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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第120話

約束の朝が来た

戦う者はみな、十分に休む様に言われていた

7時の鐘を合図に集まり、8時の鐘で開戦の予定になっている

7時に集まれば良い様に言ったのは、最後の時になるかも知れないからだ

今回の魔物は統制の取れた軍になっている

恐らく多くの死者が出るだろう

だからギルバート達は、兵士達に十分休む様に言ったのだ


日が登り始めて、朝日が城門を照らし出す

そこには時間を待ち遠しいのか、多くの兵士が集まっていた

時刻はまだ6時を過ぎたところで、集合時間にはまだ早かった

それなのに多くの兵士が、集まって準備を始める

それだけ彼等は、今回の魔物の侵攻を恐れていたのだ


「これは…

 どういう事だ?」

「はあ…」

「オレは十分に休めと言った筈なんだが…」

「ええ

 ですから十分に休んで、みんな集まったんでしょう」

「こんなにか?」

「そうですね

 それだけ不安なんでしょう

 それに…」


集まった兵士達を見て、ギルバートは驚くより呆れていた。

よく休めと言ったのに、こんなに早く来ているのだ。

十分に休めたのか心配になる。

しかし兵士達は、誰も不満など言わなかった。

彼等はむしろ、これから来るであろう魔物に戦う気満々であった。


「坊っちゃんも早いじゃないですか」


将軍は嘆息しながら言った。

この時間に十分装備を固めているって事は、5時に起床したのだろう。

子供が起きる時間には、些か早い時刻だ。

それなのにギルバートは、既にしっかりと準備をしていた。

昨日受け取った装備を、しっかりと身に着けている。


「オレは良いんだよ

 まだ領主の息子として代表に立たないと」

「それはそうですが…」

「それにこれぐらいは、朝の訓練で起きたのとそう変わらないよ」

「そうですか?」

「ああ」

「それにしては…」

「そうですよ

 子供が起きる時間には…」

「子供扱いするなよ

 全く…」

「ぷっ」

「くすくす」


兵士の早朝訓練は、夜間の兵士との交代もあるので朝6時から行われていた。

ギルバートもよく、アルベルト存命の頃には参加していた。

勿論警備には立たせなかったが、早起きして訓練するのは許されていた。

いや許されたと言うよりは、アルベルトが叱っても聞かなかったとういのが真相だが…。

将軍達は呆れながら、訓練に混ざるギルバートの面倒を見ていた。


それを考えれば、確かにそこまでは早い時間では無い。

しかし実際には、子供が起き出す時間では無かった。

それなのにギルバートは、その訓練に混じって訓練をしていた。

それだけ彼は、訓練が重要だと感じていたのだ。

それは彼自身が、身体が弱かった事も原因なのだろう。


「よく早起きして参加してたから、このぐらいは平気だ」

「そりゃあ…

 そうでしょうが…」

「早過ぎでしょう?」

「随分と無茶をしたもんですね」

「ああ

 言っても聞かないからな」

「そりゃあ無いだろう?

 将軍もあの頃には、健康に良いって…」

「そりゃあそう言いましたが…

 物事には何事も限度というものが…」

「くくくっ」

「将軍が言うかね」

「ああ

 そうだな」


将軍は困った顔をして、横で書類を確認している兵士を見た。

兵士もそれに気付いたが、こちらも困った顔をしていた。

しかし数人の兵士は、将軍も変わらないと思っていた。

なんせ当時のヘンディーは、単なる部隊長の一人だった。

大隊長に昇進したのは、その後の事である。

それまではヘンディーも、健康と実力を身に着ける為には訓練が必要だと言っていた。

それで早起きしては、何人かの兵士を巻き込んで訓練をしていたのだ。


「将軍もあまり変わらんでしょうが?」

「そうか」

「事ある毎に、訓練、訓練って…」

「そうそう

 朝早くから引っ張り出されて…」

「オレなんか夜の警備の後に、そのまま訓練に付き合わされた事もあるぜ

 それで何度徹夜をしたか…」

「おい!

