第126話
戦の魔王アモンからもたらされた情報は、これまでの魔物の侵攻を納得させられる物であった
それは住民には納得出来る物であるが、しかし教会側からすれば問題になるだろう
教会が今までに示していた正史には、誇張は認められたが嘘は無いとされていた
それがこの情報では、教会の示して来た正史が嘘だった事になる
それは教会の権威にも影響するだろう
迂闊な発表は、大きな混乱を招く事になりそうだった
アモンは語り終えたのか、他に質問が無いか聞いてきた
彼としては魔物の道理を示したかったし、使徒の意義も示したかった
それは単に戦いたいから攻めてるのではなく、理屈があってしているのだと示したかったのだ
ベヘモットは好戦的と言っていたが、案外良い人なのかも知れない
若干人の話を聞かない傾向はあったが…
「それで?
他に聞きたい事はあるか?」
アモンの問いかけに、騎兵の一人が問いかけた。
「なあ
覇王の卵って何なんだ?」
些か不躾な質問であったが、アモンは気にせずに答える。
「ふむ
それについては、ワシも実は詳しくない」
「おい!」
「だがな…
女神様からはこう説明されている
そいつが現れたら、何があっても殺せと
でないとこの星が滅びると…」
「ほし?」
「ああ、すまない
お前達に合わせるなら、この世界かな?
人間だけではない、魔物やワシ等も含めてだ」
「そ、そんな!」
アモンの言葉に、騎兵は絶句する。
ギルバートが世界を滅ぼす者で、殺されなければならないと言うのだ。
しかし実際には、ギルバートが生きているの世界は滅びていない。
そう考えるのならば、まだ何か方法があるのかも知れない。
「何とかならないのか?」
「ん?
そいつが覇王になれば、ワシでも止められんぞ?
魔王が揃って何とかなるか…」
「つまり坊っちゃんが、覇王とかいうのにならなければ良いんだな?」
「え?」
「そういう事だ」
「なあんだ…」
すぐにどうこうなる事では無いと分り、騎兵は胸を撫で下ろす。
事はあくまでも、ギルバートが覇王になってしまったらなのだ。
しかし、その条件も分かっていない。
どの様な事があれば、ギルバートが覇王になるのか分からないのだ。
「安心するのは早いぞ」
「え?」
「先にも述べたが、そいつは卵だ
これからどうなるかが分からない
覇王になるのか?
ワシ等の様に魔王になるのか?
あるいは…」
「魔王?」
「坊っちゃんがお前らの仲間にか?」
「人間でもなれるのか?」
「うむ
なれる可能性はある」
アモンはそう言うと、腰の剣を抜いた。
急な彼の抜刀に、騎士達が慌ててギルバートの前に出た。
しかしアモンは、そのまま剣の刃を自分の方に向けたままだった。
アモンはそのまま刃を下に向けると、ギルバートの前に放り投げた。
剣はザクリと音を立てて、ギルバートの前の地面に突き立った。
「ワシからの選別だ
それはやるから、黙って構えろ」
「え?」
アモンが抜刀したのは、戦う為では無さそうだった。
兵士達は拍子抜けた顔をして、剣を寄越した意味を問うた。
「戦いはあれで終わりって…」
「何をするつもりだ?」
「安心しろ、確認するだけだ
そいつも感じている筈だ
戦闘中に感じた違和感を…な」
言われてギルバートは、黙って立ち上がるとよろめきながらも剣を構える。
「ぐっ…うう」
まだ疲労が残っているのか、構えにも力が感じられない。
しかし構う事も無く、アモンは宙から剣を取り出すと無造作に構えた。
「しっかりと構えておけよ
でないと要らぬ怪我をするぞ」
アモンはそう言いながら、剣を構えてゆっくりと歩み寄る。
しかし無造作な構えながら、それは隙の無い構えであった。
くそっ!
こんな時にアーネストが居れば…
将軍はアーネストの方を見るが、まだ魔力切れで気を失ったままの様だ。
最後にギルバートが無事なのを確認して、安心して気絶してしまったのだ。
アーネストなら何か知っていそうだが、それを聞こうにも意識を失っていては無理だろう。
何らかの助言を受けたかったのだが、間に合いそうに無い。
「行くぞ!」
ブウウン!
