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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第117話

ギルバートは朝早く、自分から起きて支度をしていた

地方の領主の息子でも、本来なら使用人が身支度もする

しかしギルバートはそれを嫌がって、自分で出来る事はなるべく自分でしていた

それは自分に関わる事で時間を使うよりは、他の仕事で成果を出して欲しかったからだ

地方の領主の使用人は、領地経営の手助けもしているからだ


ハリスがギルドの報告を持って食堂に現れた時には、ギルバートは朝食を食べていた

朝なので黒パンとベーコン入りの野菜スープ、季節の野菜を使ったサラダが出ていた

ギルバートはそれを食べながら、ハリスから書類を受け取った

食事を摂りながら書類を見るのは行儀が悪いのだが、アルベルトがいつもしていた事だった

それでギルバートも、自然と父親の真似をしていた


「坊ちゃま

 食事中に読まれるのは…」

「ん?

 ああ…」

「はあ…」


ハリスは溜息を吐いたが、ギルバートは手元を見るのに熱中していた。

黒パンから浸したスープが垂れていたが、お構いなしで見ている。

それを見てジェニファーの方を向くも、ジェニファーも首を振っていた。

これ以上言っても聞かないだろう。

願わくば、王城ではしないで欲しいと思った。


「それで

 支払いは足りるのか?」

「え?

 あ、はい

 今回は事が事なので、半分はギルドで持つそうです」

「ギルドが?」

「はい」


どうしてギルドが出すのかと、ギルバートは首を捻る。

しかし街を守る事なので、当然ギルドも関わってくるのだ。

だからこそギルド長は、自身の私財を出してでも協力しようとしていた。


「ギルド長は、私財を出してでも当たると仰いました」

「そうか…

 それならば、冒険者にも何か特権を与えないとな」

「ええ

 ですからこちらを…」


そこでハリスはもう一枚の書類を手渡す。


「ん?

 これは?」

「ギルドからの嘆願書です」

「ふうん

 なになに…」


そこにはギルド長から、冒険者も戦闘に参加させて欲しいと書かれていた。

しかし冒険者の装備では、オークには勝ててもオーガでは厳しいだろう。

そうなってくれば、城壁の上からの攻撃が主になって来る。


「これは…

 いいのか?

 城壁からとなると、弓や魔法だけになるぞ?」

「ええ」

「そうなれば一部の者だけが得する事に…」

「そこは冒険者も納得しています

 問題はその下で…」

「ん?

 ああ…」


ギルバートは難しい顔をした。

そこには出来る事ならば、前線にも出させて欲しいと書かれていた。

それが叶わないなら、侵攻後に狩りに出させて欲しいと追記されている。

どうやら少しでも、魔物を狩って稼ぎたいのだろう。

しかし冒険者の技量を考えれば、それは難しい事だった。


「こっちは駄目だ

 今の冒険者では、技量が足りていない

 危険過ぎる」

「ええ

 ですから、ベテランの兵士が暫く同行しては如何でしょう?」

「うーん

 それなら…」

「先の侵攻の後にも、魔物はそのまま出ましたよね?

 今回もそうなるのではないでしょうか?」

「どうだろう?

