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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第099話

ギルバート達が出発を準備している間に、歩兵達も準備をしていた

彼等には魔術師達は着いていなかったが、代わりに騎兵達が護衛に就いていた

人数こそ1部隊につき8名と少なかったが、オーガとも戦えるようになった戦士達だった

彼等が一緒に居る事で、歩兵達の士気は上がっていた

彼等は24名ずつに分かれ、5部隊が東の森に出る事となっていた


エドワードを隊長として、5部隊が東の森に出撃しようとしていた

各部隊にはオーガとの戦闘が目的とされており、他の魔物は別働隊の部隊が引き受ける事となっていた

別動隊は弓兵と歩兵が12名ずつで編成されており、城門の近くで待機していた

ここで伝令からの指示を待っており、斥候が周囲の魔物の様子を探っていた

指示が来ればコボルトやワイルド・ボア、ゴブリンを殲滅する様に、彼等は準備をしていた

こうした準備をする事で、慣れていない兵士達にオーガと戦闘をさせようという事だ


「準備は良いですか?」

「はい」

「いつでも行けます」

「うむ」

「しかし…

 行けますが、本当にやるんですか?」

「ん?」

「こう言ってはなんですが

 自信はありません」

「そうですか?」


兵士達が自信無さ気にしていると、エドワード隊長は腰の剣に手をやる。


「それでは、私がまた…」

「いけません!

 隊長はまだ、お身体の具合が…」

「そうは言っても、あなた達では自信が無いんでしょう?」

「う…」

「そ、それは…」

「それならば、隊長である私が戦うしかないでしょう」

「いえ

 我々がやります」

「そうです」

「これ以上隊長に、無理はさせられません」

「いつまでも隊長お一人に、無理をさせられません」


エドワードがわざと弱気な発言をする事によって、兵士達は自分達が頑張らなければと強く思った。

これは兵士達との信頼関係があればこその事だ。

信頼する上司を守る為に、兵士達はやる気を漲らせていた。


「こうなったらやるぞ!」

「そうだ!」

「これ以上、隊長に無茶はさせられねえ」

「それに、オーガに比べたら…

 ボブの母ちゃんの方が…」

「おい!

 そこで何で、オレの母ちゃんが出るんだ!」

「そうだそうだ

 母ちゃんを目にしたボブに比べたら、オーガなんて怖くねえ」

「おい

 オレの女房をオーガと一緒にするなよ」

「そうだな

 オーガより怖いもんな」

「貴様あ!」

「ははは

 確かに」


揶揄われたボブは怒っていたが、それで兵士はすっかりリラックスしていた。

因みにボブの奥さんとはアーネストの家のメイド長の姉で、怒らせたら怖い奥さんの代表だった。

昔は冒険者をしていて、熊と戦ったという武勇伝もある女性だ。

彼女に比べれば、ミリアルドの奥さんはまだ優しかった。


「はははは

 それは良いんだが、君達の準備は良いのかね」

「は、はい」

「いつでも行けます」

「任せてください」

「今度こそは我々が、オーガの奴を倒してやります」


エドワードはそろそろ頃合いと見て、部隊を引き締めに掛かる。

もう5分で8時の鐘が鳴る。

そうすれば、危険な魔物が潜んだ森に出なければならない。

そろそろ気を引き締めねばならないだろう。


「それでは…

 準備はよろしいですね」

「はい」


エドワードの言葉に、兵士達は一斉に引き締まった顔になり、返事をした。


「それでは、そろそろ出発しましょう」

「はい」

「開門」

「開門」

ギギギ…!


エドワードの合図に合わせ、城門が緩やかに開き始める。

同時に北の城門も将軍が合図を送り、緩やかに開き始めていた。

そして斥候が速やかに進み出て、周囲の様子を探る。

どうやら今日は、城門の周辺には魔物は居ない様であった。


「全体!

 進め!」

「全体、進めー!」

「おおっ!」


歩兵達が声を合わせて返事をして、ゆっくりと城門を潜って行く。

それに合わせて弓兵が2部隊前に出て、付近の魔物が居ないか牽制をする。

斥候が確認していたが、あくまでも周囲の確認である。

さすがに城門が開き、兵士が出て来れば状況は変わる。

森の入り口から数匹のゴブリンが、兵士の声に釣られて顔を出していた。


しかし、あっという間に矢で射られて絶命する。

普段は城門の上からだが、それでも毎日の様にゴブリンやコボルトを狩っているのだ。

弓兵達の射撃の腕前も、以前に比べれば格段に上がっていた。

彼等はゴブリンの姿を確認すると、すぐさま頭を狙って矢を放っていた。


ヒュンヒュン!