ガキーン!
「ぐっ、くうっ」
アモンは素早く振り被ると、ギルバートの持つ剣に向けて振り下ろした。
軽く受けただけに見えたが、ギルバートは1mほど後退していた。
それほど重い一撃だったのだろう。
あれが殺す気であったら、受ける事も出来なかったかも知れない。
「ふむ
これぐらいでは…
いや、出るかな?」
「ぐ…るるるる」
「へ?」
不意にギルバートの表情が、苦し気な顔から険しい表情に変わる。
そして、子供とは思えない低く不気味な声が漏れ始めた。
それと同時に、胸元に何かの光が見え始めた。
何かの魔道具が反応したのか、光始めていた。
「ふむ
思ったより覇王に近いな」
「グガアアア…」
ドン!
不意に紫の魔力が迸り、周囲に居た騎兵達を吹き飛ばす。
それはギルバートを中心に、彼の身体を覆う様に蠢いていた。
「うわっ」
「ぐわああ」
「な、何だ?
何が起こった?」
可視出来る濃い魔力が、足元から炎の様に噴き出て揺らめく。
それは不気味で重苦しく、周りの者を戦慄させた。
ピシッ!
パキーン!
鈍く割れる音がして、ギルバートの首元から何かが落ちた。
それは先程、胸元に輝いていた魔道具なのだろう。
それが砕け散って、首元から落ちてしまった。
それと同時に押さえていた何かが切れたのか、ギルバートが大きく咆哮を上げた。
「グガアアア」
「ちょっと…
マズいかな?」
アモンは険しい顔をして、剣を正面に構えた。
アモンが構えると、ギルバートが猛然と向かって来た。
大きく剣を振り被ると、力任せに袈裟懸けに叩き付ける。
アモンは必死にそれを受け止める。
「グガアアアア」
「くうう
理性も無いのか?
厄介な…」
アモンは懸命に弾き返すが、ギルバートは同様に繰り返し上段から叩き付けて来た。
大振りで軌道が分かり易いから良いが、力任せな一撃はアモンでも苦戦していた。
その攻防の後ろ側で、不意に宙が揺らめいた。
魔力が集まると、そこに一人の男が現れて叫んだ。
「何て事をしてくれたんだ!」
「あん?
エルリックか?
これは貴様が…」
「ガアアア」
ガイーン!
「くっ」
不意に現れた男を、アモンはエルリックと呼んでいた。
よく見てみれば、何度もダーナに訪れていたエルリックだ。
彼はいつもの真っ赤な出で立ちで、転移魔法で現れたのだ。
しかしギルバートの猛攻が激しく、なかなか話も出来そうに無かった。
「そうだ
私が封印していたんだ」
「何て、酷い、事を…ふん」
ガンガン!
ガギン!
アモンは必死にいなして、ギルバートを大きく突き放した。
しかしそれでも、ギルバートは一心に向かって来た。
「違う
それは人間がやった事だ
私はただ、彼が暴発しない様にしてただけだ」
「なん…だと?
では、これは?
人間が赤子を殺したのか?」
「そうだ…」
「何が、何だか…
兎に角、手伝え」
「分かった
しかし封印はもう…」
「何?」
「私はもう…精霊王の力は…」
「何だと?
