第101話
ギルバートと将軍は、ミリアルドの率いる魔術師達と行軍していた
彼等は攻撃魔法しか使えない魔術師達で、補助や牽制などの魔法は使えなかった
それ故に魔物を前にしたらいきなり魔法を放ち、連携など取れていなかった
さらに身体強化で、突っ込む魔術師も少なからず居た
その事で兵士達に、少なからぬ被害が出ていた
ギルバート達は、北の城門から森に向けて行軍する
森に入ってからは、暫くは何事も起きなかった
魔物の気配は無く、オーガ以外の魔物にも出会わなかった
ここで索敵の魔法でもあれば便利なのだが、そんな便利な魔法を身に着けた者などは居なかった
それ故に索敵は斥候の兵士が出て、周囲を捜索していた
「右前方には居ません」
「正面も居ません」
「左前方に痕跡があります
しかし周囲には魔物は居ません」
「うむ
恐らく移動した跡だろう
痕跡は大型の魔物の跡か?」
「いえ
恐らくはオークかコボルトかと」
「そうか」
「どう見ます」
「そうだなあ
オークが居たが、今は移動して居ない
追っても見つかるか分からないし、このまま前進しよう」
「はい
それでは引き続き斥候を続けます」
「ああ
頼んだよ」
指揮は将軍が出していたが、指示はギルバートが決めていた。
これは単に上下関係の問題で、指揮や指示の能力が優秀だからでは無かった。
一応指揮は執っていたが、細かい調整は将軍が執っていた。
ここで少しでも、ギルバートに指揮の訓練もさせようという判断だった。
「どうします?
このまま出ない様でしたら、一旦帰還しますか?」
「そうだなあ
もう少し探してみて、痕跡が無い様なら引き返すか」
「分かりました
では、斥候には周囲の状況も調べさせます」
「うん
頼んだよ」
「はい
聞いたか?
この場所を中心に、周囲を調べてみてくれ」
「はい」
兵士達が散り、周囲の状況を調べる。
その間は魔術師達も暇を持て余しており、周囲をキョロキョロと見回していた。
しかし緊張感も無く、ただ漠然と見ているだけだった。
これが索敵や魔力を感じられるのなら、まだ役に立てただろう。
しかし彼等は、ただ退屈して見ているだけだった。
「まいったなあ
今日は外れか」
「そうですなあ
まあ、そんな日もありますよ」
「うーん…」
ギルバートは昨日もアーマード・ボアが出たと聞いていたから、少しは期待していた。
しかし結果としては魔物とは遭遇出来ず、無駄に時間を過ごしただけだった。
これでは魔術師達に訓練をさせる事も出来ない。
これは困ったぞと、彼は嘆息混じりに周囲を見回していた。
周囲を見回っていた兵士が帰って来て、後方の繁みから顔を出した。
兵士は純粋に指示に従い、周囲を見回してから報告に戻ったのだ。
しかし出て来た場所が悪かった。
そこは無警戒に周囲を見ていた、魔術師達のすぐ近くだった。
ガサガサ
「う、うわああ
ファイヤーボール」
ドコーン!
「うわっちい
熱い!」
「ぎゃああああ」
「な、何だ?」
「何をしている!」
「ひっ、ひいい」
「くそっ」
「早く火を消すんだ」
繁みを掻き分けて出て来た兵士に、不意に魔術師の一人が魔法を放った。
それは驚いて放った為直撃はしなかったが、兵士は燃えた茂みで火傷を負っていた。
仲間の兵士が駆け付けて、慌てて彼に燃え移った火に水を掛ける。
それからポーションを開けて、火傷を負った箇所に掛けてやった。
「馬鹿もん!
兵士に怪我をさせてどうするんだ」
「しっ!
将軍
静かに…」
「あ!」
「遅かったか」
グギャア
フゴフゴ
魔法の暴発の騒ぎを聞きつけて、魔物が彼等に近付いて来た。
森から棍棒を持ったオークが、騒いでる方へ向けて駆けて来る。
彼等はすぐ近くに居た、狩りに来た集団なのだろう。
数匹のオークが、連携も取らずに向かって来る。
「見つかった
戦闘準備だ」
「はい」
「右前方から来るぞ
構えろ」
兵士達は指示に従い、右前方に向けて剣を構える。
オークが飛び出して来たら、一撃を加えようと身構えていた。
しかしそこへ、無数の魔法が飛び込んで来た。
魔術師が数名、勝手に魔法を発動させたのだ。
「大気に漂いし魔力よ
その力でオレの指先から矢を放て
魔法の矢」
ビュンビュン!
