第108話
フランドール達がその場に着いた時には、その場は開けた場所になったいた
先の痕跡が在った場所と同様に、オーガが暴れて木が倒されていたのだ
広大で豊かなノルドの森でも、オーガにとっては小さな木々の庭程度なのだろう
その巨体と馬鹿力で、木々を薙ぎ倒して暴れ回っていた
オークはその場で逃げ回り、殴り殺されて死体となっていた
10数匹のオークが轢死体となり、暴れ回るオーガに踏み潰されていた
それは食べる為に狩るというよりは、むしゃくしゃした子供が暴れ回っている様だった
大きなオーガが腰ぐらいの小さなオークを追い、掴んで引き千切ったり、殴り殺していた
中にはそのまま、頭から齧られているオークも居た
残るオークは6匹ほどで、オーガに囲まれていた
怯えて震えるオークを見て弑逆心が高まっているのか、オーガは残虐な笑みを浮かべていた
グガアアア
プギイイ
グシャリ!
また1匹のオークが殴られて、木に叩き付けられて倒れる。
その頭は潰れて形が変わり、胸や腹からは骨が突き出していた。
「う…」
「おえっ…」
気分が悪くなった魔術師が数人、その場で吐き出す。
無理もない。
人間に似た魔物が殴り殺されて、無残な死体となって行くのだから。
死体を見慣れていない魔術師には、その光景は惨たらしく映っていた。
「あ!
フランドール様」
「よくぞ無事で」
「ああ
上手く見付からずに来れたからな」
「見てください」
「最初は食っていたんですが…」
「満足したのか虐殺を始めまして…」
「ああ
酷い有様だな」
隠れて見張っていた兵士が、フランドール達の側に集まる。
彼等はじっと身を潜めて、オーガの虐殺の光景を見張っていた。
「君達も無事で良かった
見つからなかったんだな」
「はい
奴等はオークを狩る事に夢中ですし
オークも逃げるのに必死で気付いていません」
「そうか」
気分が悪くなった魔術師を介抱しながら、フランドール達は相談を始めた。
残るオークは4匹になり、こうしている間にも殺されて居なくなるだろう。
当初の目的である、オークの全滅はもうすぐだろう。
しかし問題はその後だ。
オーガに見付かれば、オークを狩った興奮のままにこちらも襲って来るだろう。
そう考えれば、慎重に行動しなければならない。
「どうします?」
「そうだな…
早急に陣形を組んで迎え撃つ必要があるな」
「え?
アレを…ですか?」
「ああ
間もなくオークは全滅するだろう
そうすれば、こちらに気付く筈だ」
「う…」
「そうしたら、戦いは避けられないだろう」
「そうですね」
「まだ興奮していますから
すぐに向かって来るでしょう」
「そうだ
そうなってからでは、我々もああなってしまうぞ」
フランドールはそう言って、オークの死体を指差す。
実際にあれだけ興奮しているのだ、血に酔って更なる獲物を求めるだろう。
そうなれば、フランドール達に気が付くのも時間の問題だ。
次に獲物として狙われるのは、フランドール達になるだろう。
「しかし、相手は8匹も居ますよ
先の様には…」
「そうですよ
拘束するにも、2匹は出来ますが3匹は厳しいです
それ以上は…」
「泥濘や足元を引っ掛けても、残りが来てしまいます」
「うーん
そうだなあ…」
魔術師達の言い分も最もだった。
相手にするには、些か数が多い。
拘束出来ない個体は、そのまま向かって来るだろう。
そうなってしまえば、魔術師達が狙われてしまう。
「手前の2匹は拘束出来るな?」
「はい」
「そうすれば、その間に兵士で倒せる」
「そうですね
しかし残りは?」
「そうだなあ…」
2匹を拘束しても、まだ6匹は自由だ。
そこでフランドールは、どうしたものかと思案する。
その間にも、またオークが1匹殴り殺される。
早くしなければ、オークが全滅してしまう。
「奥の3匹は置いておいて、先に中央の3匹に狙いを絞ろう」
「中央のですか?」
「ああ
奥は一旦放置しよう
どうせすぐには攻撃出来ないだろう?」
「そうなると、右手前を拘束して…
中央の3匹は魔術師で攻撃ですか?」
「ああ
そいつ等の足元を押さえて転倒させながら、マジックアローで止めを刺す
出来るな?」
「は、はあ
恐らくは」
「恐らくでは困る
必ず仕留めてくれ
接近されては危険だ」
「はい」
フランドールの厳しい顔を見て、魔術師達は覚悟を決めた。
やらないと殺される。
ここは成功させなければ、自分達も無事では済まないだろう。
それならば精一杯やってみて、必ず成功させるしかない。
「それで?
