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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第118話

ダーナの東の城門は、冒険者の出入りで賑わっていた

彼等はGランクやFランクの冒険者で、普段は南の門から出入りしていた者達だった

今日は魔物が出ないと言われているので、安心して森や鉱山へ採取へ向かっていた

ここから森の中へ薬草や木の実を取りに行けるし、公道を通って鉱山へも入れる

鉱山は小規模だが、奥にはまだ鉄鉱石が眠っている

ここが稼ぎどころと、各々が荷車や籠を抱えて出かけて行った


勿論、道中には兵士が警戒していて、勝手に他の場所へ向かわない様に見張っていた

魔物が出ないと言われていても、何が起こるか分からない

もしもに備えて、危険な行動をしないかも警戒されていた


そして北の城門も同様に賑わっていた

こちらは商工ギルドからも人が出ていて、突貫で広場に柵を作っていた

これは魔物が北門以外の場所に行かない様にする為と、街に容易に攻め込まれなくする為だ

兵士が隠れる為の簡単な木の柵と、侵入を拒む石の壁を作って侵攻を阻む

兵士の出入りは左右と中央に門を作り、そこには鉄で補強した門が作られていた

発案はフランドールで、過去の帝国の戦術を元にそれを作らせていた

帝国はこの様な設備を使って、他の王国からの侵攻を防いだという記録が残されていたからだ


「おーい

 そっちをしっかり押さえておいてくれ」

「おう

 しっかり押さえるから、思いっきり叩き込んでくれ」

「おうさ

 任せてくれ」


男の声に応えて、その冒険者達は支柱をしっかりと支える。

それを確認してから、男は助走をつけて男たちの背中を駆け上がる。


「うおおおお

 せりゃあああ」

ガコーン!


男が跳躍すると、大きなハンマーで支柱を叩き込む。

大きなハンマーで叩かれて、太い支柱も数㎝地面に食い込む。

そのままの勢いで、男は更に宙でハンマーを叩き込む。


「うらあああ

 トリプルスタンプー!」

ガコーン!

ガコーン!


「うおおっ」


バランスを崩して、男は冒険者達の背中を転がり落ちる。

しかしそれまでに、空中で見事な三連撃を決めていた。

これは攻撃には使えないが、職人が支柱を埋める為に使えるスキルだった。

本来はここまで高くは飛ばずに、勢いに任せて地面から跳躍して使うスキルだ。

しかし支柱が大きかったので、こうして空中で三連撃を放っていたのだ。


「うおっと、危ねえ」


慌てて冒険者の一人が、落ちて来た職人の男をキャッチした。

男はスキルを放った事で、一時的に力を失っていた。

これがこのスキルが、戦闘に向いていない一番の理由だ。

それともう一つが、縦に三回続けてハンマーを振れるが、それ以外の効果が無い事も原因だった。


「すげえな

 これで支柱の完成か」

「ああ

 スキル様々だな」


支柱はしっかりと叩き込まれて、冒険者達が押してもビクともしない。

さすがにオーガには無理でも、オークぐらいならなんとかなるだろう。

これだけ深く埋め込めるのも、スキルの効果があるからだ。

スキルの説明には、土の精霊の助力を得られると記されてある。


「しかし、そのスキルで戦えないのか?」

「ああん?

