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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第107話

ギルバート達がオーガと戦っている時、フランドールもオーガに遭遇していた

今日は狩はしていなくて、獲物を探して森を徘徊していた

3匹が前方を歩き、周囲を確認していた

後ろにも2匹居て、こちらは前方の3匹より大きくて一回り強そうな個体だった


フランドールは斥候の報告を聞くと、直ちに部隊を戻らせた

3匹に見付かっては、残りの2匹も加わって一気に来るだろう

その前に状況を確認して、策を練る必要があったからだ

5匹を一度に相手にするより、3匹と2匹に分けて戦った方が安全だろう


「どうしますか?」


兵士は小声でフランドールに相談する。

あまり大きな声を出すと、オーガに見付かってしまうからだ。

だから小声で、魔物に見付からない様に相談していた。


「そうですね

 先ずは手前の3匹を倒しましょう

 それも出来れば、後ろの2匹に気付かれる前に」

「え?」

「何故だい」


フランドールの提案に、ミリアルド達が反論をする。

普通に考えれば、フランドールの作戦が有効だと判断するだろう。

しかしミリアルド達は、不満そうにしていた。


「ん?

 ミリアルド、どうしたんだい?」

「あんな化け物、オレ様の魔法に掛かれば…」

「魔法?

 どうするつもりだい」

「え?」

「どうやって倒すつもりなんだい?」

「そりゃあ簡単でさあ

 オレが魔法でぶっ飛ばせば、簡単に片が付きますぜ」

「そうかなあ」

「え?」


フランドールはミリアルドの、簡単そうに言う発言に聞き返す。

そしてゆっくりと、諭す様に話し掛ける。


「君の魔法は、確かに強力だろう」

「そうでさあ

 一度に2発の火球を出せる

 こんな事は他の奴には出来んでしょう」

「2発ね…」

「え?」

「それなら2発が当たるとして、残りは?」

「の、残りって…」

「オーガは全部で5匹居る

 残りはどうするんだい?」

「そりゃあ…」

「火球が飛んでる中では、兵士は危険だから近づけないよね」

「…」


ここまで言われて、ミリアルドは改めて気が付いた。

自身の魔法に自信があるのは良い。

しかし過剰な自信は、隙を生んで危険な状況を招く事になる。

それがこの状況なのだ。


魔物が5匹居るのに、2発しか火球が出せないのだ。

そうなれば残りは、どうやって倒すのか?

他の者が魔法を使って、倒すという方法もあるかも知れない。

しかし確実でない以上、それでは倒せない恐れがあるのだ。


「それに、魔物が…

 それで確実に倒せるのかい?」

「ええ

 倒せる筈です…」

「本当かなあ」

「…」

「オークは消し飛んだらしいけど、あれはもっと大きいよ

 倒せなかったら、あいつ等は確実に君達に迫って来るよ

 その時、兵士だけで対応出来るのかな?」

「え?」

「兵士のみんなは、確かに君達を守ろうとするだろう

 それが仕事だからね

 だけど…」

「だけど?」

「守れるかどうかは別だよ?

 オーガは危険な大型の魔物なんだ」

「しかしミスティは…」

「ミスティも倒せてはいないよ」

「え?」


本当は兵士達は、オーガ5匹ぐらいなら倒せただろう。

しかし魔術師が居る以上、何が起こるか分からない。

それこそ昨日の様に、魔法の暴発があるかも知れない。

それに魔術師達を守りながらでは、いつもの様には戦え無いだろう。


そしてミスティは、ミスティが倒せた事を引き合いに出していた。

しかし実際には、ミスティは単独では魔物を倒していない。

倒せるかも知れないが、敢えてそうしなかった。

彼女は複数人の魔術師と協力して、確実に魔物を倒す手段を選んでいたのだ。


「ミスティはね、みなで協力して倒したんだ

 一人では無いんだよ」

「そんな!

 彼女なら、一人で倒せたのでは?」

「さあ?

