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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
プロローグ
15/190

第014話

人と魔物の邂逅は、大いなる痛手に終わった

人類には再び、暗い時代の陰を落とす事となる

やっと収まった戦乱が、再び迫っていたのだ


夜が明けた

戦場であった第1砦にも、朝日の暖かみが届いていた


魔物との戦闘を経て、軍は疲弊していた。

予想よりも敵の数が多かった事と、ボスと見られる魔物の力に恐れを感じた。

初めての魔物との戦闘であるから、当然とは言えるが、傷は思ったよりも大きかった。

それ故に大隊長は一度軍を引き、立て直しを考えていた。

しかし折角日が差したと思ったのも束の間、出発を迎える頃には再び雲が垂れ込み始めていた。


大隊長は不意に垂れ込む暗雲に、不安を覚えていた。

さあ出発だ!という時に、あまりにもタイミングが良過ぎる。

緊張した面持ちで、振り上げた手を下ろす。


「かいもーん!」

『かいもーん!』


この門の先には、ダーナと開拓地を繋ぐ公道がある。

だがしかし、その前には魔物が控えていた。


門から数百m離れた場所に展開し、待ち構えていたのだ。

前方に構える歩兵の小鬼達の真ん中から、昨晩のボスが輿に乗って現れた。

それは殺した住民達の物だろうか?

人の骨や皮で、それは造られていた。


その左右には側近であろうか?少し大柄な魔物が付き従っている。

他の魔物に比べて筋骨隆々としており、腕が大人程の大きさをして非常にアンバランスだ。

魔物のボスもその2体の魔物も、死んだ兵士から剝ぎ取ったのか皮鎧を身に着けていた。

そして腰には、兵士に支給されていた小剣も提げられていた。


「あ…」

「ああ…」

「っく

 待ち伏せていたか」


魔物の群れは、見えるだけで300近く集まっていた。

これで全てかも判断出来ない。

少なくとも昨晩、砦に攻め込んでいたぐらいは居るのだろう。


「うう」

「ひい」


動揺した第1騎兵部隊が、剣を引き抜いて構える。

しかし大隊長は手を上げて、騒ぎを制する。


「静まれ」


兵士達はまだどよめいていたが、突出する事はなんとか抑えていた。


「敵はまだ構えてはいない

 迂闊に攻撃はするな」

「し、しかし…」

「ひいっ」

「こ、怖くは無いぞ」

ギャヒヒヒ


大隊長の声に反応してか?

一匹の魔物が、卑しい笑みを浮かべて矢を番える。


グホッ


それを見てボスが、一声上げる。

それに応えて、側近の一匹が唸り声を上げてその魔物に近付く。

そして、その長く垂れ下がった腕を振り上げる。


グァヒヒヒ!

ギャギャア?


そして拳骨を、その頭に打ち付ける。

ぐちゃりと音を立てて、その頭は潰されてしまった。

その一撃で頭部が四散するだけでなく、胴も潰れて体高が半分程になった。

砕かれた小さな頭から、脳漿が辺りに飛び散る。

側近の魔物はそれを、ニヤリと笑って舐め取る。


グシャッ!

ギャプ…

ビチャビチャ!

「うっ」

「何て力だ」


部隊長もその膂力には、驚きを現わしていた。

その魔物は血を舐め取ると、ニヤリと笑いながら手を上げる。

その上で掌を上にして、手招きの様に動かした。


誘っているのか?


どうやら挑発の仕草は、魔物でも人間と同じの様だ。

1対1の勝負を、彼等に挑んできているのだ。


「ふざけやがって…」

「どうやら

 敵さんは力比べをしたいらしいな」

「よし!

 それならば!」


敵の挑発に対して、第3部隊の部隊長が前へ進み出る。


「よせ!

 ロン!」


大隊長が止めに入るが、部隊長は頭を左右に振る。


「ここは…

 オレに任せてもらいませんか?」


ロンはクリサリスの鎌を地面に突き立てると、愛用の長剣を引き抜く。

それを見て他の部隊長も、止めようとする。


「馬鹿!

 止すんだ!」

「お前、帰ってニーナさんに告白するんだろ?」

「それに、こいつはお前の愛用の鎌じゃないか

 長剣でどうするんだ!」

「そいつは預かっておいてくれ

 いいな!

