
「今は王都に向かう事が先決だ
その件は国王様に上申しよう」
「しかし…」
「駄目だぞ
危険だし…
何よりもお前が、私怨で動いては駄目だ
彼に同情したい気持ちは分かるがな」
「分かるのなら…」
「駄目だ!」
アーネストは気持ちは分かると言うが、それでダモンを裁くのは駄目だと言う。
彼を裁くのなら、国王に上申して裁いてもらうべきなのだ。
ギルバートが私怨を持って私的に裁けば、それは他の貴族にも悪影響を及ぼす。
だからこの場合は、国王が裁くべきなのだ。
「お前が身勝手に動けば、他の貴族も真似してしまうぞ」
「それは…」
「私的な感情で動けば…
みなが私怨で動く様になる
そうなってしまえば…」
「ぐうっ…」
「内乱が起こるってのは分るよな?」
「くそっ」
アーネストの言うのも尤もだった。
貴族が勝手に私的な裁量で裁こうとすれば、どうしても内乱に発展してしまう。
だからこそ王族が、貴族の罪を裁ける裁量があるのだ。
貴族個人個人が、私的な裁きをしてはいけないのだ。
「ギルバート様
お気持ちは嬉しいです
しかしそれであなた様が罪を負われては…」
「そうだぞ
ハドソンさんの言う通りだ
ここは我慢しろ」
「くそっ」
ダモンの横行は確かに許し難い。
しかしだからと言って、ギルバートに裁く権限は無いのだ。
あくまでも彼は、この地を治める領主なのだ。
「アルベルト様が存命だったならば…」
「父上か…」
「ああ
アルベルト様なら辺境伯だからな
ダモンよりも上の貴族になる」
「それならオレも…」
「馬鹿
お前は一応、廃嫡って事になっている
今のお前には、そこまでの権限は無いんだ」
「くそっ
こんな事なら…」
アルベルトであれば、寄り親である辺境伯であるから、ダモンに警告を送る事は出来る。
しかしアルベルトであっても、警告を送るまでである。
それ以上となると、国王から討伐の許可が必要となる。
その許可が無い限りは、勝手な内乱として罪を問われる事となる。
だからこそハドソンは、そこまでしないでくださいと言ったのだ。
「すいません
私の失言で、食事が不味くなってしまって…」
「いや
聞けて良かったよ」
「そうだぞ
知らなければ、私も勘違いしたままだったぞ」
「そうですね
これだけでも、国王様に上申すべき内容です
王都に着きましたら、必ず上申しますよ」
ハドソンは恐縮していたが、アーネストは必ず上申しようと思っていた。
それで討伐となれば、兵を率いて討伐に向かえる。
そうなれば、この地の関所も潰す事が出来る。
関所があるせいで、商人達は苦労をしている。
ダモンを潰す際に、関所も潰す事が出来れば…。
今後の通行が楽になるだろう。
「さあさあ
暗い話はこのぐらいで…」
「そ、そうだな」
「ああ
旨い食事も目の前にあるんだし」
「ああ
葡萄酒もあるしな」
「アーネスト…」
「え?
はははは…」
「ほどほどにしろよ
明日には出発するんだ」
「分かっているって」
アーネストはそう言って、美味そうに葡萄酒を呷るのであった。
そうして楽しい食事をして、ギルバート達はやがて就寝する。
ギルバートはアーネストと同室に入り、そのまま就寝する。
兵士達もそれぞれ、部屋に入って就寝した。
今夜は宿の中とあって、みなが安心して眠っていた。
そう、安全な宿の中とあって、アーネストも安心して眠っていた。
そして夜も更けた頃に、彼等の部屋の入り口から煙が入り込んで来た。
それは白い煙では無く、少し紫がかった奇妙な煙であった。
そしてその煙に気が付いて、ギルバートが咳き込む。
「げほん
かはっ…
な、何だ…」
「どうした?
ギ…ル…」
「あ…」
ドサッ!