 でも彼女はそうしなかった

 それは何故だと思う?」

「う…」


フランドールは今度は、支援魔法が得意な魔術師達の方を向く。


「君達は、魔法で妨害が出来るよね」

「はい」

「後方の魔物には、魔法は掛けれるかな?」

「いえ

 さすがにそこまでは…」

「ほら

 こいつ等じゃあ役に立ちませんぜ」

「こ、このお…」

「言わせておけば」

「まあまあ」


ミリアルドの暴言に、他の魔術師が怒り始めた。

しかしフランドールは、そんな彼らを宥めつつ提案をした。

後方が駄目でも、前方の魔物なら無力化出来る。

それならば、他の手段も考えられる。


「それなら、手前の魔物には掛けれるよね

 奴等に不意討ちを掛けて、黙らせるんだ」

「どうやってです?」

「足元に仕掛けて転倒させましょう

 そこで止めを刺すんです」

「ふうむ

 それなら出来そうです」

「転倒だけでなく、茨で拘束もしましょう

 上手くやれば、口も塞げるかも」

「そうですね

 その方が確実でしょう」


魔術師達の言葉に、ミリアルドは歯噛みをして睨み付ける。

自分の活躍を奪いそうな事に対して、悔しそうにしていた。

しかしこの訓練は、単独で倒す事が目的では無いのだ。

みなで協力して、確実に安全な方法で魔物を倒す事が目的なのだ。

だからこそ彼等が、活躍する必要があるのだ。


「ミリアルド

 君は他の魔法は使えないのかい」

「他の魔法?

 そんなの役に立たんでしょう」

「そうかい?

 例えばマジックアローとか…

 威力は低いけど、魔物の損傷を抑えれるよ

 そうすれば魔物の素材は無事に取れるだろう?」

「素材?」

「そう、素材だ」

「そんな物が、何の役に立つんですか」

「君のその杖…

 何の素材が使われているのかな?」

「え?」


ミリアルドの杖は、オークの魔石を使っている。

しかし小さな魔石を使っているので、大きな効果が得られていない。

これがオーガの魔石なら、もっと魔力が込められるだろう。

そうなれば、ミリアルドの魔法の威力も上がる事になる。

ミリアルドは、その事に気が付いていないのだ。


「オーガの魔石が取れたら、それを使って杖を強化出来るだろう

 その為にも、魔物の遺骸はなるべく損傷が無い事が好ましい」

「損傷…」

「そう

 君が昨日燃やした事で、折角の魔石や皮、骨といった素材が台無しになったんだ

 なんでギルバートが怒っていたのか、君は理解出来ていなかったのかい?」

「それは…」

「彼が怒るのも当然だろう

 折角の素材を、君達が台無しにしていたんだから」

「オレ達が…」

「ああ

 燃やしたり破壊しなければ、より強力な武具の素材になっていたんだ

 それを君達は、必要無いと駄目にしてしまったんだ」

「オレ達、そんな事を…」

「ああ

 だから怒られたんだよ

 そりゃあ仲間の兵士達を、魔法で攻撃した事も問題だ

 だけど何よりも、君達の心構えの問題なんだ」

「オレ達の…」

「心構え…」


ミリアルドはここで、昨日の事を思い出した。

昨日は真面目に聞いていなくて聞き流していたが、確かにギルバートは言っていた。

魔物の素材が駄目になると。

それなのにミリアルド達は、笑いながら魔物の遺骸を破壊していたのだ。

それは怒られても、当然の事だった。


「それじゃあ…

 オレ様の魔法は…」

「他には使えないのかい?」

「え?」

「フランドール様

 そいつは火球しか使えないんです」

「そうです

 火球を覚えてからは、そればっかり使って…

 他の魔法は馬鹿にして覚えなかったんです」

「それはまた…」

「オレ…」

「君達は?

