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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
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第138話

初日に使われた野営地は、魔物も利用した痕跡があった

その為に警戒が必要になったが、幸いにも魔物の姿は付近には無かった

そのまま魔物の襲撃に備えながらの野営になったが、朝までは何事も起きなかった

どうやら魔物はここを数日利用はしたが、そのまま他へ向かった様子だった

後片付けは大変だったが、それ以外の問題は起こらなかった


朝になると日が差し、森の中にも小鳥の声が響く

魔物も近くに居ないのか、野鳥や小動物の動き回る音が聞こえる

このまま魔物に遭遇しなければ、予想よりは早く砦に到着出来そうだ

ギルバート達は野草を摘むと、そのまま水魔法で洗った

それに干し肉を混ぜて、即席のサラダを作るのだ

後は黒パンと水になるが、野営地での朝食はこんな物だった


「少し質素だが、これはこれで旨いな」

「ええ

 戦場や行軍中では、朝食はこんな物です

 もっとも、野草が手に入る分はマシなんですが…」

「そうですね

 場合によっては、もっと質素になりますよ」

「それは勘弁して欲しいな

 最低限の食事はしたい」


兵士が言うには、野草が取れない時には塩漬けした野菜を使うそうだ。

保存の為に塩漬けにして、日持ちを良くするのだ。

しかし塩気が強くなるので、その分使用する量は少なくなる。

今回は近場に野草があったから良かったが、薬草や香草だけだったら味はもっと悪かっただろう


「こればっかりは運しだいですからね

 魔物が採り切っていなかったのも幸いしましたね」

「そうか…

 魔物もここを利用していたもんな

 もしかして、魔物は野菜が苦手なのかな?」

「魔物だけではないかも知れませんな?

 ほら…

 見てください」


アーネストはさっきから、一言も話していなかった。

よく見れば不味そうな顔をして、サラダを食べていた。

それはソースも何もかかっていないので、干し肉以外の味はしない。

普段からソースをかけて食べていたので、何も掛かっていないのが不満なのだろう。


「ここにも野菜嫌いが…」

「しっかりと食べないといけないんですがね…」

「将軍もそうですね

 サラダは我慢しますが、根菜のスープでは…」

「そりゃあ…」

「いつも食事係が泣いています」


将軍が元気な秘訣は、肉をよく食べる事らしい。

しかし酒も飲むので、そこは野菜も沢山取って欲しい。

しかしそう言い聞かせても、なかなか食べようとはしなかった。

野菜も多く食べるのが、長生きの秘訣と言われているのに。

将軍は奥さんのエレンに言われても、あまり野菜を摂ろうとはしなかった。


「アーネスト

 野菜も沢山食べろよ

 酒や肉ばっかりだと将軍みた…」

「え!

 おじさんみたいになるって?」

 それは嫌だぞ!」

「ぷっ」

「くすくす…」


将軍を引き合いに出されて、アーネストが慌ててサラダを掻き込む。

余程嫌だったのだろうか、その様子は必死だった。

野草の苦みに顔を顰めながらも、一心に渡されたサラダを食べ切る。

それを見て兵士だけではなく、商人達まで笑いを堪えていた。


「そこまで嫌がらなくても…」

「オレはあんな、ガサツでだらしない大人にはなりたくない」

「ちょ!

 アーネスト!」

「お前が言うなよ

 はははは」


アーネストは気が付いていなかったが、長く一緒に居たので二人は似た所が多い。

真面目にしている時はしっかりしているが、それ以外ではいい加減なのだ。

その為ガサツでだらしなく見られるが、ここぞという時に活躍するので周りからは頼られている。

要するに、好きな事や大事な事以外ではいい加減なのだ。


「同族嫌悪か…」

「そう、それ

 似た者同士ですからねえ」

「それに…

 将軍の父上がアーネストの父と兄弟らしいですからね」

「そういえば…

 そんな話があったな」

「親族であるからこそ、似ているんでしょうな」

「に、似ていないぞ」

「はははは」


正確にはアーネストの祖父と、将軍の祖母が兄妹だったのだが、王都と辺境に別れて暮らしていた。

若くして辺境に旅立ち、そこで居を構えたからだ。

だから親戚として、将軍はアーネストを可愛がっていた。

説明が面倒なので周囲には甥っ子と話していたが、実際は弟の様に大事にしていた。

それが祟って、性格が似てしまったのは仕方が無いだろう。


そんな将軍でも、アーネストを引き取る事は出来なかった。

当時は将軍も親を亡くしたばかりで、未成年として面倒を見られる立場だったからだ。

だから徴兵で志願して、兵長になってからアーネストに会いに来た。

しかしその頃にはアーネストも家を与えられて、アルベルトの仕事を手伝っていた。

だから将軍は時々様子を見に行く事はあっても、それ以上は踏み込まなかった。

アーネストが助けを求めない限りは、見守ろうと考えたのだ。


「どっちかと言えば、父上に似たのかも知れないな」

「え?

