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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第100話

北の森に向かった部隊は、南下して来るオーガの群れに遭遇する

それは大きな集団では無かったが、幾つかの群れに別れて移動していた

その内の5体に、エドワード隊長率いる部隊が遭遇した

中には他の魔物に負けて逃げて来たのか、負傷している魔物も居た

それらは隊長以外の部隊に、遭遇する事になる


エドワード隊長達がオーガを討伐している頃、フランドールはオーガの集団と遭遇していた

そのオーガ達は小柄な者が多かったが、総数は12匹と多かった

それに加えてワイルド・ボアを狩ったいたのか、その場には10匹が逃げ回っていた

魔術師達は土の防壁を立てたりして、ワイルド・ボアの突進を抑える

その間にフランドール達は、オーガを倒す事となる


「私は使えませんが、彼は土壁を作れます

 高くはないですが、魔物の足を止める事ぐらいは出来ます」

「任せてください」

「それじゃあ、魔物があっちに向かったら頼む」

「はい」

「頼んだわよ」

「精霊よ

 大地の精霊よ

 我が呼び掛けに応え給え

 我が声が聞こえるのなら、力を貸してくれ

 我が眼前に迫る、敵を防ぎ給え

 大地の壁(アース・ウォール)

「風の精霊よ

 我が願いを聞き給え

 風の障壁をもって、敵の攻撃を防ぎ給え

 風の障壁(ウィンド・バリア)

「風の精霊よ

 我の願いを聞いてくれ

 風の鎧を纏わせて、敵の攻撃を防いでくれ

 風の鎧(ウィンド・アーマー)