 ベヘモットはあの手の魔物は関わっていなかったが、今回のアモンは我が子達と言っていた

 可愛い子供達をむざむざ殺される為に差し出すだろうか?」

「そこは…

 彼が現れた時にでも聞いてみられては?」

「そうだな…」


ギルバートは頷くと、書類に許可と確認が必要と記して返した。

ハリスはそれを丸めると、帯封をして懐にしまった。

後でギルドに提出する事にして、引き続き主の指示を待った。


ギルバートは書類を読み終わると、問題が無さそうなので認可の印字を押した。

左手の指輪に着いた印は、こういった書類の簡略認可に使われる。

書類を見て、問題が無いから許可するという印だ。

不備があれば、先ほどの様に追記を加えるだけだ。


「うん

 こちらは問題が無さそうだから、後はフランドール殿に…」

「はい」

「フランドール殿はまだか?」

「ええ」


そろそろ6時半になろうとしていた。

普段のフランドールなら、朝が早いのでそろそろ出て来る時間だ。

しかしやはり昨日の事が響いているのだろう。

彼はまだ起床していなかった。


「二日酔いの薬は?」

「用意しております」


ハリスはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべて、メイドに合図を送る。

そこには薬の壺を持ったメイドが立っていて、こちらも嫌な笑みを浮かべる。


「あれは不味いんだよな…」

「良薬は口に苦し、です」


二日酔いの薬は、文字通り二日酔いを醒ますキツイ薬だ。

その味はとても苦く、一説ではその苦さで酔いを醒まさせるんじゃないかと言われるほどだ。

一応成分には、頭痛を押さえたり吐き気を押さえる薬草が使われている。

そういった薬草をふんだんに使うから、後味も苦い薬になるのだが…。

一般の家庭では悪酔いした者への、罰としても使われる。

飲み過ぎは良くない事なのだ。


「坊ちゃまも飲まれますか?」

「いやいやいや!

 飲まない飲まない!」

「ほっほっほっほっ

 あまりおいたをする様でしたら…」

「そうですね

 最近は自分に酔っていると聞きますから」

「い?」

「自分の力に酔って、随分と無茶をなさっているとか…」

「みなが心配しているそうですね」

「しないしない」


メイドとジェニファーがギルバートを見ながら続ける。

それを見て、ギルバートは慌てて首を振った。


「誰だ、そんな事を告げ口したのは」

「市井では口に上っていますよ

 活躍は素晴らしいが、些か前に出過ぎると」

「そうそう

 兵士のみなさんも心配していましたし

 ここはそれを反省する為にも…」

「勘弁してくれ」


ギルバートは食事の終わりの礼をすると、慌てて私室に向かって逃げ出した。

ジェニファーと使用人達は、顔を見合わせてクスリと笑った。

そしてハリスは振り返ると、奥の通路に向けて声を掛けた。


「それで?

 フランドール様は飲まれますか?」

「あら?

 いらしゃっていたの?」

「…」


フランドールは居心地悪そうに、ギルバートが逃げた通路と反対の方から現れた。

その顔はやはり真っ青で、予想通りに二日酔いになっていた。

ミスティとの密会の折には、まだ二日酔いの症状は出ていなかった。

その後にぐっすりと眠って、起きてから激しい頭痛にさいなまれていたのだ。

しかし薬の苦さは知っているので、嫌そうな顔をして顰める。


「そのご様子では、諦めて覚悟を決めるべきですね」

「出来れば…

 飲みたくない」

「そうは行きますまいな」

「そうねえ…」

「くっ…」


しかしメイドは、容赦の無い一言を言った。

その言葉は、男にとっては引く事の出来ない言葉である。

それを言われたら、さすがに引く事は出来ないだろう。


「あら?

 男の人なのに情けない」

「ぐっ…」

「そうですわね

 アルベルトも飲み過ぎたら、反省して飲んでいたわよ」

「ですなあ」

「分かったよ…

 飲む…」


ジェニファーとハリスにまで言われて、フランドールは小さく呟いた。

ここで退いたら、男の沽券に関わる。

意を決して、彼は呟いた。


「はい、どうぞ」


メイドは大きめのグラスを取り出すと、それに薬を並々と注いだ。

そしてそれをフランドールの目の前に置くと、ニヤリと笑う。


「おい

 多くないか?」

「そうですか?」


たっぷりの薬を見て、フランドールは引き気味になる。

しかしメイドはニッコリと微笑むと、ドスの利いた声で一言いった。


「飲め!」

「う…

 くそっ!」


フランドールは覚悟を決めて、一気にそれを呷る。

苦くキツイ匂いのする薬液が、一気に喉を通って行く。

さっきまでとは違った、むかむかする吐き気を押さえながら一気に飲み下す。


「ぐっ…うう…

 不味い…」

「あら素敵

 良い飲みっぷりね

 どう?

 もう一杯」

「い、要らん」

「もう

 揶揄うのは止しなさい」

「はい、奥様」


メイドは一礼をして、薬の入った壺を持って下がった。

それを見て、フランドールははホッと溜息を吐いた。


「どうです?