ギルバートとアーネストは、煙を吸って昏倒する。
煙に咽て目が覚めたというのに、再び昏倒してしまう。
そして昏倒したのを確認して、何者かがそっとドアを開ける。
どうやらその者達が、この煙を起こした張本人なのだろう。
「おい
上手く眠らせたか?」
「ああ
ぐっすりお休みさ」
「くくくく
簡単な仕事だな」
「ああ
後はここの奴等を…」
「ああ
いつもの様にな
こいつ等の餌にしてやるさ」
「ば、馬鹿野郎」
数名の男達が、黒ずくめの格好で入って来る。
どうやら彼等が、この紫の煙を焚いた様だった。
彼等は口元に、湿らせた布を巻いている。
その布に染み込ませた薬で、昏倒する煙の効果を中和しているのだ。
彼等はギルバートが、眠っているのかを確認する。
そうして一人が、ギルバートを抱えて背負った。
もう一人が袋を開けて、中から紐の様な物をバラ撒く。
それはシュルシュルと音を立てて、床を這い回っていた。
「おい
まだ外に出ていないんだ
気を付けろ」
「大丈夫だ
オレ達にはこいつ等の嫌いな臭いが着いている」
「だが…
危険じゃないか?」
「まあ、危険か危険じゃ無いかと言えば…
危険だな」
「だったら…」
「ああ
サッサとずらかるぞ」
「そうだな」
紐の様な者は、床を這ってアーネストの寝台に近付く。
そうして数匹が、アーネストが眠る寝台の中に入った。
それはアーネストが眠るシーツの中に入り、ゴソゴソと這いずり回る。
どうやらこの紐の様な物が、彼等の奥の手なのだろう。
「くくくく
そのまま永久の眠りに着きな」
「おい
良いから早く行くぞ」
「はいはい
つまんねえなあ」
男の一人は、それがアーネストを眠りに着かせる様を覗いていたかった。
しかし仲間がせかすので、不満そうに部屋を出る。
その間にも、兵士の一人がギルバートを抱えて廊下に出ていた。
彼は仲間に合図を送り、サッサと引き上げようとしていた。
男達はギルバートを抱えると、廊下をゆっくりと進んで行く。
そうして廊下を歩きながら、他の部屋の前にも袋を放った。
先の部屋と同様に、袋から紐状の何かが飛び出す。
そうしてシュルシュルと、紐状の何かが部屋の中に入って行く。
ここで本来ならば、部屋の中から悲鳴が聞こえて来るのだろう。
しかしまだ煙が充満しているので、部屋の中の者達は昏倒していた。
だから紐の様なそれが入っても、悲鳴は聞こえて来なかった。
男達は満足したのか、最後に手に持った松明を放り投げる。
それは床に落ちると、予め撒いてあった油に引火した。
「へへへへ
燃えろ燃えろ」
「おい
早く行くぞ」
「ひゃはははは」
「全く
こいつが警備兵だなんてな
世も末だぜ」
男達はそう言うと、足早に宿の窓から外に出て行った。
そうしてギルバートを抱えたまま、彼等は砦に向かって行った。
彼等の通る道は、予め警備兵達が通行止めにしている。
だからこんな時間に通っても、不審がる者は居なかった。
代わりに暫くして、火事騒ぎが街の中で起こる。
いつもの様に領主に異を唱える者の、家が火事で燃えるのだ。
こうしてまた一人、ダモンに逆らう者が居なくなる。
そしてダモンは、この力で領民を黙らせていた。
男達は砦の入り口に来ると、城門を決められた数でノックする。
それに応える様に、城門の一部がゆっくりと開く。
こうした緊急時の為に、城門の一部が開く様に作られているのだ。
彼等は身を屈めると、そっとその扉から砦の中に入る。
「どうだった?」
「ああ
ばっちりさ」
「ほら
小僧を連れて来たぜ」
「ふむ
こいつがあのアルベルトの…」
「ああ
そうらしいな」
「よし
ダモン様の元へ持って行け」
「ああ」
男達は門番に挨拶してから、領主の住む砦の奥へと向かう。
途中で中庭を通り、華美な城門の中に入る。
そこを登って行った先に、両開きの大きなドアがあった。
この街の領主ダモンは、この部屋の中で待っていた。
彼はギルバートが来た事を、察知して待ち構えていたのだ。
コンコン!