残りの3匹はどうします?」
「うん
素材が勿体ないが、ミリアルドに頑張ってもらう」
「え?
オレですか?」
「そうだ」
ここでミリアルドが指名されて、困惑した顔をする。
「奥のオーガが来ない様に、火球を投げ付けるんだ」
「オレの…魔法…」
「ちょっとキツイだろうが、連発は出来るか?」
「え?
は、はあ…
そんなに早くは撃てませんが、なんとか…」
そうこう言っている間にも最後のオークが捕まり、身体を左右に引っ張られていた。
オークの身体が不自然に引っ張られて、ミシミシと音を立て始める。
腕が不自然に伸びて、肩から引き千切れて行く。
ブチブチと音を立てて、魔物の腕が引き千切られる。
プ、プギャア…
グガガガ
ゴハハハ
ミチミチ…ブチッ!
オークの両腕が引き千切れて、オーガが不気味な笑い声を上げる。
そうして引き千切った腕を放り投げると、旨そうにオーガが頭から食らいつく。
続いてバリボリと不気味な音を立てて、魔物は頭からオークを噛み砕いて行く。
そのあまりな光景に、みなが視線を逸らした。
「時間が無い
すぐに行動に移すぞ」
「はい」
「兵士は魔術師の移動に合わせて動いてくれ
私はミリアルドを守る為に一緒に行く」
「え?
フランドール様…」
「大丈夫だ、任せておけ
これでもオーガぐらいは倒せるんだ」
「は、はい」
「君は呪文に集中して、必ずオーガを足止めするんだ」
「はい」
フランドールはそう言ったが、今までのオーガはそこまで手強くは無かった。
油断しているところを突いたり、乱戦で狙われていない時が多かった。
しかし今回は、魔物は戦闘の興奮で眼も血走っている。
この状態のオーガが、どれほど危険かは未知数であった。
興奮している以上、いきなり襲い掛かって来るだろう。
一触即発の、油断の出来ない状況だった。
「それでは行くぞ
みんな…
死ぬなよ」
「はい」
「無事に帰って、母ちゃんに自慢するんだ」
「そうだ
オレもネアちゃんに自慢するぞ」
「よし
その意気だ」
「はい」
「任せてください」
魔術師達はそう言いながら、遅い脚で魔物に魔法が届く範囲まで走って向かった。
それを追う様に、兵士達も盾を構えながらその前方に移動する。
あまり近寄ったら、気配で気付かれてしまう。
ギリギリまで近寄って、一気に攻めようと少しでも前に移動する。
ミリアルドも見晴らしが利く場所へ移動して、杖を構えて魔物を睨み付ける。
魔物にバレるリスクを冒してでも、しっかりと狙える様に場所を見極めていた。
「ここなら大丈夫でさあ」
「良いのか?
これでは魔物に狙われるぞ」
「でも…
フランドール様が守ってくださるんでしょ?」
「ああ」
「それなら…
怖えけど頑張ります」
「ふふ
頼んだぞ」
「へい
火の精霊よ
オレに力を貸してくれ
燃え上がる火球よ、敵に降り注いで燃え盛れ」
そう言ってミリアルドは呪文を唱えて、火球を2つ用意する。
火球は通常の魔術師のそれより大きく、ミリアルドの魔力の高さを示していた。
ミリアルドはそれを、魔物にぶつける為に身構える。
杖を魔物の方に向けて、しっかりと狙いを見定めていた。
「よし
準備は良いな?」
「はい」
「やるぞ!
掛かれー!」
フランドールの掛け声に、魔術師が拘束の魔法を発動する。
それに合わせて、先頭の兵士が鬨の声を上げる。
魔物は突然現れた茨に、身体の自由を奪われる。
足だけでは無く、腕も茨に拘束されていた。
「ソーン・バインド」
「今だ、行けー!」
「うおおおお」
グガア?
拘束された2匹の魔物に向かい、兵士達は一斉に駆け出す
それに気が付いた残りの魔物が、一斉にそちらへ向かおうとする。
しかしそこで、さらに魔術師達が魔法を行使する。
足元がぬかるんだり、地面から泥の腕が伸びて来る。
グガアアア
ゴガアアア
「今だ、マッド・グラップ」
「スネア―」
ゴ…グガ
ギ…
ズズーン!