 ダナンまで…」

「はははは

 将軍を敬愛するダナンまで言うんだ

 さぞや迷惑な事だったんでしょう」

「そんな…」

「はははは」


将軍は予想外の方向から、自分の過去の行いに振られてしまう。

それで話題を変える為に、兵士にギルバートの相手をする様に命令しようとする。

しかし兵士からすれば、そんな事を言われても困るだろう。

彼も準備が必要で、ギルバートの相手をしている暇は無かった。


「まだ時間はあります

 おい

 坊っちゃんのお相手を…」

「え?」

「私に振られても困ります

 それに坊っちゃんには、号令を掛ける以外の仕事はありませんよ

 暫くは待ってもらうしか…」

「だよなあ…」

「オレは準備がありますから」

「そ、そうそう

 まだ途中の作業があるんだった」

「後は将軍が…」

「あ!

 おい!」


兵士達はそう言うと、さっさと作業に戻って行った。

その様子を見て、ギルバートも肩を竦める。


「良いですよ

 ここでみなの士気が上がる様に、見張っていますから」

「いや、それだと…」

「却って居心地が…」


将軍と兵士が、尚も何か言いたげそうにしていた。

しかしギルバートは、簡易の宿舎から椅子を持って来て、兵士からよく見える場所に陣取った。

そこから忙しく動き回り、準備をしている兵士を眺める。

それは兵士達にとっても、非常にやり難いものだった。

領主嫡男から外れたとはいえ、未だに彼は貴族であり、兵士よりも身分が上の存在なのだ。

それにじっと見られていれば、居心地も悪かっただろう。


兵士達は最初、ギルバートに見られていてやり難そうだった。

しかし暫くすれば慣れたのか、彼等も気にしないで作業に没頭した。

最期の詰めの準備なので、少しの予断も許されない。

ギルバートが見ていても、気にしている暇は無かった。

ここで忘れ物があれば、それは死に直結するかも知れないからだ。


「ポーションは持ったか?」

「ああ

 傷止めと止血

 それから疲労回復と魔力補充…

 それに…」

「おいおい

 幾つ持ったんだ?」

「いや

 この支給品も必要だろう?」

「いくら無料で支給とはいえ、持ち過ぎだろう」

「そうだぞ

 持ち過ぎると嵩張るだろう?」

「そうか?

 各1本ずつだぞ

 包帯も1本しか持っていないし」

「え?」

「おい

 逆に少なく無いか?」


ポーションで止血も出来るが、腕や脚を切られては包帯1本では足りないだろう。

止血だって、ポーション1本では心許ない。

しかし彼は、逆に必要最低限しか持たない様にしている。

それは食料なども同じだった。


「携帯食料は持たない

 持つのは水だけだ」

「逆にそれで大丈夫か?」

「ああ

 オレは第2陣だし、生きてれば交代の時に補充すれば良い」

「そ、そうか…

 お前がそれで良いなら…」

「ああ」


彼はその兵士より早い、第1陣で出発する。

そう思えば、彼よりは生き残る可能性が低いのだ。

それでも止血と痛み止めのポーションは持っている。

いざとなったら痛み止めを飲んで、最後まで戦うつもりだった。

それまで生き残れたらだが…。


その向こうでも、兵士達が話し合っている。

彼等は仲の良い同期で、よくくだらない話をしていた。

しかしその雑談も、これが最期なのかも知れない。

それを感じたのか、彼は急に真剣な表情をする。


「お前と顔を合わせるのは、これが最期だな」

「な、何を言ってるんだ!」

「次に会うのは、お前が死んだ後だろう」

「おい!

 不吉な事を言うなよ」


彼等も第1陣と予備軍に別れていた。

だから先陣である彼は、先に死ぬつもりで仲間の兵士に話していた。

それは死ぬ事よりも、その後の不安を解消する為だった。

彼はもう、死んでも仕方が無いと思っているのだ。


「オレが死んだら、妹の事は頼んだぜ」

「おい!