 アルベルト様ですか?」

「それはその…

 あまり似ていない様な?」

「いや

 父上も根菜は苦手だったし、意外と雑な所もあったぞ」

「それは坊っちゃんが御子息でしたから…」

「そうそう

 家族に見せる、安心した姿でしょう

 アーネストのこれは…」

「オレでも公の場では、弁えて行動するぞ」

「そうか?」

「ええ?

 そうには見えませんね」

「おい!」


アーネストが怒って反論するが、みなの眼はジト目になっている。

それは普段の行動が物を言っており、少々では取り返せない物であった。

真面目だと言ってみせても、納得してもらえない。

それこそ日頃の行いのせいだろう。


「さあ

 食事が終わったのなら、さっさと出発するぞ」

「う…」


アーネストが慌てて、最期のパンを口に突っ込んだ。

それを水で流し込みながら、彼は食器を片付ける。

こうした野営地では、近くに水場があるとは限らない。

桶や樽に、運んで来た水を入れて使う事になる。


しかしここには、魔法を使える者が居る。

アーネストが魔法で水を出して、桶や樽に貯めれるのだ。

冷たく無いのが残念だが、そこは運ぶ手間が掛からない事の方が重要であった。

アーネストは手早く水で洗い流すと、よく水を切って袋に仕舞い込んだ。


「水が冷たかったら、もう少し美味いんだがな」

「でも、氷ならそこにあるぞ?」

「魔物を凍らせた氷の水が飲めるか!」

「そういう所がガサツなんだ」

「そうか?

 冷たくするなら同じだろ?」

「魔物の周りの氷なんて、美味しくないだろう…」

「そういうのは見た目も重要なんだぞ…」


平気そうなアーネストを、兵士や商人達がジト目で見ていた。

確かに魔物を凍らせた氷では、美味しい水には見えないだろう。

ただし冒険者達は、そう思っていない様子だった。

彼等は貧しい暮らしをしてきたので、今さらそれぐらいは平気だったのだ。

しかしアーネストの様子を見て、何も言わない方が良いと判断する分別は持ち合わせていた。

だから同行した冒険者達は、そのまま何も言わなかった。


「魔物の氷は…

 まだ大丈夫か?」

「ああ

 順調に凍らせれている

 この調子なら、王都にも凍らせたまま持って行けそうだ」

「そうか

 それは良かった」

「それにオレが見ているんだ

 安心して進んでくれ」

「それが一番心配なんだが…」

「そうですな」

「ちょ

 何だよ…」

「はははは」


魔物の氷は、少しづつだが溶けてはいる。

だがその度にアーネストが魔法を掛け直しているので、氷は分厚く覆ったままだ。

今の処は魔力にも余裕があるので、問題無く凍らせていた。

時々外側の溶けた場所を、再度凍らせるだけで済んでいた。


「このまま…

 何事も無ければ良いんだが」

「止せよ

 そういう事を言うと、何かが起きるんだ」

「ああ

 それは分かっているんだが、何も無いと逆に不安になってな」

「だからって、自分からそんな事を言うなんて…」

「そうですよ

 そういう事をいっていれば、本当に魔物が出て来ますよ」


兵士達はそう言いながら、出立の準備を進める。

この調子で進めば、魔物に遭遇しないで進めそうだった。

ギルバートも馬車に乗り込むと、御者が出発の掛け声を発する。

支度が出来た兵士達から、馬車の周囲を見回していた。


「それでは出立します

 忘れ物や用事はありませんか?」

「ああ

 行ってくれ」

「それでは、はいよー!」

ピシッ!