 無理だ無理

 あんちゃん達みたく動けないし、あくまで上から連続で叩けるだけだ

 鍛冶場かこんな事にしか使えねえ」

「そ、そうか?」

「うーん

 親っさんの筋肉なら、オークぐらい逃げ出すんじゃねえか?」


スキルの注意書きに、支柱を埋める作業に関しては、精霊の助力を得られると記されてある。

それは支柱を叩き込む事に関しては、効果が増すという事だ。

土の精霊の力を借りて、スキルを使った際により深く埋め込む事が出来る。

鍛冶にも利用出来るが、あくまでも連続で叩けるだけだ。

戦闘で使うには、隙だらけで危険なだけである。


「うーむ…

 無理じゃな」

「どうしてだい?」

「このスキルってやつは、あくまでも作業に使う為にある

 戦闘向きじゃないんじゃ」

「そうなのかい?」

「ああ

 隙が大きいし、何よりも三回叩くだけのスキルじゃ

 さっきみたいに使った後には、身体から力が抜けるしのう」

「そうなのか?」

「それはまた…」

「その代わり、あんな事をするには便利じゃ

 何でも支柱や柵を埋め込む際には、より深く埋め込めるらしいしのう」

「へえ…」

「そういうスキルなのか」

「面白いな」


親っさんと呼ばれた男は、身長120㎝と小柄ながらも、筋肉は隆々としていた。

しかしその筋肉も、戦闘向けの筋肉では無かった。

力仕事には向いているが、素早く動く事は出来ない。

それに親っさんは、足が短くて素早く走るには向いていない。

だから彼が、戦闘に出る事は不可能に近いだろう。


彼がこんなに背が低くて、筋肉質なのには理由があった。

彼は昔この辺りに住んでいた、ドワーフという亜人の血が混ざっているのだ。

ダーナは奴隷制度等も無く、比較的安心だったが、彼の様な血が混ざった者は珍しかった。

他国ではその様な者は、奴隷にされて売買される運命なのだ。

クリサリス聖教王国は、そういう意味では安全な国だった。


亜人は長命な者が多く、その血が混じった者も人間より長命であった。

それに血が多ければ、それだけ何らかの力を継承している。

それで多くの亜人が、昔は人間によって奴隷にされていた。

クリサリスが貴族領だった頃から、奴隷制には反対していた。

それで彼の様な、亜人や亜人との混血の者が流れ着いていたのだ。


「親っさんは、オレの爺様の頃から居るんだよな」

「ああ

 ここに港を作った頃からじゃなあ」

「そんなに昔からなのか?」

「ああ

 あの頃から、ここの領主様は奴隷に反対じゃった

 それでワシ等は、この地に流れ着いて来たんじゃ」

「へえ…」


見た目は壮年の男だが、実は既に齢80を超えているらしい。

若い頃にここへ来て、小さな町から発展させて来た功労者の一人だった。

港の工事には12名も加わったが、存命なのは6名しか残されて居ない。

他の者は国外に出たり、老衰で亡くなったりしていた。

親っさんはこの地に残り、王国が建国されるのも見て来た生き証人だった。


「昔から奴隷制に反対しておってな

 それで帝国にもにらまれておった」

「そうなんだ」

「ああ

 それでも領主様は、ワシ等を守ろうとしてくださった

 それで感謝して、ワシ等はこの城壁や街路を作ったんじゃ」

「はあ…」

「そんな事があったんだ」

「ああ

 だからワシ等は、この街を守りたいと思っておる

 そして後世に遺したいんじゃ」

「だからオレ達が居るじゃないか

 親っさんが作ってくれたこの剣

 こいつでゴブリンなんか…」

「馬鹿

 お前は出れねえだろ」

「それに来るのはオークやオーガだ

 オレ達じゃあ太刀打ち出来ねえ」

「なあに

 兵士達がなんとかしてくれる」

「そうそう

 それに坊っちゃんや将軍もいらっしゃる」

「オレ達は大人しく、街に避難しておこうぜ」

「それしか出来ないのか?」

「ああ

 無理だろうな」


冒険者は抜き出した剣を見詰めながら、微妙な表情をする。

彼としては、生まれ育ったこの街を守りたかった。

それで冒険者に志願して、魔物とも何度か戦っていた。

一緒に居る仲間達が、そんな彼と共に戦ってくれた。


「オレじゃあ…

 駄目かな?」

「そうじゃなあ

 先ずはコボルトに勝てんとな

 オークに挑むのは、それからじゃ」

「そうだよ

 あのフランドール様でも勝てなかったんだ

 お前じゃ犬死しに行くようなものだぜ」

「う…」


彼は魔物と戦う気満々だったが、仲間に諭されて落ち込む。

彼等はまだ数人で、コボルトの群れに挑んでいるレベルだ。