グギャッ

ギャピッ


弓兵の中には、新たなジョブを授かった者も居た。

それは射撃手やハンターという弓のジョブで、射撃の精度や筋力が強くなる効果があった。

それで以前に比べると、弓を引く力も強くなったいた。

そういった者が指揮をして、城門の周囲の魔物を狩っていた。


彼等はジョブを得る事で、新たな弓術のスキルを身に着けていた。

それは強力な弓を引く為の身体強化や、命中精度を上げるという地味なスキルが主である。

しかし精度が上がる事で、より多くの魔物を倒す事が出来る。


それに加えて、速射や連射のスキルも発見されていた。

こちらは未だ訓練不足で、実用的では無かった。

しかし訓練次第では、連続で魔物を素早く仕留めれるだろう。

新しいスキルを得た事で、弓兵達の士気も上がっていた。


また、ジョブで力が上がった事で、新たに開発された強力な長弓も扱える様になっていた。

それはオーガの筋肉と骨で作られていて、身体強化と命中率の向上が付与されていた。

しかし並みの弓兵では引く事が出来ず、身体強化が必要となる。

恐らくジョブが使える為の条件で、他の歩兵や騎兵では上手く引けなかった。


森から出て来た魔物は、速やかに弓兵の手で倒された。

彼等は新たな相棒を得て、素早く魔物を射殺す。

そうして森の入り口に移動すると、そこから森の中の様子を伺っていた。

斥侯ほどでは無かったが、視力もジョブの効果で上がっているのだ。


「どうですか?」

「はい

 どうやら、数㎞四方には魔物は潜んで居ません」

「そうですか」

「しかし気を付けてください

 魔物は常に移動しています

 こうしている間にも、こちらに向かって来ているかも知れません」

「そうですね

 付近を警戒しつつ、左舷は第1、第2部隊が入ってください

 右舷には第4、第5部隊が向かってください

 第3部隊は私と共に、こちらに向かいましょう」


エドワードの指示に従い、5つの部隊はそれぞれに別れて森の中に入って行った。

それを見守る様に、弓兵達が周囲の魔物を警戒していた。

森の中は朝とは言え、木々の枝に遮られていて薄暗かった。

そこへ兵士達が分け入って行き、木陰や茂みに魔物が潜んで居ないか確認して行く。

今のところは順調で、魔物の影は見られなかった。


「ふむ

 魔物は居ませんねえ」

「そうですね

 昨日の様に突然は現れませんし、他の獲物を追っている気配もありませんですね」


昨日の騒動は、オーガが空腹からコボルトの群れを襲った事が原因であった。

それでコボルトの群れが逃げ出して、それをオーガが追う事になった。

そのまま魔物は逃げ続けて、結果として歩兵達の居る方に逃げて来たのだ。

しかし今日は、オーガが走って来る足音は聞こえていない。

今のところは、魔物が向かって来る様子は無さそうだった。


エドワードと兵士達は周囲を警戒しつつ、ゆっくりと森の中へ入って行った。

その間にも第2部隊がゴブリンの集団を発見し、その背後を追いつつも伝令を出していた。

集落があれば、それを潰す必要があるからだ。

彼等は魔物が来た方向に、慎重に進んでいた。


もう一方で、第4部隊もコボルトを発見していた。

しかしこちらは、鼻が利くので兵士達の方が先に発見されていた。

数は5匹と少なかったので、兵士達は直ちにこれを駆逐した。

早目に倒したので、他の魔物が応援に現れる事も無い。

それで兵士達は、そのまま魔物の痕跡を探る。


そのまま見付からなければ、彼等は後を追って集落や仲間を発見出来ただろう。

しかしコボルトは鼻が利くのでそれは難しかった。

それでも痕跡を探る事で、魔物が来た方向はある程度絞れた。

彼等は集落があるか、確認する為にさらに進んだ。


伝令が動き、こういった状況が逐一隊長に伝えられる。

エドワード隊長は、こうして綿密な情報収集を行う事を重要視していた。

過去にそれを怠った事で、仲間の多くが死んでしまったからだ。

だからこそ隊長は、大事な部下達を守る為に情報を集めているのだ。


「第2、第4は接敵しましたか

 こちらは居ませんねえ」

「はい

 今のところは静かなものです」

「弱りましたねえ

 ゴブリンは嫌ですが、せめてコボルトかオークぐらいは狩りたいですね」

「はあ」


エドワードは敵に会わない事を残念がっていたが、兵士はなるべく会いたくないと思っていた。

オーガもだが、オークやコボルトでも数が居れば厄介だからだ。

素材は欲しいと思うが、戦闘は出来るだけしたく無かったのだ。

兵士達は魔物が出ない様に祈っていたが、そういう時ほど裏切られるものだ。

先行して偵察していた兵士が、小走りで戻って来た。


「い、居ました

 オーガです」

「お!

