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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第五章 魔王との戦い
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第125話

アモンが向けた魔物を退けて、決着が着こうとした時

不意に魔力の奔流が起こり、見知らぬ魔物が現れた

魔物は雪の様な真っ白な熊の魔物で、その咆哮は吹雪を起こして襲って来た

その吹雪に苦しめられてギルバート達は苦戦を強いられたのだが、アーネストがそれを救った

ミリアルドと魔法を放ち、何とか魔物の力を封じ込めたのだが…


ミリアルドが魔力枯渇で倒れ、いよいよ魔法の維持が困難になっていた

将軍は意を決して突っ込み、ギルバートが止めを刺そうと飛び掛かった

しかし魔物は苦し紛れに反撃を行い、その爪がギルバートに向けて振り下ろされたのだ

宙を舞うギルバートには成す術が無く、もろに頭に振り下ろされた爪を受けた


「坊っちゃん!」

「坊っちゃん…」

「ギル!」


将軍も騎士達も、吹っ飛んだギルバートの方を見ていた。

そこへ熊が、再び立ち上がって爪を振りかざす。

それは将軍の方へ向けられて、再び振り下ろされようとしていた。

魔物の鋭い爪は、将軍の頭を目掛けて振り下ろされる。


「将軍!」

「はあっ」

ゴアアア

ガキン!

「ぐ、くう」


将軍は何とか剣を構えて、正面から爪を受ける事は出来た。

しかし衝撃で大きく後退して、魔物の周囲が無防備になる。

魔物の足元には、倒れたギルバートの姿が見える。


ゴガアアアア

ブンブン!


「ぎゃああ…」

「ぐわあ…」


3名の騎士が切り裂かれて、血を迸らせながら飛んだ。

胸や腕を切り裂かれて、夥しい出血で地面を真っ赤に染める。

切り裂かれた胸からは、鮮血と共に臓物が蒸気を上げて放り出される。

切られた腕が宙を舞い、地面に力無く落ちる。


「魔物が…」

「回復している?」

「そんな

 そんなそんなそんな…」

「ギル

 ああ…

 そんな…」


ギルバートが倒れた事で、アーネストの集中力が解ける。

それで魔法も解けて、魔物の周りに放たれていた炎の輪も消えて行く。

炎が弱まるにつれて、周囲の気温が再び下がってきた。

それに合わせるかの様に、再び魔物の力が強まって行く。


「最早…これまでなのか…」


ギルバートも倒れ、アーネストの魔力も間もなく尽きるだろう。

そうなっては、もう勝てる見込みは無い。

このまま魔物に蹂躙されて、ダーナの街は滅ぼされるだろう。

将軍が諦めかけた時、不意に騎馬の掛ける音が聞こえた。


こんな時に誰が?


将軍がそう考えていた時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「うおおおお」


声は真っ直ぐに炎に向かい、そのまま炎を突っ切ってきた。

炎を飛び越えた騎馬武者は、そのまま熊に向かって突っ込んで行った。

馬には目と耳に覆いがされており、怯えさせない様にしていた。

それでもこんな無茶をすれば、馬は暴走してしまう。

馬はそのまま、熊に向かって突っ込んだ。


「フランドール様、無茶だ!」


その騎馬武者はフランドールであった。

寒さにやられて後方に下がっていたが、この期に及んで逃げたくは無かったのだろう。

馬の頭に覆いをして、強引に向かって来たのだ。

将軍は叫んだが既に遅かった。

熊は右手を振り上げて、馬ごとフランドールを狙って振り下ろした。


「はあああああ…」

ガアアア

ザシュッ!

ブヒヒーン


馬は首を切り裂かれて、無残に死んでしまった。

しかしフランドールは、直前に腕力で無理矢理鞍から飛んでいた。

それで魔物は、フランドールを切り裂く事は出来なかった。

そのままフランドールも切り裂くつもりだったが、上手く躱されたのだ。


「せりゃああ」

ズザン!