 君達も使えないんですか?」

「オレはマジックアローなら…」

「私は拘束の魔法なら」

「そうか…」


「どうやらミリアルド以外は、戦闘の役にたちそうですね」

「そんな

 オレでも火を起こしたり出来ますぜ」

「いや

 それじゃあ役に立たんだろう」

「そんな!」


ミリアルドは反論したが、火を起こすのは戦いには役立たない。

フランドールは冷静に諭す様に、ミリアルドに伝えた。

このままでは、彼は本当に役立たずになってしまうだろう。

ここが彼の、分岐点であるのだ。


「君には必要になるまで、後方に待機していてもらうよ

 残念だがこれは決定事項だ」

「そんなあ…」

「まだ活躍する場が無くなったわけではないよ

 ただ、今の君の魔法は使えない」

「うう…」

「今のままでは、君は何も出来ないだろう

 変わろうとしないとね」

「オレが…

 役立たず?」


ミリアルドはガックリと落ち込むと、後方に下がった。

フランドールの言葉は、ミリアルドの心に深い傷を与えていた。

しかしそれでも、誰かが言う必要があったのだ。

彼に真実を告げて、理解させる必要があったのだ。


「それでは作戦を立てよう

 先ずはどうやって倒して行くかだ」

「はい」

「君達の魔法を、有効に使う作戦を立てよう」

「それならば…」


フランドールは魔術師の編成を組んで、護衛の兵士と共に移動させた。

合図と共に魔法を放ち、先ずは手前のオーガから狙う事にする。

具体的な手順を説明して、使用する魔法を決めておく。

その上で咄嗟の時に、どういう魔法に切り替えるかも説明する。

そうして作戦を伝えてから、魔物に対して接近する事にする。


「良いか

 先ずは魔法で拘束し、兵士が倒しに行く

 これは連携を訓練する為の行軍だから、せいぜい奴等には良い練習相手になってもらおう」

「はい」

「後続の魔術師は、マジックアローで頭を狙うんだ

 良いな

 兵士に当てない様に気を付けるんだよ」

「はい」

「兵士達は魔術師の邪魔にならない様に、頭の近くには行かない様に

 射線を避けつつ、手足の切断に専念する様に」

「はい」

「では、合図で攻撃を開始する

 3匹を倒したら、後続の2匹も同様の戦術で倒す

 各自合図に注意しつつ、魔物との距離を空ける事」

「はい」


それぞれが配置に移動して、フランドールの合図を待つ。

オーガがゆっくりと前進して、力任せに木をへし折って行く。

魔物はフランドール達に気が付かず、そのまま森を進んで行く。

魔物が予定の地点に差し掛かったところで、フランドールが合図を送った。


「今だ、撃て!」

「スネア―」

「マッド・グラップ」

グガ?

グゴオッ!


魔術師達は呪文を唱えて、後は発動させるだけの状態で待機していた。

そして結句を唱えて、魔物に向けて魔法を発動させる。

3匹のオーガは不意に起こった足元の異変に気付くが、そのまま避けられずに転倒する。

そこで次の魔法が発動した。


「ソーン・バインド」

グ…

ゴア…

グガガガ…


地面から茨が伸びて来て、オーガの顔に絡みついた。

1匹は抵抗しようとしたが、それでも顔を覆われては、声を上げる事は出来なかった。

必死になって茨を引き千切ろうとするが、次々と生える茨に成す術は無かった。

オーガは茨に巻きつかれて、そのまま身動きがとれなくなる。


そこに兵士が近付き、腕や脚を切り付ける。

最初こそは抵抗出来たが、すぐに腕の腱が切られて動けなくなった。

やがて頭に数本の矢が立てられて、オーガは沈黙する。

時間にして5分ぐらいだっただろう。


後方のオーガが気が付くが、ここまで来る頃には倒せていた。

そうしてオーガが向かって来る前に、魔術師達は再び呪文を唱え始める。


「残りもやるぞ」

「はい」

「スネア―」

「マッド・グラップ」

グゴア!

ゴアア…


走って来たオーガは、そのまま勢いでずっこけた。

足を掴まれたり、足元がぬかるんで身動きがとれなくなる。


ズシイン!

ドガアン!


