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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
プロローグ
13/190

第012話

魔物は次々と現れる

それはノルドの泉の如く

絶望を突き付けるかの様に

無尽蔵に湧き続けていた…


夜の訪れと共に始まった奇襲は、2時間ほど続いた

三度の突撃を休みも無く行い、騎兵達も流石に疲弊していた

騎兵の数も数騎減っている

背後からの矢に倒れたか

或いは、馬が潰れて落馬したか

少しずつだが、守備隊に焦りが見え始める

長い夜はまだまだ続く


大隊長はこのままでは不味いと判断し、一旦門を閉めさせた。

ここで籠城に切り替えるのは、下策だとは分かっている。

分かってはいるが、このままでは騎馬が保たないのだ。


弓兵も疲弊していた。

副隊長が機転を利かせ、警備兵達が投石を行いその間に休憩を取らせる。

それでも慣れない戦闘に、兵士達は疲弊していた。


まだ第5部隊が無傷で控えてはいるが、彼らはどうしようも無い時の最後の一手だ。

そう安々とは、前に出せない。

開戦前はあんなに上がっていた士気が、今ではすっかり下がっていた。


「不味いですね」


魔物の血と汗、泥に塗れた第3部隊の隊長が呟く。


「うちのが2騎、第3のが1騎やられました」


第2部隊長も返り血で汚れた兜を脱いで、汗や泥を叩き落としながら呟く。


「さいわい、うちも第1も被害はありませんが

 いかんせん数が多すぎる」

「このまま消耗戦では、先が見えない分不利ですな」


第4、第1部隊の部隊長も、汗をぬぐいながら続ける。


魔物の個々の能力は、そんなに高くはない。

寧ろこちらの戦力の方が、戦力としては高い。

1000匹でも十分に、倒せる自信はあった。

あったのだが、相手の数が脅威だった。

まるで底なしであるかの様に、次から次へと湧いてくる。

先が見えない戦いほど、疲弊する物は無いだろう。


「もう…

 500以上は狩りましたよね?」

「ああ

 何ならその倍の1000でもいけるぞ?」

「1000か…」

「実際どうなんだ?

 1000ならまだ望みはあるんだが…」


大隊長の質問に、部隊長達は黙り込んでしまう。


「どうしたん、ですか?」


不意に声が聞こえ、フラフラと杖を突きながら少年が現れる。


「まさか、臆したん、じゃないでしょうね」


少年の憎まれ口に、部隊長達は答える。


「ふざけるな!」

「俺達があんなちびっ子に負けるか!」

「これからオレが、どうやって華麗に倒すか話していたところだ!」

「いや、格好よく決めるのはオレの方だから」


負けじと彼等は、威勢よく返す。

その目はさっきまでの弱気な眼差しではなく、負けるもんかと決意も新たな力強い物だった。

しかし現実は、厳しい物だった。


「それで、こそ

 ダーナ騎兵団

 と、っと」


ヨロヨロしながらも 少年は頼もしい兵士達を見て微笑む。

しかし今や、追い込まれているのは騎兵団だった。


「いいから、病人は休んでろ」

「そうだぜ」

「まったく、ひ弱いんだから」

「オジサン達みたいに、脳まで筋肉と一緒に…

 しないで、くださ…い」

「ほら

 無理するな」


大隊長に支えられ、アーネストは近くの木へもたれ掛かる。


「だって、煩くて寝てらんないんだもん

 さっさと倒してくださいよ」


少年の減らず口に、彼等は思わず吹き出す。

知らぬ間に、場の雰囲気が明るくなっていた。

少し前までは、先の見えない戦いに挫けそうになっていた。

だが今では、何とか戦い抜こうと決意していた。


「だとよ

 部隊長諸君」

「これは、おちおちへばってられませんな」

「同感」


第2、第3部隊長が兜を被り直して、部隊の元へ向かう。


「我々も負けていられんな」

「入り口は任せろ

 上の死守は頼んだぞ」


第1、第4部隊長も身支度を整えて門へと向かう。


「で?