ヒヒーン


商人が馬に鞭を当てると、馬が嘶いて馬車は静かに出発する。

兵士達も馬に乗ると、馬車の周りで警戒をしながら進む。

彼等も冒険者の恰好をしているので、そのまま馬車の護衛に回っていた。

その後方には隊商の馬車が続き、その周りに冒険者が警戒をして回っていた。

そのまま冒険者達と一緒に、兵士達は馬車の周りで警戒をする。


冒険者も馬に乗っていたが、それは彼等が有能な冒険者であったからだ。

馬が持てるかどうかが、有能な冒険者かどうかを分けていた。

それだけの稼ぎが出来るなら、それだけ狩の腕も確かだからだ。

馬を維持出来るほどの稼ぎとなると、相応の狩で稼げる腕が必要なのだ。


「この辺も魔物は少ないな

 魔力の反応も、森の奥にしか感じられない」

「そうか

 魔物も警戒しているのかな?

 そのまま出て来るなよ…」


二人の祈りが効いたのか、そのまま2日間は魔物には遭遇しなかった。

4日目にして、森から斥候に出てきたコボルトに出会ったが、そのまま逃げだしてしまった。

追う事も出来たが無理に森に分け入るよりは、そのままやり過ごす事にしたのだ。

その選択が功を奏したのか、その後は魔物に遭遇する事は無かった。


魔物は追って来る事も無く、そのまま4日目も野営地の広場に着いた。

恐らくは人間の人数が多くて、彼等も迂闊に手出しが出来なかったのだろう。

追跡もしないのは、群れの存在を隠したいのもあったのかも知れない。

彼等は仲間を護る為に、そのまま隠れてやり過ごす事にしたのだ。


その後は初日の様な魔物の痕跡も無く、兵士達は安心して野営の準備に取り掛かっていた。

どうやら周辺には、他の魔物も居ない様子だった。

だから魔物に遭遇する事も無く、こうして野営する事も出来る。

その安心感が、いつしか兵士達の口を軽くさせていた。


「今日も無事に過ごせたな」

「ああ

 このまま行けば、明日の昼過ぎには砦が見えるだろう」

「魔物が少ないのは助かる」

「ああ

 残して来た仲間達の事も、安心出来るからな」

「今頃はあいつ等も…」

「ああ

 巡回や訓練をしているだろうな」


兵士達は安心しきっていたのか、街に残して来た仲間達の事を話していた。

フランドールの政策が厳しくても、兵士には最低限のやるべき仕事がある。

それに魔物に対抗する為に、訓練も欠かせないだろう。

今頃は兵舎で、訓練をしているのかも知れない。


「それにしても、こう毎回肉と野草では…

 口が寂しいな」

「そうだなあ

 余裕もあるし、近場に川でも無いかな?」

「釣りか…」

「そういえばこの辺りに、山から流れる小川があったな…」


兵士は釣りを考えて、ギルバートに提案してみた。

小川はいくつか、山脈から流れて来ている。

それが森の中を通って、公道に沿って流れている。

釣りが出来るほどの大きさの川は、そう多くは無かった。


「坊っちゃん

 どうでしょう?」

「まだ時間はあります

 少し川を探してみてもよろしいですか?」

「川か…」

「この近くにある筈です

 確か子供の頃に…」

「そうだなあ

 昔は魔物がうろつく事は無かったからなあ

 爺さんや森に詳しい者達と、木の実や野草を採りに入ったものです」

「そうなのか?」

「ええ

 それで釣りでも出来ないかと…」

「この辺りに確か、釣りが出来る川があった筈なんです」

「釣りか…」


ギルバートは少し考えたが、許可を出す事にした。

ギルバートも少し、肉ばかりに飽きていたのだ。

それに魚が獲れれば、食料に余裕も出来る。

運が良ければ、木の実や野草も採れるだろう。


「よし、分かった

 探索を許そう

 ただしあまり遠くには行くなよ」

「はい」

「分かりました」

「良かった

 魚が食えるぞ」

「釣れたら…

 だがな」

「あ

 おい!

 それはオレの腕を…」

「オレの方が上だがな」

「言ったな」


兵士達はさっそく、魚が釣れた気になっている。

しかし先ずは、その小川を見付ける必要がある。

それと同時に、魔物が周辺に居ないか調べる必要もあるだろう。

ギルバートは、同行する護衛の冒険者達の方を見る。


「後は、冒険者の方も…

 ああ、行く気まんまんだな」


ギルバートが冒険者達の方を見ると、既に釣竿を持って商人達と話していた。

中にはどこに持っていたのか、投網まで出して用意していた。

彼等もどうやら、魚を食べたくなった様子だった。

兵士達の話を聞いて、一緒に探しに行くつもりらしい。


「無理はするなよ

 魔物に遭遇するなら、すぐに引き返す様に」

「はい」

「君達ではオークまでは倒せても、それ以上は無理だ

 下手に戦って、他の魔物を引き寄せるなよ」

「分かっています」

「任せてください

 大漁を狙ってますから」

「大丈夫かなあ…」


兵士は釣竿を背中に背負って、軽装で森へ向かって行った。

その背中を見ながら、ギルバートは心配そうにしていた。

ほとんどの兵士が、軽装になって釣竿を持っている。

このまま魔物に遭遇しては、戦闘にならないだろう。


「せめて剣ぐらい持って行けよ」

「ははは

 楽しみにしていたんだろう?