大きな音を立てて、巨体が盛大に転がる。

魔物はそのままの勢いで、地面に派手に転がる。

そうして受け身を取れなかった為に、魔物は地面に転がってしまう。

今度は茨を出すまでも無く、兵士が接近して切り刻んでいった。


「喰らえ」

「うりゃああ」

グゴ…ガア…

ガアア…


倒れたオーガは動揺し、訳が分からないままに倒された。

首を剣で切り裂かれて、胸に突き立てられた。


「ふう」

「無事に倒せましたね」

「見事だったよ」

「私達でも、十分に役に立てるんですね」

「あんな巨体が宙を舞うなんて」

「く、くすくす」

「そこまで怖く無かったですね」


兵士も魔術師も、無事にオーガを倒せた事を喜び合った。

そこには昨日の(わだかま)りも無く、大きな事を成し遂げた成果を喜び合う仲間が居た。

魔物に対する恐怖は、今では感じられなくなっていた。


「みんな、ありがとう

 おかげで無事に倒せたよ」

「いえ

 フランドール様の指示が的確だったからですよ」

「そうですよ

 上手く事が運びましたね」

「さすがは王都の英雄です」

「そ、それは違うよ…」


フランドールは王都での渾名を言われて、照れて真っ赤になった。

王都での戦いでも、確かに指揮は執っていた。

しかし、今ほどは上手い采配では無かったと自問自答している。

アーネストやミスティの指揮を見て、自分でも新たな作戦の案が浮かんで来ているのは分かっていた。

一人で考えるより、やはり実戦で試したり、誰かの策を見るのは大きな糧になる。

今日の実戦も、後の作戦の礎になるだろう。


「兎に角

 上手く怪我もしないで勝てて良かった」

「オレの…

 オレ様の活躍の場が…」


勝利に喜ぶ後ろで、ミリアルドは落ち込んでいた。

自分が馬鹿にしていた魔術師達が、自分では出来ない勝利をしていた。

それが悔しいと同時に、とても信じられ無い事だった。

役立たずと馬鹿にしていた者達が、自分よりも活躍したのだ。

その事がミリアルドには、信じられない出来事だった。


「ミリアルドさんよ

 ミスティの姉御が言ってた言葉の意味、今なら分かるんじゃあないかい?」

「ミスティ姉の?」

「そう

 魔術師の道は一つじゃあ無い

 みんな何かが出来る

 役に立つ場所があるんだ…って」

「オレの…

 役立つ場所?」

「そうだぜ

 あんたにゃあんたの、役に立つ場所がある筈だ」

「オレの…」

「そうそう」


魔術師達は、落ち込むミリアルドを見て励まそうとする。

先程までは、彼等はミリアルドに馬鹿にされていた。

しかし魔物に勝った今は、精神的に余裕が出来ていた。

それで落ち込むミリアルドを見て、彼を励まそうと思っていた。


「例えばゴブリンやコボルトなら、素材が要らんから問題は無かろう」

「それなら、火球で吹っ飛ばしても問題無いじゃろう」

「そうですね

 それに…」

「それに?」

「火球は使い方次第では、魔物の牽制にも使えます

 要は当てなければ良いんですよ」

「それでは…」

「例えば…

 攻めて来る魔物の前に落とせば、魔物は恐れて歩みを止めるでしょう

 そこを突けば、魔物に不意討ちを与えれます」

「なるほど」

「そういう使い方もあるんですね」

「今日の様な戦いには使えませんが、使い方は色々考えれます」

「そうか…

 使い方は、一つじゃあ無いんだ…」

「そうじゃな

 人はそれぞれいるのと同じで、魔法の使い方もそれぞれあるのかも知れんな」

「オレ…

 オレが役に立つ場所…」


ミリアルドは何かを得たのか?

彼はブツブツと考えに沈み込んでいた。

この辺りは彼もまた、研究馬鹿な魔術師なのだろう。

自身んの今までを省みて、彼は何かを感じていた。


「さあ、先は長いですよ

 次に行きましょう」

「はい」


フランドールはオーガの処分を伝令に任せて、周囲の索敵を始める。

今は周囲には、魔物が潜んで居る気配は無かった。

オーガを倒す時にも、そこまでの騒ぎになっていなかった。

それで他の魔物に、見付かる事も無かった。


「すぐには移動は出来ないので、今の内に回復に努めてください

 魔力が無くては危ないですから」

「はい」

「簡単ですが、干し肉でも食べましょうか」

「そうですね」

「ポーションも良いですが、やはり食べる方が回復出来ますね」


フランドールは兵士の一人に指示して、干し肉を用意した。

それはワイルド・ボアを干した肉で、普通の物よりも美味しかった。

そんな美味しい物を食べると、不思議と元気が出て来る気がした。

そして実際に、彼等は魔力が回復していた。


「これは?」

「ギルバートが用意してくれたんです

 みなさんが頑張る様にと」

「坊っちゃんが?」

「ええ」

「これは頑張らねば」

「そうじゃな

 こんな旨い物を差し入れてくれたんじゃ

 もっと魔物を倒さんとな」

「そうですね

 もっと魔物を倒しましょう」


魔術師達は、思わぬ差し入れに士気が上がった。

そして魔力も回復し、気力も士気も上がっていた。


「出来れば我々でも、また狩ってみたいですね」

「そうそう、昨日の肉は旨かった」

「いいなあ

 こっちは何も狩れなかったから、無しだったよ」

「そりゃあ…なあ」


事情を知っているので、魔術師仲間も言い辛そうにする。

もうミリアルドを責めるのは止めたのだ。

ここで話を蒸し返すのは、あまりにも可哀想だ。

彼は反省して、何かを見出そうとしている。

それが分かっているので、魔術師達は何も言わなかった。


「さすがに毎日は狩れないと思いますが…

 魔物の分布も変化していますからねえ

 もしかしたら…」

「そうですね」

「居たら狩るという事で」

「分かりました

 発見したら狩りましょう

 その代わり、オーガとの戦闘ではしっかりお願いしますよ」

「はい」


食事が終わるのを待って、兵士が報告をする。

彼等も干し肉を食べながら、周囲を見回っていたのだ。

そうして足跡などの痕跡から、魔物が居そうな場所を推測する。


「フランドール様

 向こうでオーガが居た痕跡が有ります」

「それはどっち?