ゴアアア


宙で身体を捻りつつ、フランドールは器用に腕を切り付ける。

振り抜かれた腕は、隙だらけで狙い易かった。

それは深手では無かったが、魔物を警戒させるには十分だった。

フランドールが攻撃した事で、魔物の視線は彼に向けられる。


「何て無茶を!」

「将軍

 左をお願いします」


フランドールの参戦に、諦めかけていた騎士達も息を吹き返す。

しかし魔法が解けた今、もう戦う術は残されていない。

再び魔物は黒い靄を放ち、倒れた騎士達の死体を取り込む。


「くそっ!」

「こいつ…

 また仲間を!」

「このままじゃあ仲間が…」

「そうはさせんぞ」

「そうだ」

「オレ達も負けていられないぞ」

「おう」


騎士達が魔物の右に回り、フランドールのサポートしようとする。

それを見て、騎兵達は左へ回る。

将軍もそれを見て、魔物の左側に回り込む。


「将軍

 我々も」

「あ、ああ」

ゴアアアア


熊が立ち上がり、力任せに両腕を広げて打ち掛かって来る。

今は魔法の影響で、咆哮を上げる事は出来ない。

だから爪を振り上げて、直接殺そうと攻撃して来ている。

それを数人掛かりで何とか押さえる。


ゴガン!

ガギン!

ゴガアアアアア

「ぐ、うう」

「ぬおおお」

「これはあああ」


熊は両腕の攻撃を防がれて、正面が無防備になっていた。


「い、今です

 ギル、バート」

「ギル?」

「うわああああ…」


将軍が視線を動かすと、額から血を流しながらギルバートが走って来ていた。

先の一撃で吹っ飛んでいたが、致命傷では無かったのだ。

熊の攻撃を封じる為に、騎士や騎兵も一心になって身体強化で腕を抑え込む。

熊は腕を振ろうとするが、数人掛かりで剣で押さえられて動かせなかった。


これが体重が乗った一撃なら強力なのだが、立ち上がっていてはそう上手く行かない。

元々が四足歩行の魔物なので、立ち上がった状態では力が入り難いのだ。

体重を乗せるとすれば、前に向けて四つん這いになるしかなかった。

そうしてしまえば、再び立ち上がる為には隙が出来てしまう。

魔物もそこは理解しているのか、何とか両腕で振り払おうとする。


「だりゃあああ

 スラッシュ!」

ヒュイイイイイン


ギルバートは大きく跳躍すると、熊の首に目掛けて剣を一閃した。

熊は何とか避けようとして仰け反ったが、首元を深々と切り裂かれた。

騎士達の身体を避ける様に、剣は鋭く熊の首筋に吸い込まれる。

それから首筋を切り裂きながら、そのまま振り抜かれる。


ザシュッ!

ゴア…ゴボゴボ


しかし熊は、なおも抵抗を続ける。

最期の一暴れと、両腕を無理矢理動かそうとした。

押さえていた騎士や騎兵が飛ばされて、再び両腕を振り上げる。

しかし首から出血しているからか、動きは緩慢だった。

将軍とフランドールは目で合図を送ると、頷いてから剣を構えた。


「せりゃああああ

 スラッシュ」

「うおおおお

 スラッシュ」


二人が同時に熊の脚に一閃を繰り出し、見事に脚を両断した。

熊は腕を振り上げたまま倒れて、そのまま数回腕を振るう。

しかしやがて力尽きたのか、そのまま大人しくなった。

遂に熊の魔物は、その生命活動を止めたのだ。


「やった…のか?」

「勝てたんだな?」

「おい

 それは生き返りそうで怖いぞ

 こうして確かめるんだ」

「部隊長?」


エリックがよろよろと進み出て、魔物を剣で突いてみる。


「動かない…」

「良かった…」

「次に動き出したら、さすがにもう…」


フランドールが力なく座り込む。

将軍も膝を着いて、剣を支えに呆然としていた。


「もう…

 限界…」


ギルバートもよろよろと倒れそうになる。

それを慌てて、アレンとハウエルが駆け寄って支える。


「坊っちゃん」

「坊っちゃん

 大丈夫ですか?」

「ああ

 何とか…な」

バキン!