 森の中では、他には狩りぐらいしか出来ないからな」

「それはそうだが…

 変な物を引っ掛けなければ良いが」

「魚の代わりにか?

 それは無い…

 事もないか」

「ん?」

「いや

 川には川の魔物が居るみたいだから…

 しかし、まさかな」

「そういえば、川にも魔物は居るんだよな

 今までは遭遇していないけど」

「え?

 そうなんですか?」

「ああ

 今までは見る事も無かったけど…」

「それも結界のお陰ですか?」

「だろうな」


アーネストは辞典を引っ張り出すと、川の魔物の項目を開いた。

そこには数ページに渡って、数種の魔物の紹介がされている。

ほとんどの魔物が、魚かそれに類似した姿をしている。

しかし中には、馬や口だけの魔物も存在する様だ。


「ほら

 こいつだ」

「なになに

 ケルピーにビッグマウス…」

「違う違う

 それはFランクやEランクの魔物だ

 こっちだよ」


アーネストはページの右を示して、2匹の魔物を示した。

馬の姿をした魔物は、高ランクの危険な魔物らしい。

そんな危険な魔物に、いきなり遭遇する事も無いだろう。

可能性があるとすれば、魚の魔物化したものだろう。


「Gランクで居そうなのは、キラーフィッシュとアリゲーターだな

 アリゲーターは魔物と言うよりは、野生の獰猛な生き物みたいだな

 魔石も持っていないみたいだし」

「そうか…

 しかしキラーフィッシュとはまた…」

「見た目は魚ですね」

「ああ

 しかし危険な魔物だ」


随分と物騒な名前と思ったが、内容も物騒であった。

アリゲーターはトカゲの様な容貌の水場の側に住む動物で、大きな口に鋭い牙を持っている。

その大きな口で噛み付き、水中に引きずり込むのだ。

大きな口で噛み付かれては、身動きも取れなくなるだろう。

それでそのまま、水の中で溺死してしまう。

後は大きな口で、そのまま噛み砕かれるだけだ。


一方のキラーフィッシュは水生で、水に入った獲物に鋭い牙で噛み付いて来る。

その大きさは小さくて、単体ならそこまでの脅威では無い。

しかし群れを成して泳いでいるので、襲われたら一溜りも無い。

大きな馬や牛でも、数分で食べられると書かれていた。


「こいつは…

 ヤバいな」

「しかし腕ぐらいの大きさでしょう?」

「それでもだ

 囲まれて襲われたら…」

「それは…」

「水辺には入らない様にしなければな」

「そうだな

 伝令を送るか?」

「そうだな

 迂闊に水に入るなと伝えておくか」


ギルバートは念の為、伝令に報せる様に伝えた。

兵士は書物を見ながら羊皮紙にメモして、その足で報せに走った。

これで迂闊な事はしないだろうし、もし魔物が居たとしても相談には戻るだろう。

この本に載っていない魔物も、存在する可能性があるのだ。


「そういえば

 そのキラーフィッシュ?

 そいつは魔物なのか?」

「うーん

 こっちも魔物なのかは…

 魔石の発見例も少ないし」

「となると、魚の可能性も…」

「それは無いだろう?

