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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第106話

魔物の侵攻が進み、魔物の分布図も様変わりしていた

ゴブリンやコボルトは平原に追いやられて、代わりに森にはオークやオーガが住み着いていた

ゴブリンやコボルトは弱い魔物なので、平原の奥に集落を構えてそこへ定住を始めている

オークは森に残ったワイルド・ボアを狩り、そこに集落を構えていた

そこへオーガが侵攻してきて、オークやワイルド・ボアを狩り始めていた


東の森のオーガは逃げて来た個体で、北に比べると小さくて痩せていた

どうやら魔物の侵攻の影響で、北から逃げて来たのだろう

だから城壁に近付けば、警備の兵士達でも狩る事が出来ていた

今朝はそんな魔物が森から出て来ては、兵士に狩られていた


朝の7時の鐘が鳴る頃、多くの兵士や魔術師達が城門に集まって来ていた。

昨日のエドワードの檄が効いたのか、兵士は魔術師達を見ても何も言わなかった。

多少顔を険しくする事はあっても、文句を言う者はいなかった。


それが逆に居心地を悪くするのか、魔術師の一部は緊張して小さくなっていた。

どうやらギルド長にも叱られて、少なからず反省はしている様子である。

このまま数日は、大人しくして欲しいものである。

しかし魔術師なので、そこは期待は出来なかった。


事前に相談してあった為、魔術師の編成は滞りなく行われた。

ミリアルドはフランドールの部隊に入り、ミスティは将軍の傍らに待機していた。

その視線は鋭く、昨日のミスを犯した魔術師達を見張っていた。

睨まれた魔術師達は、震え上がって小さくなっていた。


「そんなに睨まなくても…」

「いいえ

 彼等は反省が足りません

 普段からこうなんですから…

 ぶつぶつ」

「はあ…」


ミスティは魔術師達が、再び粗相をしないか気が気では無かったのだ。

折角自分がフランドールに認めてもらえたのに、一部の馬鹿者のせいで信用が落ちたのだ。

これ以上の失態は許せないと、しっかりと見張るつもりの様だった。

その様子を見て、ギルバートは肩を竦める。

それでヘンディーが、緊張を和らげる為に話し掛ける。


「まあ、気負い過ぎない様にしてください

 あくまでも今日も、侵攻に備えた訓練ですから」

「はい」

「本番で失敗しない為の訓練ですからね」

「ええ、そうですね」

「あまりここで気負っていては、向こうでもちませんよ」

「あ…

 そうですわね

 すいません」


将軍の言葉に、ミスティの視線が和らぐ。

それを見て、魔術師達は救われた気持ちになった。

失敗した魔術師達だけではなく、他の魔術師まで委縮していたのだ。

それだけミスティの視線は、鋭く険しいものだった。


ミスティはそこまで気が強いわけではないが、年長の魔術師の一人でもあった。

婚期の18を過ぎてもギルドに所属して、いつも下の者を厳しく指導していた。

それで行き遅れて、相手が現れない苛立ちをぶつけているとまで言われていた。

しかしそれは、彼女に叱られた者達の根も葉もない嘘である。


彼女は年少のアーネストの実力を見て、考えを改めていた。

それで魔術師の可能性を求めて、研究に打ち込んでいた。

だからこそいい加減な、ミリアルドの様な魔術師達が許せないのだ。

そのせいで強気な発言をして、彼女は孤立をしていた。

ギルド長はそんな彼女の行く末を心配していて、何とかならないかと心を砕いていた。


「ここで何を言っても始まりませんわ

 現地でしっかりと指導します」

「それはそれで…」

「いいえ

 しっかりと働いてもらわないと

 魔術師の評価が下がってしまいます」

「ううむ…

 そんなものかなあ?」


キリッと目を光らせて、彼女は魔術師達を見た。

瞬間再び魔術師達は委縮したが、先ほどの様に長くは睨まれなかった。

ホッと胸を撫で下ろして、魔術師達は兵士の支度を待っていた。

その間にもミスティは、新しい魔法の呪文を暗記し始めていた。