ギルバートが剣を支えにしようとすると、剣の一部が音を立てて欠けた。

見ると剣の一部が欠けており、片側には罅が入っていた。


「咄嗟に剣で弾いたが、そのせいでこの様さ」

「それでご無事で…」

「ああ

 危なかったよ…

 剣で受けても、暫く痺れて動けなかったからね」

「よくまあそれで…

「何にせよ倒せて良かった

 その剣では、もう戦えなかったでしょう」

「ああ

 簡単じゃあ無かったけどね」


最後の一撃に堪えれたのは奇跡に近かった。

魔物の毛皮の頑丈さを考えれば、あそこで決められないと無理だっただろう。

下手をすればスキルに耐えられず、途中で砕けていただろう。

それでも何とか耐えられたのも、これが新しい素材で作られていたからだろう。


「ギ…ル…

 良かった…

 生きて…て…」


アーネストは途切れ途切れの意識で、何とかギルバートの無事を確認する。

その意識も既に、魔力切れで気絶寸前だった。

一同が疲れて倒れたり座り込んで居ると、不意に拍手が聞こえて来た。

振り返ると、アモンが拍手をしながら近づいて来ていた。


パチパチパチパチ!

「おめでとう

 よくぞ倒してくれた」

「な、何を」

「白々しい」


騎士達は殺気立って、近付いて来るアモンを睨み付ける。

この熊の魔物も、彼が呼び寄せたと思っているのだ。

しかし騎士達が不満を言うのを、ギルバートが制した。


「止せ

 これは彼の落ち度ではあるが、仕込んだのは別だ

 そうだろう?」

「ふっ、察しが良いな」

「ああ

 あんなに驚いていたからな

 あれで演技なら、あんたは役者になれるよ」

「役者か…

 ふむ

 それならそれも、面白いのかもな」


アモンは一人で納得しながら頷く。


「何だと?」

「では坊っちゃんは、こいつでは無いと」

「ああ

 アモンの仕業じゃあ無い」

「それじゃあ誰が?」

「そうですよ」

「それよりも…

 先に確認するべき事がある」

「確認?」

「何ですか?」


彼が何しに来たのか、それが気になってギルバートが質問する。


「それで

 これで侵攻は終わりで良いんだな」

「ああ

 本当はその前に終わるつもりだったんだが…」

「こいつか」


ギルバートが熊を見ると、アモンも頷いた。

実際にあの時、アモンは決着が着いたと言い掛けていた。

それを邪魔する様に、この熊の魔物が出現したのだ。

それは偶然では無いだろう。


「それは本当に、ワシが仕込んだのでは無い

 だから止め様も無く、勝手に殺す事も出来なかった」

「ん?

 殺す事も…

 出来ない?」

「そうだ

 子供らは女神様から頂いた兵士達だ

 ワシの一存では…

 勝手な事は出来ない」

「それも女神様の?