 止せよ」

「良いんだ」

「何を言ってるんだ

 こんな時に」

「そうだぞ

 出撃前に不吉な…」

「生き残る事を考えろ」

「そうだぞ

 坊っちゃんも言っていただろう

 勝つ事よりも生き残る事を考えろって」


男の言葉に、周りの兵士達も不満を言う。

彼等は一緒の部隊になり、妹を頼まれた兵士とは違う部隊だった。

その兵士は、これからの戦いに気合を入れようと尋ねて来たのだが、予想外の展開になっていた。

仲の良かった同期に、まさかそんな頼み事を言われるとは思ってもいなかったのだ。


「お前はいつも、妹を紹介しろって言ってただろう?」

「ん?

 ああ…」

「だからお前に頼むんだ」

「しかしだな…」

「何だよ?

 歯切れが悪い

 妹を紹介しろってのは遊びのつもりだったのか?」

「いや、そうじゃないぞ

 本気で好きになったから…

 って何だ!

 その目は!」

「やっぱり駄目だ!

 お前には妹はやらん」

「おい!

 どっちなんだよ!」


兵士が思わず告白した事で、周りの兵士達が生暖かい目で見る。

若く初々しい恋の告白に、思わず応援したくなったのだ。

しかし白状した事で、逆に兄の方が不満そうにする。

思ったよりも本気な彼を見て、逆に妹を任せるのが心配になったのだ。

彼は思った以上に、妹を大切に思う兄だったのだ。


「そもそもお前は…」

「おい

 そこはお前に任せるって流れじゃあ…」

「酒癖も悪いし」

「それはお前が愚痴るからだろう?」

「足は臭いし」

「足が臭いって…」

「ぷぷ」

「それは行軍訓練だから仕方が無いだろう?

 足を洗う暇も無いし」

「兎に角お前では不安だ」

「そこを何とか…」


まだ彼は、肝心のその妹にも告白していない。

それなのに、彼等はそんな話をし始める。

周りに居た兵士達は、興味深げにその様子を見ていた。

そして彼等を、死なせてはいけないと思い始めていた。


「おい」

「そうだなあ」

「ああ」

「な、何だよ!」

「こいつは絶対守るぞ」

「そうだな

 生きて返してやらないとな」

「え?」

「どうだ?