魔術師がさっそく呪文を唱え始め、後は発動を待つだけとなる。

その間にミスティ他数名の魔術師が、防御用の魔法を施す。

風の魔法を応用した防壁を展開し、個人には打撃に対する衝撃を緩和する魔法を掛ける。

直接防御力は上げられ無いが、これで魔物からの攻撃を弱められる。

風が攻撃を受け止めて、攻撃の威力を抑えるのだ。


「これで準備は出来ましたが、過信はしないでください

 あくまでも衝撃を吸収する魔法です

 棍棒や拳を防ぐわけではありませんから注意してください」

「十分ですよ」

「これで少しはマシになります」

「よし

 防御の支援は受けたが、過信はするなよ」

「はい」

「無茶な事はせず、正面の魔物の攻撃に注意しろ」

「はい」


実際には兵士達も魔物との戦闘に慣れて来ていたので、油断しなければ被弾はしなかった。

それでもオーガの攻撃は、なかなか油断が出来ないものだ。

太い腕の攻撃も危険だが、飛び散る木の破片や石の礫も危険なのだ

地面が抉られた時に、飛び散った石等の礫は非常に危険である。

飛び散る礫は大きく、それが予想外の方向から飛んで来るのだ。

そういった物を防ぐだけでも、戦い易くなるだろう。


「私達は身体強化をほとんど使えませんから

 この防壁の中に退避しています」

「それでも、多少は攻撃魔法は使えます

 可能な限りは牽制や足止めに使いますので頑張ってください」

「ありがとうございます」


フランドールは礼を言うと、ワイルド・ボアの動きを見詰める。

なるべくオーガや自分達から離れた場所に足止めし、混戦を避ける為だ。

ワイルド・ボアの一匹がオーガが1匹居る方へ向かって突進した時、フランドールが合図を送った。

その他のワイルド・ボアは、オーガの周りから離れていた。


「今だ!」

「アース・ウォール」


魔術師の声に合わせて地面が盛り上がり、高さ60㎝程の土壁が出来上がる。

ワイルド・ボアは気付かず走り抜けたが、その後を追っていたオーガは躓き、2匹が地面に倒れた。

その他のオーガも、突然現れた土壁に驚いている。

そしてワイルド・ボアは、ほとんどが土壁に囲まれて身動きが取れなくなっていた。


「行くぞ」

「おお!」


フランドールを先頭にして、兵士達は手近なオーガ3匹に向かって行った。

先ずはワイルド・ボアを放置して、オーガを攻撃する事にしたのだ。

そうしてオーガを倒した後に、ワイルド・ボアを狩る事になる。

その方が危険が少なく、不意の攻撃を受ける心配が少ないからだ。


フランドール達は、オーガを取り囲んでその攻撃を回避する。

それから隙を見て、反撃の一撃を繰り出していた。

オーガはあまり大きく無かったので、それでも何とか倒せそうだった。

そしてもう一方では、後続の兵士達が倒れているオーガに向かって行っていた。


彼等は土壁に引っ掛かって、転倒したオーガを狙って切り掛かる。

こちらは転倒した事で、兵士の攻撃を防ぐ事も出来なかった。

だから少数の兵士でも、難なく首筋を切り裂く事が出来た。

兵士達は鬨の声を上げて、一気に3体のオーガを倒す事が出来ていた。


フランドールは1匹の腕を切り飛ばし、追撃を躱しつつ跳躍する。

魔物の身体には、既に無数の切り傷が付いていた。

それは炎で焼かれて、出血する事は無かった。

しかし確実に手傷を与えて、魔物の動きはすっかり遅くなっていた。


「うおおお

 バスター」

ズバン!

グガアア…


その間にも残りの兵士達が、他の2匹のオーガの脚を切り裂いていた。

そして腕を切り飛ばし、地面に倒れたところで止めを刺す。

後続の兵士達も、その間に倒れていたオーガの首を刎ねて止めを刺していた。

跪いていたオーガも兵士達に囲まれていて、腕や脚を切られている。

腕や脚を奪われて、そのオーガも間も無く兵士達に倒された。


「残るは4匹と、土壁の向こうの1匹だけだ」

「おお!」

「油断はするな

 散開しつつ、腕や脚を狙っていけ」

「はい」

「うおおおお」


残る4匹のオーガは最初は奇襲に驚いていたが、仲間を殺された事で怒って向かって来た。

地響きを立てつつ、魔物は腕を振り回しながら迫って来る。

木が砕かれて、破片が兵士達に向けて飛んで来る。

しかし風の鎧の効果で、小さな破片は弾かれていた。


ウガアアアア

ゴアアアア

ゴガン!

バギン!

「うわっ」

「危ない!」

「しかし魔法が効いている」

「このまま接近するぞ」


その間にも魔術師達は、土壁の向こうのワイルド・ボアに風の刃やマジックボルトを放っていた。

威力こそ低かったが、次々と撃ち込まれる魔法に傷付き半数以上が倒されていた。

このまま魔法で攻撃していれば、いずれは倒せるだろう。

問題は魔力の消費で、数名が魔力切れになってしまった事だった。

彼等はポーションを飲みながら、何とか気絶しない様に意識を保っていた。


「向こうはもう良いでしょう

 次はオーガを拘束します」

「はい」

「魔力が残っている者は、拘束の魔法の用意を」

「はい」

「大地の精霊よ

 我が呼び掛けに応え給え

 敵の足を掴んで、その動きを封じ給え

 大地の手(マッド・グラップ)

「大地の精霊よ

 その御力をもって、植物を動かし給え

 蔦で敵を縛り、その動きを封じ給え

 蔦の拘束(ソーン・バインド)

「大地の精霊よ

 我が呼び掛けに応えてくれ

 大地に穴を穿ち、敵を転倒させてくれ

 大地の穴(スネアー)


向かって来るオーガに魔法が放たれる。

茨の蔦が脚に絡まり、地面に窪みが出来て脚を取られる。

1匹が倒れた向こうで、地面がぬかるんでもう1匹が膝を掴まれていた。

倒れたオーガは兵士に任せて、フランドールは健在なオーガに向かった。


「うおおおお」

グガアアア

ブン!


そのオーガには、拘束の魔法は掛かっていなかった。

綿密な打合せも無かったので、魔術師達もその魔物には魔法を掛けていなかったのだ。

それでオーガは、迫るフランドールに向けて腕を振るって殴り掛かる。

オーガの太い腕が振り翳されて、フランドールに迫って来る。


「危ない!」

「ふん!」

ズシャー!