 なら、この事も女神様が仕組んだ事なのか?」

「そう思うだろうな

 だが…」

「だが?」


そこでアモンは難しい顔をする。

彼としては、とても女神が仕組んだとは思えないのだ。

例え子供を用意してくれたのが、女神だとしてもだ。

それを横から、茶々を入れた者が居るのだ。


「ワシには腑に落ちん」

「どうして?」

「女神様がするには手が込んでいるし

 それに…

 意味が分からない」

「意味が分からないって

 そもそも人間を襲うのも意味が分からないが?」

「ああ

 その事か」


アモンは何か言いたげだったが、周りの騎士達の方を見る。


「この事は…

 公にしても大丈夫なのか?」

「と、言うと?」

「彼等に聞かせても、大丈夫なのか?」


アモンは、これから語る事が、人間達に伝えられておらず、聞かれても大丈夫なのかを心配していた。


「大丈夫だろう

 どの道知らないといけない事だろうし

 何でそうなったかも問題だろう」

「そうか

 なら話そう」


アモンは頷くと話し始めた。

それはギルバート達は聞いた事がある話しだが、兵士達には伏せられていた事実だった。

一部の兵士やフランドールも聞いていたが、それはあくまでも上辺の話しだった。

実際はもっと汚く、残酷な事実が隠されていた。


「そもそも

 魔物が人間を襲ったのではない、人間が魔物を襲ったのだ」

「え?」

「なんだって?」

「人間は平和に暮らしていた魔物を、まるで家畜の様に扱った

 いや、魔物だけではない

 他の多くの亜人種達もだ」

「それは…」

「そんな馬鹿な」

「聞いていた話と違うぞ?」

「恐らく事実でしょう

 実際に帝国が始める前から、亜人種を奴隷として扱っていた記録があります

 それも女神様がそれを咎めていたという記録と共に…」

「何だって

 それは本当なのか?」


兵士達は信じられなかった。

それは彼等が、ずっと魔物は女神を恨んでいると教わっていたからだ。

そして過去に人間が、その様な愚かな行いをしていたとは知らなかった。

それは歴史を紡いで来た者達が、その様な記録を抹消して来た為だった。


「奴隷って…

 確かわが国では禁止だよな」

「ええ」

「坊っちゃんはまだ子供ですので…

 まだ奴隷については詳しくは教わっていないでしょう

 ですが、昔から亜人種の奴隷の話はあります

 これはまごう事無き事実です」

「知らなかった…」

「詳しくは後程…

 あまり子供には聞かせたくない話ですので…」

「子供扱いするなよ」

「いえ

 子供でしょう?」

「そうですよ

 坊っちゃんにはまだ早いです」

「そうですよ

 だからベヘモットも、詳しくは話さなかったのです」

「え?」

「実際は酷い物です…」

「ええ?」


将軍の説明に、ギルバートは衝撃を受けていた。

奴隷という言葉は聞いていた。

それは帝国の悪習で、他国の人間を奴隷として働かせていたと習った。

しかし実情はもっと昔からある悪習で、他の亜人種を奴隷にしていたというのだ。


それも亜人種だけではなく、アモンの話が本当なら魔物も同じ扱いだったのだろう。

まともな生活も送れず、死ぬまで働かせる。

そうして死んだら、ゴミ屑を捨てる様に処分していたと聞いている。

そういった話は、ベヘモットも濁して話していた。

しかし実情は、その様な非道な行いだった。


「続けて良いか?」

「ん?

 ああ」

「ちょ!

 詳しい説明は?」

「それは後で…」

「今は話を聞きましょう」

「そんな…

 気になるよ…」

「人間の行いは傲慢で、自分達が女神様に選ばれた種族と言っていた

 そして、それ以外の生き物は奴隷として扱っていたのだ」

「それって…」

「選民思想ですな」

「昔からあったのか?」

「どうやらそのようですね」

「続けて良いか?」

「あ、ああ…

 続けてくれ」


話しを中断されて、アモンは些か不機嫌そうな顔をする。

それでも続けるのは、問題の根底がそこにあるからだ。


「そうして数百年が経ち、人間と他の生き物との間に…

 子供も生まれた

 それが魔物や亜人の始まりだ」

「え!」

「ちょっと待って

 そもそも亜人は?」

「ん?

 元は人間と妖精、それと…竜が居たかな?」

「居たかな?」

「何だかあやふやだな」

「仕方が無いじゃろう

 オレも詳しくは知らんのだ

 兎に角、それ以外の生き物は動物や植物だけだ

 亜人や魔物…

 取り分け魔族は人間が生み出した物だ」

「そんな…」


そもそも今の人間の歴史では、人間が生まれた理由が違っている。

女神が特別に生み出した事になっていた。

そして亜人は、出来損ないの人間の様に扱われているのだ。


「でも、どういう事だ?

 人間以外の生き物?

 それでどうして…

 それでも子供が出来るの?」

「え!」

「それはその…」

「坊っちゃんにはまだ、お早い事で…」

「え?

