第104話
熊の魔物である、ワイルド・ベアを倒せた
その事は、アーネストにとっては嬉しい事だった
魔術師でも工夫すれば、ギルバートの様に戦える事が証明出来たのだ
これで親友と肩を並べて、魔物と戦える事が出来る
アーネストはそう思って、ダーナの街に帰って来た
城門を潜ると、ギルバートが魔術師達を説教している姿が見えた
アーネストは周囲を見回したが、戻っているのは自分とギルバートの部隊だけだ
その他の部隊はまだ戦っているのか、魔物の遺骸だけが戻って来ていた
その様子から見て、他の2部隊は順調な様子であった
「あのお
坊っちゃんは何をあんなに怒っているんでしょうか?」
「さあ?
ただ、恐らくは魔術師達が何かをしたんだろう
おおかた指示を聞かずに、勝手に行動したんだろうな」
傍らの魔術師の質問に、アーネストは淡々と答える。
自分達の部隊では指示を聞かないわけでは無かったが、恐怖に負けて負傷した者が居た。
あちらも何か問題があって、途中で帰還したんだろう。
アーネストはそう予想していた。
アーネストの部隊が帰還した時、城門の中ではギルバートと将軍が魔術師達を説教していた。
二人は相当怒っている様で、熱くなって叫んでいた。
そしてアーネストの部隊が持ち帰ったオーガを指差しては、何かを叫んでいたのだ。
そこへワイルド・ベアを抱えて戻ったものだから、ギルバートは頭を抱えて天を仰いでいた。
まさかアーネストが、ワイルド・ベアを倒して帰るとは思っていなかったのだろう。
アーネストはギルバートの方を見て、何が起こったのか予想してみる。
一番可能性が高いのは、指示を聞かなくて途中で切り上げた事だろう。
幸い怪我人は居ない様子だが、収穫がオーガ1匹だという事が気に掛かった。
まさかとは思うが、他の魔物は駄目にしたのだろうか?
「怪我は…
兵士の方のみですね」
言われてアーネストは、改めて兵士達を見てみた。
確かに兵士が一人、腕や脚に包帯を巻いている。
その眼は険しく、不機嫌そうに魔術師達を睨んでいる。
その様子から、アーネストは何となく察しが付いた。
「ああ、なるほど
彼に魔法でもぶっ放したか」
「え?
魔法をですか?」
「ああ
おおかたよく確認もせずに、ファイヤーボールでも放ったんだろう」
「うげ!
それは…」
「人に向けて放つなんて、まったく」
「まあ、ミリアルドならやりかねませんね」
「そうですよ
あいつらはお調子者のくせに、仕事はいい加減なんだから」
「うん
確かに彼等は困った奴等だ
でも、それでも街を守る為には、強力な魔法を使える魔術師が必要なんだ」
「はあ」
「そりゃそうですが…」
「人に向けて撃つのは、どうかと思いますがね」
魔術師達は納得していないが、より多くの魔物を倒す為には強力な攻撃魔法が必要なのだ。
実際に先ほども、アーネストがワイルド・ベアを倒している。
他の魔術師達も使える様になれば、少なくともオーガぐらいは倒せるだろう。
尤も、安全確認は重要であるのだが…。
アーネスト達が多量のオークやオーガの遺骸を検分している間に、フランドールも帰還してきた。
こちらはオーガとワイルド・ボアが運ばれており、早速ワイルド・ボアの肉の分配の相談が始まっていた。
その肉は美味なので、兵士だけではなく、魔術師達も欲しがっていた。
「私もその肩肉が欲しいわ
私も倒すのに協力したんだから」
「はははは
大丈夫ですよ
まだまだ数はありますから、均等に分けましょう」
「そうですよ
沢山もらっても、あなたでは保存が出来ないでしょう?」
「う…
それはそうですけど」
肉を冷やしたり、凍らせて保存する道具は存在しない。
あくまで氷の魔法を使える者が、一時的に冷やして鮮度を保つぐらいだ。
だから余った肉はそのまま燻製にしたり、干し肉にするしかない。
ワイルド・ボアの肉は干し肉でも旨いが、そんなに沢山は干し肉も作れないだろう。
フランドールとミスティが中心になって、報酬を分配しているとアーネストが近付いて来た。
「なかなか大量に狩れましたね」
「ん?