その姿勢こそが、彼女が有能な証なのだろう。


今朝は昨晩からの魔物も多く、城門の中にはオークとオーガの遺骸が並んでいた。

夜の間にも、城門の近くをうろついていたのだ。

それを夜番の騎兵達が、出撃して狩っていた。


「これは昨日のではないね

 今朝までに狩られたのかな?」

「はい、そうです」

「弓兵と協力して、狩れるだけ狩っておきました」

「ううむ

 油断が出来ん状況じゃな」

「ええ」


エドワードが尋ねると、警備の兵士はうんざりした様子で答えた。


「昨日から、また増えまして…

 オーガだけでも8匹出ましたよ」

「そうですか」

「困ったものです」

「素材が手に入るのは良いのですが…

 夜番の兵士達も疲れています」

「そうですか…」

「明日はもっと増えるでしょうね」

「そうなると、訓練をしていて良かったですね」

「え?」


エドワードの予想外の言葉に、兵士達は虚を突かれて驚いていた。

魔物が増えているのに、エドワードは訓練の話を出したからだ。


「だって君達でオーガを狩れなかったら、大事になっていたでしょう?」

「あ…」

「君達が立派になってくれて、私も安心です」

「隊長…」


思いがけないエドワードの言葉に、兵士は感動していた。

見ている人は居るんだなと、そんな思いに胸が熱くなる。

そんな些細な事でも、警備の兵士の士気が上がる。

エドワードはそうやって、兵士達の士気を上げるのが上手なのだ。


エドワードは他の兵士達にも声を掛けて、頑張ってくださいと言った。

兵士達は疲れも吹っ飛んで、再び周囲の警戒に戻って行った。

そうした気遣いを、彼は自然と行えるのだ。


「あれで平常運転なんだ、さすがだよな」

「エドワード隊長かい?」

「ああ

 あんなに褒めれるもんなんだな」


そんなエドワードの労いを見ながら、フランドールも自分の部隊の準備をしていた。

側にはギルバートが立っていて、ミリアルド達を見張っていた。


「そうですね

 あの人は、昔からああみたいですよ

 だから、付いた渾名人誑(ひとたら)しだとか…」

「ぷっ

 それは酷いなあ」

「まあ、悪口でしょうね

 あの人ほど部下を掌握出来る人は居ませんでしたし

 街の住民にも慕われていますからね」

「へえ」

「一時は将軍として、国境も守っていましたからね」

「そうなんだ」

「ですから

 なんであんな人が、離れた砦を守っていたのか不思議なんですよね」

「うーん」


フランドールは考える。


それは有能だからでは?

有能だからこそ危険な砦の指揮を任せていたし、街から離されたのだろう

街に残っていれば、どうしても勢力争いに巻き込まれる

私もそうだったからな


フランドールも、王都で勢力争いに巻き込まれていたからよく分かった。

それにダーナでは、領主を追い落とそうとする勢力もあった。

そうした勢力がある以上、有能な隊長を街に置く事は出来ない。

彼が敵対勢力に、利用される恐れがあるからだ。


「君の父上には、何か考えがあったんだろう」

「そうですかねえ?」

「きっと、そうだと思うよ」

「はあ」


ギルバートはその言葉には、納得はしていなかった。

しかしフランドールがそう言うのだから何かあるんだろうと、そう思う事にした。

大人には大人の、考えや理由があるんだろうと。

それはフランドールの様に、領地の経営をした者にしか分からない理由があるのだろう。


「それよりも

 君は支度は良いのかい?」

「ええ

 将軍が居ますし

 何よりも…

 フランドール殿の一押しの、ミスティさんが居ますしね」

「ん?」


フランドールは、そう言ってニヤニヤ笑うギルバートを怪訝そうに見た。

ギルバートは、昨晩の内にアーネストから聞いていた。

どうやらフランドールが、ミスティを気に入っている様子だと。

そしてその事で、フィオーナから関心が離れている様だと聞いていた。


「まあ、確かに彼女は有能だと思うよ

 よく周りを見ているし」

「そうですね」

ニヤニヤ


「んー…?