オークに挑むのはまだまだ早いだろう。

それに侵攻して来るのは、鎧で武装したオークだ。

兵士でも勝てないかも知れない危険な相手だ。


「ワシ等が作った武器が…

 役立ってくれれば良いんじゃがなあ」

「親っさん…」


親っさんも心配なのか、作業を見守る兵士達を見詰める。

その兵士達も、親っさんから見ればまだまだ子供だった。

彼等が産まれた頃から、この街と共に彼等を見守って来たのだ。

だからこそ、危険な戦いに赴く彼等を、心配して見詰めていた。


「あいつらも子供の頃から見ておる

 ワシが作った武器が、あいつらを守ってくれれば…」

「何言ってんだい

 親っさんが作った剣が、どれだけの兵士を救って来たか」

「そうだぜ

 坊っちゃんも使っているんだろう?」

「あれは兄者が作った物じゃ

 ワシのは精々、兵士に回す剣や鎌ぐらいじゃ」

「それでも

 親っさんが凄いのはオレ達が知っているよ

 胸を張ってくれよ」

「そうじゃなきゃあ、オレ達まで自信を無くすよ」

「ふふ

 嬉しい事を言ってくれる」


冒険者に励まされて、親っさんは黙って頷いた。


「そうさなあ

 お前らの為にも頑張らんとな」

「そうそう」

「そうとなりゃあ、早く次を打ち込もうぜ

 十分休憩しただろう」

「おう!」


冒険者達は次の柱を持って来て、再び支える体制になった。


「準備は良いか?」

「おう!」

「任せろ!」


男達が支柱を立てる周りで、他の冒険者達も働いていた。

ある者は柵をロープで支柱に固定したり、またある者はそれを支えていた。


「おい!

 曲がっているぞ?」

「そっちが曲がっているんだろう?」

「止せ

 しっかりと支えないからだろう?」

「いや、最初から曲がって持ってるじゃないか」


下らない事で喧嘩を始める者も居て、当然減給対象となっていた。


「おい、お前等

 いい加減にしろ

 それ以上騒ぐなら、ギルド長に報告するぞ」

「え?

 ギルマスに?」

「マズい、減給にされるぞ」

「お前がしっかり持たないから」

「うるせえ!

 お前のせいだろ」

「あー…

 全員減給だな」

「え?」

「そんなあ…」


そんなやり取りを横目にしながら、真面目なパーティーは順調に進めて行く。

しっかりと柱に柵を固定して、曲がってないか確認をする。

その間に別の冒険者が、ローブを持って固定して行く。


「おい、ケイン

 そこを持ってくれ」

「良いぜ

 ハミルもしっかり支えてくれよ」

「何で魔術師のボクまでこんな…ブツブツ」

「何だって?

 聞こえないぞ」

「何でもない

 早くやってくれよ」

「おう

 出来たぞ」


割としっかりした柵が出来て、リーダー格の男が呟く。

リーダーは何度か柵を引っ張って、解けないか確認する。

その上で仲間に、曲がっていないか確認してもらう。


「どうかなあ?」

「良いんじゃない?」

「そうだな…

 問題無さそうだよ」

「良かった

 何の変哲も無い柵だけど、これで魔物を少しでも防げるのなら…」

「そうだね」

「ところが奥さん

 ここが素晴らしいんですよ

 どうです?

 こんなに引っ張っても外れないんですよ」

「まあ素晴らしい

 これならオークが来ても大丈…って何の実演販売だ!」

「はははは」


馬鹿な事をしているが、彼等は仕事は真面目にするので柵は頑丈に出来上がっていた。

この柵は侵攻後にも残っていて、本当に大丈夫だったと冒険者達の話のネタになる出来だった。

柵の出来を確認してから、彼等は次の柵を作りに向かう。

まだまだ城門の周りに、柵を必要とする場所があるのだ。


そんな作業現場に、ギルバートはフランドールと訪れた。

これから領主になるのだから、こういう作業現場を視察するのも慣れないといけない。

それにフランドールが考案して、柵のそこかしこに仕掛けも施されている。

それの確認もあって、フランドールはギルバートを連れて来たのだ。


「大分しっかりした柵が出来ていますね」

「ええ

 防壁の整備も…

 ほら、あっちはオークが越えられない様に2mにしているんだ」

「へえ…

 色々と考えているんですね」

「ああ

 アーネストも案を出してくれたが、私も細工を加えさせてもらった」

「なるほど

 フランドール殿なら、王都でそういうのも学んでいますよね」

「ああ

 帝国の時代の戦術とか、城の建て方とか学ばされるんだ」

「城の建て方?