ドスドス!
「う、うわあ」
飛び出して来た魔物に向かって、魔術師達は好き勝手に魔法を放った。
先ずはマジックアローが、兵士の鼻先を掠める様に放たれる。
矢は目鞍滅法に撃たれて、誰も居ない繁みに突き刺さった。
「火の精霊よ
我が呼び掛けに応えよ
燃え盛る火の玉で、敵を打ち砕いて焼き尽くせ
火球」
ゴウッ!
ドガン!
ブギイイイ…
グガアアア
次に火球が飛んで来て、繁みから飛び出した魔物に直撃する。
しかし魔物に当たっただけなら、まだマシだっただろう。
火球は魔物に当たった際に、弾けて周囲に火を放つ。
それで周囲の木々に、火が燃え移ってしまった。
「な、何だ?」
「誰だ!
火球なんて撃ちやがったのは」
「馬鹿野郎!
オレ達に当たったらどうする気なんだ!」
「何て事を…」
兵士達が慌てて、燃えている木々に水を掛けようとする。
しかしそこに、さらに追撃の魔法が飛んで来る。
「大気に漂いし魔力よ
その力を示して、オレの指先に宿れ
魔力の矢」
シュバババ!
ドスドス!
グガアアア
相手は8匹のオークだったが、過剰な魔法が放たれていた。
魔法の矢だけなら良かったが、複数のファイヤーボールが爆発して火が着いてしまっている。
そこに魔力の矢が突き刺さり、魔物の身体はズダボロになっていた。
折角の魔物の遺骸も、ボロボロの無残な姿に変わり果てていた。
これでは素材はおろか、魔石も無事では無いだろう。
「こ…どういう…
どういうつもりなんだ!」
「わははは
オレ様の魔法で粉々だぜ」
「オレの魔法を見ました?
豚が弾け飛びましたよ」
「はははは
私の矢も、見事に刺さりました」
「こいつら…」
あまりの事に怒っているギルバートと将軍を他所に、魔術師達は興奮して喋っていた。
自分の魔法が一番威力があったとか、魔物を倒したのは自分だと騒ぎ出す。
そこには知性的な者は居らず、魔法の結果に興奮した子供の様な魔術師達が居た。
その有様を見て、将軍は怒りに震えていた。
普段は温厚な彼も、顔を真っ赤にして震えていた。
いや、兵士達も怒りで真っ赤になり、手に握った剣が震えていた。
今にも切り掛からんと、懸命に押さえている様子である。
それなのに魔術師達は、それに気が付かず馬鹿騒ぎをしていた。
「ぎゃははは
魔物なんてオレ様の魔法に…」
「こんなのに怖がっているなんて…」
ゴガアアアアア
ビリビリビリ!
魔術師達が興奮して騒いでいると、騒ぎに釣られて他の魔物が現れた。
野太い咆哮を上げ、周囲の木々を薙ぎ倒す。
離れていても、それがどの魔物か一目瞭然だった。
魔術師達はその咆哮で、半数以上が腰を抜かしていた。
グガアアアアア
バキバキ!
ズズン!
木をへし折りながら、興奮したオーガの頭が姿を現す。
オーガは魔術師が放った魔法で、この周辺に獲物が居ると判断したのだ。
それで咆哮を上げながら、こちらに向かって来ていた。
その恐ろしい形相を見て、数人の魔術師が失禁する。
「へ?」
「あひぇっ?」
ゴアアアア
「ひ、ひいい」
「あばばば」
「あ、あひゃあああ」
ジョバババ!
しかしオーガは、タイミング悪く現れてしまった。
将軍は魔術師達の馬鹿騒ぎで、既に怒り心頭であった。
そこにオーガが咆哮を上げて現れた為に、彼はキレていた。
「うるさい!」
ズザン!
ドシャッ!
グゴガアアア
オーガは魔術師達のすぐ近くに、唸りながらその巨体を現わす。
しかし将軍が、すぐさまその近くに駆け込む。
そして大きく踏み込むと、彼はオーガの左脚に向けて大剣を叩き付ける。
叩き付けた剣が、オーガの左足を真っ二つに切り裂く。
グ…ガア
ブシャアアアア!
「あひゃあああ…」
「うひゃあああ」
「うえっ」
「ひげええええ
ち、血がああああ」
脚を叩き切られて、オーガはバランスを崩す。
迸る鮮血は、すぐ側に居た魔術師達に降り注ぐ。
そこへギルバートが走り込み、崩れ落ちるオーガに向かって跳躍する。
そして大剣を振り上げると、オーガの首に一撃を叩き付けた。
「せりゃああ」
ズドッ!