ああ、アーネストか」
「大量に狩れましたわ」
「オークの群れがワイルド・ボアの群れを追っていてな
おかげで沢山狩れたよ」
「凄いですね
こちらも群れが居ましたから、今日は肉が沢山獲れましたね」
「そうだな
あれは君が狩ったのかい?」
フランドールは、焦げ跡の付いたワイルド・ベアを指差す。
「え?
ああ、ワイルド・ベアですか?」
「うん
あの傷跡は魔法だよね」
「ええ
運よく単独で向かって来たので倒せました」
「君は本当に凄いな
兵士でもまだ、一人では狩れないだろうに」
「いえ
本当は咆哮に怯んで、魔法を撃ち損ねそうになりましたよ
何とか他の魔法を組み合わせて狩れましたけど」
「え!」
「他の魔法って…
複数の魔法を、同時に使いましたの?」
「ここでそれを言うかい?」
「そんな芸当、私には無理ですわ」
「オレ達生きてて良かったな」
「ええ
あんな魔物が居るなんて…」
アーネストの発言に、同行していた兵士や魔術師達は愕然としていた。
アーネストは平然としていたが、実は咆哮には怯んでいたのだ。
それをその場では言わないのさすがだが、失敗していたらどうなっていたのやら。
アーネストは澄ました顔で、見事に魔物を射抜いていたのだ。
しかし実情は、狙いを外すのを恐れて同時に数発を放っていた。
それで連続で放つ予定が、同時に数発の雷撃が放たれていたのだ。
「はははは
そう言うなら、実はまだ余裕があったんだろ?」
「ええ
まあ…」
兵士や魔術師達は内心では、そうは思っていなかったがそこは黙っていた。
アーネストは魔法を放った後に、ふらついていたのだ。
あれは過剰に魔力を消費して、魔力切れの寸前であった。
とても余裕などは無かったのだろう。
しかしどの道、彼等では対処出来なかったのだ。
アーネストが倒した事で、彼等は無事に帰還出来たのだ。
無事だった事に、彼等は素直に安堵していた。
「向こうでは、ギルバートと将軍が怒っている様子だけど
何かあったのかな?」
「さあ
魔術師達が何かした様ですが」
「何かって…」
「どうせミリアルドが、暴走したんでしょう」
「だろうね
包帯を巻いた兵士が居るしね」
「包帯って…」
「おおかた火球でもぶつけたんでしょう?
あいつったら、何かと火球をぶっ放しますもの」
「おいおい
大丈夫なのか?」
「ええ
ギルドでボヤ騒ぎもありましたからね」
「ボヤ騒ぎって…」
二人は残りの残務を任せて、ギルバート達の元へ向かった。
ここであれこれ推察するより、聞いた方が早いだろう。
そう思って、直接聞いてみる事にした。
「これはどうしたんだい?」
「フランドール殿
聞いてくださいよ」
ギルバートは狩の場で起こった事を話し、それで叱っていると説明した。
それはミリアルド達の、愚かさを愚痴っているだけだった。
しかし聞けば聞くほど、同情するしか無かった。
彼等の連れた魔術師達は、まだマシな方だったからだ。
「それは災難だったね」
「やっぱりしでかしたか」
「やっぱりって…」
「まあ、事前に話は出ていたからね」
「そうそう
昨日の話しただろう?」
「アーネスト
彼等が何かしでかすと分かっていたなら、何で教えてくれなかった」
「ん?
行く前にギルも感付いていただろ?