「ダモン様」
「うむ
入れ」
「はい」
男達はダモンに促されて、ドアを開けて入った。
そこは砦の内装と同様に、金細工や華美な置物が置いてあった。
その部屋の奥の方に、肥った男が椅子に座っていた。
その両側には、金属製の首輪をした少年少女が立っている。
彼等は声帯を壊されているのか、誰も一言も発しない。
ただ不安気に、連れて来られた少年を見詰めていた。
まるで彼の運命を、自身と重ねているかの様に…。
彼等はじっと、気絶しているギルバートを見詰めていた。
「ダモン様
小僧を捕まえて来ました」
「でかしたぞ」
「はい」
「こいつが例の…」
「げひゃひゃひゃ
それがアルベルトの子か?」
「はい」
「ふむ
子供とはいえ…
なかなか可愛らしい顔だな」
「ダモン様?」
「おい…
またかよ」
「何だ?
何か言ったか?」
「い、いえ…」
兵士達は慌てて首を横に振るが、明らかに嫌悪感を示している。
それはダモンの悪い癖が、また出たと思っているからだ。
彼の左右に立っている少年少女も、ギルバートと大差の無い年頃の子供達だ。
それが首輪で繋がれているという事は、おおよそ察せるだろう。
「おい!
こいつにも首輪を用意してやれ」
「は、はい…」
「ぐひひひひ
たっぷりと可愛がってやるからな
じゅるるる…」
つまりダモンはギルバートを、彼等と同じ様に扱おうと言うのだ。
それで召使に命じて、拘束する為の首輪を用意させる。
召使いは嫌悪感を表情に浮かべながら、黙って隣室から首輪を持って来る。
それは鎖が着いた首輪で、鎖のもう一方は壁に繋がっていた。
「ダモンの旦那
そいつは早目に殺した方が良いぜ」
「いや
暫くは楽しむさ
なんせ憎きアルベルトの息子じゃ
暫くは可愛がらんとなあ
くひひひひ」
「ああ
まただよ」
「どうなっても知りませんぜ」
「そいつは相当強いらしいですぜ」
「どうなっても知りませんぜ」
「大丈夫じゃ
首輪を着けるからな
ぐふふふふ」
「へいへい」
「オレ達は帰りますぜ」
「ああ
好きにしろ」
カチャカチャ!
ジャラララ!
ダモンはもう、ギルバートを自分の物にした気になっていた。
召使いに用意させた首輪を、彼はギルバートの首に填めさせる。
そうして首輪を引っ張って、強引にギルバートを起こそうとする。
ギルバートは首を絞められた事で、息が止まって目が覚める。
ジャラジャラ!
「おい!
起きろ
寝坊助め」
「くっ
かはっ」
ギルバートは首輪を引っ張られた事で、息苦しくて目が覚めた。
そして暫くは、部屋の眩い灯りに目が眩んでいた。
部屋には金属製の飾りが並んでいるので、蝋燭の灯りを反射するのだ。
目が慣れるまで、ギルバートは暫く瞬きをしていた。
「くふふふふ
どうかな
アルベルトの息子よ
この部屋の美しさは」
「こ…
ここはどこなんだい?」
「ふはははは
ここはワシ、ダモンの私室じゃ」
「ダモン?」
「馬鹿者
ダモン様と呼べ」
「がはっ」
ジャラジャラ!
ダモンは主従関係を明確にする為に、首輪を引いてギルバートを倒れさせる。
ギルバートは首を絞められた事で、苦しそうに倒れる。
倒れながらギルバートは、部屋の中を検めて見回す。
そこには醜悪な肥った男と、見目の良い少年少女が数人立っている。
「こ、ここは?
一体…」
「くふふふふ
先にも言ったじゃろう
ワシの寝室じゃ」
「寝室?」
「貴様等貧乏人と違って、美しい装飾じゃろう」
「美しい?」
そこはお世辞にも、美しいとは言い難かった。
大小様々なガラクタが、雑多に部屋に飾られている。
それは金属製の像だったり、鎧や武器を飾った台だった。
しかし関連性も無く置かれて、見た目にも綺麗には見えない。
どうやらダモンは、単なる自慢の為に飾っているのだろう。
それでせっかくの像や装備といった物も、ただのガラクタにしか見えないのだ。
こういったところが、ダモンが貴族としては格が下である証拠だ。
普通の貴族であれば、こんなに不規則に雑多な物を飾ろうとはしないだろう。
彼は単に戦利品を、自慢したくて飾っているだけなのだ。
「そうじゃ
美しいじゃろう?