 気分は良くなりましたか?」

「ああ

 ずいぶんとマシになった」


それは比喩では無く、先ほどのやり取りで肩の力が抜けて、重い憂鬱も晴れていた。

昨晩のミスティのお陰で、少しは気持ちは楽になっていた。

しかしフランドールは、まだアーネストにした事を気に病んでいた。

それで今朝も、陰鬱な気持ちになり掛けていた。


「それはよろしかったです」

「?」

「やはり落ち込んだ時は、無理してでも人と話すべきです

 一人では抱えきれないでしょう?」

「あ…」


酒でも拭えなかった、昨日の屈辱。

しかしミスティが居てくれたお陰で、彼は自信を取り戻せていた。

後はアーネストに会って、昨日の事を謝るだけだ。

こうして気持ちが少し軽くなった気がするのも、彼等が優しく接してくれるからだろう。


「あなたは一人ではありません

 王都から着いて来てくれた従者達、兵士達

 そしてここには、私達が居ます

 何でも頼ってください」

「そうですわ

 あなたはもう、ここに無くては困る人なんですから」

「…」


ジェニファーやメイドの優しい言葉に、フランドールは思わず胸が熱くなる。


「まいったなあ、もう…」


フランドールは暫し、顔を覆って涙を溢した。

そうして声を殺して泣いていても、誰一人何も言わなかった。

無言で優しく見守り、フランドールが立ち直るのを待っていた。

そうして涙を流した事で、フランドールは胸のつかえが取れた気がした。


「もう…大丈夫です」

「はい」

「良かったわね

 これで大丈夫かしら?」

「ええ

 もう大丈夫です」

「そう…」

「やりましょう

 明日を生き残る為に」


フランドールは気持ちを改めて、眼にも力が取り戻されていた。

昨日の悔しさは忘れて、今出来る事を精一杯やるだけだ。

先ずはアーネストを探して、昨日の非礼を詫びる事から始める。

そうしなければ、いつまでも逃げ回ってしまうだろう。

気持ちを新たにした今だからこそ、素直な気持ちで謝りに向かう事にする。


「さあさ

 それなら先ずは、朝はしっかりと朝食を摂ってください」

「しかし私は…

 先ずはアーネストに謝りたいんです」

「昨日の事ですね

 大まかな事は聞いています」

「アーネストは今、魔術師ギルドに居ます」

「先に食事をされた方がよろしいですよ

 腹が減っては何とか…」

「そうね

 気持ちは分かりますが、先ずは食事をキチンと摂らないと」

「ですがこのままでは…」

「焦っては駄目ですよ

 先ずは気持ちを落ち着けなさい」

「はあ…」


ジェニファーにもそう言われて、フランドールは食卓に着いた。

本当は今すぐにでも、謝罪に向かいたかった。

しかし確かにジェニファーの言う様に、焦っては失敗をするだろう。

それに空腹では、気が散ってしまう恐れもある。

フランドールは先ずは食事を摂って、それからギルドに向かう事にした。


先ほどのメイドが、今度はにこやかな笑顔で朝食を持って現れた。

焼き立てのまだ柔らかい黒パンと、熱々のスープが運ばれる。

フランドールはそれを、一心不乱に食べた。

まるで失われた気力を取り戻そうとするかのように、しっかりと食べた。