それに、そこまで馬鹿だとは思わなかった」
「そこまでって…」
「ギルドのボヤ騒ぎも聞いていただろう?
あれがミリアルド達の仕業って…」
「あれもか?」
「う、うん…
あれもな」
アーネストはあっけらかんとして答える。
「アーネスト
手前…」
「ガキが一丁前に!」
「そのガキに魔法で負けて
あまつさえ、そんな初歩的な不始末を起こしたのは誰だい?」
「ぐ…」
「くそっ」
「ボヤ騒ぎだけでは飽き足りなかったか?」
「くそっ」
ミリアルドや魔術師達は不満そうに睨んでいたが、自分達が起こした失敗だ。
叱られるのは仕方が無い事だろう。
ましてやボヤ騒ぎを起こした事で、彼等はギルド長に叱られて謹慎処分を受けていた。
魔物と戦う事で、それを許されていたのだ。
「反省してくださいよ
あなた達の攻撃魔法が強力なのは認めますが、運用は守ってもらわないと」
「そ、そうだが…」
「オレ達の魔法なら…」
「そ、そうだぞ
オレ達の魔法が強力だからこそ、ギルド長は…」
「それが味方の兵士を襲ったり、過剰に放たれなければな」
「う…」
「そもそもオーガを倒しに行ったんだよな
オークに不満をぶつけて、悦に入る為に行ったんじゃないよな」
「は、はい」
「すいません」
ミリアルド達はまだ不満そうだったが、怒っているギルバートには反論出来なかった。
約束を違えてしまったし、兵士に負傷を負わせたのは事実だからだ。
しかも、まだ謝ってもいなかったのだ。
「これ以上叱るのも時間の無駄だな」
「え?」
ミリアルド達の顔色が明るくなる。
ギルバートが彼等を、許してくれたと勘違いしたのだ。
しかしギルバートは、許した訳では無かった。
「違う!
許したわけじゃあない
先ずは彼に謝罪しろ」
ギルバートは兵士を連れて来て、謝らせようとした。
彼はミリアルド達に、攻撃魔法をぶつけられていた。
直接は当たっていなかったが、その炎に巻きこまれて負傷したのだ。
「けど、そいつが急に出てきたのが…」
「いい加減にしろ
斥候に出された兵士が、報告に帰って来るのは当たり前だろ
そもそも、将軍が目の前で偵察を頼んでいただろうが」
「そうだぞ
オレはお前達の前で、彼に偵察を頼んでいたぞ」
「それをいきなり現れただと?
お前達は何を聞いていた」
「坊っちゃん
もう良いですって
こいつ等に謝られても、反省の色が無いんじゃあ…」
「それでは駄目だ
キチンと謝罪しないとな」
「ああ
また繰り返すぞ」
将軍もむすっとして答え、魔術師達を睨む。
その圧力に負けて、魔術師達は不承不承に謝った。
「す、すいやせん」
「申し訳ない」
「ダメだ
全然感情が籠っていない
本当に反省しているのか?」
「そ、そんなあ」
「勘弁してください」
「まあまあ
これ以上叱っても、お互いにしこりが残るだけでしょう」
「フランドール殿?」
ここでフランドールは、妥協案を示す事にする。
彼等に反省を促し、かつ安心して狩りに出発出来る方法。
つまり彼等を、今後の戦いに参戦させないという事だ。
「明日の狩では、彼等は居残りという事で…
良いのでは無いですか?」
「え?」
「オレ様の活躍の場は?」
「活躍?」
「え?」
「このまま行っても、今日の二の舞いでしょ?
また味方に誤射をし兼ねない」
「そ、それは…」
「しません
絶対にしません」
「ですからやらせてください」
「でないと再び謹慎処分になります」
「本当に…
反省して指示に従うのかい?」
「従います」
「そうですぜ
このまま恥を晒し続けれねえ」
「後生ですから、戦わせてください」
「って言ってるよ?