 そんな事まで学ぶんですか?」

「あ…

 いや、職人の様な建て方じゃ無いぞ

 どういう城を建てると、守りに有利だとかそういう事だ」

「ああ

 なるほど…」


王都では騎士として働いていたが、そのうち貴族として領地を与えられる事もある。

そんな時の為に、立地に合わせた城の建て方を知っておく必要がある。

攻め込ませ難くする為には、より有利な城や城壁が必要になる。

そういった事も、王都の貴族は学ぶ必要があったのだ。


「それでこんな場所に柵を?」

「ああ

 柵が途中にあれば、壊すか乗り越えなければならない

 そうする間に、城壁から狙えるという訳だ」

「ふむ

 近付け難くするんですね」

「ああ

 少しでも守り易くしないとな

 相手は手強いオークなんだ」

「そうですね」


フランドールから、武装したオークの話は聞いていた。

そしてそのオークに近付けさせない為に、こうして城壁の防備を上げる必要があった。

アーネストの案では、柵を迷路の様に張り巡らせるだけだった。

それをフランドールが、頑丈な支柱に固定させる様に変更したのだ。


そんな柵を張り巡らす為に、冒険者達が駆り出されていた。

支柱に柵を固定する以外にも、石を組み上げた通路も作られている。

彼等は慣れない手つきで石を組み上げたり、即席の柵を作る作業に就いていた。

時々失敗したのか、崩れて慌てて逃げている者もいる。

彼等は冒険者なので、その様な作業には慣れていないのだ。

それを見て、作業を指示する親方が怒号を上げていた。


「こら!

 そこ!

 危ねえから待てと言っただろう」

「でも、こいつが積めって…」

「言い訳するんじゃねえ

 お前もだ

 そこを積んでから積めと言っただろう」

「そこってどこだよ?」


親方の指示が理解出来ないのか、一組の冒険者が叱られている

しかし肝心の親方の指示も、曖昧で分かり難い物だった。


「大丈夫…かな?」

「はははは

 まだ昼前です

 夕刻には完成するでしょう」

「本当に大丈夫か?」


ギルバートは不安そうなフランドールを見ながら、言葉を掛け続けた。

昨日の事を心配して、それでも励まそうとしていたのだ。

しかし肝心のフランドールは、すっかり立ち直っていた。

守るべき人が出来た事で、彼も新たな目標が出来たのだ。

その人を守る為に、彼は全力で戦う事が出来るだろう。


「でも、良かったんですか?」

「ん?」

「フランドール殿の事ですから、今日は猛特訓とか言って…」

「あ…

 それも実は考えていました」

「やはり」

「確かに疲れていましたし…

 それに冷静な判断に欠けていたと

 しかしそれでも…」

「負けたのが悔しいですよね」

「はい」


フランドールは悔しそうに唇を引き結び、拳を握り締めていた。

ギルバートはその心情を理解しつつも、優しく言葉を掛けた。

傷付けない様に言葉を選びながら。

ギルバートは何とか励まそうとする。


「あなたの気持ちが分かるとは…

 オレには言えません

 私はまだ、あなたの半分ぐらいしか生きていませんから」

「ギルバート?」

「でもね、負けたら悔しいですよね」

「あ、ああ…」


「オレもも子供の頃に…

 あ、いや

 まだ子供か?」

「ぷっ」

「兎に角

 兵士に負けて、悔しかったんです」

「へえ…」


ギルバートはその頃を思い出し、悔しかった気持ちも思い出す。

普通の兵士に負けて、新兵の若者にも負けた。

子供なのだから、負けるのも当然なのだ。

それなのにギルバートは、負けた事が悔しくて何度も再戦をした。


「今考えたら、将軍に勝とうとしてたんですよね

 そもそもが間違っているんですけどね」

「それは…」

「それでも兵士にまで負けて…

 入隊したばかりの兵士にまで負けて…」

「あ…

 まあ子供だったんでしょう?」

「ええ

 ですから負けて当然なんです

 それなのに納得出来なくて…」

「ははは

 それで何度も挑戦したとか?」

「そうなんですよ

 今考えたら、迷惑な話ですよね

 それも領主の息子だから、怪我させる訳にもいかないし

 かと言って手を抜けば、オレが馬鹿にされたって怒っていたんですよね」

「それは…

 困った子供だ」

「ははは

 そう

 困った子供だったんですよ

 本当に困った…」


並みの兵士にではなく、将軍の様な猛者に勝とうだなんて普通の子供なら考えない。

それでもギルバートは勝とうと思って、兵士達と同じ訓練をしようとしていた。

まだ6歳ぐらいの少年が、大人の兵士の真似をして訓練するのだ。

よく親が許したなと思う。

そうして訓練が終われば、兵士達に勝負しろと言うのだ。

彼等には迷惑を掛けていたと、今さらながら思い出して恥ずかしくなる。


「アルベルト様は…

 よく許してくださったな」

「いえ

 普通に叱られていましたよ?」

「え?」

「叱られても行くので、兵士達は半ば諦めていました」

「それはまた…」

「それでも不思議と、段々と上達したんですよね

 無茶したからかな?」

「えっと…」


才能と言うには、些か疑問がある

どうすればそんな事が出来るのか?