そして食べ終わった頃には、すっかり気持ちを取り戻して、いつものフランドールに戻っていた。


「御心配をおかけしました」

「いえ

 貴方様ならば、大丈夫と思っていました」

「そうですよ

 アルベルトもよくしょげては、そうやって食べて元気になりましたわ」

「そうです

 フランドール様は大丈夫

 なんたって私達の領主様なんですから」

「みんな、ありがとう」


フランドールは素直に頭を下げて、支えてくれる人達に感謝した。

今までは意識していなかったが、彼等が支えてくれるからこそ頑張れるのだ。

こうした苦しい時にこそ、そのありがたみが深く感じられた。


「止めてください

 私達は当たり前の事をしただけです」

「そうですよ

 傷付き苦しんでいれば、周りが支えれば良いんですよ」

「何かあったら、遠慮なく言ってくださいな

 私達で出来る事なら、いくらでも協力いたしますわ」

「ありがとう

 元気が出ました

 これで魔物には、負ける気がしなくなった」

「はい」

「良かったわ」

「街の事

 魔物の事

 お願いしますわね」

「はい

 任せてください」


王都では人々の関係は希薄になっていて、常に周りを蹴落とそうとしていた。

それがこの街では、みなが支え合って生きている。

ミスティがこの街を好きになったのも、そういった人々の心に触れたからだろう。

だからフランドールは、この街を守りたいと心から願っていた。


まあ一部の例外も居る様だが、少なくともここに居る者達はそうは見えなかった。

ギルバートにせよ、アーネストにせよ、その心根は真っ直ぐで優しかった。

そうした者達を守る為に、魔物の侵攻は止めなければならない。

その為には先ず、魔物を追い払う力が必要だ。


「魔物と戦う為に、力を着けようにも時間が無い」

「はい」

「それに街の防備も不十分です

 ただのオークと侮っていたが…

 昨日の様な奴等が相手では、城壁がもちません」

「はい」

「そこでこの書類が役に立つかと…」


そこでハリスは、先ほどの書類を取り出した。

ギルバートが先ほど、食事を取りながら見ていた書類だ。

これはアーネストが、フランドールと同じ不安を感じたから作った書類だ。

それを冒険者ギルドに回して、こうしてギルバートからの許可も取り付けていた。


「これは?」

「私が独断で依頼しましたが、先ほどギルバート様には許可を頂きました

 後はフランドール様の領主の認可を頂ければ」

「ふむ…

 草案はアーネストかな?」

「ええ

 アーネストも城壁の防御が不安だと…」

「そうか、分かった」


フランドールは書類を読みながら、一部を修正して行く。

まだ足りそうに無い分を、追加で多く見積もってみる。

今までの資材でも、結構な金額が動いていた。

それでハリスも、ギリギリで見積もっていた。

フランドールはそれを、さらに追加で増やす様に修正する。


「しかしこれでは…」

「これで頼んでみてくれ

 足りない様なら、私の私財も出す

 兎に角、早急に手配してくれ」

「よろしいのですか?」

「ああ

 足りないよりは、多い方が安心だろう?