どうします?」
「ううん…」
フランドールの煽りに、ミリアルド達は乗って来た。
このままでは、彼等は再び謹慎処分にされてしまう。
そうならない為にも、彼等は戦って功績を残さなければならない。
でなければ謹慎処分で、街に出歩く事も出来ないのだ。
「将軍や兵士達の指示には勿論、他の魔術師達の注意も聞くんだよ
出来るのかい?」
「そ、そりゃあ…」
「もちろんでさあ」
「聞きます、聞きますから」
「お願いします」
「そうか…」
そこでフランドールは、意地悪くニヤリと笑った。
「もし聞かなかったら
ギルドからの罰則は勿論だが、私からも罰則を出すからね
この場の全員が証人だ」
「え!」
「そ、それは?」
「なるほど…」
「大丈夫だよ
ちゃんと守れば良いんだ」
「…」
ここでフランドールは、さらに駄目押しをする。
彼等を従えるには、フランドールの方が一枚上手であった。
彼は王都の荒くれ者達も、倒して服従させていた。
その経験があるからこそ、ミリアルド達を上手く従わせていた。
「ここで出来ないなら、男が廃る
だよな?」
「う、うるせえ
やるよ、やりますよ」
「そうだ
ここまで言われて、黙っていられるか」
「みんな、聞いたね?」
「はい」
フランドールに丸め込まれて、魔術師達は明日の行軍では指示に従うと約束させられた。
これはフランドールが、言う事を聞かない兵士によく使っていた方法だ。
元は荒くれ者達だった兵士を従わせる、なかなかにえげつないやり方だ。
まんまと乗せられたが、処罰の内容までは話していない。
従わないのなら、それ相応の処罰を考えれば良い。
だから先には言わないのだ。
「これで彼等の処遇は決まりました」
「はあ」
「明日は部隊を半々に混ぜて行うんですよね」
「ええ」
「それでは、ミリアルドはリーダーから下ろしましょう」
「え?」
「ミスティの部隊では不満だろうから、他の部隊と組ませよう
勿論、彼の取り巻きも一緒に」
「そんなあ」
「ミリアルド
君はさっき、指示に従うと言ったよね?」
「う…はい」
フランドールは、上手にミリアルド達を操作する。
言葉によって彼等を、上手く誘導する。
「君の攻撃魔法は強力らしいね?」
「え?
はい、そうです
オレ様の魔法に掛かりゃあ、オーガなんて…」
「でもね
強力な魔法でも、使い方を誤れば危険だよね」
「え…はあ」
実際はフランドールも、彼等の魔法はそこまで強力とは考えていない。
アーネストと比べれば、それは一目瞭然である。
彼等の攻撃魔法では、オーガは倒せてもワイルド・ベアを倒す事は出来ないだろう。
だがそれでも、彼等の攻撃魔法は有用であった。
「君が間違えれば、仲間が大きな危険に晒される
それは今日学んだ筈だ」
「う…」
「そうだな」
フランドールは負傷した兵士を見て、ミリアルドも彼を見ると申し訳無さそうにした。
将軍もその言葉に頷き、兵士は怒りを押し殺して黙っていた。
感情に任せて文句も言いたかったが、事の経緯を見守りたかったからだ。
自分の負傷の怒りより、仲間の安全を守りたかったからだろう。
ミリアルドもそんな彼等を見て、自身の過ちを認めるしか無かった。
「す…
本当にすいやせんでした」
「うん
明日の訓練で学んで、君が本当に活躍出来る場所を見付けて欲しい」
「オレの?
