第139話
5日目の正午前には、砦の手前の集落に到着出来た
兵士の1人が冒険者の恰好をして、先触れに立って砦へと向かう
その間に集落の野営地では、昼食の準備が行われていた
ここには集落があるが、隊商が泊まれるほどの大きさでは無かった
それで周囲には、隊商が野営できる野営地が作られている
余裕があるのか、冒険者が近場を捜索して野鳥を獲って来る
それを出汁代わりにして、今回のスープは野鳥の肉のスープとなった
彼等は簡単に野鳥を毟ると、そのまま内臓を取り出してぶつ切りにする
それに近場で採れた香草と野草を一緒に煮込んんで、黒パンと共に食べる
ちょっとした御馳走だが、野営地ならではの食事が出来た
味付けに関しては、今回は商人達が調味料を出していた
商人達が少量の胡椒と酒を出して、スープの味付けに使われたのだ。
それで旨味が増したので、野営地ではみなが笑顔で食事を済ませた。
商人としても、もうすぐ砦の街で商談が出来る。
多少は調味料を出してでも、もう少しマシな食事にしたかったのだ。
「貴重な胡椒と酒を、ありがとうございます」
「いえ、なあに
私達も砦まで無事に着けたんです
これぐらいは奮発させてください」
「そうそう
さすがに毎日塩味では…」
「それもそうですね」
「ははは」
商人は上機嫌でそう答えて、旅の無事を祝っていた。
あと20㎞も進めば砦に到着出来る。
そうすれば今夜は、そこの街の宿屋に泊まれるだろう。
ここまでの旅の無事は、商人達にとっても嬉しい事だったのだ。
「もう少し進めば、砦の旗が見えてきます
そうすれば砦までは、魔物も出ませんでしょう」
「さすがに砦の兵士達が、周辺の魔物を狩っているでしょう」
「そうですね
無事に来れて良かったです」
商人はナンディという名の、東国出身の商人だった。
彼は王都との行き来で、何度かこの砦には訪れていた。
隊商を組むほどの商人になれば、こういった旅は慣れたものである。
護衛の冒険者達も商人達と共に王都を行き来しており、それ故に彼等は戦闘にも慣れていた。
慣れていると言っても魔物が出始めたのはここ数年で、それまでは盗賊相手ではあった。
それでも戦闘を訓練するには、野盗は格好の相手ではあった。
そして逆に最近では盗賊は減っており、むしろ見掛けられないそうだ。
魔物が住む森では、盗賊が生き残るのもなかなか難しい様だった。
「以前は野盗が住み着いていましたが、今は魔物が住み着いています
どちらが良いかは…
微妙ですがね」
「そうなんですか?」
「ええ
野盗は勝てそうに無ければ逃げますが、魔物はしつこいんです
今日勝てなくても、明日には勝てるかも知れない…
そう思っているのかも知れません」
「数日は張り着いていて、隙を窺ってますからね
油断は出来ないんですよ」
「砦に着くまでは…
それか街に近付くまでですかね
しつこく着いて来るんですよ」
「それは厄介ですね」
ギルバートは不安になって周りを見回すが、アーネストが肩を叩いた。
「安心しろ
近くには魔物の反応は見られない」
「そりゃあそうだろうが…」
アーネストが時々、魔力の反応を見ている。
近くに魔物が居れば、それだけで魔力を検知できる。
しかし砦まではまだ少しある。
ここで油断して、魔物の接近を許すわけにはいかないのだ。
「大丈夫さ
先触れの兵士が向かったんだ
砦からも周辺には見張りに出ている」
「そうか?
砦が安定しているとはいえ、そこまで余裕は無いと思うけど?」
「それぐらいはするだろう?」
ギルバートも書類には目を通していた。
魔物の侵攻の後は、フランドールに見させてもらえなかった。
それでも砦の様子は、ある程度は推測出来ていた。
余程の事が無い限りは、作業の人員が増えた分砦の警備は忙しくなっている筈だ。
「選民主義者の投獄で、鉱山の人員が増えたんだろう?」
「ああ
それで砦の人員も増加して、集落にも住民が増えている」
「だからこそ、警備の人員が足りないだろう?」
「そうかなあ?