グガア?


急な横っ飛びをしながら、フランドールは身体を捻りつつ剣を叩き付ける。

オーガは拳を止められず、そのまま地面を殴り付けていた。

振られた剣はそのオーガの腕に叩き付けられ、手首から切り落とす。

フランドールはその反動で、オーガの脇に向かって跳躍する。


そのまま宙を移動すると、彼は地面を蹴って前へ出る。

オーガは痛みとフランドールの動きに動揺して、左腕を上げて顔を庇った。

その位置からは顔は切れないだろうが、先ほど仲間が切られたのを見ていた。

だから咄嗟に、オーガは顔を庇ったのだ。

しかしフランドールは狙いを切り替えて、そのまま剣を構えて脚を切り飛ばした。

大きく宙に跳ぶ危険を避けて、堅実な攻めに切り替えたのだ。


「っせい」

ザシュッ!

グガアアア


剣は魔力が込められており、炎を吹き出しながらオーガの足を切り落とす。

オーガは右足を膝上から失って、バランスを崩してしまった。

魔物は片脚を失い、大きく右に跪く様に転倒した。

すかさず他の兵士が駆け付けて、その胸に目掛けて剣を突き立てる。


「すりゃあああ」

ザス!

ガ…グガア…


フランドールが振り返ると、残りのオーガも倒されていた。

脚を取られた魔物はすぐさま腕を切られて、抵抗出来なくなったところで首を刎ねられた。

無事な方のオーガも、兵士数人に囲まれては仕方が無かった。

そのまま動けなくなったところで、腕や脚を切られて倒されていた。


「残るは1匹とワイルド・ボアだな」

「そのワイルド・ボアもほとんどが負傷しています」


そこからは消化試合だったので、魔術師達が各々の魔法で拘束したり、直接攻撃して倒した。

兵士が倒しても良かったのだが、今回の目的が魔術師達の修練の為だからだ。

魔術師達は慣れない攻撃魔法を行使して、狙いを合わせて放つ。

最初は慣れてい無いし、追尾能力があるとはいえ動く的を狙うのに苦労していた。

しかし数回放って行けば慣れてきたのか、魔物に当たり始めた。


「おお

 命中したぞ」

「はあはあ

 やっと…」

「ああ、倒せたな」


全ての魔物を倒す頃には、魔術師達は多くの魔力を消耗して疲れていた。

例えポーションを飲んでも、すぐには魔力は回復しない。

あくまでも魔力の、回復を早める程度なのだ。

だからこそほとんどの魔術師が、魔力切れで意識も朦朧としていた。


「よし、ここで休憩しよう」

「え?

 ここでですか?」

「ああ

 幸い周りには魔物は居ない

 今の内に休んでおこう」


本来ならば、この場での休息は危険である。

魔物の血の臭いに、他の魔物が近付く可能性もある。

しかし倒した魔物がオーガなので、そうそう近付こうとはしないだろう。

だからこそフランドールは、安全と判断していた。


もう一つの理由は、魔術師達の魔力切れである。

ほとんどの魔術師が、魔力切れで意識を失いそうだった。

中には枯渇し掛けて、倒れてしまった者もいた。

そういった者達の為にも、この場での休息が必要だったのだ。


「大丈夫でしょうか?」

「オーガの血の臭いですから」

「それはそうでしょうが…」

「それに、彼等には休息が必要でしょう?」

「そう…ね」

「ポーションを飲んでも、すぐには回復しないんでしょう?」

「ええ

 魔力切れだなんて」

「ははは

 仕方が無いでしょう?