 預けるだけだぞ!」

「ロン!」

「ロンメル!」


仲間達の制止の声も、だが彼を止められなかった。

ロンは剣を構えると、魔物の側近を睨み付ける。

それを見て、魔物は嬉しそうにニヤリと笑う。

そこへ第2部隊の部隊長が、真剣な顔をして声を掛けた。


「ロン

 いいか、絶対に帰って来いよ

 どっちがニーナに相応しいか、まだ勝負は付いてないんだからな!」

「ああ

 ジョン

 ニーナはオレが貰うつもりだからな」


二人は暫し見つめ合い、互いの剣の柄をぶつけた。

武運を祈る為の、戦士の儀式だ。

この戦いに、負けるなよという意味が込められている。


「行くなら勝てよ」

「はい」


大隊長の激励に、ロンは礼をして戦いに向かう。

ゆっくりと魔物に向き直ると、剣を構えながら前へ出る。


グホホホ

バンバン!

「くっ

 舐めやがって…」


魔物も前に出て来て、バンバンと両腕で胸を叩いて挑発をする。

そして魔物が手斧を構えて、ロンの長剣の刃と合わせる。

それを見て、ボスが戦いの開始の合図をする為に片手を挙げる。


グハホホ

グホー!


ボスが手を振り下ろすのを合図に、戦いが始まった。


「うおおおお!」

グホホホ―!


初手はロンが右側面に回り、魔物の左手が牽制に振るわれる。

太い棍棒の様な腕が振り抜かれ、ロンはバックステップでそれを躱す。


「ちっ」

グホウ

ガシン!

ガキン!


次いで踏み込んで来た魔物の手斧が、右に左にと振られて、ロンが長剣の腹で受け流す。

右、左、右ときて、左から足元へと振り抜く。

ロンは最後の一撃を軽く跳んで躱し、踏み込みながら胴へ目掛けて突きを繰り出す。


「くっ、はっ、うりゃ!」

グホッ


突きは魔物の背中に入るかと思われたが、予め予見していたのか、魔物は身体を屈めて躱す。

それから左手で、剣の腹を叩き上げる。

その勢いを使って手斧が右へ振り抜かれるが、ロンは剣の柄を叩きつけて軌道を変えて躱す。

一瞬の攻防に、双方の視線が交わされる。


「やるねえ」

グホホホ


次の瞬間、魔物が再び手斧を振り回した。

ロンはそれを躱していき、難しい攻撃だけ剣で弾いた。

時に大振りになるが、ロンは一瞬構えては、反撃を出しあぐねていた。

十数合に及ぶその打ち合いを見て、大隊長は思わず呟く。


「素早い

 それに隙が無いな」

「え?」


それを見た部隊長達は、不思議に思っていた。


「しかし、ロンも上手く捌いてますよ?」

「そうですよ」

「上手く弾いていますし」

「あいつの防御は、騎兵部隊一って言われてるぐらいですよ?」


しかし、大隊長の思いは違っていた。


「駄目だ

 この勝負は着いた」

「え?」


魔物の長い腕を使った変則的な攻撃も、ロンは皮鎧など着ていないと言わんばかりに身軽に躱す。

それから反撃とばかりに、腕に切りつけた。

数度ロンは、反撃で切りつける事に成功した。

しかしどれも皮鎧に防がれて、軽い切り傷程度だった。


「確かに…

 上手く躱している

 しかし、ロンの力では…」

「あっ!」


そう、折角防御に長けていても、肝心の攻撃が弱いのだ。

今までの戦闘では、周りの者に任せて敵の攻撃を捌くのが専門であった。

だが馬も鎌も無い今の状況では、彼の攻撃力は決定打に足りないのだ。

それに気付いたのか、魔物も攻撃の手を変えて来た。


フェイントを交えて、体力の消耗を狙った戦法に変えて来たのだ。

少しずつ、ロンの動きの切れが鈍くなる。

複数の攻撃の中から、危険な攻撃だけを避けなければならない。

だがフェイントが増えると、その分体力の消耗も激しくなる。


魔物は手斧の攻撃の合間に、左手で殴りつけ、隙あらば掴もうとしたりした。

勿論ほとんどがフェイントで、消耗を狙っているのだが、それを避けない訳にはいかなかった。

数十合に続く打ち合いの末に、遂にロンの足元が縺れて、顔面に拳が被弾した。


ドカッ!