自慢の一品ばかりじゃ」
「自慢…ねえ」
「くふふふ
こっちは武器屋のベンを殺した時の収穫
こっちは商人のアエリナから奪った彫像
そしてこっちは…」
ダモンは自慢気に、人々から奪った成果を自慢する。
しかしどれも騙したり、殺して奪った物ばかりだ。
とても自慢出来る様な品は、ここには無かった。
ギルバートは話を聞いていて、頭が痛くなる。
そこで話題を変える為に、立っている少年少女達の方を見る。
「この子供達は?」
「ああ
それもワシの戦利品じゃ
ベンの娘に…
ジョンの息子
いずれも見目の可愛い子供ばかりじゃ」
「戦利品?」
「ああ」
戦利品と聞いて、ギルバートは嫌な予感を感じる。
先程の彫像等も、人から奪った物ばかりだった。
そう考えるならば、この子供達もそういう事になるだろう。
領民達を騙したり、殺したりして奪い取った戦利品。
戦利品とは、そういう意味なのだろう。
「いずれもワシに逆らった奴等から奪った…
ワシに逆らう事を思い知らさせて、その上で奪った戦利品じゃ」
「思い知らすって…」
「ワシこそがここの主じゃ
このノルドの街の支配者にして、偉大なる貴族ダモン様じゃ」
「偉大?
誰が?」
「口を慎め
愚か者めが!」
ジャラジャラ!
ギルバートとしては、偉大というよりは尊大に感じられる。
しかし思わず口にした一言が、ダモンの神経を逆撫でにする。
ギルバートの口調が気に入らなかったのか、ダモンは再び首輪を引っ張った。
ギルバートは堪らず、喉を押さえて苦しんだ。
「げほげほ」
「くふふふふ
どうじゃ
少しは自身の置かれた状況が理解出来たか?
ん?」
「こ、これは…」
「喜ぶがいい
貴様も今日から、この偉大なるダモン様の下僕となったのじゃ」
「な!
誰がよろ…げほげほ」
「逆らうな
この愚か者めが」
ジャラジャラ!
ダモンは気に入らなければ、容赦なく鎖を引いて首輪を引っ張った。
そうする事で息が詰まり、反抗する事が出来ない。
それと同時に恐怖心が増して、やがて抵抗が出来なくなる。
彼の周りに立つ少年少女も、そうやって従わされているのだ。
ギルバートは改めて、少年少女達の姿を見た。
彼等はみな一様に、薄着を着て首に首輪をしている。
よく目を凝らすと、その首筋には首輪の擦れた痕が残されている。
彼等はここに拘束されて、ダモンの機嫌次第で虐待されていたのだ。
そして今や、ギルバートも首輪をはめられていた。
「くはははは
貴様は今日から、ワシの奴隷となったのじゃ」
「な、なんだと?
奴隷?
王国の法では奴隷は…」
「何が王国の法じゃ
間も無くワシ等ガモン一族が、この国を治めるのじゃ
そんな法なんぞ関係無いわ」
「はあ?
誰が治めるっ…?」
「口答えするな!」
「げほげほ」
ジャラジャラ!
ダモンに首輪を引かれて、ギルバートは再び咳き込む。
その姿を見て、少年少女達も顔を顰める。
彼女達も毎日の様に、その様な目に遭わされているのだろう。
だから苦しむ姿を見る事は、自分の事の様に苦しいのだ。
しかしそれでも、彼女達はダモンには逆らわない。
いや、逆らえないのだ。
それは首輪をされているだけでは無かった。
彼女達が逆らえば、家族を殺すと脅されているのだ。
それで苦しく恐ろしくても、ただただ堪え続けているのだ。
「くはははは
貴様もこいつ等と同じ様に、ワシの奴隷としてやる
そして毎晩の様に、夜伽で可愛がってやるぞ
じゅるじゅる」
「ひいいいっ」
ギルバートは夜伽の意味は分からなかったが、何となく気持ち悪さを感じた。
それで思わず、悲鳴の様な声を上げた。
「げひゃひゃひゃひゃ
可愛いのう
こりゃあ楽しみじゃ」
「くっ…」
ダモンの厭らしい笑みを見て、ギルバートは心底嫌そうな顔をしていた。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
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