余程の馬鹿で無い限りは、集落では大人しくしていると思うが?」
「いや
あいつ等は余程だろう…」
先の内乱を鎮めた時に、内乱を扇動していた選民主義者が多く捕らえられていた。
彼等は自分達が優秀な人間で、他の者は自分達に従うべきだという思想を持っていた。
その為にダーナの街を自分達の物にして、逆らう者を殺そうとまで計画していた。
しかし早晩にもバレてしまい、関わった者はほとんどが捕らえられていた。
こうした犯罪者は投獄するか処刑されるかだが、人数が多い為に問題となった。
結局フランドールの嘆願もあり、処刑では無く処罰となった。
それが鉱山での労役であり、向こう数十年は鉱山での労役となる。
まあ、実質は逃げ出せない鉱山での労役である。
死刑に等しい扱いではあった。
「男は鉱山労働だが、女性や子供はその集落での苦役だろう?
そこで隙を見て、再び暴動を…」
「それは無いだろう」
「そうなのか?」
「そもそも何で鉱山の苦役が、死刑に近い処罰か知っているか?」
「え?」
「ここは森の中の集落だ
砦が無くても野生動物はいっぱい居るんだ
まあ、今は魔物も居るんだがな…」
「そりゃあそうだろうが…
でも、人員は沢山居るぞ?」
「確かに人は多いだろう
それに犯罪者も労役で働いている
しかし人が居ても、食料や武器は?」
「え?
鉱山だから鉱石が…」
「甘いな
鉱石が採れても、それを加工する職人が居ないだろう」
「え?」
今では砦に街が出来ているが、集落には小さな工房しか作られていない。
だから職人が居るとはいえ、そこまでの加工が出来る訳では無かった。
鉄製の工具は出来ても、武器や防具はそうそう作れるものでは無い。
だからこそアーネストは、安心して鉱山送りに賛成していた。
「鉱石を採掘する工具はあるが、それだけでは武器には…
それに集落の人間も居るんだ
おいそれとは反乱は出来んさ」
「そうなのか?」
「ああ
それに職人の腕もな…」
「職人の腕って?」
「そこまでの職人が、そうそう居ないって事さ」
アーネストの説明に納得が出来ず、ギルバートは考え込んでしまった。
しかし兵士も進言して、集落や鉱山での暴動が難しい事を説明する。
彼等の目線から見ても、ここでの暴動は難しい。
集落の場所を考えれば、ここで暴動を起こす事は難しいのだ。
「ここの住民は、砦の兵士達の家族です
中には腕っぷしの強い元兵士等も居ます
彼等が目を光らせている限りは、迂闊な反乱の相談も出来んでしょう」
「そうですよ
それにここに家族が居るのは、彼等にとっても人質の様なものです
下手に暴動を起こせば、集落で働く者の命が危険になりますからね」
それは暴動に巻き込まれてという意味もあるが、魔物が周りに居る事も関係している。
集落や鉱山で暴動が起これば、そこへ魔物が襲って来る可能性もあるのだ。
いくら選民主義者であっても、それが魔物に通用するとは思っていないだろう。
いや、思っていない筈だった。
「そういうわけだから、集落は今の処安泰だ
兵士も暇してるんじゃないのか?」
「それは無いですよ
魔物が活発化しているんです
今頃は訓練でもしていますよ」
「そう思いたいですね」
「まあ…
ここはダーナとは違います
ここの貴族が有能な者ならば…」
「どうだろうね?
アルベルト様に反抗するぐらいだ
あまり賢いとは思えないがね」
「それはそうでしょうが…」
「ははは
そうですね
有能な貴族では無いんでしょうな」
同行の兵士達はそう言ったが、魔物への危機感は街の者ほど強くは無さそうだった。
それはこの集落が森の東にある事と、魔物の南下の影響が少ない事が原因だろう。
集落の周りではゴブリンやコボルトしか出ないので、兵士はそこまで危機感を感じていなかった。
だから集落も安心していて、交易の隊商が訪れているのだ。
ギルバート達に同行した隊商以外にも、数組の隊商が訪れていたのだ。
昼食を終えてギルバート達が砦に向かう間にも、別の隊商が行き来するのが見えた。
「思ったより隊商が行き来しているな」
「ああ」
「魔物の侵攻を懸念して、交易は一時停止していたんだが…」
「それでも、公道を解放してからは2週間は経っている
それで隊商も…」
「2週間でか?