この役立たず!」
アモンは激しく罵るが、一向にギルバートの猛攻は収まらない。
ギルバートは額の傷からだけでは無く、無茶な攻撃からか腕や脚からも血が滲んでいた。
そして血の滲んだ箇所から、何かが薄っすらと輝き始めていた。
「くそっ
このままでは器がもたない」
「どうにかしろ!」
「止むを得ん」
ギルバートは尚も攻撃を続けて、アモンに力任せに剣を叩き付ける。
その両目からは血の涙を流し、口元にも血が溢れていた。
「ゴボアアア…」
「聖霊よ
大気に住まう聖霊よ
汝が満たす大気の器に、我が魔力の拘束を果たせ
縛る大気よ満ち溢れろ
聖なる戒め」
エルリックが呪文を唱えて、見えない力がギルバートを縛る。
しかしギルバートは暴れて、尚も腕や脚から出血が続いた。
「何とかならんのか?」
「お前が私の、封印を不用意に壊すからだ」
二人は言い争いを続けるが、ギルバートは完全には抑えられていなかった。
騎兵や騎士達は、赤子殺しや封印といった不穏な言葉を聞いたが、手も出せずに傍観していた。
将軍も力を使い果たしていたし、もし万全でもこの状況に加われたかは怪しかった。
もはやアモンやエルリックでも、ギルバートを元に戻せるか怪しい状況だった。
尚も抗うギルバートの前に、不意に緑に輝く淡い光が現れる。
それは最初は淡い小さな輝きだったが、やがて小さな光が集まり始めた。
それは一つに纏まると、人の形を模していた。
「え?」
「今度は何だ?」
「光?
それも緑色の?」
「もう何が来ても驚かないぞ」
最初に騎士達が気が付き、声を上げ始める。
それでアモン達も気が付いて、その緑色の光を見る。
しかしエルリックは、それが何か知っている様子であった。
彼は驚いた表情をして、その光を凝視していた。
「何だ?」
「え?
そんな?
まだ目覚めるには早い筈だぞ?」
アモンとエルリックは、呆然と人の形をした光を見詰めていた。
それは次第に集まり、一人の少女の姿になる。
愛らしい少女の形をした、淡く美しい緑の光はアモン達の方を見る。
そして少女らしい可愛らしい声で、激しく詰問する。
「お兄ちゃんを虐めたのは…
お前達か?」
「お兄ちゃん?」
「すいません
しかし、虐めたわけでは…」
アモンは事情が分からないみたいだったが、エルリックは明らかに動揺していた。
慌てて頭を地に擦り付けると、拘束が緩まってギルバートが動き始める。
「ガボアアア…」
「止めて
お兄ちゃん」
しかし少女の光が前に出て、優しくギルバートを抱き止める。
ギルバートは剣を構えていたが、それでも少女は危険を冒して前に出たのだ。
そして優しく抱き締めると、ギルバートの動きは封じられていた。
あれだけの力を示していたのに、少女は軽々と動きを封じていた。
「むう?
アレを止めるだと?」
「はははは…
さすがだねえ…」
「グガアアア…」
「お兄ちゃん
もう…
もう良いのよ
ゆっくり…ゆっくり休んで」
少女はギルバートを、優しく抱き締め続ける。
ギルバートは唸り声を上げるが、少女の拘束から離れる事は出来なかった。
そのまま優しく語り掛けると、少女はギルバートの唇に優しくキスをした。
そして恥ずかしそうに、はにかんだ笑みを浮かべる。
「今は…
そのまま眠っていてね…」
少女がキスをした途端、ギルバートの唸り声は止まっていた。
そして激しく暴れていたのが嘘の様に、彼は力無くぐったりとした。
どうやらキスをした事で、狂暴化が解けたのだろう。
淡く輝く少女は、そのまま力なく眠るギルバートを抱き締め続ける。
「そ、そんな
許さないぞ!
お兄さんはそんなふしだらに…」
「うるさい!」
「え?」
エルリックが何か言い掛けたが、少女は許さなかった。
愛らしい表情から、険しく鋭い視線でエルリックを睨み付ける。
その眼光の鋭さに、思わずアモンも後退っていた。
「何でお兄ちゃんを虐めた!」
「そ、それは虐めたわけでは…」
「むう…
何じゃ?