 初めての戦闘ですし」

「だからと言って…

 情けない」


ミスティはそう言って、へばっている魔術師達を睨み付ける。

睨まれた魔術師達は、その視線に震え上がっていた。

そのミスティは、自身は魔力切れにならない様に注意していた。

だからポーションは飲んでも、魔力切れにならない程度に抑えていた。


兵士達は野営の準備をして、すぐに焚火に魔法で火を点ける。

疲れ切った魔術師達に、火に当たって休ませる為だ。

それと同時に、食事の準備にも取り掛かった。

解体したワイルド・ボアの肉を串に刺し、次々と火で炙って行く。


「兵士のみなさんも火魔法を使えるんですね」

「ん?

 ああ、アーネストが使えた方が便利だと教えてくれたんです

 今では魔力も上がってきたのか、簡単な火付けや水汲みは出来る様になりました」

「なるほど

 確かに魔法は使っている方が向上します

 それに魔力も上がるという研究報告も挙がってますね」

「ええ

 魔力が多い方が、戦闘でも役立ちますからね」

「身体強化ですね」

「ええ

 その為にも、魔力の向上は重要です」

「耳が痛い事です」


魔術師達も、なるべく魔法を使う事を推奨されていた。

そうする事で、基礎魔力が上がる事が証明されたからだ。

しかし実際には、なかなかそこまで魔法を使う者は居なかった。

魔力切れは気分が悪くなるし、頭痛や吐き気を感じる事もある。

何よりも魔法の使用よりも、研究を優先する魔術師も多かったのだ。

それでなかなか、魔力の低い魔術師が多い状況のままだった。


兵士達は消耗が少ないので、魔物の肉で腹を満たすだけで済んでいた。

身体強化で多少の魔力を使っているが、そこまでの消耗では無かった。

しかし魔術師達は、ほとんどの者が魔力切れになるまで消耗していた。

これは慣れない戦闘でペース配分を間違えたのもあったが、最後の練習で使ったのが主な原因だった。

傷付きほとんど動けなくなったワイルド・ボアを的にして、魔法の練習をしたからだ。


魔術師達はワイルド・ボアの肉に舌鼓を打ちつつ、マジックポーションを呷っていた。

消耗した魔力を回復するには、美味しい食事も重要だった。

マジックポーションが効いたのか、魔術師達の顔色も良くなり談笑する余裕も出来て来た。


「オーガってすげえな」

「ああ

 兵士のみなさんは、毎日あんなのと戦っているのか…」

「私は1日でもキツイわ」

「そうだな」

「だが、あんなのが街に入り込んだら…

 それだけで大変な事になる」

「だから俺達は、少しでも魔物を狩らないとならない」

「ああ」

「そうだよな」

「あんなのに街で襲われたら…

 ゴクリ」


そんな魔術師達の言葉に、兵士達も辛かった事を話す。

彼等だって、最初はコボルトでも苦戦したのだ。

だからこそこうして、魔物と戦闘する訓練は必要なのだ。

直接戦った方が、より効果的な訓練になるからだ。


「最初はオレ達もそうだったさ」

「そうそう

 こいつなんか、ひいひい言いながら逃げてたもんな」

「こらっ!」

「はははは」


倒れたオーガに果敢に立ち向かい、首を刎ねた兵士が顔を赤らめて怒る。

そんな彼でも、初めてオーガを見た時は失禁して腰を抜かしていたのだ。

彼は顔を赤らめつつも、チラチラと魔術師の一人の女性を見ていた。

好みの女性だったのか、彼女の前で格好付けたかったのだ。

だからこそ彼は、果敢にオーガに向かって行ったのだ。


「それでも

 そんなオレでも

 女神様の加護とスキルのお蔭で、今ではオーガを倒せる様になれた」

「うん

 スキルとジョブの力は偉大だな」

「ああ

 オレもジョブに目覚めてから、オーガがそれほど怖くなくなったよ」

「本当か?」

「ああ

 以前は恐ろしくて…」

「失禁してたもんな」

「あ!