その前から行き来していないと、こんなに早くは来ないだろう」
「そこは商人達さ
どうやら砦では、公道を封鎖していなかったな」
「そうなのか?」
「ああ
でないと隊商が、これから砦に入るのがおかしいだろう?」
ダーナから砦は5日ぐらいだが、砦から王都までは2週間掛かる。
王都から今日来たのなら、2週間前に出た事になる。
それではタイミングが良過ぎるのだ。
商人達は閉鎖されていても、袖の下を渡して往き来していたのだ。
「恐らくは砦から街には行かせずに、王都と砦までは行き来していたんだろう
それでも危険なんだがな…」
「それじゃあ閉鎖の意味が…」
「言っても聞かないし
それこそ本当に停めてしまえば、色々支障が起こるからな」
「だからって…」
「まあまあ
そういうのも学んで行く必要があるぞ
そこの辺のバランスを取るのも、領主の資質だからな」
「領主の…」
公道の封鎖は砦への出入りを止めて、街へと向かわせない為だ。
砦から街までは交易を止めていたので、一応指示には従っている事にはなる。
しかし自分達だけは交易をしていたのだ、あまり良い感じはしないだろう。
その辺を認めて、匙加減をするのも領主の手腕である。
アルベルトが優秀と言われるのも、その辺が出来ていたからだ。
「フランドール殿へは…
報告は届いているのかな?」
「そうだなあ
しかし知っていると思うぞ」
「そうか?」
「少なくとも、オレは知っていたぞ?
それにハリスも知っている」
「オレは知らなかったが?」
「それは報告する必要が無かったからさ
オレとハリスで調整していたからな
だけどハリスだけでは…」
「フランドール殿に相談するか…」
「だろうね
少なくとも、従者には話しているだろう
そこからどうするかは…」
「フランドール殿次第…か」
「ああ」
まだ砦に着く前から、何やら起きそうな予感がして二人は憂鬱な気分になっていた。
最近のフランドールの様子からして、問題が起きそうな気がしてくる。
それにアーネストは、彼とここの領主との関係を知っていた。
それを考えれば、いつ火種が付くか分からなかった。
それは兵士も同じで、前を行く隊商を見てからは嫌な予感を感じていた。
「おい
こんなに早く、隊商が来ているのか?」
「ああ
公道の封鎖が解けたばかりなのに、早過ぎるな」
「アルベルト様なら…
そこまでは仰らないだろうが」
「フランドール様は…なあ…」
「また砦とダーナとの間で…」
これから自分達は、王都へ向かう事になる。
揉め事に巻き込まれるのは、自分達ではなく街に残った同僚達だろう。
だがそんな同僚達の事を思うと、彼等も憂鬱な気分になっていた。
内戦が起こってしまえば、同僚達も駆り出される事になる。
彼等は仲間の無事を祈る事しか出来なかった。
ギルバート達の後方だったので、隊商は前を行く仲間は見えていなかった。
しかし何かがおかしいと感じて、冒険者達を様子を見に前へ出させた。
そこで冒険者達も隊商を見掛けて、事の成り行きを予想出来た。
冒険者達を代表して、一人の男がギルバートの馬車へと近付いた。
「坊っちゃん
よろしいでしょうか?」
「ん?
ああ、冒険者の…」
「トラビスです」
「そのトラビスさんが、どうしたんだい?」
「ええ
後ろから見ていても様子がおかしいので、前へでてみたんですが…」
「ああ
アレだね」
「はい」
冒険者が前の隊商を見ていたので、ギルバートも何が言いたいのか予想が着いた。
予想は出来たのだが、どう答えれば良いのやら。
さすがに即答は出来ずに困ってしまった。
「どうされます?