この精霊の様な者は?」
「お兄ちゃんがこんなに傷だらけになってるのに?」
「え…ああ…」
「どうしてこんな酷い事を…」
少女はギルバートをそっと地面に横たわせると、エルリックを詰問する様に睨んだ。
正確には光の塊なので睨んだか分からないのだが、その鋭い視線がハッキリと感じられた。
それは怒りを孕んでおり、容赦しないという意思が込められていた。
「エルリック
これは何だ?」
「馬鹿
彼女が今代の聖霊王、精霊女王様だぞ」
「え?」
エルリックはその光の少女の事を、精霊女王と呼んでいた。
その言葉を聞いて、アモンも険しい表情になる。
兵士達はその言葉の意味は分からなかったが、その存在に畏怖を感じていた。
美しく愛らしい少女の姿だが、神々しく畏怖すべき何かを感じられたのだ。
女王は優しくギルバートの身体を摩り、傷を癒して行った。
その力は強大で、傷付いた身体の痕はすっかりと消えて行った。
少女は悲しそうな表情を浮かべて、懸命にギルバートの手当てをする。
その様子を見ながら、アモンはエルリックに尋ねる。
「しかし精霊王は…」
「私が使徒になったので、彼女に譲ったのだ」
「そうか…」
「だが…
まだ目覚めるには早い筈なんだが」
「お前が頼りないから、早めに目覚めたんでは」
「おい!
何を言う…」
「うるさーい!」
二人の遣り取りに、女王が見た目通りの子供らしい癇癪を起した。
すっかりギルバートの傷を癒したのだろう。
見た目には、ギルバートの全身の傷は無くなっていた。
しかし傷が塞がっても、まだ目は覚ましていなかった。
「お兄ちゃんを虐めたのは赦さない」
「だから、それは…」
「精霊女王よ
それはワシがした事だ」
「アモン?」
「お前か?」
「はい」
「覚悟は出来ておろうな?」
「はい」
「止せ、アモン
いくらお前でも、彼女が本気になったら…」
エルリックがアモンの前に出て、二人を止めようとする。
しかし、女王の様子が不意におかしくなった。
光は徐々に弱まって、明滅しながら薄くなる。
そして威圧する様な畏怖感も、薄らいで行く。
それと同時に、口調も幼子の様な口調に変わって行った。
「お前は私の…
おにいちゃんを…むにゃ」
「え?」
「よくもいじめ…うにゅう…」
徐々に光が弱まり、その姿も薄くなってきた。
ギルバートの容体が安定して安心したのか、その気配は徐々に薄くなって来た。
「やはりまだ…不完全なんだ」
「どういう事だ?」
「まだ目覚めて良い歳では無いんだ
無理矢理起きて来たんだろう
もう限界の様だ」
「愛の力か?」
「止めろ
あの子はまだ、子供だ!」
「ふふふふ
兄はそう言うが、意外と子供の成長は…」
「認めん、認めんぞー!」
二人が話している間にも、光は散り散りになってやがて消え去った。
後に残ったのは醜く罵る兄と、それを揶揄う魔王の姿だった。
騎士や騎兵達は、そんな遣り取りを暫く呆然として見ていた。
「それで…
これはどういう状況なんです?」
将軍達が正気を取り戻す前に、アーネストが騎士に支えられながらやって来た。
そこには血だらけで横たわるギルバートを中心に、使徒と人間が集まっているという奇妙な光景が広がっていた。
アーネストでなくても、これがどういう事情か聞きたかっただろう。
「確か魔物は、フランドール殿が止めを刺した筈…
だったよね?
その時は、ギルはここまで傷付いていなかったよね?」
「あ、ああ」
「それは…そのう…」
「うむ…」
アーネストの問いかけに、将軍もエルリックも気まずそうにしていた。
アモンに至っては、視線を逸らして誤魔化そうとしていた。
「それに…
何であんたがここに居るんだ?」
アーネストの視線がエルリックを、怪しいと睨みつけていた。
こんな状況になる時は、大概使徒が絡んでいる。
今回はアモンが居たが、いつの間にかエルリックまで増えていた。
そうなってくれば、必然的にエルリックの方が怪しいだろう。
「それはアモンが勝手な事をして…」
「いや、そもそもお前が封印なんぞするから…」
「おいおい…」
「みっともないな…
で?