 それは言うなよ」

「はははは」

「勘弁してくれよ」


うんうんと頷く兵士を見て、ミスティはなるほどと頷く。

しかし仲間の兵士は、そんな彼を揶揄う。

彼は失態をバラされて、顔を真っ赤にして落ち込んでいた。

こんな話を聞かれたら、あの魔術師に幻滅されるだろう。

彼はチラチラと、女魔術師を盗み見しながら落ち込んでいた。


「確かに、この戦闘でもみなさんの力は上がっていますね

 私達の中にも、ジョブやスキルを身に着けた者が居ます」

「本当ですか?」

「ええ

 神よ

 女神よ

 我に全てを見通す力を与え給え

 鑑定眼(アプレイサル)


ミスティは鑑定の魔法を使って、みなのスキルやジョブを見ていた。

この魔法は一時的に、見た者や物の詳細を見る事が出来る。

効果は短いが、スキルや能力もみる事が出来るのだ。

魔術師の中には新たに魔法のスキルを身に着けたり、魔術師のジョブを授かった者も居た。


「それは戦闘で魔法を使っていた事が大きいでしょう」

「戦闘ですか?」

「ええ」


フランドールがそう言いながら、話の輪の中に入って来た。

彼は以前に、アーネストにスキルの事を聞いていた。

実際に命を懸けた戦いをする方が、スキルやジョブを得る可能性が高まる。

アーネストは何度かの鑑定で、その様に判断していた。


「これはアーネストから聞いたんですが…

 戦闘は精神や身体に大きな負担を強いります

 その上で魔物を倒した時、魂の力が大きく向上する様です」

「魂の…力?」

「ええ」


アーネストがこう説明したのは、その方が分かり易かったからだ。

魂というものは、目に見えない物である。

だからそれが力を強めたとしても、目に見えては分からないだろう。

それでアーネストは、魂の力と説明していた。


「魂が鍛えられ、それで能力が向上する

 スキルやジョブが得られるのも、そうして魂が鍛えられるからだそうです」

「なるほど

 魂が鍛えられる…

 城壁で撃ってるだけでは、叶いそうにない事ですね」

「そうですね」


城壁でゴブリンやコボルトを狙い撃ちしていた時は、大きな能力の向上は無かった。

しかしここで1回戦闘しただけで、ほとんどの者が少なからず向上していた。

ジョブやスキルは、その最たるものだろう。

そう考えれば、戦闘で鍛えるのは魔術師でもひつようなのだろう。


「そうなると

 魔物と対峙して魔法を使った方が、我々魔術師も大きく向上するんですね」

「ええ

 私も半信半疑でしたが、今日の事で確信しました

 魔術師も魔物と戦うなら、戦場で危険に立ち向かう必要があるんだなと」

「そうですね

 少なくとも、城壁でのんびりと魔法を撃つよりは良さそうです」

「え?」

「ミスティさん?」

「これからは、魔物の侵攻など関係無く、強くなりたい魔術師は戦場に出るべきですね」

「ちょ!」

「待って!」

「ギルドに戻ったら、私がギルド長に進言しておきます」

「そんな」

「私は…」

「オレは、貴女やミリアルドとは違うんですよ」


同行していた魔術師のほとんどが、ミスティの発言に首を振る。

しかしミスティは冷ややかな視線で見据えて、冷たく言い放った。


「何ですか?