 この際、生きて帰れたら、付き合うのを許してやったら…」

「それとこれは別だろう…」


男はそう言って険しい顔をするが、内心ではそれも有りかと思っていた。

こいつなら安心出来るし、いざとなったら叱る事も出来る。

だがそれも、これから生きて帰れたらだ。

生きて帰れれば、この友が妹を任せられるか見極められる。


「お前は信用しているが…

 先ずは正式な顔合わせをしてでな…」

「何が顔合わせだよ」

「そうだぜ

 見合いじゃ無いんだから」

「はははは

 そもそも付き合えるかどうかも分かんないだろう?」

「告白もしていないんじゃな」

「そうそう」

「そうは言ってもなあ…」

「お兄さん

 心配しないでください」

「え?」

「お兄さん?」


しかし彼は、突然真剣な顔をして頭を下げる。

友である兵士に、急に兄と言い始めるのだ。

その言葉に、兄である兵士は表情を強張らせた。


「イリヤには帰ったら、結婚してくれと伝えました」

「ええ!」

「何だと!」


てっきりまともに顔を合わせた事も無いと思っていたら、そこまで話が進んでいた。

彼は当然、妹からそんな話は聞いていなかった。

しかし彼は、既に結婚の話までしていたのだ。


「お、おま…

 いつの間に」

「実は最初のオーガの襲来の時に出会ってて…

 そこから何度か会ってて…」

「聞いて無いぞ?」

「それは兄とはいえ、そんな話は出来んだろう?」

「そうだぞ

 反対されそうだしな」

「うん

 実際に反対してるし」

「しかし、何でそこまで?」

「昨日プロポーズしました

 これが最期になるかも知れないから…」

「それならそうと…」

「イリヤと話したんです

 生きて戻れるか分からない

 だから兄さんには、無事に帰ってから話そうって」

「そうか…」

「うむ

 良い話じゃないか」


彼等の話を聞いて、周りの兵士達が頷く。

そしてこの部隊の結束が強まる。

彼等を決して、死なせてはならないと思ったのだ。


「こりゃあ…」

「ますます生きて帰さないとな」

「ああ」


無事に帰れたら、目出度い話が待っている。

兵士の士気が否が応でもなく上がった。

彼等を守る為にも、魔物には負けていられない。

いや、例え自分が倒れる事があっても、この二人は生きて返さなければならない。

彼等はそう感じて、結束を強めていた。


今回の魔物の侵攻は、今までの侵攻よりも厳しい戦いになるだろう。

武闘派の魔王が居る事もあるが、魔物の強さも今までとは違っている。

武装して訓練を積んだ、オークの兵士が向かって来るのだ。

多くの兵士が、今回が最後だと感じていた。


恋人や家族が居る者は、そこかしこで別れを惜しんでいた。

無事に帰って来て欲しいが、街を守る為には戦わないといけない。

それも今回はオーガの様な脅威では無く、魔物の軍が攻めて来ているのだ。

その姿を見た者が、まるで帝国の兵士でも攻めて来た様な、立派な戦士が来ていると言っていた。

そんな軍隊が攻めて来るので、住民達には違った恐ろしさが伝わった。

正体不明の恐怖よりも、想像出来る具体的な物の方が恐ろしいのだ。


「あんた、無事で帰って来るんだよ」

「ああ」

「必ず…

 必ず無事に帰って来てね」

「ああ

 約束じゃ」


「私、待つわ

 いつまでも待つわ…」

「エリザ…」

ギュッ!


「お父ちゃん

 夕飯には帰ってよ

 今日は肉を焼くって、母ちゃんが言って…」

「こら!

 こんな所でそんな事を…」

「はははは

 久しぶりの肉だ

 楽しみにしているよ」


別れを惜しむ恋人達。

無事に帰ると伝える父親。

しかしどの家族も恋人達も、今回は無事では済まないだろうと予感していた。

今までの魔物と違って、今回は異質な感じがしている。

まるで人の軍と戦う前の、戦争の開幕を待つ様な雰囲気がしていた。

その緊張を感じて、街の住民達も不安そうにしていた。


続々と兵士が集結して、北の城門前の広場に集まる。

ある者は家族に手を振って別れ、またある者は家で待つ者を思って祈る。

そうして広場に集まった兵士は、資材を受け取って戦いに備える。

既に準備が整った者は、並んで点呼を取っていた。


「歩兵が集まりました」

「その数は予定通り、360名です」

「よし、15部隊に分けて編成しろ

 各隊長に伝達して、部隊は城門前に集合させろ」

「はい」


「弓兵が揃いました

 少し減りましたが、その分は城壁から冒険者が支援します」

「うむ

 人数は?」

「はい

 総勢で200名です」

「そうか…

 減ったのは?」

「一昨日の怪我で補充をしたので、一部歩兵に編成されています」

「そうか

 怪我人は大人しく、自宅で療養しているのか?」

「いえ

 働ける者は後詰で、物資の補給に回ります」

「ん?