 遂に出ましたか」

「うげっ」

「居るのか…」


嬉しそうなエドワードに対して、兵士のテンションは低かった。


「数は恐らく、5匹だと思います」

「そうですか…」

「ご、5匹も?」

「それは無理なんじゃあ…」

「5匹も居るんでしたら、我々だけでは厳しいですね

 他にも居るかも知れません、第5部隊を呼んでください」

「分かりました

 すぐに伝えます」


直ちに伝令が立てられ、第5部隊が向かった方角へ小走りで向かった。

その間にもエドワードは指示を出し、魔物との距離と地形を確認させた。

オーガは2m50㎝から3m近くと大きいので、遠くからでもある程度の所在は確認出来る。

それに地響きを立てて、彼等は歩き回る。

その地鳴りの様な足音から、おおよその位置は確認出来た。



隊長達は見付からない様に回り込み、第5部隊と挟み撃ちにする作戦を立てた。

作戦の伝達の為に二人の兵士を残し、騎兵達に周囲の警戒を任せて移動を開始しする。

その間にも第5部隊が到着して、伝令から作戦の内容を確認する。

それで第5部隊は、そこから隊長達の間反対の位置に移動した。

それから10分ほどで移動を完了して、第5部隊と突入のタイミングを合わせる為にその場に待機する。


「準備が出来た様ですね」

「ええ

 信号を確認しました」


騎兵達が手信号で、第5部隊の移動を報せる。

それから数度の手信号で、彼等が目標の位置に到着した事も確認出来た。

こちらも手信号を送り、準備が出来た事を連絡する。

そうしていよいよ、魔物に向けて奇襲を仕掛ける事になる。


「それでは行きますよ」

「はい」

「準備は万端です」

「いつでも行けます」


エドワードが合図を送り、それと同時に部隊が動き始める。

革鎧でも音がしない様に、兵士は慎重に前へ進む。

第5部隊にも合図が伝わり、向こう側からも物音が聞こえ始めた。

彼等が移動する事で、草を掻き分ける音が静かに鳴り響く。

しかしオーガは、自身の足音で気が付いていなかった。


「突撃!」

「うおおおお」

「わああああ」


エドワードの掛け声に合わせて、一斉に鬨の声が上がる。


グガ?

ガアアア


オーガは兵士の声に気付き、周囲を見回す。

しかし気付くのが遅れた為に、既に足元まで兵士は肉薄していた。

さすがに足元に取り付かれては、オーガもすぐには対処出来ない。

腕を振り回すが。その程度では兵士達は難なく躱していた。


ウガアアア

ブンブン!

「食らうかよ」

「今だ

 スキルで少しでも手傷を与えろ」

「喰らえ、スラッシュ」

「ブレイザー」

ザシュッ!

ズバッ!

グガアアア



1匹のオーガが左脚を切り裂かれた事で、バランスを崩して倒れ込む。

スラッシュで脛を切り裂かれ、そこにブレイザーで腱まで切り裂かれる。

それで魔物は、膝を屈して倒れてしまった。

そこに合わせて、頭や首元へ攻撃を加えようと兵士が群がった。


「うおおおおお」

「うわああああ」


兵士達は魔物に群がり、剣を振り翳して切り掛かる。

しかし魔物も、ただ切り殺される事は無かった。

必死になって腕を振り回し、動く方の足も振り上げていた。


グガアアアア

「危ない!」

ザシュッ!

グガアア


騎兵の一人が気付いて、慌ててオーガの左手に向かって切り掛かった。

オーガが痛みに腕を振り回して、危うく兵士に当たるところだったのだ。

彼の機転が利いて間に合った事で、兵士は事なきを得ていた。

あのまま腕が振り下ろされていれば、兵士は殺されていただろう。

幸か不幸か右足と右腕には兵士が切り掛かっていたので、殴られたり蹴られたりする者は居なかった。


兵士達はオーガに群がると、我先にと首筋や胸元に剣を突き立てる。

中には攻撃を警戒して、腕に切り掛かる者もいた。

そうして反撃を受ける事も無く、彼等は1匹目のオーガを倒す事が出来た。

オーガは首筋から鮮血を流し、苦悶の声を上げて事切れる。

1匹目が首を切られている間に、2匹目にも兵士が向かっていた。


「喰らえー!