グ…
ドスン!
「あわわわ」
「ひいい」
「はぎゃあああ」
「く、くびいいいい?」
魔術師達はオーガを見て、半数が腰を抜かしてしまった。
そこへギルバートが跳ね飛ばした、オーガの首が落ちて来る。
数名の魔術師は、そのまま気を失って倒れた。
「お前達が馬鹿な事をするから
魔物が寄って来たぞ」
「まったく
何を考えているのやら」
この時点になって、魔術師達は周囲の状況に気が付いた。
彼等が騒いだ事で、魔物を誘き寄せていた。
いや、その前の魔法の時点で、既に魔物を呼び寄せていたのだ。
兵士を始めとして、ギルバートも将軍も怒っており、魔術師達を囲んで睨み付けていた。
「え?」
「ええ…と?」
「あ、あれ?」
「お前らは、今
何をしでかしたか分かるか?」
「と…言いますと?」
「一体何の事ですか?」
「オレ達が何かしたと?」
ギルバートは溜息を吐きながら続けた。
「無意味に魔法を撃ち
仲間である兵士達を危険に晒し…
あまつさえ、馬鹿騒ぎをして魔物を呼び寄せたんだ」
「え?」
言われた魔術師達は、何がいけないのかと首を捻る。
しかしギルバートの様子に、何かしてしまったのかと怯えていた。
彼等は自分達のした事が、どれほど危険な事か理解していなかった。
「何で魔法を撃った?」
「そ、それは…」
「魔法で魔物を倒す為に決まってるでしょ」
「そうですよ
我々はその為に来たんですから」
「魔物を倒したんですよ?
何がいけないんですか?」
しかしギルバートは、首を振って顔を顰める。
「たかだかオークに…
あんな多量の魔法を使う必要があるのか?」
「え?」
「ええ…と」
「あれれ?」
「オーク相手なら、数人でマジックアローを撃つぐらいでも良かったよな?」
「は?」
「え?」
「あんなに魔法を撃つ必要があったのか?」
「それは…
そのお…」
「えっと…」
事ここに及んで、魔術師達はようやく気付き始める。
自分達が、過剰に魔法を使っていた事に。
しかしこれでも、まだ自体を把握しきれていなかった。
何が危険であったのか、そこを理解出来ていない。
「それにな
そもそもオレは、魔法を撃つ様に言ったか?」
「え?」
「本来なら、オーガに魔法を試す予定だったよな」
「あ…」
「オークに魔法を撃つなんて頼んだか?」
「い…いえ…」
「はあ…」
ギルバートはオーガを指してから、オークだった残骸を指した。
オークだった物は、焼けたり魔法で穴だらけになっている。
これでは素材も使い物にならないし、魔石も破壊されているだろう。
つまり倒した意味が、ほとんど無いのだ。
「こんな事をする為に、お前らを呼んだ訳じゃあない
兵士と連携して、オーガや強力な魔物を倒す為に呼んだんだ」
「えっと…」
「そうだったよな?」
「は、はい…」
ギルバートは剣の血を払って、鞘に納めながら言った。
「もういい
今日はもう帰るぞ」
「そうですね
ここで時間を無駄にするわけにはいきません」
「ですね」
「このままじゃあ、いつ魔物に狙われるか…」
「危険の無い様に斥候をしていたのに…
これじゃあ台無しだ」
「魔物も警戒しているだろうな
あれだけ派手に、魔法をぶっ放していたからな」
「もう隠れて狙えないよな」
「いや
逆に向こうが隠れて、不意討ちを狙っているだろう」
将軍も剣を仕舞いながら、部下に指示を出し始めた。
兵士達も魔術師達を睨みながら、不満そうに文句を言っている。
魔法を使った事で、森の中に騒音が響いていただろう。
そしてその後に、オーガが倒された音も聞こえている筈だ。
これでは魔物も警戒して、隠れて不意討ちを狙おうとするだろう。
こうなってしまえば、魔法の練習どころでは無い。
連携の訓練どころか、不意討ちを警戒しながら帰らなければならないだろう。
兵士達が怒るのも、当然であった。
「すぐに帰還の準備に掛かる
周囲状況確認と、帰還の道順を調べてくれ」
「はい」
兵士も怒っていたのだが、将軍の指示に従って準備に掛かった。
ここで真剣にやらなければ、みなが危険になるからだ。
それを見ながら、魔術師達は不安そうにしていた。
ギルバートの言葉で、ようやく自分達の危機的状況を理解したのだ。
「お前達の処遇は、帰ってから決める」
「そ、そんなあ」
「坊ちゃん
俺さ…私の魔法は見てくれましたよね?」
「ふん」
ミリアルドはそれでも引き下がらず、自信の保身の為にアピールを始めた。
「坊っちゃん…」
「あん?」
「オレ様の…
いや、私の魔法の威力は見ていただけたんでしょうか」
「威力?」
「はい」
「オークに使った事をか?」
「あ…いえ」
「それとも…
無駄に焼いた事をか?」
「えっと…」
「どんな魔法でも、目的に合わせて使えなければ意味がない
違うか?」
「は…
はい…」
「今後の事は帰ってからだ
ここで騒いでいたら、また魔物が来てしまう」
「はい…」