 結界に阻まれて、現れていなかったみたいだし」

「偶々見掛けていないとか?」

「その可能性もあるが…

 こういう魔物と野生の危険な生き物との、線引きが微妙なんだよな」


魔石が見付かったのは、沼の主の様な大物のキラーフィッシュだけであった。

普通は人の掌か、大きくても腕の大きさぐらいであるという。

そんな大きさでは、魔石を持っていたとしても小さいだろう。

もしかしたら持っていないんじゃなくて、見つけられないぐらい小さいだけなのかも知れない。


「兎に角、魔物と判定するのも難しいので欄外に記されているんだ

 だからランクもGランクだし、魔石も無いとされている」

「そうか」

「それにこの頃の魔導王国でも、魔物の基準は難しいとされていて…

 あくまでも魔石の有無が基準なんだ」

「魔石…ねえ」


一応ランクは最低ランクのGランクだが、それもそれより下が無いからだ。

ゴブリンよりも下の脅威となればそれも納得だった。

対処方法があって、簡単に狩る事が出来る。

そういう生き物に関しては、魔物と呼ぶには難しいのだろう。


先ずはキラーフィッシュだが、水の中では確かに十分な脅威ではある。

しかし水の中に入らなけれれば、それなりの脅威でしか無かった。

何せ水生の魔物なのだから水が無ければ泳げないし、飛び掛かって噛み付く事も難しい。

ましてや長時間水から出てしまえば、呼吸もままならなかった。

水から出て銛や弓、釣り上げたりすれば脅威も少ない。

電撃や雷の魔法が有れば、労せず大量に獲る事も出来ただろう。


次にアリゲーターだが、これもそれほどの脅威には感じられない。

何せトカゲの様な魔物だ、その動きはそこまで早くないだろう。

実際に記録の中でも、陸上ではそう素早くは動けないと記されている。

そうなれば噛み付かれて水中に引き摺り込まれなければ、案外楽に倒せそうだ。

事前に察知して対処出来れば、そう苦戦しそうには無かった。


「まあ、Gランクだし

 何とかなりそうだが…」

「事前に伝令が伝わっていれば…な」

「そうだな

 馬鹿みたいに水に浸かってなければな」

「まさか…な」


それだけが心配だった。

伝令が着く前に水に浸かっていたら、襲われても仕方が無い。

冒険者達も迂闊にアリゲーターに近付いては、被害は避けられないだろう。

彼等からすれば、その姿はオオトカゲにしか見えないだろう。

隊商の護衛に就くぐらいだ、そんな迂闊な者は居ないと思いたいが油断は禁物だ。

二人は緊張しながら、結果を持ち帰るのを待っていた。


日が沈んで森が暗くなる頃に、兵士達は戻って来た。

結果としては魔物には遭遇していなかった。

彼等は川を探して、暫く周辺を探索してみた。

しかし川はあったがそれは支流で大きくなく、魚も小物ばかりだった。


「残念ですが、本流を探すには時間が無く」

「小さな川ですので、獲物も少なかったです」

「それはお前の腕だろう?

 オレは10匹は釣れたぜ」

「それは逃げた魚が対岸で…」

「まあまあ

 それなりに釣れたんだろう?」


小振りの岩魚とバスが籠に盛られていて、何とか人数分の釣果は得られていた。

それを兵士達が、人数分に振り分ける。


「一人1匹にはなりますが、焚火で焼きましょう」

「そうだな

 煮るには量が少ないしな」


肉の代わりに煮込むには、魚の大きさが小さすぎた。

仕方が無いので、今日も野菜と干し肉のスープが作られる。

違うのは焼き魚がある事で、それだけでも食事は豪勢に見えた。


「砦に入れば、もう少しまともな食事になります」

「それまではこれで、辛抱してください」

「構わないよ

 これでも野営の料理は楽しんでいるし

 味は…

 まあ、塩だけなのは仕方がないよ」


ハーブは採れないと持ち合わせが無いし、胡椒は高級品なのでそうそう持ち歩けない。

そういう意味では領主の邸宅での食事は、思ったよりも贅沢なのだろう。

普通は塩、それも岩塩を砕いて入れている。

後は自家製のハーブを刻んで加えているのだ。

それ以上の味付けは無く、後は素材の鮮度と味次第だった。


「葡萄酒でもあれば、少しは工夫が出来ますが…」

「こんな行軍に、持ち歩く物では無いな」

「ええ…」


将軍なら、こっそりと持って行きそうだが、今回はその様な物は持っていない。

実はアーネストのポーチには、数本の葡萄酒が入っていた。

マジックアイテムであるポーチなので、中は相応に物が仕舞えるのだ。

しかしアーネストは黙っていた。

それは気付け薬や、ポーション造りの素材にも必要だったからだ。


アーネストは黙ってポーチの中を確認して、3本の葡萄酒が有るのを確認する。

これは黙っていないと、また将軍と同じ扱いにされかねないからだ。

素知らぬ顔をしながら、アーネストは料理が仕上がるのを見ていた。

まだまだ続きます。

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