活躍出来る…場所?」
「そう
君の魔法が何の為にあるのか
それが必要とされる場面はどんな場所なのか
それを学んで行こう」
「は、はい!」
ミリアルドは最初こそは反発していた。
しかしフランドールが本気で自分の事を考えてくれていると感じて、感激して涙ぐんだ。
イケイケな彼だが、根は感激し易くて暑い男だった。
だからフランドールの発する言葉が琴線に触れて、心から従おうと思っていた。
「そういうわけで
明日の私の部隊には、彼等を連れて行こうと思う」
「大丈夫ですか?」
「少し不安なんですけど」
「大丈夫だ、問題ない」
フランドールは、敢えて問題児の彼等を連れて行く事にする。
そうして近くで見張る事で、彼等を上手く手懐けようと言うのだ。
それは危険であるが、フランドールならばやれる自信があった。
だからこそ彼は、ミリアルド達を連れて行く事にする。
「それでは…
こちらにミスティさんが入るんですね」
「そうだな
彼女は賢い
上手く魔物に対処してくれるでしょう」
「フランドール様…」
フランドールは今日の行軍で彼女の人柄に触れて、信用できる人物と判断していた。
だからこそ彼女を、ギルバート達に同行させる事にした。
その方が彼女を、ギルバート達に信用させられるからだ。
彼はそれを見抜いて、ギルバートに同行させる事にした。
「えらく彼女を買うんですね」
「ん?
そうかい?」
「ええ
それほど有能でしたか?」
「そうだねえ
人柄も…
少しキツイけど周りの事をよく考えている
彼女なら良い指揮官になりそうだ」
「それほどに…
アーネスト
彼女はそんな人物なのか?」
「んー…
そうだねえ」
アーネストは少し考えた。
アーネストの中の彼女のイメージは、人間よりも書物を愛している感じがした。
しかし逆にそれだからこそ冷静に現場を判断して、損失を抑えて戦えるのかも知れない。
そう考えるのならば、彼女は確かに指揮官向きであった。
「そうだね
戦略なら詳しいかも
彼女は色んな書物を読んでいるからね」
「うんうん」
「ただ…
人を大事にするかは、場面次第かも」
「え?」
「損失を抑えると言うなら、計算高くやれそうだけど
人付き合いとかがね
そこは彼女も、魔術師なんだよねえ…」
「あ…」
魔術師は変な人が多い。
巷で言われる格言だ。
どんなに優秀な魔術師でも、人柄に問題が多い事が知られている。
中には人間に対する感情が、壊滅的に駄目な魔術師も存在する。
過去には非道な実験を繰り返して、国を追われた魔導士の物語もある。
彼女も目的を達成する為になら、多少の犠牲も止むを得ないと判断するタイプだ。
必要な者を守る為ならば、多少の犠牲にも目を瞑る。
そういう合理的な人物だからこそ、指揮官には向いているのだろう。
「彼女も魔術師の例に漏れずに、他人に対して若干冷たい傾向が…」
「そうです
オレ様も、何度筋肉達磨と揶揄されたか」
「それは…」
「違うんじゃないかな?」
「うぷっ」
「…」
思わずミリアルドが呟くが、それは自業自得だろうとみなの視線は冷たかった。
彼もまた自意識過剰な自信家で、魔術師の例から漏れていないからだ。
思慮不足で攻撃的なところは、筋肉達磨とは的確だろうと兵士は思わず吹き出す。
「まあ、戦略的な判断は優秀みたいですから
フランドール殿には魅力的…
フランドール殿?」
「ん?
ああ」
アーネストはフランドールの様子を見て、それだけでは無さそうだと思っていた。
他の面子は気付いていなかったが、魅力的という単語に反応していた。
フランドールは確かに、彼女の人柄に惹かれていた。
それは同時に、彼女を女性としても見ていたのだろう。
それで無意識に、彼はその言葉に反応していた。
これは…
もしかして?