 大隊長殿は何か秘策でも?」

「ああ…

 あれば良いのだが…」


だが大隊長は、悲し気に頭を振った。


「折角…

 折角お前が魔法で、あいつらを嗾けてくれたが

 正直なところ何も無い」

「そう…

 ですか…」


少年が小さく、溜息を吐く。


「ふう

 その萎びた頭を揺すっても、何も出ませんか?」

「そう挑発してくれても、無いもんは無いよ」


大隊長は肩を竦め、悲しそうに頭を左右に振る。

後は決死で突撃を繰り返し、少しでも生き残れる様に賭けるしかない。


オレってギャンブルは苦手なんだよな

勝った試しが無いし

このまま結婚も出来ずに死ぬのか…トホホ


大隊長がそう暗く沈んでいると、少年が呟いた。


「いよいよとなると、あれを使うしかありませんね」

「あれ?

 おい!」


大隊長は、少年がまだ諦めていないと感心すると同時に、嫌な予感を感じていた。

少年の様子から、その決心を使わせる訳にはいかないと直感していた。


少年が命を賭してなんて…

させてはダメだ

オレ達大人が死力を尽くして、守らなくてどうする


大隊長は愛剣を引き抜き、天へ向けて掲げる。

ダーナ領主アルベルトより、授かった細身の長剣。

無銘ながらもその切れ味と、絶妙な長さでバランスも良い。

大隊長ヘンディーは、2度の狼の襲撃にこの剣を帯剣して挑んだ。

そして2度とも、彼は見事無傷で打ち克ってきた。

その後この剣は、ヴォルフ・スレイヤーと呼ばれていた。

大隊長の自慢の、愛剣だった。


この剣に賭けて、必ず皆を…

生きて連れ帰る!

必ずだ!


誓いも新たに、気合を入れて正門へと向かう。

少年はその背中を、頼もしく見詰めていた。

何だかんだと言って、彼はこの男を信じていた。

普段は軽口を叩いて揶揄うが、それもこれも信用していたからだ。

時刻は間もなく、夜中の零時になろうとしていた。


「かいもーん!」

『かいもーん!』


第2、第3部隊が、突撃の態勢で待ち構える。

魔物はその様子を見て、砦に入ろうと向かって来る。

防壁の上では、第4部隊が矢を防ぎ、掛け声に合わせて弓兵が火矢を放つ。

少しでも数を削って、魔物の侵入を防ぐ為だった。


「構えー!

 撃てー!」

『おおおお!』

ヒュンヒュン!


次々と号令に合わせて、兵士達の弓から火矢が射掛けられる。

それは魔物に向けて、風を切って突き刺さる。

魔物はそれを受けて、再び炎に包まれて藻掻き苦しむ。


ドシュドシュ!

ズガッ!

ギャピイイ

ギャワアア


魔物の悲鳴が上がり、火達磨になった数匹が地面を転がる。

それを見て、ゴブリンの戦意が少しだけ下がった。

壁をよじ登ろうと近付いていたゴブリンには、容赦なく投石が行われる。

それで登っていた魔物は、城壁から落ちて行った。


「近寄らせるな!」

「登らせるな」

「こっちに取り付いたぞ」

「落とせ!

 落とせ!」

ブン!

ドガッ!

ズガッ!

ギャワワア

グギャアア


石を食らって、魔物は次々と落ちる。

その間にも魔物は、砦の入り口に向けて近付く。

そこに開かれた砦の門に、騎馬部隊が姿を現した。

これ以上近付かせない為に、突撃を掛けるつもりなのだ。


「とつげきー!」

『とつげきー!』

ギャアアア

ギャピイイ


一気に駆け抜けて行く、騎馬武者達。

魔物の群れを、騎馬の蹄が、鎌が、圧倒的暴力で蹂躙していく。

しかし今回は、先の隊列より倍近い長さに伸びていた。

犇めき合う魔物の群れを、力任せに駆け抜けて行く。

だがやがて、1騎、また1騎と取り付かれて倒されていった。

ようやく駆け抜けた時には7騎も落とされていた。

2人の兵士は何とか、味方の援護射撃の間に逃げ戻った。

しかし残りの5人は、魔物の群れの中に消えていってしまった。


「逃げろ!

 逃げろ!」

「こっちだ!」

「早くしろ!」

「くそっ!

 そいつ等に近付くんじゃねえ!」


第1部隊と大隊長が前へ出て、魔物を切り払って行く。

大隊長は一刀の下に魔物を切り裂き、その腕や首を切り飛ばす。

それから左手で、兵士の一人の腕を掴んで引き込む。

さらに執拗に向かって来る魔物に向けて、彼は強閃一撃、3匹まとめて叩き切った。


「ぬりゃあああ!」

アギャアア

ブギャアア

グジュウウ


3匹の胴と下半身が、無造作に千切れて宙を舞う。

舞い散る血飛沫と共に、魔物の臓物が飛び散った。

それを見た他の魔物が、その場から退がる。

仲間の死を見て、危険だと悟ったのだろう。


しかし再び、ワラワラと魔物は出て来る。

遥か先では騎馬部隊が、回頭して態勢を立て直そうとしている。

切りが無いなと思いながら、大隊長は刃に付いた血を振り払い、後ろへ下がろうとした。

その時不意に、轟音の様な唸り声が聞こえた。


ウガアアア!!