 それに余ったとしても、後で必要になるだろう」

「それではこれでギルドに申請しますね」

「ああ

 頼んだよ」

「畏まりました」


書類の提出は、執事のハリスでも出来る事だ。

その間にフランドールは、他の侵攻に対する準備を進める必要がある。

それにアーネストを探して、昨日の非礼を詫びる必要があった。

それでフランドールは、書類の提出はハリスに任せる事にした。


「それから、街道の閉鎖だが…」

「ええ

 既にギルドが動いています」

「そうか」


こちらは既に、ギルドが動いて閉鎖を宣言していた。

隊商にも既に、ノルドの森に避難する様に要請している。

ノルドの森の奥には、龍の背骨山脈の麓に砦が作られている。

そこを治める貴族が、砦に併設した街も作っていた。


砦は本来はダーナ辺境伯である、アルベルトの管轄になる。

しかし貴族は、勝手に自身の領地として街まで作っていた。

そしてアルベルトの命令を無視して、独自に統治を行っている。

魔物の事が無ければ、いずれは内乱が起こっていただろう。

しかし魔物が現れた事で、その街はダーナに構っていられる状況では無くなっていた。


隊商はその街に向けて、逃げ出す手筈になっている。

魔物がダーナを攻めるので、付近に居れば危険な状況であった。

だからダーナに近くて、魔物が簡単に近寄れない砦の街に避難するのだ。


「要は北から魔物が来なければ良いんです

 ですから東と南は既に封鎖して、荷物も早目に入れております」

「助かる」

「いえ

 問題は北から港までの間と、北へ当面出れない事でしょう」


「幸い、北へは交易便は出ていない

 ここ数日魔物が出ていたし、ここから北へは国境しか無いからな」

「はい

 ですがもう一つ問題がございます」

「何だ?」

「北へは国境の砦があり、あそこには国境守備の騎士団が常駐しています

 彼等がどうなっているのか…」

「そうか…

 王国の騎士団か」

「はい」


もう一つの問題というのは、国境の守備を任された騎士団の事である。

ヘンディー将軍は魔物の侵攻に備えて、そのままダーナに留まっていた。

しかしその為に、騎士団との連絡が途絶えてしまっていた。


「無事で居れば良いのだが」

「そうですね」

「騎士団の指揮は誰がしているんだ?」

「副騎士団長が残っております

 しかし途中の連絡が取れない状況でして…」

「それは心配だな」

「ええ

 砦は頑丈ですから、オーガに攻め込まれなければ…」

「しかしそれも、ここからでは分からない…か」

「ええ」


国境の砦はダーナとは離れているが、この街からも時々物資が送られている。

それがこの騒動で、滞り気味になっているのだ。

魔物が道中に居るので、補給物資を送るのにも危険なのだ。

魔物の侵攻が終われば、また安全を確保してから向かえるだろう。

だがそれまでは、彼等は他から物資を補給しなければならなかった。

それも満足には出来ないだろうし、いつ魔物がそちらに行かないとも限らない。


「しかしそこまでは、こちらが面倒を見きれんだろう」

「はい」

「今は眼前の魔物に備えるしかない

 後はそれからだ」

「そうですね

 彼等には気の毒ですが、我々は自分の事で手一杯ですから…」

「そうだな

 その旨を伝える手段があれば…」

「ん?

 伝達手段はありますよ

 使い魔の伝言が…

 ああ、アーネストが伝え忘れておるんですな

 仕様が無い…」

「そうか、アーネストか」

「ええ

 ここ最近は狩りに出ておりましたから…

 それで忘れておるんですな」

「そうか…」


単なる伝言なら、アーネストの使い魔を送る方法がある。

しかし魔物を倒す事に集中していて、使い魔を送る事を忘れていたのだ。


「砦への伝言は、私が直接アーネストに伝える

 それは王都へも向かわせれるよな」

「はい」

「ならば王都へも伝言を頼もう

 もしもの事があるからな」

「そうですね

 お願いします」

「ハリス

 君は早急にギルドに赴き、依頼をしてきてくれ

 私はギルバートと将軍に会って、昨日の対策を相談する」

「はい

 畏まりました」

「アーネストを見掛けたら、私の元へ来る様に伝えてくれ

 私はギルバートと宿舎に居るから、そう伝えて欲しい」

「では

 それは私が伝えておきます」

「頼んだぞ」

「はい」


メイドと執事が食堂を出て、各自の務めを果たしに行く。

フランドールも立ち上がると、ギルバートの居る執務室に向かう事にした。

アーネストに会いに行きたかったが、今は準備をする必要があった。


「朝から騒々しくして、申し訳ございません」

「いえ

 戦時中なら、致し方ない事

 無理をなさらぬ様に、頑張ってください」

「はい

 必ずここを…

 この街を護ってみせます」

「よろしくおねがいします」

「はい」


フランドールはそう言って一礼すると、ギルバートの元へ向かった。

ジェニファーはそれを見送ると、娘達を起こしに向かった。

こうなる事を見越して、娘達はまだ寝かせていた。

既に起きて身支度はしているだろうが、迎えに行くまでは私室に居る筈だ。

フィオーナはフランドールに会えなかったとぐずるだろうが、セリアはまだ寝起きかも知れない。

私室に向かいながら、どう宥めようか考えていた。


今日から数日は、街には出さない方が良いだろう。

街中は魔物との戦闘に混雑するだろうし、その後も怪我人が多くて大変だろう。

せめて子供達には、その様子を見させたくはなかった。

女の子には、戦場の悲惨さは見せるべきではない。

少なくとも、あの子達にはまだ早いだろうと、ジェニファーはそう思っていた。


魔物が到着するのは夕刻を過ぎてから。

そして戦いが始まるのは、明日の予定であった。

問題が無ければ、それまでは魔物は攻めて来ない筈だ。

ダーナの街は今、一丸となってその備えに奔走していた。

まだまだ続きます。

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