やはり皇帝の血筋というやつか?

羨ましい限りだ


それはフランドールには理解が出来なかった。

ギルバートに何かがあるのは確かだが、それは理解を超える事であった。

ミスティの話しでは、皇帝の血が流れる者は異様な力を持つという事だった。

国王ハルバートも、戦場で怪力を見せ付けていたと聞いた事がある。

それを考えれば、ギルバートにもその様な力が備わっていたのだろう。


「君は凄いよね」

「え?」

「時々、君が本当は私とそう変わらない

 いや、それ以上の大人の様に感じるよ」

「そう…ですか?」

「ああ」


そうだ、負けていられない

彼は私の半分ぐらいの年齢なんだ

それなのに私に勝つぐらいの力を持っている

負けていられない

私も強くなるんだ

そして彼に比べられても、遜色の無い様な領主に…


「しかし、将軍に勝とうだなんて

 子供心とはいえ、随分と大きな目標を持ったね」

「そうですか?」

「ああ

 アレは私でも、厄介な戦士だと感じるよ」

「フランドール殿がですか?」

「ああ

 私とは対極だからね」


フランドールは将軍を冷静に分析して、厄介な戦士だと感じていた。

経験から来る戦闘センスも厄介だが、何よりも耐久力と持久力が厄介だ。

重たい鎧を着る事も出来るし、打たれ強いので少々の攻撃では倒れないだろう。

そうなってくれば、フランドールの攻撃では倒せない可能性があるのだ。


「攻撃力はまあまあ

 攻める速度は残念ながら私の方が上だ

 しかし守りに関しては、かなり厄介だと言えるだろう

 私や君が居なければ、間違いなく稀代の英雄と言えるだろう」

「え?

 そんなに?」

「そうだよ

 私も攻めの速度には自信があるが、勝敗は良くて五分五分…

 スキルや身体強化が無ければ、間違いなく持久戦で負けるだろうね」

「ううん

 今一実感が湧かない」

「それは君が、普段の将軍に接し過ぎているからだよ

 王国にとっては、稀代の戦士なんだよ」

「へええ」


そこでギルバートはニヤリと笑った。

子供が悪戯を思い付いた顔だ。


「それ、将軍に言っても…」

「ダメだよ

 魔物の侵攻を前にして、変なプレッシャーを与えないの」

「はあい」

「聞いたらあの人の事だから、変な力が入って失敗しそうだ」

「ああ…

 そりゃありそうだ」


そこで二人は顔を見合わせて、声に出して笑った。

既に昨日の(わだかま)りは無く、いつものフランドールに戻っていた。

少なくともギルバートは、そう感じていた。

これならば大丈夫と思い、ギルバートは視察を終えて商工ギルドへと向かう事にする。


「ここには何の視察が?」

「それはですね…

 見てのお楽しみ、ですかね」

「ん?」


ギルバートに促されて、フランドールもギルドに入る。

久しぶりに来た商工ギルドは、増産と改良に忙しくて中は殺気立っている。

中には2晩徹夜した職人もいて、苛立った様子で作業を行っている。

あまり眠れない事で、ハイになった職人も少なく無かった。


「おい!

 受注の剣が足りないぞ!」

「こっちはポーションがもう2箱

 さっさと持って来い」

「手が回らねえ

 すぐに箱を作ってくれよ」


怒号が響き渡り、忙しそうに職人が右往左往する。

出来上がった商品が、端から他のギルドや兵舎に向けて運び出される。

そこに小走りに走っていた、ギルド長がギルバート達に気が付いて振り返る。

多少殺気立った表情なのは、彼もほとんど眠っていないからだった。


「誰だ、こんな忙しい…

 坊っちゃん?」

「ああ

 すまない」

「忙しそうだね」

「その原因が何を…」


ギルド長は一瞬、苛立った表情でギルバートを睨み付ける。

しかし溜息を一つ吐くと、彼は諦めた表情で頼まれた物の案内をする。


「まあ良い

 例の物ですね?」

「ええ

 お願いします」

「ふん

 あそこに出来上がってます

 持って行ってください」

「さすがギルド長」

「おだてても無駄ですよ

 もうこれ以上は作れません」


ギルド長は不満そうだったが、忙しくてそれどころでは無さそうだった。


「あ?