 それより、ここに居て良いのかい?」

「ええ

 あいつ等が気になりますし」

「そんな!」

「信じてくださいよ」


ギルバートにあいつ等と言われた、ミリアルド達が悲壮な声を上げる。

ギルバートからすれば、目を離すと何をするか分からなかった。

だからこそギリギリまで、見張っていようと思っていたのだ。


「昨日の事は十分に反省しています」

「もうしません」

「勘弁してください」

「うーん…」


尚もギルバートは、信用出来ないとジト目で見ていた。

しかし時間が来たので、諦めたのか去って行った。

去り際にギルバートは、ぽそりと辛辣な一言を残す。

それはミリアルド達に、釘を刺す為の一言だった。


「一応、信頼はしていないが、フランドール殿が指揮するからな

 今日の行動次第だな」

「はい」

「誠心誠意、頑張らせていただけます」

「大丈夫かなあ…」


そう言いながら、ギルバートは自分の部隊に戻って行った。

後には、頭を下げて固まったミリアルド達が残された。

そんな彼らを慰める様に、フランドールは声を掛ける。


「さあ

 結果を出せば良いんだ

 頑張って行こう」

「はい」


ギルバートの行動が、思わぬ結束を生み出していた。

それが意図したものかは、分からなかった。

しかしギルバートの言葉で、ミリアルド達は反抗出来なくなっていた。

それはフランドールにとっても、良い結果となっていた。


8時の鐘が鳴り響き、城門が開き始める。

兵士達は準備も出来ており、順番に出撃して行く。

エドワードもいつの間にか戻っており、東の門から出撃していた。

彼は兵士を率いて、上機嫌で森に向かって行った。


北の城門ではまたオークが現れていて、警備の兵士が梅雨払いに出て行く。

狩に出る部隊は、これから森の中でオーガと戦わないといけない。

その為にも、ここで消耗するわけにはいかないのだ。

それで弓兵が牽制しつつ、城壁の周りのオーガを倒していた。


「今日のオレ達の仕事は、街を守る事だ」

「付近の魔物はオレ達が狩るぞ」

「おお!」

「近付くオーガを射抜け」

「こっちも出撃するぞ

 隊長に訓練の成果を見せるんだ」

「おう」


エドワードの檄が効いたのか、警備の兵士達も気合が入っていた。

弓兵達は見事に目や眉間を射抜き、残ったオーガは兵士達が取り囲む。

そうしてスキルで手足を切り割いて、引き摺り倒していた。

彼等はあっという間にオークを倒して、周囲の安全を確保していた。


「頼もしいね」

「ええ」

「この前までは、オークも怖がっていたのが嘘の様だ」

「はははは

 そうですな」

「この調子では、ワイルド・ベアも倒しそうだな」

「止めてくださいよ

 オレの立場がありませんよ…」


将軍やギルバートの前でも、兵士達が生き生きと戦っていた。

彼等は現れたオーガを、数人で取り囲んでいた。


「オーガだ

 オーガが出たぞ」

「任せろ

 うおおおお」

「食らえ

 スラッシュ」

ドシュッ!

ザシュッ!

グガアアアア


群れからはぐれたのか、1匹のオーガが城壁に近付いて来る。

それに警備の兵士が向かい、先ずは両足を叩き切った。

倒れたオーガに近付くと、さらに両腕を切り落とす。

そして止めに、首筋に剣を突き立てていた。


「この分なら、城門にオーガが来ても大丈夫そうですね」

「そうですな

 問題無く戦えています」

「そうなってくると、やはり問題はワイルド・ベアか」

「でしょうな

 オレでも苦戦するんですから」

「将軍は遅いから…」

「それって酷くありません?」


訓練の成果が出ているのか、兵士はオーガが1匹ぐらいでは動じなくなっていた。

こうなってくれば、残る問題はワイルド・ベアである。

あの魔物だけは、多くの兵士が恐慌状態に陥っている。

そう考えれば、ワイルド・ベアに耐えられる様になる必要があった。


「それでは、オレ達も行きましょうか」

「ええ

 今日は魔物を狩れれば良いんですが」

「そうですね」

「今度は頼みますぞ」

「ええ

 任せてください

 あいつ等の様な馬鹿な真似はさせません」


ミスティはそう言って、魔術師達を睨み付ける。

それで再び、魔術師達は震え上がる事になった。


ギルバートとしては、少しでも魔物を狩っておきたかった。

それは素材も必要だが、魔術師の適性を確認したかったからだ。

フランドールから聞いてはいたが、ギルバートは直接見ていない。

だからギルバート自身が、魔術師の魔法を見る必要があるのだ。


行軍は問題なく、森に入ってから少し経つと早速オーガが現れる。

その数は4匹で、先のオーガの仲間かも知れなかった。

オーガは咆哮で威嚇するが、その個体は思ったほど大きく無かった。

どうやらこの個体は、北から逃げて来た魔物なのだろう。


「付近には他の魔物は居ません

 しかし気を付けてください」

「はい」

「先ずは先頭の1匹に狙いを定めます

 マジックアローの準備を」

「はい」

「呪文を唱えて」

「はい」

「大気に漂いし魔力よ

 その力を我が指先に集め給え

 魔力の矢(マジックアロー)

「こちらの部隊は拘束の為に、地面に泥濘を作ってください」

「はい」

「そっちのあなたは、蔦の魔法が使えましたよね」

「はい

 左奥のオーガでよろしいですか?」

「ええ

 お願いします」

「大地の精霊よ

 我が呼び掛けに応え給え

 敵を泥沼に引き摺り込み、その動きを封じ給え

 大地の手(マッド・グラップ)