兵士達に向かおうとした中央の3匹が、足元を取られて転倒する。
派手に転んで、大きな地響きが起きる。
その光景を見て、奥のオーガは警戒をして歩みを止めていた。
慌てて近付けば、自分達も転げると考えたのだろう。
それで魔物は、手前と奥とで分断された。
その転げた魔物に向けて、マジックアローが次々と撃ち込まれる。
数は多くは無いが、魔物の頭を狙って撃つのであっという間に魔物の頭が針鼠の様になる。
目だけでは無く、口や耳にまで魔法の矢が突き刺さる。
「撃てー!
マジックアロー」
「マジックアロー」
ズパパパ!
シュババッ!
ドスドスドス!
グガア…
ゴガ…
魔物は一気に頭を撃たれて、その痛みと衝撃でショック死していた。
フランドールはああ言っていたが、これは少々過剰な攻撃であった。
いくらオーガでも、頭に数発の矢が刺されば絶命してしまう。
ましてや普通の矢では無く、魔力を練った魔法の矢である。
オーガの表皮が頑丈でも、魔力で作られた矢には関係が無いのだ。
オーガの目や口に突き刺さり、鋭く奥深くまで突き刺さった。
その間にも手前の魔物に、兵士達が向かって行った。
拘束された魔物は、そのまま兵士達に切り刻まれる。
腕や脚を切り裂かれて、そのまま胸や首筋に剣を突き立てられる。
2体のオーガは、成す術もなく殺されていた。
そしてその様子を見て、再び奥のオーガが動き始めた。
しかしそれを牽制する様に、二つの火球が魔物に向けて放たれた。
「喰らえ、ファイヤーボール」
ゴーッ!
ズガガーン!
ゴガ…
グガアアア
3匹のオーガに向けて、2個の火球が飛んで来る。
それは魔物の横から、足元に向けて放たれていた。
魔物は兵士達の方を向いていたので、横からの攻撃には気付いていなかった。
足元で爆発する火球に、魔物は踏鞴を踏んで転げそうになる。
そこに追撃とばかりに、2発目の火球が放たれた。
ミリアルドは宣言通りに、連続で火球を放ったのだ。
「もういっちょ、ファイヤーボール」
ズガガーン!
ゴガアアア
よろめき跪くオーガに、追撃の火球が叩き付けられる。
魔物達は防御も出来ずに、まともに火球を食らっていた。
火球は弾けて爆発し、魔物の身体を炎で包んだ。
「火の精霊よ
オレに力を貸してくれ…」
「ミリアルド
もう良いぞ」
「え?」
さらに撃ち込もうと、ミリアルドは呪文を唱えていた。
しかし3匹の魔物は、炎に焼かれて絶命していた。
1発目の火球で足元を取られて、2発目の火球をまともに食らってしまった。
それで上半身を爆破され、さらに炎に巻かれていた。
さすがにオーガが強いといっても、ここまでの攻撃を受ければ死んでしまう。
3匹とも火に焼かれながら、呻き声も上げずに死んでいた。
兵士達が確認に向かい、全てのオーガの遺骸を確認する。
剣で突き刺してみて、魔物が動かないか確認する。
そうして動かない事を確認してから、フランドールに合図を送った。
これでこの場に居たオーガが、全て倒された事が確認出来た。
「フランドール様
全部死んでいます」
「さすがにここまで焼かれては…」
「こっちも死んでいます」
「ふう…
無事に倒せたか」
フランドールは魔物が全滅したのを確認して、安堵の溜息を吐いた。
無事だといっても、多少の怪我人は出ていた。
拘束を解こうと暴れるオーガに、蹴られたりして負傷したのだ。
しかし拘束していたので、軽傷程度で済んでいた。
彼はポーションを飲みながら、打ち身の薬草を貼られていた。
「痛てて…
うう…
不味い」
「はははは
だから足元は危ないって言っただろ」
「だけど脚をどうにかしないと、お前らが危ないだろ?」
「え?
ライアン、お前…」
兵士は仲間を思った彼の行動に、思わず感動していた。
普段は憎まれ口を叩く、喧嘩友達の様な間柄であった。
それなのに彼は、ここぞという時に仲間を守ろうと考えていたのだ。
笑っていた兵士は、そんな自分を恥じて謝ろうとしていた。
「すまな…」
「だって、お前に何かあったら…
お前の姉ちゃんが悲しむだろう?」
「お、お前
オレの姉さんを!」
「あいつ未亡人好きだからな…」
「はははは」
「ふざけるな!