それは言外に、帰ったら叱られるのが確定していると言っている様なものだった。
魔術師達はさっきのはしゃぎ様が嘘の様に、大人しく帰還の指示に従った。
オークは粉々に吹き飛んだ為、そのまま放置する事となった。
オークの遺骸は状態が良かったので、兵士達が抱えて運ぶ事になる。
本当はもっと狩っていたかったが、ギルバート達は昼前に帰還する事となった。
今から隠れようとしても、魔物は警戒しているだろう。
それならば今日は諦めて、明日以降にするしか無かった。
それに今は、魔物の不意討ちを警戒する必要があるのだ。
そう考えれば、早目に引き上げた方がマシだった。
一方その頃、アーネストは順調に狩をしていた。
ギルバート達が見付けたオークは、実はこちらのオークの一部であった。
痕跡はこのオーク達の残した物で、それからこちらに移動したのだ。
その際に数匹が周囲に狩に出ていて、それがギルバート達の方へ来たのだ。
そして本隊の方は、アーネスト達が見付けて倒していた。
「今ので36匹ですね」
「ええ」
「結構多かったですが…
集落でも作っていたんでしょうか?」
「そうですね
恐らくは集落を出て、こちらに逃げて来たんでしょう」
「逃げてですか?」
「これを見てください」
アーネストはオークの遺骸の、腕や脚を指差した。
それはオークにしては、やや華奢に見える。
それだけ栄養が足りていないのだろう。
「普通のオークに比べて、筋肉が少ないでしょう」
「そう…ですか?」
「ええ
食料が不足しているのか
あるいは逃亡で体力を使ったのか
いずれにしても、弱っている様子でしたね」
「なるほど」
「弱っていたんですか…」
「って?
弱って?」
「ええ
そうですが?」
アーネストは事も無げに、魔術師達の質問に答えていた。
しかし魔術師達は、この個体が弱っているとは知らなかった。
むしろこれが、普通のオークだと思っていたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください
そうなると、これは弱った個体なんですか?」
「そうですね
明らかに弱かったでしょう?
通常よりは弱っていましたし、動きも鈍かったですよ」
「これで弱い?」
「それでは通常では…」
「え?
こんなのがオークな筈が無いでしょう?」
「そうですね
もっと強いですよ」
予想外のアーネストの言葉に、魔術師達は驚いて質問していた。
しかし兵士達が、それを肯定する様に頷いていた。
それで魔術師達は、魔物の恐ろしさを改めて感じていた。
これほどの魔物でも、弱った魔物であるのだ。
元気であれば、もっと手強い相手なのだろう。
「それでは、オークはもっと強くて、素早いって事ですか?」
「そうです
動きはそこまで早くはなりませんが、もう少し早く動きますね」
「そうですか…」
「何よりも膂力があるからな」
「木をへし折るぐらいだぞ
非常に危険だな」
「そんなのを相手にするんですか?」
「ああ」
「オークはまだマシだな」
「オーガはそれで大きいんだぞ」
「うへえ…」
「想像も出来ません」
「そんな化け物に…
有効なんでしょうか?」
彼はマジックボルトで仕留めていたが、あまり素早いと当たらないのではと危惧していたのだ。
アーネストもそれに気付いていたので、不安にさせない様にそこまで素早く無いと言っていた。
しかし問題は、その上で表皮も頑丈な事だろう。
十分な魔力を籠めなければ、突き刺す事も出来ないだろう。
その辺も踏まえて、彼等には攻撃魔法の訓練が必要だった。
こちらの魔術師達はまだまだ未熟で、強力な攻撃魔法は持っていない。
しかし若い魔術師が多く、教えればそれだけ覚えようとして吸収していた。
それでオークに使った魔法でも、素材を損なうほどでは無かった。
そして真剣に取り組むので、アーネストが考案した索敵の魔法も使える様になっていた。
「この索敵の魔法は便利ですね」
「周りに魔物が居たら、素早く把握できますね」
「ええ
ただ、魔物の強さまでは分かりませんし、正確な距離も測れません
過信は禁物ですよ」
「はい」
実は慣れてくれば、魔物の放つ魔力である程度の強さは計れる。
また距離感も慣れてくれば、感覚的に掴めてくる。
しかし急には扱えないので、そこは諦めていた。
そのうち研究が進めば、もっと効率的な使い方も考えられるだろう。
「それで
近くには魔物は居ませんか?」
「そうですね
向こうの方に…
さっきよりも強い魔力を感じます」
「恐らくはオークよりも強い魔物でしょう
どうしますか?」
本当はアーネストが索敵すれば、もっと情報が得られる筈だ。
しかし、それでは魔術師達の訓練にはならない。
だからアーネストは、判断も魔術師達に任せていた。
彼等自身に探れせて、どうするかの判断までさせていた。
「私からは何も言わないよ
君達が判断して、自分で行動するんだ」
「え?