「くうっ」

グホッ

「くっ

 はああああ!」


軽く当たっただけだが、それが焦りに繋がった。

ロンの攻撃は焦って大振りになり、上段から切り掛かった。

それを待っていたと、魔物は踏み込みながら左手で長剣を横殴りに弾く。

疲労と大振りになっていた為に、剣にスピードが無かった。

だからそれは、簡単に弾かれてしまった。

魔物はその勢いのまま横に踏み出し、懐に入りながら手斧が振り上げる。


ウホッ

ガシン!

ドガッ!

「ごぶぁあ」


ダーナは地方の領地で、騎兵部隊も訓練はしっかり受けていた。

しかし実戦訓練は受けても、本当の実戦はほとんど経験が無かった。

彼等は戦闘技術はあったが、怪我や痛みに慣れていなかったのだ。

顔面に拳が入っただけだが、それで動揺して雑な攻撃をしてしまった。

それが結果として、この戦いの勝敗を決した。


大隊長だけは、彼の実戦経験が乏しかった為、攻め手に欠けたのが原因と見切っていた。

しかし他の部隊長達は、魔物の強さに目を奪われていた。

彼が負けた事は、魔物の膂力が勝っていたからだと考えたのだ。


「そんな!」

「ロン!」

「な…

 ロンの防御が…

 破られただと?」

「ロン!

 逃げろ!」

「ぐぼはっ…」


食らったのは左脇腹。

これが怪我の経験がある戦士なら、踏ん張って反撃も出来たかも知れない。

しかし彼はそこで、痛みに怯んで委縮してしまった。

それで力が抜けて、カランと長剣が彼の手から滑り落ちる。

さらに追撃で殴り倒され、引き抜かれた手斧が振り上げられる。

ロンは悲鳴を上げる仲間達を見て、哀しそうに微笑んだ。


グハハハ

ドガッ!


魔物はそのまま、手斧を振り下ろした。

それはロンの左首に突き刺さり、そのまま彼の首を切り落とす。

ごとりと音を立てて、彼の首が地面に落ちた。


「ロン!

 ローン!」

「ああ!

 そんな!」

グハハハ


魔物はロンの頭部を持ち上げると、戦利品として高く掲げた。

そしてそのまま、滴り落ちる血を舐める様に貪る。


「あ!

 ああ…」

「くそっ!

 あいつ!」

グホッグホオオ!


遺体は群れに運ばれ、武装を剝がされていく。

頭を失ったロンの遺体は、あっという間に裸にされてしまった。


「あ、あいつら!」

「なんて事を!」

「待て!」


武器を構える部隊長達を見て、大隊長は制止する。


「大隊長!!」

「ダメだ

 これは正式な決闘だ!」

「しかし!」


その間に身に着けていた武器や鎧は剥ぎ取られ、小鬼達が恭しく掲げて持って来る。

血溜まりの横に置くと、側近の小鬼は戦士を悼んでか、胸の前に右手を当てて礼をした。



ギギイ

ギャギイ


一匹の小鬼が無造作に腰当を放ったのを見て、先ほどの側近の小鬼が頭を引っ掴む。


グボオオ!!

ギャヒイイ!

グガアアア

グシャッ!


怒った彼は、無礼を働いた小鬼を打ち付ける。

哀れな愚か者は、グシャリと音を立てて地面に潰れた。

それから側近の小鬼は、周りの小鬼共を睨み付ける。


グホオオオ!


側近の小鬼が再び、胸の前に右手を当てて礼をした。

それに倣って、周りの小鬼たちも右手を胸に当てて、恭しく首を垂れた。

どうやらこれが、彼等の死んだ戦士への礼らしい。

小鬼たちは礼をすると、ロンの遺体に群がって何か始める。

その顔には、よく見ると血がべったりと付いていた。


「あいつ!