くそっ
感動して損した」
「いや
未亡人とか関係無くてな
この前に偶然会ってな…」
「うるせえ
オレの感動を返せ!」
「そう言うなよ
オレはお前の姉ちゃんに言われてな…」
「軽々しく姉ちゃんとか言うな
お前の姉ちゃんじゃ無いぞ」
「ああ…」
「また喧嘩しているな」
周囲の警戒はしていたが、魔物の反応は見られなかった。
魔術師の方でも、周囲に魔力が無い事を確認する。
兵士達は激闘を生き延びて、緊張感から解放されていた。
それで彼の姉の話は兎も角、無事を喜び合っていた。
「みんな無事で良かった」
「ええ」
「しかしオーガ以外の死体は…」
「そうですね
残念ですが、使えそうな物はありませんね」
「オークの骨が多少は取れますが、オーガに比べれば」
「農具や外壁の補修ぐらいにしか使えませんね」
「まあ、オークの骨ですし…
それに元々魔石は期待出来ませんから」
「そうですか?」
「少しでもあった方が…」
「それでみんなが負傷したり、死ぬ訳にはいかんでしょう?
無事な方が良いんですよ」
「フランドール様…」
「そうですね」
残念ながら、オークの素材はほとんど駄目になっていた。
魔石どころか、骨もほとんど残されていなかった。
皮ですら、ほとんど無事な物は無かった。
オーガの素材も、3体は焼け焦げて使い物にはならなかった。
「そうすると
休憩してから、もう少し探しますか?」
「そうですね
まだワイルド・ボアも見つけていませんし」
「お前、どんだけ食べたいんだ」
「仕方が無いだろ
魔術師達も楽しみにしているんだから」
「はははは
そうですね
もう少し、ワイルド・ボアを探してみましょうか」
「やった!
これで母ちゃんに叱られない」
「本当に…」
フランドールが兵士達と話していると、ミリアルドが近寄って来た。
「フランドール様
オレ…
あれで良かったんでしょうか?」
「ん?」
「あんまり役に立っていない様な…」
「とんでもない!
君は十分に活躍しましたよ」
「そうだぜ
オレ達に魔物が向かって来ない様に、頑張ってくれたからな」
「ああ
お前さんの魔法に、オレ達は助けられたよ」
兵士達にはもう、昨日の蟠りは無かった。
寧ろミリアルドの魔法に助けられて、感謝さえしていた。
今ではもう、彼の評価は変わりつつあった。
使いどころさえ間違わなければ、彼の魔法は実に強力だったのだ。
今ではもう、彼等の中には仲間意識さえあった。
「君の魔法は素晴らしい
今日の様な戦闘では、本当に心強い支援になったよ」
「そう…なのか?」
「ああ
今日は帰ったら、是非奢らせてくれ」
「一緒に酒を酌み交わそうぜ」
「ああ
素晴らしい魔法だったぞ」
兵士達に背を叩かれても、ミリアルドは嬉しさが込み上げてくる。
自分の魔法は、破壊だけしか出来ないと思っていた。
だから魔物を殺す事でしか、活躍出来ないと思っていた。
しかし使い方次第では、人を助ける力になれるのだと思い知らされた。
ミリアルドは改めて、今までの話を思い返していた。
「ミスティの…
姉さんの言ってたのは、この事だったんだな」
「そうだね
魔法は使い方次第で、無限の可能性があるのだろう」
「はい」
「今日の様な乱戦を想定すれば、十分な牽制になるな
些か余剰な攻撃だった気もするが」
「そうですね
マジックアローは撃ち過ぎでしたね」
「ははは
そうですね」
「でも、それで無事だったんだ」
「そうだぞ
火球と比べても、遜色は無かっただろう」
「しかしだ!」
「え?」
ここでフランドールは、改めてミリアルドの方を見る。
今は彼に、自身を持たせるべきなのだろう。
だからフランドールは、ミリアルドを褒める事にした。
彼の魔法が、いや彼の魔法こそが役立つと示す。
「今後強力な魔物が現れた時
君の魔法はもっと役に立つかも知れない」
「オレの?」
「素材なんか気にしてられない、そんな危険な状況の時は…
迷わず味方を守る為に撃ってくれ
それが多くの人を救う力になる」
「はい」
フランドールは、魔物が日に日に強くなる事を懸念していた。
このまま魔物が強くなれば、火球程度では歯が立たない日が来るだろう。
いや、そんなに先の事では無いのかも知れない。
だからこそ少しでも、攻撃の手段が重要になるのだ。
「ミリアルド」
「はい?」
「良かったら、もっと力を身に着けないか?」
「え?」
「今は…
火球でも十分な威力だろう」
「はい」
「だが、そのうち太刀打ち出来なくなるかも知れない」
「え?