「大地の精霊よ

 我が呼び掛けに応え給え

 その力を持って、植物を動かし給え

 蔦で敵を縛り、拘束し給え

 蔦の拘束(ソーン・バインド)


次々とミスティの指示が飛び、オーガに魔法が放たれる。

昨日と違って、今日は直接攻撃が出来る魔法がある。

その分オーガを仕留める手段が増えてくる。

先ずはマジックアローが、オーガの頭に向けて放たれた。

その間にミスティが、風の刃(ウィンド・カッター)で直接オーガを攻撃する。


ミスティは新たに、雷撃の魔法を教わっていた。

しかし確実性を考えて、先ずは得意の風の魔法を使ったのだ。


「マジックアローは魔物の喉と眼を狙って放って

 足止めは私がします

 私に風を操る力を貸してちょうだい

 敵を切り裂く、風の刃を放って

 風の刃(ウインド・カッター)

シュバババ!


ミスティが風の魔法を放ち、2匹のオーガの脚を切り裂いた。

風の魔法は、ミスティの使える魔法の中で一番威力がある魔法だ。

それでも威力は、火球に比べると負けていた。

脚に切り傷を与えたが、魔物は少し怯んだだけで転倒までは出来なかった。

しかし泥濘に足を取られたり、小さな岩塊や蔦を使って動きを止める事に成功した。


「今よ

 ありったけの魔法を頭に集中して」

「おう」

「マジックアロー」

シュババッ!


再び魔法の矢が飛んで行き、オーガの頭に突き刺さる。

今度は動きを封じているので、オーガの急所に突き刺さる。

それで魔物は悲鳴を上げて、そのまま地面に崩れ落ちた。


グゴア…

グガア…


4匹の魔物は、頭に矢を受けてよろめく。

さすがに大型の魔物でも、頭を集中して狙われては一溜りも無い。

残りのオーガも頭に矢を突き立てられて、絶命して倒れて行った。

結果としては、今日は上手く魔物を倒せていた。

やはりミスティの指揮は、魔物を的確に倒す事が出来ていた。


「凄い…」

「4匹とは言え、魔術師だけで倒せるとは…」

「やったわ

 上手く倒せたわよ」

「おお」

「倒せました」

「こんなに上手く行くなんて」


魔力で作った矢は、時間が経てば分解されて消えて行く。

後には頭から血を流した、魔物の死体だけが残った。

いつの間にか地面から生えた蔦や岩塊も消えており、遺骸の状態も良かった。

昨日の様に、魔物の遺骸を損傷する事は無かった。


「素材の損傷も少ないな」

「ああ

 これが火球だったら、焼け焦げていただろうな」

「そうだよな

 黒焦げだったもんな」

「それはミリアルドが馬鹿なだけです

 あれほど素材を大切にしろと言っておいたのに…

 本当に申し訳ありません」

「いや、ミスティさんが謝る事では…」

「いえ

 私の指導が甘かったんです」

「え?」

「あれで?」

「なんですって!」

「ひいいい」

「すいません」


一部の魔術師が反応するが、ミスティに睨まれて視線を逸らす。


「はははは」

「指導ですか

 失礼ですが、ミスティさんとミリアルドの関係は?」

「え?

 …あれは不肖の弟弟子ですわ」

「弟弟子?」

「ええ」


ミスティとミリアルドは、同じ師に従っていた。

それなのにミリアルドは、自信過剰で言う事を聞かなかった。

それでミスティと違って、破門に近い状態で放逐されていた。

ギルドには所属していたが、師事する者が居ない状態になっていた。


「私がギルドに入った翌年に、あの子は入ってきました」

「あの子…」

「ぷっ」

「当時は火を起こせるぐらいでしたが…

 アーネストさんの魔法が公開された頃から、あの子は変わってしまったわ

 火球を使える様になってから、急に強気になって…」

「ああ…

 なるほど」


今まで地味だった魔術師が、急に派手で強力な魔法を身に着けた。

それで気が強くなって、粗暴な態度を取る様になったのだと。

そこから師匠の言葉を聞かなくなり、破門とされていたのだ。

真面目に頑張っていれば、もう少しマシな魔術師になっていただろう。

しかし火球の威力に目が眩んで、そればかり使う様になってしまっていた。


「何度か叱ったんですけど、言う事を聞かなくなって…

 ですから、今度の事は良い反省の材料になるでしょう

 派手な攻撃だけが、魔術師の本領では無いんだと」

「そうですね

 そうなると良いんですが…」

「そもそも

 魔術師という者は頭を使って…」

「しかし弟弟子ってだけで、そんなに心配するものなんですか?」


ギルバートは素朴な疑問を感じて、質問してみた。

このまま放っておくと、話が長くなると感じたからだ。

それにアーネストの話しでは、二人はそんなに仲が良い感じでは無かった。

それなのにミスティは、真剣にミリアルドをどうにかしようとしていた。

それがギルバートには、不思議に感じられていたのだ。


「え?