ウチの大将に話しますか?」
「ナンディさんにか?」
ギルバートは悩んだ。
この5日間で、彼は誠実な商人と感じていた。
出来れば彼に、ありのままを話したい。
しかし砦と王都だけは行き来を出来ていたとなると、ダーナで出れなかったナンディは怒るだろう。
砦まで行けていたら、彼等は王都へ戻る事も出来ていた筈だからだ。
貴重な商機を奪われて、危険な街に逗留させられていたのだ。
そこは怒って当然だろう。
「どうやら…
砦の独断なんだろうけど、そう言っても言い訳にしかならないだろうな」
「そうです…ね
大将には上手く言っておきます
ただ…
砦では他の商人と揉めそうですね」
「だろうな
彼が何か言いだしても、それは仕方が無いだろう」
ギルバートの責任では無いが、揉める原因を知っているだけに憂鬱な気分になる。
出来ればナンディにも、自重はして欲しい。
しかし彼等からすれば、生命の危機に晒された上で、貴重なチャンスも逃したのだ。
仲間の裏切りには、怒っても当然だろう。
「あの
オレが言うのもなんですが
坊っちゃんが原因では無いのでしょう?」
「ああ」
「それだけでも分かっていれば、後はこちらで話しておきます」
「良いのか」
「ええ
ここの貴族の性格は、よく分かっています
ですから問題は無いかと…」
「そうか…」
冒険者は笑顔で答えると、そのまま後方へ向かった。
予想通り大声が聞こえたが、暫くして落ち着きを取り戻していた。
どうやらトラビスが上手く説明して、ナンディも納得したのだろう。
ここの貴族の悪評は、商人達の間にも上がっているのだろう。
だからこそナンディも、それ以上は騒がなかった。
砦に着いてからは、商人同士の話し合いになるだろうからギルバートには直接関係は無い。
今回は商人の息子に扮しているが、大人の揉め事に関わる事も無いだろう。
後の問題は、砦の責任者である守備隊長に見付からない事だった。
恐らくは彼も、隊商の者達を一々調べる事も無いだろう。
「ここの砦は、ダモン守備隊長だったか?」
「そうだなあ
確かそんな名前だったな」
「彼はどんな人物なんだ?」
「ん?
ギルは会った事が無いのか?」
「ああ」
「彼の出は商家なんだが…
確かガモン商会って言って、王都で商家を営んでいる」
「何か嫌な名前だな…」
「ああ
似ているけど多分、関係ないとは思うぞ」
ガモンと聞いた瞬間に、ギルバートはある男を思い出していた。
その豪快な笑い声と共に、そのせいで酷い目に遭った事を思い出す。
「まさかその親族に…」
「アモンって居そうだけど、名前が似てるだけで先入観は持つなよ」
「あ、ああ
しかし…」
「似ているだけだ」
「しかし…
嫌な予感がするな」
「気にし過ぎだ」
魔王に似た名前をした守備隊長が居る。
そのせいであの顔が頭に過ってしまう。
そして笑い声まで、頭に響いて来る気がする。
「まさか…な」
「違うだろ」
ギルバートが嫌そうな顔をするが、アーネストは構わず話を続ける。
「商家の出だって事で、頭は良いみたいだけどな
兎に角やり手で、今回の事も儲けを考えてだろうな」
「そうか…」
「確か砦を造る時も勝手に集落を作って…
自治を認めろって、アルベルト様とやりあっていたからな」
「父上と?」
「ああ
そういった意味では、頭は悪そうだがな」
「何で父上と?」
「公道と鉱山を守る為に、大きな砦が必要だ
しかし街と離れている為に、そこに住む住民の集落も一緒に作りたいって」
「それで集落を作るって言って…
実質的には村を作ったわけか」
「いや
村と言うよりは街だな
小さな街にまでしてしまったんだ」
「それはまた…
それが仲が悪いって原因か?」
「そうだ」
彼が許されたのは、あくまでも鉱山の統治までだった。
鉱山を守る為に、砦の建造は許されていた。
しかしそれは、あくまでも鉱山を守る為の砦だった。
そこに街を作る事までは、許されてはいなかった。
町や村を作るにも、王国の許可が必要である。
そして近隣の貴族や、寄り親に当たる貴族の許可も必要だった。
しかしダモンという男爵は、勝手に砦の周りに街を作ってしまった。
それも勝手に住民を募って、移住までさせてしまった。
そこまでするには、国王の許可が必要なのだ。
「ああ
だから税収や自治の事で揉めてな
アルベルト様に自治領として認めて欲しいって」
「そうか
でも爵位が低い貴族なら…」
「ああ
そう簡単にはいかないな
だからアルベルト様に掛け合って、自治領にしてくれって」
「それって…
やけに勝手な話だなあ」