どっちが原因なんだ?」
「それは…」
二人が大人気なく、責任の押し付けを始める。
将軍もそれには、冷ややかな視線を向けた。
置いてかれた騎士や騎兵達は、おろおろとその遣り取りを見ていた。
およそ凡俗な常人では、立ち入れない様な状況であった。
「それはそのアモンという男が、封印とやらを破ったからだ」
不意にそれまで黙っていた、フランドールが言葉を発した。
しかし封印というのが何なのか、アーネストは首を傾げる。
確かにギルバートは、女神の呪いを掛けられていた。
それを封じる為に、後ろ暗い禁術が掛けられている。
それがその封印なのかは、確認する必要があった。
「封印?」
「ああ
ギルバートが何やら危険だと…
覇王だとかに…成り掛けてると言ったな?」
「ああ
小僧はそうでも無いが、その上書きされた方がな…」
「上書き?」
「小僧は器になっていてな
それに上から強引に魂の上書きがされていた
恐らくは覇王の卵と認識されない様に、その近親者の子供を殺して、その魂を貼り付けていた…
そうだな?」
アモンはそう言って、エルリックの方を見た。
エルリックは気まずそうに視線を逸らすが、一同に睨まれて意を決した様に呟く。
それは禁術の事であろう。
「ああ
女神様に頼まれてな
ある書物を渡した」
「赤子を殺して、その血で封印を施した…
その禁術だな?」
「ああ
何だ、知っているんじゃないか!」
エルリックは不満そうに言ったが、アーネストはまだ疑わしそうにしていた。
話しで聞いていたのは、女神の呪いを封じるという事だった。
しかし今の話では、魂がどうのこうのと言っていた。
そんな話は、ベヘモットの時には出ていなかった。
「私は聞いただけで、具体的にはどの様な事をしたのかは知らない
ただ…
先代が自分の子供を犠牲にして、王子に力を出させない様にしたとは聞いている」
「そうだ
女神様から聞いたのは、その力を出させない様にする方法だった
だが、この話は…」
「聞いてた話とは違った
そうだな?」
「ああ
どうにもキナ臭いんだ」
エルリックは諦めたかの様に、当時の事を語り始めた。
「私は女神様に、確かに危険な力を封じる様に言われた
しかし、既に信神託は降ろされていた
王子は赤子の内に殺せと」
「え?」
「それは…また」
エルリックの言葉に、周りの騎士や騎兵達が驚く。
しかし将軍やフランドールは、当時の事を思い出して黙っていた。
実は神託の噂は聞いていたし、当時はそれで教会と王族が剣呑ならない状況になっていた。
それが王子が急死して、教会が葬儀を行った事で収まっていた。
王都に起こっていた異変も、その頃になって収まっていた。
しかし王子は2歳まで生きていて、その後にギルバートを犠牲にして生きながらえていたのだ。
将軍はそこまで知らされていなかったが、実は王子が生きていたと聞かされていた。
あくまで生きていて、急死したギルバートを代わりに弔ったという話になっていたのだ。
フランドールはそれを確認する為に、エルリックに質問する。
「当時教会では、異変の原因は王子にあるとしていたね
それで王族と教会が争っていて…」
「そうです
その原因が彼です」
「何でなんです?
王子だからって…」
「神託の噂は聞いていますね?」
「ええ
世界に災いを齎すと…」
「ええ
それで異変が起こっていたのです」
「でも…
おかしくないかい?
何で女神がその様な…」
「理由は詳しくは分らん
ワシ等には神託が下っておらんからな」
アモン達には、女神からの神託は下されていない。
だからアモン達は、どうして王子を殺す必要があったのかは知らなかった。
「しかし…
2年もの間、教会と王族の争いは続いていたんだろ
結局は死んだとして、手厚い葬儀が行われていた
それが王太子の葬儀だったんだよね?」
「ええ
そうなりますね」
「じゃあ…
ここに居る彼は誰なんだい?
彼が本物の王太子、アルフリート殿下で間違い無いのかい?」
フランドールは、アモン達の答えに納得がいかないのか尚も確認をした。
「それは間違い無いでしょう
そこの使徒も認めていますしね」
「うむ」
「ああ
間違いない
あの時された封印が、今も全身を覆っているのが見えるからね」
「しかし、私には別の…
危険な魔物の様に見えましたよ?
そう、まるでそこのアモンよりも危険な存在にね」
フランドールの言葉に、しかし反論出来る者は居なかった。
先のギルバートの様子を見た後では、彼が危険な存在と言われても納得しか出来なかった。