でも…」
「大丈夫
その為に騎兵部隊にも来てもらっている
自分達でやってみよう」
「はい」
魔術師達は意見を出し合い、魔物と戦うかどうかを決める。
それは簡単には出来ない判断だが、いずれは彼等だけでも決められなければならない。
いつも守ってくれる部隊が居るとは限らないのだ。
部隊とはぐれて魔術師達だけになった時、彼等が自分で判断しなければならないのだ。
その時の為にも、今から訓練しておく必要があるのだ。
「そうですね
今日はオーガとの戦闘を目指して来たんです」
「ここは引き下がらず、戦いましょう」
「我々の手で、倒すんです」
「そうだな」
「何事もやってみなければ…
分からないもんな」
「ああ」
戦う事を決心したら、次は敵の情報が必要だ。
彼等は索敵の魔法を使い、もう一度情報を探ってみる。
今度はもっと集中して、魔力を詳しく調べてみる。
ただ魔力を感じるのでは無く、その大きさや距離まで測ってみる。
「んー…
強い魔力が…2、いや3か?」
「そうですね
私も3つ感じます」
「そうなると、魔物は3匹だな」
「どうします?」
「距離があるからな
もう少し近付くか」
相談しながら前進し、見つからない様に慎重に進む。
しかし少し進んでみると、思ってもみない事態に見舞われた。
それは木々の上に巨人の様に、頭が突き出しているのが見えたのだ。
まだこちらには気付いてはいないが、これ以上近付けば見付かってしまう。
「どうする?」
「そうだなあ
3匹の距離は空いてるし、思い切って1匹目に攻撃してみよう」
「他のオーガに気付かれたら?」
「それは先ず、気付かれるだろう
だから、手早く1匹目を倒す必要がある」
「そうだな」
「そうなると、強力な魔法が必要だね」
「そうか?
マジックボルトやマジックアローでも、使い方次第じゃないか?」
「どういう事?」
「要は周りに気付かれ難ければ良いんだろう?」
「そりゃそうだけど…」
一人の魔術師が、思い切って意見を出していた。
彼は魔物の頭を狙い、その視覚を奪う事を考えていた。
「魔物の眼と喉元に向けて、一斉に放つんだ」
「そうすると、どうなるんだ?」
「喉が潰れれば声は出ないし、眼を潰せれれば見えなくなる
それに首は急所だ
上手く行けば倒せるかも知れない」
「なるほど」
彼の意見に、他の魔術師達も納得する。
そうなると、誰が正確に狙うかという話しになる。
ここは慎重に狙えて、魔法のコントロールが出来そうな者がするべきだろう。
そこで数名が、自分からやってみようと立候補した。
「じゃあ、私達が眼を狙うわ」
「オレとお前、あと一人居ないか?」
「オレもやるよ」
「それじゃあ
残りは他の魔物が来た時の為に、準備をしていてくれ」
「分かった」
こうして話し合う事で、魔術師達は上手く連携してオーガの包囲を開始した。
一方向から狙うのではなく、複数の方向から同時に撃って、相手が気付く前に倒そうという判断なのだ。
上手く当たれば悲鳴を上げる前に、魔物の急所に当たって絶命するかも知れない。
そう思って魔術師達は、1体の魔物を取り囲んだ。
アーネストが見守る目の前で、今まさに、魔術師によるオーガの討伐が始まろうとしていた。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。