 …そうねえ」


ミスティは小首を傾げて、暫し考える。

しかし考えてみても、良い答えは浮かばなかった。

彼女としても、どうして気に掛けるのか分からないのだろう。

それで悩んで出した答えは、意外な答えだった。


「馬鹿な弟って、それだけで可愛く見えるものなのよね」

「ぷっ」

「くすくす」

「なるほど」

「え?」


兵士は笑いを堪えて、将軍はしたり顔で頷く。

ギルバートは理解出来なくて、不思議そうな顔をしていた。


「弟?」

「坊っちゃん

 出来の悪い弟や子供って、それだけで心配で可愛く感じるものなんです」

「そうそう

 つい構ってしまって、世話を焼きたくなるのよね」

「そう…なんですか?」


ギルバートは自身が子供だし、弟も居なかった。

それに妹は居たが、フィオーナは別段出来が悪い訳では無かった。

少し手は掛かるが、そうで無くとも可愛いと思える。

だからその意味が、今一分からなかった。


「手間が掛かるから、余計に可愛く思えるんです」

「坊っちゃんは妹しか居ませんしね」

「それも出来の良い…

 あ!

 でも、イーセリアは可愛く思いませんか?」

「イーセリア…

 確かにセリアが困った事をする時、心配したりしますね

 それで可愛く…

 なるほど…」


よくセリアが、庭で一人でゴソゴソしていて心配して見に行っている。

そんな時にニコニコしているセリアを見て、愛しく感じる事がある。

ギルバートはそんな感じかなと、何となくだが理解した。

少し違っていたが、そう違わない物なのだろう。


「そうだな

 オレも子供が出来たら、そういう気持ちになるんだろうな」

「将軍?」

「ヘンディー様

 子供が?」

「ああ

 どうやら懐妊したみたいなんだ」

「そうなんだ」

「まあ

 それはおめでとうございます」

「はははは

 ありがとうございます」


将軍も愛する妻を思い出し、その子供を想像して頷く。

最近になって、妻が悪阻(つわり)の症状を見せていた。

まだ確認は出来ていないが、恐らく妊娠したという話であった。

だから将軍は、なおさら負けられないと思っていた。

しかし今は、それよりも心配な事があった。


「だが、今は出来の悪い部下で一杯一杯だ

 常に心配でならん」

「え?」

「そんなあ」


ニヤリと将軍は笑い、部下達の顔を見る。

兵士達はそんな将軍を見て、不満そうな顔をする。

そんないつものやり取りを、将軍は楽しそうにしていた。


「ほら

 そういうところだぞ」

「それは酷いですよ」

「そうですよ」

「はははは

 それなら次の魔物で、お前等の力を示せよ

 次はもっと沢山の魔物がいいな

 連携も確かめたいし」

「そうですね

 数が多くなれば、直接狙うよりは牽制に回りましょう

 頭を狙えば、オーガも前進を躊躇うでしょうから」

「うん

 複数の魔物に対する訓練も、しておきたいな」


将軍の提案に、ミスティも頷く。

今までのは数が少なかったから、直接叩く事が出来た。

しかし、数が多くなると、魔術師だけでは倒せないだろう。

そうなった時に、如何にして魔物の群れと戦うのか?

それで生存率も大きく変わってくる。


「アーマード・ボアやワイルド・ベアが出て来たら

 兵士が前線で戦いましょう」

「それでは私達は、牽制の魔法を中心に後方から支援しますわ」

「ええ

 それでお願いします」


「オーガが多数出て来た場合は?」

「それは数と状況によるな

 兵士が前に出る事にはなるが…

 場合によっては兵士が牽制に回り、魔術師の攻撃魔法で倒しても構わんだろう」

「それに…

 オーガはそれほど多くの群れを作らんからな」

「そうですね」


具体的な対策は現地で考える事にして、少しの休息の後に部隊は再び前進を始める。

魔物が襲来するまでに、後2日しか残っていない。

時間は有限なのだから、少しでも実戦を積む必要があった。

まだまだ続きます。

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