 ここに来た奴?

 それとも他に居るのかな?」

「それが判別出来ませんので、今も周りを確認しています」

「そうか…」


それはオーガの足跡であるが、少し古い物だった。

だからここに居たオーガとは、違う可能性が高い。

しかし足跡の向きから、この周辺に居る可能性が高い。

先のオーガで無ければ、他に居る可能性があるのだ。


「距離が近いのなら、他のオーガの可能性は低いね

 そんなに近かったら、魔物同士で喧嘩になるだろうから」

「ええ

 ですから、仲間が近くに居ないか調べています」

「なるほど

 5匹以上居た形跡があるんだね」

「はい

 10匹は居たと思われます」

「そうか

 そうなると、周囲に狩に出た可能性があるね」

「ええ」


足跡の数から、おおよそ10体は居たと判断出来た。

そう考えれば、その他にもオーガが居る可能性がある。

少なくとも、先ほどのオーガ以外に居るとみて良いだろう。


「それでは…

 その痕跡の向こうも調べようか

 もしかしたらそっちに居るかも知れない」

「分かりました

 少し時間をください」

「頼んだよ」


兵士がそう言って、オーガの足跡のあった方向に駆け出した。

その間に、魔術師の一人がフランドールに話し掛けて来た。


「あのお」

「ん?」

「私も索敵してみましょうか?」

「ああ、そうか

 君も索敵の魔法が使えるんだね」

「はい」

「お願い出来るかな」

「はい

 それでは

 大気に漂いし魔力よ

 我が目に汝が足跡を示し給え」


魔術師は立ち上がると、呪文を唱え始めた。

周囲に魔力が広がって行く。

最近は身体強化を訓練しているからか、フランドールも魔力の流れを感じられた。

索敵の魔法とは、これを周囲に広げて、魔力の触覚で他の魔力を感じるものだそうだ。


アーネストの説明では、魔力を広げて行き、皮膚の様に触れるのを感じるんだそうだ。

慣れればその感覚で、ある程度の距離や数、大きさを感じれるみたいだ。

魔術師は魔力を波の様に放ち、その感覚で周囲の魔力を察知する。

しかし周辺からは、魔力を感じる事は出来なかった。


「そうですねえ…

 近くには居ないみたいですね」

「そうですか」

「少なくとも、周囲には魔力を感じません」


近くに居ないなら、やはり痕跡の向こう側に居るのだろう。

兵士の報告を待ちながら、魔術師達はポーションや備品の点検をする。

時間が十分にあったので、魔力は十分に回復していた。

後は兵士が帰って来た時に、オーガの居場所が分かっていたらすぐに出発になるだろう。

それまでに準備をしておく必要があった。


それから20分ぐらい経った頃、ようやく兵士が戻って来た。

その顔は上気して、走って戻って来た事が分かった。

彼は無理して痕跡を追い、慌てて引き返して来ていた。

そしてその先では、魔物が争っている光景を目撃していた。


「居ました

 オーガとオークが」

「居ましたか?」

「はい

 これから案内します

 ただオークを狩っていますので、気を付けてください」

「ふむ

 やはり狩をしていますか」

「ええ

 ですから危険です」


オーガはオークを襲って、食おうとしているのだ。

それで迂闊に近付けば、危険な戦闘に巻き込まれる。

近付くのであれば、上手く倒す必要があった。


「どう致します?」

「そうですねえ

 オークの相手は面倒ですし

 暫く様子を見ますか

 それでオークが居なくなれば、オーガを狩りましょう」

「分かりました」


大体の予定が決まったので、兵士はオーガの居る場所へと案内を始めた。

先ずはオーガが来た方向へ向かい、大きく開けた場所に出た。

それはオーガが集団で暴れた跡で、木が倒れてちょっとした広場になっていた。

そこに足跡があり、そこからオーガが向かった跡が残っている。


「これが先ほど話した痕跡で、魔物はこの先になります」

「この木が倒された方向に向かっています」

「それではここからは、周囲を警戒しながら進みましょう」

「はい」


フランドール達は、緊張しながら進んで行った。

この先にはオーガが居て、オークを相手に暴れているのだ。

そしてオーガを倒す為には、先ずはオークが倒される事を確認する必要があった。

その為にも見付からない様に、慎重に進む必要があった。

まだまだ続きます。

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