 それはギルドで…」


物資の補充に関しては、商工ギルドの職員が担当する事になっている。

危険だからと止めたが、街を守る為にと後方支援を申し出たのだ。

戦場には出ないという事で、それは許可をされていた。

負傷した兵士達も、その手伝いをする事は許されていた。


「はい

 商工ギルド始め、冒険者ギルドの職員も参加していますが、人数が足りません

 住民も有志を募って参加しています」

「そうか…」

「坊っちゃんの許可も取っています」

「ならば…

 問題無いか」

「はい」


騎兵部隊も集まり、各自の騎馬を受け取って集合する。

こちらは部隊長が指揮して、各自で確認をしている。


「第5部隊も集合しました」

「うむ」

「彼は今回が初陣ですが、大丈夫でしょうか?」

「ああ

 しかし既に、魔物との戦いには慣れている

 あの砦での事の様には…

 ならんだろう」


第1からダナン、アレン、ハウエル、エリックとベテランの部隊長が並び、その横に若者が立つ。

彼は砦から帰還した兵士の生き残りで、名はジークフリードと名乗っていた。

本名が勇ましく、名前負けしていないか心配されていた。

しかし真剣に頑張る姿に、徐々に部隊の信頼関係を築いていた。


「ジーク

 緊張してるか?」

「は、はい」

「安心しろ

 お前は後詰の部隊だ」

「しかし…

 オレなんかが…」

「大丈夫だ

 お前はあの砦の生き残りだ

 あの時の様に、みなを率いて生き残る事を考えろ」

「はい」


ジークフリードは顔を強張らせており、落ち着かな気にしていた。

彼の部隊は新たに編成された部隊だが、若者が多くて勢いがあった。

若干突出し過ぎるが、若さとスキルを活かして魔物を狩っていた。

オーガはまだ狩っていなかったが、実力的には十分戦える強さを持っていた。

後は部隊が若いので、戦場での経験が不足している事が不安であった。


「逸って前に出過ぎるなよ」

「はい」

「お前は後方からの奇襲になる

 言わば切り札だ」

「はい」

「それまでは後方で待機していて、戦場の雰囲気に慣れろ」

「はい」


ジークフリード元気よく返事をして、それから疑問をぶつけて来た。

彼は砦でも、数名の兵士を率いて生き残っていた。

それは彼が強いのでは無く、仲間に任せて指示を出すのが上手かったからだ。

それを見越して、彼を部隊長に推薦したのだ。

しかし現状では、若い兵士達の勢いに押されている。

それを上手く誘導出来るかが、今後の課題になるだろう。


「しかし戦場に慣れろとはどういう事です?

 私達は何度も魔物と戦い、十分に慣れていると思いますが…」

「くっ…」

「はははは」


ダナンとハウエルが笑う。

アレンとエリックも苦笑いを浮かべていた。

そういえばアレンも、同じ様な事を言って心配されていた。

彼が同じ失敗を、しなければ良いがと苦笑いを浮かべる。


「え?」

「分からんだろうな」

「そりゃそうだろ

 それが若さと思い上がりだと…

 気が付いた時には倒れているからな」

「ああ

 アレンもそうだったな」

「オレを引き合いに出さないでください

 あの時はロンメル隊長の仇をと…」

「ははは

 すまない」

「そうだよな

 それで血気逸って…」

「勘弁してくださいよ」

「オレは違いますよ?」


ダナンとハウエルの酷評に、ジークフリードは不満で鼻を鳴らす。

しかしその言葉が、彼の経験の少なさを現わしている。


「何だって言うんです

 二人共若い、若いって」

「そりゃあ…」

「若いからな」

「止せ止せ

 それじゃあ若いのが、羨ましくて僻んでるみたいだぞ」

「そりゃあないでしょう

 将軍もそう思ってるから、さっきからニヤニヤしてるんでしょう?」


言われて見てみると、将軍はニヤけてジークフリードを見ていた。

若者らしい怖い物知らずで、戦場の恐ろしさを知らないからだ。

少しは経験はあるが、彼はまだ絶望的な戦いの経験は無い。

領主が亡くなった戦場でも、彼は控えで現場を見ていなかった。


「そうだな

 本物の戦場は違う

 その目と肌で、しっかりと感じ取るんだぞ」

「え?

 はあ…」


ジークフリードは部隊長達の言う事がよく分からず、曖昧な返答しか出来なかった。

部下の騎兵達も戦場の経験は無く、戸惑ってジークフリードを見ていた。

何が何だか分からないが、部隊長に従うしか無かったからだ。

一方的な狩りと、戦場での戦い方は違う。

それは実際に拮抗した戦いを経験しないと、理解する事は出来ないだろう。

ちょっとした判断の間違いで、戦場は大きく傾く事になる。

今まで勝てていたのも、将軍やギルバートの判断が間違っていなかったからだ。


今回の戦いには、騎士団からも参戦する。

人間同士の戦闘では、彼等の方がベテランだ。

しかし軍とはいえ、相手は魔物になる。

騎士の戦い方がどこまで通用するのか?