 また子供は駄目ってやつ?」

「え、ええ…」

「そうですな

 いずれ説明させていただきます」

「フランドール殿…」

「そうですな

 ギルバート殿にはまだ早いですな」

「お前等、まさか!

 まだこの小僧には子供のつ…」

「黙れ!

 それ以上は言うな」

「あ…

 分かった」


アモンも気を使ったのか、それ以上は言わなかった。

しかし気まずいのか、チラチラとギルバートを見ていた。

兵士達も何か言いたそうだが、将軍やフランドールが口止めをする。

それでチラチラとギルバートを見るが、何も言えないでいた。


「兎に角

 亜人種や魔物が人間との混血という事は分かった

 それでなんで、魔物と人間は別れたのか?」

「あ、ああ

 そうだな」


アモンは気まずそうに咳払いをして、それから話を続ける。


「おほん

 人間は…

 先に言った様に、他の者を奴隷にしていた

 しかし、次第に他の種族が増えて来て、人間に対して反抗を起こした

 それが第1次、聖魔戦争だ」

「聖魔戦争?」

「それすらも伝わって無いのか…」


アモンは呆れた様な顔をする。

しかし何分大昔の出来事だ。

記録が残っていないので仕方が無い。


「人間と魔族、それから亜人が自由を求めて戦ったのだ

 それで人間は滅びかけて、幾つかの保護区に匿われた

 それから500年ぐらいは、お互いに干渉も無く静かに暮らしていた」

「500年…」

「長いな」

「しかし、いつしか領土を広げて行き、再び人間は亜人や魔族を奴隷にしていった。

 今度は亜人や魔族も反抗したが、スキルを身に着けた人間の敵では無かった」

「スキル?」

「魔族や亜人は、スキルを持っていなかったのか?」

「あー…

 人間の持つスキルと、魔族や亜人が持つスキルは違う

 それで人間達は強かったんだが…

 女神様は再度の人間の傲慢な行いに、酷く悲しまれた」

「そりゃあそうだろうな」

「ああ

 何度も奴隷制を行っていたんじゃな」

「そうだな

 オレが女神様の立場でも、呆れて腹も立つだろうな」

「うむ」


人間は懲りずに、再び奴隷制を行っていた。

しかしそれは、過去の行いを忘れてしまっていたからだ。

今と同じ様に、都合の悪い事は忘れてしまう。

それが結果として、愚かな行いの繰り返しとなっていた。


「人間は…

 当時の記録を忘れたのか、また奴隷制を行っていた

 それは許されぬ事じゃ」

「忘れてしまったのか?」

「そうじゃな」

「いや

 単純に記録が無かったんじゃ無いのか?

 記録を抹消したとか、隠したとか」

「あり得そうだな」

「そうですね

 帝国も焚書を行っていましたからね」

「そうなのか?」

「ああ

 人間の寿命は短いからな

 記録が残されていなければ、当事者は生き残っていないし」

「そうなのか?

 たった500年だろ?」

「そんなに長生きはしないだろ」

「そうそう

 生きても70年ぐらいだぞ」

「不便じゃな…」

「いや

 お前達が長く生き過ぎなんだろ」

「そうそう

 そんな長生きは出来ないさ」

「ううむ…

 そうなると、話は変わって来るな…」


アモンはそう言って、少し考え込む。


「てっきり人間は、懲りない生き物かと…」

「そんな奴もいるが…」

「そうだな

 単に知らなかっただけかもな」

「そうか

 しかし奴隷制が繰り返された事は事実じゃ

 女神様は、今度こそは人間を滅ぼそうと…

 それで魔族や亜人に力を与えて、勇者という者を作られた」

「勇者…」

「称号で与えられたものだ…」

「そうじゃな

 人間にも称号で与えられる事もあるじゃろう

 しかしこの勇者は、人間に対する切り札じゃった

 勇者は人間に対抗して戦い、人間を絶滅の手前まで追い詰めた」

「でも、オレ達は生きている」

「絶滅はしてないな」

「そうだぞ

 どうしてなんだ?」


そこは疑問であった。

滅ぼそうとしたと言う割には、今でも人間は生きている。

それには何か理由があるのだろう。


「女神様は最後の機会を与えるとして、人間を結界の中に封じ込めた

 そうして他の地に亜人や魔族を移住させて、人間との接触を絶ったのだ

 これが第2次聖魔戦争だ」

「え?