 まさかロンを!」

「ゆるせねえ!」

「止めろ!」


ロンを食べている様に殺気立つ部下達を、部隊長は静かに、厳しく制止した。

ここで邪魔をすれば、それこそ全面戦争になるだろう。

魔物が向かって来ない今は、下手な手出しは出来なかった。

それにどうやら、これは彼等の儀式なのだろう。

魔物は恭しく頭を垂れてから、その肉を口にしていた。


「あれが奴らなりの…

 戦士の弔いなんだろう」

「え?」

「よく見てみろ

 装備は一式、礼を持って返してくれている

 ロンを戦士と認めているのだろう」

「まさか?」

「奴ら、そのロンを食ってるんですぜ!」

「ああ

 しかし礼を持って食っている

 見てみろ」


大隊長はそう言って、ロンの遺体を食っている魔物を指差す。

確かに魔物達は、その肉を貴重な物として口にしていた。

強気者の死を悼み、それを取り込む事で強くなる。

これはそういった儀式なのだろう。


「東のある部族で…

 偉大なる戦士が死んだ時には、その血肉を食らって弔うという風習がある

 皆がその戦士の力を、受け継ぐという風習だ」

「まさか?

 魔物がその風習を?」

「恐らくは似た様な風習なんだろう」

「そんな…」


ゴア、グアハア


ボスの小鬼が手振りで、持ち物を返すと示す。

それを見て第4部隊の部隊長が、進み出て持ち物に手を出す。

彼は慎重に、魔物が襲って来ないか警戒していた。

しかし魔物達は、その光景を見ても何も手出しをしなかった。

それで部隊長は、そのまま装備を持って引き返す。


第2、第5部隊長は、まだ激しい憎悪の眼差しで睨んでいる。

しかし第4部隊の部隊長は、その魔物なりの礼に敬意を感じていた。

それで去り際に、彼はボスの小鬼に一礼をしていた。

それを一瞥した後、魔物のボスは再び手で合図する。


グブオ、ゴアハア!


彼は何度も自分と砦を指差し、兵士達を指差してはあっちへ行けと手を振る。

その手振りが示すのは、どうやら砦から立ち去れという事の様だ。

どうやら一騎打ちで勝ったのだから、大人しくここを引き渡せというつもりの様だ。


「大隊長

 どうやら行かせてくれるようですね」

「オレ達に立ち去れと?」

「うむ

 その様だな」

「しかし

 しかしロンの遺体が…」


ジョンは友の死を、まだ完全には受け入れられていなかった。

その遺体だけでも、持ち帰りたいと願っていた。

しかし遺体のほとんどが、既に魔物の腹の中である。

そしてこのまま離れるのなら、魔物の追撃は無さそうだった。


「せめて

 せめてあいつの遺体を…」

「諦めろ」

「そうだぞ

 今なら撤退出来る」

「撤退?

 ロンが死んだんだぞ?

 このまま逃げろって…」

「ジョン」

「大隊長!」


ジョンは滂沱と涙を流して、友の遺体の方を見る。

しかし大隊長は、黙って首を左右に振った。


「ジョン

 ジョナサン…

 今は退くんだ」

「しかしロンが!」

「今なら奴等も、黙って行かせてくれるのだ」

「戦わないんですか?

 報復は?」

「今は退くのだ」

「何で!!」

「避難民が居るのだぞ!」

「あ!

 ああ…

 くうっ…」

「行くぞ」


ここで今まで、事の推移を眺めていた第1部隊の部隊長が前に出る。

彼は武器を収めると、先陣を切って動き始めた。

それに続いて彼の部下が、粛々とその後に従った。


「よし

 そのまま

 そのまま第2、第3で続け

 指示は第2部隊、部隊長に従う様に」

「大隊長!」

「いいから!

 今はここを抜ける事を優先しろ!」

「しかし!

 しかし…」

「ぬう…

 ハウエル

 第2、第3部隊の指揮も頼む」

「はい」

「うおおおお

 くそっ!