それはやってみなければ分からなかった。


「騎士団も5部隊の内、3部隊が参加させていただきます」

「ああ

 よろしく頼む」


騎士団を代表して、オーウェンが進み出る。

彼はガレオン将軍が亡くなってから、騎士団の隊長として就いていた。

本来は将軍と隊長は兼任で、西部騎士団が実質の守備部隊の要だった。

しかし魔物は野生で、人間相手の様には行かなかった。

そこで騎士団は国境の守備に専念して、オーウェンが隊長として就任していた。


しかし今回は軍を成して向かって来る。

騎士団からも守備部隊を残して、参加をする事となった。

それで公道が塞がれる前に、彼等はダーナに移動していた。

そこから狩りに参加もしていたが、この戦場で活躍出来るかは未知数である。


「形式上は友軍として奇襲に備えます

 主に城門の死守になりますが…

 それで良いんですか?」

「ああ

 坊っちゃんからもそう聞いている

 それで頼む」

「はあ…」

「騎士団の本分は、民を守る戦いにある

 頼んだぞ」


あくまで街の守備隊で無いので、不測の事態にならない限りは後方で待機になる。

これは魔物の軍がどう機能するか見極める為と、無駄に騎士を死なせれない事情があった。

騎士となれば、フランドールが連れた王都の騎士も残っている。

国境の守備である騎士を、この街の為に使い潰せない理由があるからだ。


「本来は我々も、あなたと轡を並べて戦いたいんですが…」

「しかし国王から…

 いや、宰相の許可が出ていないんだろう?」

「はい」

「その連絡も滞っている

 今は最初の命令に従ってくれ」

「はい」


アーネストが王都へ伝えたが、フランドールの騎士は許可が出たが、騎士団には許可が出なかった。

あくまで街の住人を逃がす際の、守りとして配備を許可されている。

あまり戦いに参加しては、後で何を言われるか分からないのだ。

貴族間の諍いに、騎士団が引き合いにされる恐れがある。

だから戦場には、彼等をなるべく出さない事になっていた。


「貴族がうるさいからでしょうか?」

「そこは政治的な物だろう

 オレには分からん事だ」

「ええ

 残念ですが…」

「代わりにフランドール殿の騎士が居る

 ほら、あそこに2部隊居るぞ」

「ええ」


先の内乱の時に多くの騎士が罷免になって、鉱山労働に出されている。

残された平民出の騎士達が、フランドールを慕って参加している。

中には辞令を無視して街中に残っている者もいたが、なんとか50名が集まっていた。

他にも歩兵と弓兵も居たが、こちらはそれぞれ合流していて、既にダーナの守備隊となっていた。


「個人の抱える騎士とはいえ、50名は多いですね」

「それだけフランドール殿が、主として信頼されているんだろう」

「そうですな」


城門の前に集まったのは

歩兵が300名

弓兵が200名

騎兵が125名

騎士が128名


それぞれが24名を1部隊として、各隊長の指揮の元に動く。

その総指揮を務めるのが、ダーナ守備軍の代表のヘンディー将軍だ。


他にも魔術師が52名加わり、別部隊として動く。

こちらはアーネストが指揮して、ミスティとミリアルドが補佐として動く。


フランドールは騎士を3組率いて、正面から突撃する役を担っている。

これは危険があったら、直ちに部下が退却を指揮する約束になっている。

フランドールは反対したが、領主が倒れては不味いと説得されていた。

それで部隊の後方で、指揮する約束を強引にさせられていた。

本人は冷静だと言っていたが、昨日の事を考えれば当然だった。


ギルバートは将軍と共に騎馬で参加して、状況に応じて行動する事となっていた。

最初に将軍は、せめて守る為の部隊を着ける様に懇願した。

しかしギルバートに並ぶ者が、将軍かフランドールぐらいしか居ないとなり、仕方なく承認した。

不安で仕様が無かったが、部隊を連れた方が却って足手纏いになる。

それで危険になるよりは、単独で戦わせた方が良かったからだ。

その分、ジェニファーの説得には時間を要したのだが…。


「戦いに参加する者は、全て揃いました」

「うむ」


「いよいよですね」

「そうだな…」


北の城門がゆっくりと開き始める。

その先には柵と防壁が建ち、既に準備は出来ていた。


「開門」

「開門」

「それでは者共!

 開戦の準備に掛かれ!」

「おおおお」


歩兵が防壁に駆け出して、さっそく準備に取り掛かる。

7時の鐘が、ダーナの街中に聞こえる様に鳴り響いた。

いよいよ決戦の時が迫っていた。

まだまだ続きます。

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