それならフィオーナには見向きもしないか
だって子供だもんな
アーネストは彼の、思わぬ弱みを握ったと思った。
これでフランドールがミスティに惹かれれば、フィオーナには見向きしないだろう。
どうしてそう考えるかまでは、彼は感じていなかったが。
「兎に角
明日は私は、ミリアルドを連れて行きます
ミスティさんはギルバート殿の部隊でよろしいですか?」
「ええ」
「それでは
私は引き続き、今日の部隊を率いますね」
アーネストは今日と同じ、未熟な魔術師達を連れる事となった。
そこで早速、彼等に新しい魔法を指導しようと思った。
今日の訓練で魔力も上がり、中にはスキルやジョブを得た者も居たのだ。
ここでしっかり鍛えれば、魔物の侵攻に役立てるだろう。
それが
合理的で、非情な判断だとは思ってはいなかったが…。
「それでは私は、する事があるのでこれで」
「アーネスト?」
「みなさんはこちらへ」
「あ、はい」
「新しい魔法を教えましょう」
「やった」
「新しい魔法だって?」
「どんな魔法なんですか?」
アーネストはその場を離れて、魔術師達の元へ向かった。
急に教えても、明日に使えるとは思えない。
それでも明日の出発の時間まで、まだ時間は十分にある。
幾つか候補の魔法を選んで、魔術師達に指導をしようと思った。
残された面々は互いに顔を見合わせて、このまま解散をしようとなった。
今日の疲れも残っているし、何よりも負傷者の手当ても必要だった。
明日の戦闘に備えて、武器や装備の手入れも必要だろう。
中には無理して戦って、装備を破損している者も居たのだ。
「それでは、今日は解散しようか」
「そうだな」
「オレ…
剣が折れたからな」
「そうだな
明日の為に、新しい鎧の手入れもしないとな」
「ギルバート殿、将軍
良かったらワイルド・ボアの肉を持って行くかい?」
「良いんですか?」
「それは助かる
女房も喜ぶ」
フランドールは今日の収穫から、肉の提供を持ち掛けた。
なんせギルバートの部隊には、満足な収穫が無かったのだ。
それに対してフランドールは、有り余る程の肉が手に入っていた。
ここで恩を売るのは、後々の事を考えても良い判断だろう。
「その代わり新しい武器を幾つか、うちの兵士に融通して欲しいんだが…」
「すいません
今日の戦闘で破損してしまって…」
「鎧も幾つか必要です」
「それぐらいなら
早速ギルドに通して、そちらの兵舎に届けるよ」
「ありがとう
今日の狩では、武器の素材は少なかったからね
オーガ製の武器が、後15本は欲しいんだ」
「大剣で良いですか?」
「そうだね
明日の訓練でも使いたいから、お願いするよ」
三人で話していると、魔術師達がおずおずと話し掛けて来た。
彼等はミリアルドの取り巻きで、狩りを失敗させた張本人達だ。
そんな彼等が、他の部隊の収穫を欲しているのだ。
「あのお…」
「オレ達も肉はもらえるんでしょうか?」
三人は冷たい視線で魔術師達を見る。
ミリアルドは確かに、反省をしているのだろう。
だからこそ彼は、そんな事は一言も発していなかった。
彼からすれば、女房に肉を持って帰ってやりたかった。
しかし反省しているからこそ、それを口にする事は無かった。
だが取り巻きの魔術師達は、図々しくも要求して来た。
正直なところ、彼等には何もくれてやりたくは無かった。
しかし彼等だけを除け者にするのは、あまりに大人気なく感じる。
そこでギルバートは、将軍やフランドールに確認した。
「どうする?」
「数は十分にあるけど、この有様じゃあ…
ねえ?」
「うむ
さすがになあ…」
「そんなあ!」
「頑張ったんですよ」
「その頑張りがな」
「間違った方向だし」
「残念だが、今日はおあずけだ
明日に自分達で狩るんだな」
「そうだね
自分で狩ったなら、取り分は主張出来るから
明日頑張ろう」
「うう…」
「母ちゃんに怒られる」
「エリイちゃんが楽しみにしてたのに」
魔術師達は報酬がもらえないと、さめざめと泣いていた。
しかしやらかした事を考えれば、それは当然の結果だった。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。