 あなた達は魔術師として大成したくは無いんですか?」

「それは…」

「そのおう…」

「魔力を高めるのも、技術を向上させるのも

 魔物を相手にするのが一番なんですよ」

「いや、確かにそうなんだけど」

「オレ達はそこまでは…」

「私も

 街を守る為なら

 大切な人を守りたいから戦えるけど…」


ここで先ほどの女性の魔術師から、大切な人という発言が出た。

どうやら彼女には、大切な人が街に居るのだろう。

それを聞いて兵士は、愕然とした表情をして落ち込んだ。

その姿を見て、隣の兵士が優しく彼の肩を叩いた。


「残念だったな」

「う…

 ぐうっ…」


ミスティは続ける。


「あなた達がどう思おうが勝手ですが、向上心が無いなら諦める事ね

 私は一人でも、魔物と戦って鍛えてみせるわ」

「ミスティさん…」

「無茶ですよ」

「いいえ

 無茶では無いわ

 それが魔術師を…

 いえ、魔導士を目指す私の夢だから」

「魔導士…」

「宮廷で雇われる、魔術師の上の存在」

「そう

 どうせ目指すなら、それぐらいは夢見ないとね」


先程までワイルド・ボアの肉で明るくなっていた魔術師達は、その言葉に暗く俯いた。

ほとんどの者が攻撃魔法の習得に躓き、上を目指すのを諦めていたのだ。

だが一人の魔術師が、ミスティの言葉に立ち上がる。

どうやら彼は、何か目指したい目標がある様だった。


「ボク…

 いや、オレはやるぞ

 どうせなら、魔導士は無理でも

 立派な魔術師と胸を張れる様になってやる」

「そうだな」

「私も…」

「オレも

 逃げてばっかりじゃあ、恰好が付かない」

「そうだよな

 逃げてばかりじゃなあ…」


やがて少しずつ熱が上がって行き、魔術師達のやる気が増して来た。

それは兵士にも伝搬し、負けてられないと奮起させた。


「そうだな

 オレ達も負けてられねえ」

「ああ」

「もっと活躍しないとな」

「そうだな

 あいつ等に負けていられねえ」


それを見て、ミスティは満足気に頷く。


「そうね

 みんなもやる気が出たのは嬉しいわ

 しっかり休んで、魔力を回復しましょう

 午後も頑張るわよ」

「はい」

「おう」


フランドールはその様子を静かに見守り、ミスティの手腕に賛辞を送っていた。

ギルバートに彼女の部隊を任された時は、正直女性の指揮する部隊等と侮っていた。

しかし彼女は冷静に仲間を分析しており、的確な指示を出していた。

中には言う事を聞かない者もいたが、彼女の指示は的確だった。


そして今も、彼女は的確な言葉で全体の士気をも上げていた。

まだもう一人の魔術師とは話していなかったが、フランドールは彼女の指揮が妥当だと感じていた。

彼女が指揮するなら、兵士達でも従うかも知れない。

辺境の魔術師の中に、思わぬ人材が埋もれていたのだ。

フランドールはこの侵攻が終わった後、彼女に指揮官の推薦をしてみようと思った。


「それでは、休息も十分な様だね」

「はい」

「午後も引き続き魔物の捜索と殲滅を行う

 目標はオークとオーガだが、可能ならワイルド・ベアも討伐しようと思う」

「ワイルド・ベアですか」

「大丈夫なんでしょうか?」


この魔物に関しては、フランドールも自信が無かった。

ギルバートと将軍から、話を聞いただけである。

現物を見ていない以上、どの様な魔物か分からないのだ。


「うむ

 危険なのは十分承知している

 しかし、その危険な魔物を街に近付けさせるわけにはいかない」

「そう…ですね」

「熊の魔物ですか…」

「熊というだけでも危険です」

「ああ

 一番心配なのは、その機動性から魔術師達が狙われる事だ」

「機動性?

 そんなに素早いんですか?」

「ああ

 ワイルド・ボア並みには動けるらしい

 そしてオーガぐらいの大きさだ」

「それは…」


それは聞くだけで、兵士にとっては絶望的だった。

しかしフランドールは、その魔物を倒そうと考えているのだ。

兵士達は、フランドールを強い人だと感じていた。

そんな恐ろしい魔物に、立ち向かおうと言うのだから…。


「要は近付かさなければ

 それなら策はあります」

「やれるだけやってみましょう」

「そうね

 いざとなったら、私達の拘束の魔法もあるわ」

「うん

 期待しているよ」


フランドールはミスティの言葉に頷き、その策という物に期待していた。

複数居れば危険だが、2、3匹程度ならなんとかなるだろう。

そう考えれば、決して無理な事では無いと感じられる。


「それでは野営を片付けよう

 出発の準備に掛かるぞ」

「はい」


フランドールの部隊は野営の跡を片付けて、再び進軍する準備を始めた。

野営で時間を使ったが日はまだ頂点を指しており、まだまだ時間は十分にあった。

まだまだ続きます。

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