強烈な気勢に、大気がビリビリと震える。

その唸り声に恐れをなしたか、魔物が逃げ惑う。


なんだ?

何が出て来た?


ゴブリンの群れが、まるで海を割る様に左右に別れる。

そうして出来た道を、ゆっくりと歩く人影があった。


人影?


そう、それは人と同じぐらいの大きさをしていた。

大きなゴブリン、それが周りを睥睨しながら、ノシノシと歩いて出て来た。

その姿はまるで、人間の歴戦の兵士の様だった。

小柄な筈なゴブリンが、人間の様に筋骨隆々とした姿で現れたのだ。


これが…

これがこの群れのボスか?


グルルル、グワアア!


一睨みすると、ボスは唸り声を上げた。

それが命令だったのだろう、魔物共は死体を抱えて次々に森へと去って行く。


ここでこいつらを、逃すのは不味い


直感で大隊長は、剣を構えて前へ出ようとする。

そこへ魔物のボスが顔を向け、ニヤリと顔を歪める。

瞬間、背筋に悪寒が走る。


ヤバい!

ダメだ!

こいつには敵わない

今突っ込んでも、事態が悪化するだけだ


大隊長は、瞬時にそれを悟った。

その様子を満足そうに眺め、馬鹿にした様な笑い声を残してボスは去って行った。


グホホホホホホ


魔物の姿が見えなくなってから数秒?

或るいは数分立っただろうか?

大隊長はその場に、膝から崩れていた。


助かった…

いや

見逃されたのか?


「た、隊長…」

「大隊長…」


少し離れた場所では、アーネストも肩で息をしていた。

その顔は涙でぐしゃぐしゃになり、歯はガチガチ噛み鳴らされている。

眠っていた筈なのに、先の吠え声で起きたのだろうか?

その足は、恐怖でガクガクと震えていた。


大隊長が構えた時、アーネストも咄嗟に構えていた。

本能的に敵わないのは、彼も分かっていた。

それでもみなを守る為には死んでも良いと、その瞬間は考えていた。

だから杖を構えて、思い付く限りの呪文を思い浮かべようとしていた。


しかし少年は、すぐに足元から崩れそうになっていた。

大隊長でさえ敵わないと、身をもって思い知らされて身動きも取れなかったのだ。

何の実戦も積んでいない少年が、その眼光に耐えられる筈も無かった。

頭からムシャムシャと、食べられた様な気分だった。

冷や汗と吐き気、震えが止まらなかった。


「はあ、はあ…

 何で…

 何であんな、化け物が…」


魔物が居ないのを確認しながら、ゆっくりと騎馬隊が戻って来る。

その顔は蒼白になり、トボトボと肩を落としていた。

彼等はまるで、敗戦の逃亡兵の様であった。


騎馬部隊が横を通った事で、大隊長が正気を取り戻す。

まだ恐怖で身体がガチガチだが、必死に気力を振り絞って門の中へと向かう。

周りの兵士達も、それに続いた。


このまま外に居ては、いつあの化け物が戻って来るか分からない。

それは暗闇の草原で、狼の群れに囲まれるのに等しいだろう。


「閉門!

 閉門しろ!」

「は、はい!」

「閉門!」

ギギギギ…


彼等が門の中へ戻ったのを見て、警備隊長が合図を送る。

兵士達はそれを受け、慌てて砦の門を閉めた。


「終わった…」


そこで気力が尽きたのか、大隊長は膝を着いていた。

それに合わせて、兵士達が声を上げて泣き始める。


それは生き残った事への、安堵の涙か?

それとも、恐怖に耐え兼ねたからか?


砦の門は固く閉じられたが、それでも安心は出来なかった。

いつまた、あの化け物が戻って来るか分からない。

さすがに砦の門では、防げそうには無かった。

だからこそ、彼等は未だに恐怖をしていた。

再びあの化け物が現れれば、次は無いだろうと…。


こうして第1次、第1砦攻防戦は終わった。

まだまだ続きます。

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