まさか?」
「いや、必ずそうなるだろう
そんな気がするんだ」
「フランドール様…」
フランドールは、まだ見ぬその先があるかの様に森の向こうを見る。
この向こうには、もっと強い魔物が居る可能性があるのだ。
現にアーネストは、オーガですら下級の魔物だと言っていた。
そう考えれば、今後はもっと強力な魔法が必要になるだろう。
「この戦いが…
魔物の侵攻が終わってからで良い
魔術師達で集まって、強力な魔法の開発を急いで欲しい」
「強力な魔法ですか?」
「そんな物が必要なんですか?」
「ああ
どうにも…
間に合わない気がするんだ」
「何にですか?」
「そうですよ
そんな物が、本当に必要になるんですか?」
「ああ
そんな気がするんだ」
「分かりました」
「ギルド長に相談してみます」
「頼むよ」
「はい」
魔術師達が答えていると、ミリアルドが不意に跪いた。
ミリアルドはそのまま、臣下の礼を執って頭を下げる。
「この不肖ミリアルド
フランドール様の為に魔法開発に携らわせて頂きます」
「ミリアルド…」
「お前…
そこまで…」
「この身はダーナの物でありますが、フランドール様の為の魔術師として
貴方様の為に誠心誠意働きます」
「ミリアルド…」
それはミリアルドの覚悟であり、フランドールに従うという誓いであった。
本来は、フランドールはまだ領主代行でしかない。
それでも今までの領主であったアルベルトや、その息子であるギルバートに従うのではない。
あくまでフランドールを主として、彼に仕えるという誓いだった。
そこまでフランドールを、主として認めたという事だった。
「わたくしフランドール・ザウツブルグは、ミリアルドを臣下と認める
その身を護り、その忠誠に応えると女神様に誓います」
「フランドール様」
フランドールは誓いの言葉を紡ぎ、剣を抜いてその刀身をミリアルドの右肩に置いた。
これにて臣従の宣誓は果たされて、ミリアルドはフランドールの臣下となった。
本来は領主の御前か国王の御前で誓う物なのだが、ここは辺境の森の中。
誓いは女神様の前で果たしたとして、略式で済まされた。
「必ず…
必ず成功させてみます」
「ああ
頼んだよ」
フランドールは手を差し出して、ミリアルドを立たせた。
他の魔術師達が、彼の事を祝福する。
「やったな」
「素晴らしいぞ」
「お前が最初に仕官するとは、先を越されたな」
「頑張るんだぞ」
「ああ
必ずフランドール様の、お役に立ってみせる」
辺境とはいえ、仕官するという事は栄誉ある事だ。
仲間が領主になる方に認められて、仕官したのだ。
魔術師達は心から祝福していた。
ミリアルドは、本当は姉の様に慕っている、ミスティに報告しようと思った。
本当は大好きなのに、最近はすれ違っていて口煩いと思っていた。
だが彼女の言葉の一つ一つが、実は彼を本気で心配している物だったのだ。
心から気に掛けてくれていたと、今では気が付いたから。
だからこそ、これまでの事を謝罪して、仕官した事を告げようと思っていた。
それを聞いた時、ミスティは喜ぶだろうか?
それとも呆れて白い目で見るだろうか?
いや、構わない
大好きな姉に、今日の出来事を話すんだ
そう、帰ったら真っ先に…
ミリアルドはそう思い、目頭が熱くなっていた。
それを見て揶揄う者も居たが、今はそれも心地よかった。
仲間に認められて、爪弾き者では無く仲間としてされたからだ。
ミリアルドは初めて、周りに認められたと思っていた。
こんな顛末があっても、フランドールはしっかり仕事を果たした。
休憩後にはワイルド・ボアの群れを見付けて、8匹とはいえ狩って帰って来た。
それを手土産に、夕刻前には城門の前まで来ていた。
そこで何が起こるかも知らないで…。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。