「ああ」
当時はそれで色々あったらしいが、なんとか砦の存続を賭けて粘ったらしい。
既に街も出来上がって、移住も始めていた。
それで得られる税収で、建造費や兵士の給金まで見越していたのだ。
だから彼は、意地でも認めさせようとしていた。
それであわや内戦になりそうなところまで、話が拗れてしまっていた。
国王に他の貴族が嘆願して、何とか自治領の試験的管理とという名目で許されたのだ。
しかしそれは、あくまでも王国が仕方なく許して行っていた事だ。
本来ならば、寄り親である辺境伯を無視した勝手な行為である。
辺境伯がフランドールに変わろうとする今、それが認められるかは彼次第であった。
「何だか…
嫌な予感がするな」
「同感だ
ボクもそれは思っている
今のフランドール殿が、それを黙って認めるとは…」
「思えないよな」
フランドールが鉱山の税収と労働者の徴兵を求めれば、それは爵位が低いダモンには断れない。
もしそんな事になれば、違った意味で暴動が起きるだろう。
砦の街をめぐって、儲けを賭けた戦いになりそうだ。
そして今のフランドールなら、確実に挙兵を起こしそうである。
彼は今では、自身が優秀な領主と思い込んでいる。
「なあ」
「ん?」
「ここはさっさと抜けて、山脈へ逃げ込まないか?」
「ああ…
それは無理だろう」
「何でだ?」
「関所の話をしただろう?」
「ああ」
「そう簡単には抜けられない
それに追っ手を気にする必要もある」
「それならオレの権限で…」
「はあ…
さっきも言っただろう?
アルベルト様との事があるんだ
お前の存在がバレたら…」
「何とかならないのか?」
「無理だ」
ギルバートは手続きだけをして、さっさと出ないかと提案した。
関所さえ抜ければ、そんな厄介な場所を抜けられる。
しかしそもそも、商人の息子に扮したのにも理由があった。
アーネストの話しでは、ここの領主に見付かるのは問題があるらしい。
「残念だが、関所を抜けるには時間が掛かる」
「そうか…」
「金を収めて、その上で審査を受ける
その審査に時間が掛かるからな
その間にギルが見付かれば…」
「そうか…
前に話していた、ここの貴族に見付かるなってヤツか?」
「ああ
こちらの貴族は、アルベルト様に思うところがあるからな
自治領の件もだが、ダーナの利権も狙っているみたいだし」
「そういえば、そんな事も言っていたな」
「ああ
何かと理由を付けて、攻め込もうって話さ
それでいつでも攻め込める様に、軍備も整えてある」
「準備の良い事だな
しかしそれは…
フランドール殿を倒してまでもか?」
「そうだ
例え内戦を起こしても、勝てば何とかなると思っているのだろう」
「そんなものなのか?
内戦だぞ?」
「ああ
その為にも、王太子であるギルを探しているんだ
上手く取り込めば、人質にでも協力者にでも出来るとな」
「はあ…
そんな考えでオレを…」
「そうなんだよ」
面倒臭い事に巻き込まれそうだが、そこは避けられそうもない。
貴族になるという事は、こういった面倒事も背負いこむのだ。
なるべく見付からない様にしなければ、両者の争いに巻き込まれる。
バレなければ良いが、彼等もギルバートの通過を見張っているだろう。
「協力って…
オレはするつもりは無いぞ?」
「そうは言ってもな
捕らえられればそうも言えないだろう?」
「どうしてさ?」
「言っても言わなくても、捕らえていれば問題は無い
要は自分が拘束していれば、こう言っていましたって言えるんだ
だから見付かれば…」
「捕らえようと必死になって向かって来るか」
「ああ」
「仕方が無い
腹を括って行くしかないか」
「ああ
面倒な事は早めに処理した方が良い
上手く見付からない様に済まそう」
「ああ
そうだな」
二人がそう話している間に、砦からの迎えの兵士が到着した。
魔物に襲われる恐れもあるので、近くに来た隊商を守る名目で迎えに来たのだ。
その内実は、隊商の中にギルバートが居ないか見張っているのだ。
顔は覚えられていないだろうが、今もこうして見張られている。
兵士達に先導されて、馬車は砦の入り口へと向かった。
そこは町への入り口でもあり、関所へと続く道でもある。
兵士達が厳重に見張っていて、今も隊商が2組並んでいた。
後続のナンディがどう対応するのか、任せるしか無い?
面倒事ばかりで、ギルバートは憂鬱な顔で溜息を吐いていた。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。