 それじゃあ結界って…」

「教会に伝わる話と違うな」

「知らなかった…」

「過去にそんな戦争があったなんて」

「でも、そうなると悪いのは人間なんだよね」

「そうですね」


ギルバートの疑問に、将軍も素直に頷く。

勿論、祖先がそんな非道な行いをしていたなんて信じたくは無いが、それでも帝国の例がある。

帝国の至上主義は行き過ぎており、他民族に非道な行いをしていた記録も残っている。

その記録を知る者からすれば、十分にあり得ると言えた。

だからギルバートは納得していなかったが、将軍はあり得ると頷いていた。


「そうすると

 結界は元々、人間を守る物では無く…」

「人間を出さない為の物であった」

「まるで逆じゃないか」

「それをオレ達は…」

「そうだな

 魔物を封じ込めたと思っていたんだな」

「それがいつの間にか、他の者が入れなくなる結界に変わっていた

 恐らくは、お前らが魔導王国と呼ぶ国の仕業だろう」

「え?」

「あの国は伝説の…」

「何を言ってるんだ?

 まだ存在するだろう」

「いえ

 あの国があったとされるのは500年は昔です

 実在しても…」

「そうなのか?

 てっきりあの国がそうかと思ったが」


アモンはどこかの国を、魔導王国と思い込んでいる様だった。

しかし魔導王国は、既にこの世界には存在しない。

帝国の記録が真実であるなら、帝国の初代皇帝が滅ぼした事になる。

それが本当かどうかは、当時の記録が残って無いので不明であった。


「それは恐らく、別の国でしょう」

「そうか

 なら滅ぼしても…」

「え?」

「滅ぼす?」

「ああ

 今頃はベヘモットが滅ぼしているだろう

 あそこに危険な者が居るという報告は聞いていない」

「魔物に襲われているのは、ここだけでは無いのか?」

「ああ、そうだぞ

 我々使徒にはそれぞれの役割があるが、そのうちの半数に当たる6人が魔王をしている

 他の4名の魔王も、今頃国を落としているだろう」

「魔王

 滅ぼす…

 それがあなた達の使命なんですか?」

「そうだなあ

 簡単に滅びるなら見込み無し

 そのまま消えてもらう」


アモンはそう言って、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。


「ただし生き残れるなら…」

「なら?」

「暫しの猶予を与える」

「暫しねえ…」

「その猶予の中で、改善が認められれば赦されるだろう」

「改善…ですか」

「赦されなければ?」

「再びワシの様な魔王が来るであろう

 次に来るのが…

 ワシみたいに優しい者なら良いのだがな」

「優しい?」

「ええ…と?」

「何だと?

 優しいだろ

 お前らの勝利を認めて、素直に引き上げると言っているだろ」


アモンはそう言って、不満そうに頬を膨らませる。

本気で自分が、優しいと思っているのだろうか?


「そりゃあそうだけど」

「事前に自分で宣言していたからな」

「何だとう

 騙し討ちや引き上げたフリとかしてないだろ」

「そんな事する魔王も居るのか?」

「ああ

 居るぞ」


アモンは思い当たる者が居るのか、その様に答える。


「それに…

 こんなに親切に教えてやっただろう」

「そりゃあそうだけど…」

「自分で言っちゃあ…」


自称優しい魔王様は、白い目で見られながらも胸を張っていた。

彼としては、自分は優しい魔王のつもりなのだろう。

戦いを強要したり、部下に無茶な命令を下している。

それでも優しいつもりなのだろう。

魔王アモンは、自身を持って答えていた。

まだまだ続きます。

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