 調整は?」

「それぐらい自分でやってください

 こっちはそれどころじゃないんです」

「は、はあ…」


ギルド長はそう言うと、そそくさと駆け出して行った。

これ以上は構っていられ無いんだと言わんばかりに、次の仕事に取り掛かる。

それを見てギルバートは、仕方が無さそうに奥へ向かった。

そこにはカウンターの上に、幾つかの物が並べられている。

それがどうやら、ギルバートが無理して頼んだ物なのだろう。


「で?

 これは何なんです?」

「見せたかった物ですよ」

「見せたかった?」


ギルバートが向かった先には、2組の装備が置かれていた。

片方は少年向けに小さく軽く、それでいて成長に合わせて調整出来る様に作られていた。

そしてもう一方は大人向けで、軽装として作られていたが要所には何かのプレートが付けられていた。

それは金属では無く、鱗か何かを加工した物の様だった。


「これは…」

「約束してあった、ワイルド・ベアの防具です」

「これが…」

「フランドール殿の方にゃあ、アーマード・ボアの素材も使ってやす

 そのプレートは、アーマード・ボアの皮と骨を使いやした」


近くに居た職人が、自慢そうにそう呟いた。

彼も碌に寝ていないらしく、目の下には隈が出来ている。

それでも自慢の一品が完成した事で、誇らしげに微笑んでいた。


「防御力もですが、衝撃に対しても…」

「おい

 そこで油売ってなくて、さっさと剣を作れ

 追加のオーガの骨が来たぞ」

「おいおい

 もう加工したのか?

 勘弁してくれよ」


そう言いながらも、職人は嬉しそうに骨が入った箱を抱えて行く。

それは大きな箱に入っていたが、身体強化で軽々と持てるのだ。

職人達も最近では、身体強化を身に付け始めていた。

まだ兵士の様に力強くは無いが、重たい物を軽々と運べるぐらいにはなっていた。


「説明が…」

「良いじゃないですか

 さっそく試してみましょう」

「え?」

「訓練場で試しましょう

 剣も出来上がっていますし」

「剣も?」

「ええ

 一式揃っています」


そこにはフランドール用の新しい長剣と、ギルバート用の幅広な大剣が置いてあった。

一緒に小剣とナイフも置いてある。

これで1セットとなっているのだろう。


早速装備を変えてみて、今までの装備は工房に預けた。

修理すればまだまだ使えるので、予備の装備として調整してもらうのだ。


「では、さっそく試しに行きましょう」

「うーん

 しかしどんな効果があるんだろう」

「そうですねえ

 身体強化は強力になっているでしょう

 それに何ヶ所か魔石も組み込んでますね」


装備の胸や手甲、腰のベルト等に魔石が埋め込まれていて、そこから魔力も感じられる。

これがどの様な効果を発揮するのか?

詳細を聞きたくても、職人は忙しそうで聞けそうにも無かった。


「しまったな

 アーネストが居たら、鑑定してもらえたんだが…」

「そうは言っても、彼も忙しいでしょう

 ギルドで魔法の指導をすると言っていましたから」


アーネストが鑑定の魔法を身に着けているから、簡単な効果は鑑定できる。

しかしアーネストは、最後の詰めとして魔術師に魔法を指導しに行っている。

それが忙しくて、彼は朝から外出したままだった。

本当はギルドへ行くのが面倒で、こっちに来たそうにしていたが…。

それも叶わず、彼は魔術師達の相手をし続けていた。


「仕方が無い

 訓練場で色々試してみましょう」

「そうですね」


二人は観念して、訓練場へ向かう事にした。

二人が出て行った後で、一人の職人が探し物をしていた。


「おい

 何サボってんだ!」

「いや、ここに置いてあった試作品が…」

「ああん?」


「あれはまだ、試作品で危険なんだよ

 試していないし、どれぐらいの威力があるのか…」

「無いなら仕様がないだろう

 さっさと箱を作れよ」

「弱ったなあ…」


しかし職人は、忙しくて忘れてしまった。

それ以降彼の頭からは、その試作品の事は忘れ去られるのだった。

まだまだ続きます。

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