 くそおおお…」


ジョンは反論したが、今はそれどころでは無かった。

代わりに第4部隊の部隊長の、ハウエルが三部隊の指揮を執る事になる。

彼は兵士達に指示を出して、第1部隊の後を追わせる。

ジョンは鞍上に蹲り、激しく号泣していた。

それをハウエルの部下達が、轡を引いて連れて行く。


第2、第3部隊に続き、歩兵と警備兵に守られながら、住民の乗った馬車が続く。

馬車を見て獲物に有り付こうとしたのか、数匹の小鬼が動いた。

しかしすぐさまに、他の小鬼に取り押さえられた。


第4部隊と共に、大隊長と警備隊長、副隊長、アーネスト少年が乗った馬車と出発する。

少年は魔力の消費の影響で、未だ眠り続けていた。


第5部隊は最後まで残り、後方からの追撃を警戒していた。

しかし魔物達は、それを見ても動こうとはしなかった。

そこで動けば、側近の魔物に殴り殺される。

それが分かっているので、小鬼達は大人しくしていた。


第5部隊が離れると同時に、魔物の群れは砦へと向けて動き始める。

雪崩れの様に城門を潜ると、彼等は略奪を始める。

そこに人間が集めた、食料があると思っていたのだろう。

ボスの魔物はその後ろから、ゆっくりと輿に乗って入って行く。


グゴホオホオホオホオ!


ボスの勝利の雄叫びが、森の中に木霊する。

逃げ出した住民達も、その吠え声を聞いた様な気がした。

それで彼等は怯えて、馬車の中で震えていた。


極力戦闘を避け、住民の被害を抑えて撤退する。

当初の目標からすれば上出来であっただろう。

しかしその為の犠牲は、あまりに大きかった。

部隊長のロンが命を落とし、他にも多くの兵士を失っていた。

その上で5つの集落と、2つの砦が事実上奪われたのだ。

そして、多少の痛手は与えただろうが、魔物の群れは未だに健在である。

警備隊長と大隊長は、どう報告すべきか頭を悩ませていた。


未知なる敵を討伐する為に、騎兵部隊を率いて来た。

それなのに結果は、魔物に敗けて逃げ出したのだ。

住民を守る為とはいえ、敗けは敗けなのだ。

彼等は今、ダーナへと向けて敗走しているのだから。


その日の夕刻までに、一行はダーナまでの途上の、集落の一つに立ち寄っていた。

集落の周りに陣を築き、集落に残してあった馬と馬車を回収する為だ。

その際に少しでも、持てる物資も回収される事になる。

少しでも魔物に残さない様に、残りは焼き捨てる事になっている。


「大隊長

 荷馬車は3台ありました」

「1台壊れた荷馬車がありました

 応急修理でダーナまでは持ちそうです」

「3台まであれば歩兵は乗り切れるな」

「はい」


「修理したのは荷物の運搬に使えます」

「では、それに食料や水を補充してくれ」

「はい」


集落の周りには野営の準備もされ、元々の住人と他の集落の住人が家に入って休んだ。

魔物は追撃をして来なかったが、念の為に見張りは交代で行われた。

先の魔物以外に、他の魔物が居ないとも限らないからだ。


「備蓄の食料も入れれば、2日は十分に持ちそうです」

「水も問題なさそうです」

「ふむ

 後は武具の修理と点検か」

「はい

 各自で点検はさせていますが…

 修理は…」

「砦を発つ際に補修はしました

 問題はこれ以降の戦闘で、破損した場合ですね」

「ダーナまではそう距離もありません

 なんとかなりましょう」


警備隊長は、みなに安心させる為にそう言った。

しかし大隊長は、それを不安視していた。

そしてそれは、現実となって現れた。


「熊だ!

 熊が出たぞ!!」

「火矢を用意しろ!」


俄かに外が騒がしくなる。

魔物ではなかったが、大きい灰色熊が2匹、腹を空かせて野営地に入って来た。

灰色熊は体長2m~3mあり、体重も300㎏前後ある。

普段は森の奥で小動物や木の実を食べているが、飢えると人を襲って食べる事もある。

今はまだ冬眠の時期の前で、熊も餌を求めて森から出て来たのだろう。


飢えた灰色熊は、狂暴で危険だ。

その前足の一撃で、盾ごと腕を引き千切るほどの威力がある。

案の定、兵士2人が犠牲になり、4人が腕や足をズダズダにされて重傷となった。


その後も野犬が数匹襲って来たりして、さらに怪我人が増えていた。

彼等の怪我は、ポーションと薬草で手当て出来たから良かった。

しかし魔物の影響か?野生生物の襲撃も増えてきていた。

野営地では一晩中篝火を焚いて、慎重に警戒されていた。

こうして彼等は、危険な敗走を続けていた。

まだまだ続きます。

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