 っく!」

グガアア

ガコーン!


一人の兵士が、オーガの右脚の踝に切り掛かろうとしていたが、逆に気付かれて蹴られていた。

兵士は必死になって踏ん張っていたが、切り掛かった態勢のまま後ろに吹っ飛んだ。

しかしオーガがそちらに意識を向けている間に、他の兵士が反対から切り掛かる。


「おらー!

 スラッシュ」

ザシュッ!

グガアアア


「こっちもだ」


左脚の脛を切られて、痛みに膝を着いている間に別の兵士が右腕に切り掛かる。

オーガは右腕を着いていたので、その攻撃をまともに受けていた。

そうしてスラッシュがまともに入り、オーガの右腕は二の腕から切り落とされる。

オーガは悲鳴を上げて、左腕で兵士を振り払おうとする。

しかし兵士達も、そんなオーガの攻撃を予測して躱していた。


「そりゃあ」

ザシュッ!

ガアアアア


右腕の痛みで、オーガの振るった左腕には力が入っていない。

それを躱しながら、別の兵士が脇腹を切り裂く。

魔物の腹が割かれて、そこから臓器が零れ出す。

魔物は悲鳴を上げて、さらに斬られた右腕も振り回す


グガアアア

ブン!

「当たるかよ」


しかし痛みに怯んだのか、振られた右腕は弱々しくて遅かった。

兵士はギリギリで躱し、そのまま左腕を狙って切り付ける。

素早く踏み込んで、2連撃の剣戟を叩き込む。


「おらあ

 ブレイザー」

ズバッ!ザシュッ!

グゴオオオ


ブレイザーが見事に決まり、肘と手首の2ヶ所で切り裂かれた腕が力なく垂れ下がる。

オーガは必死になって両腕を振り回すが、既に切り裂かれた腕は痛みで力が入らない。

また振り回した事で、傷からは鮮血が飛び散っていた。

兵士達は振り回す腕を避けながら、執拗に腕と脚に切り付けた。

切られる度にオーガは力を失っていって、よろよろと力無く頭を下げた。

そこに隙を見付けた兵士が駆け込み、膝を足場にして首を掻き切った。


「おっと

 そりゃあ」

ズバッ!

グガ…オオ…


こうして2匹目も、首筋を切られて昏倒する

瞳から生気が失われて、魔物は前のめりに倒れた。

そうこうしている間に第5部隊も2匹目を倒しており、残りは1匹だけになっていた。

残りの1匹にも兵士が向かっており、既に足には無数の切り傷が付いていた。


既に出血もしているので、脚にも力は入っていなかった。

それでも腕には傷が少なかったので、振るわれる腕に近付くのが難しかった。

しかし魔物は追い込まれて、膝を屈して腕を振り回す。

その隙に一人の兵士が、オーガに向かって駆け出した。


「ようっし

 ここはオレの技を見せてやる」


先のオーガを倒した事で自信を持ったのか、その兵士は魔物に向けて駆け込む。

剣を握る手に力を込めて、彼は正面からオーガを睨み付けていた。


「うおおおお」


兵士は気勢を上げながら駆け出し、オーガの正面に向かった。

そのまま腕を振り回すオーガに向かって、彼は真っ直ぐに突っ込んで行く。


「な、何をする気だ!」

「危ないぞ!」


数人の騎兵が声に気付き、慌てて止めようと動き始める。

しかし兵士までの距離があり、兵士にオーガの右拳が当たるまでに間に合いそうな者は居なかった。


グガアアア

「うおおお」

ダン!


兵士は身体強化の力を借りて跳躍し、振るわれたオーガの腕に飛び乗った。

拳が空振り地面を抉っている間に、兵士は腕を駆け上がって行く。

彼は以前にギルバートがやった、魔物の腕を駆け上がるのを真似たのだ。

予想外の兵士の行動に、オーガは戸惑って攻撃の手が止まった。

そのまま兵士は駆けて行き、オーガの肩でスキルを発動した。


「すりゃああ

 スラッシュ」

ザシュッ!

ガア…


彼は宙で身体を捻り、スキルを放つ体制になる。

そのままスキルに突き動かされて、彼の身体は魔物に向けて突き進む。

一瞬オーガは左腕で兵士を掴もうと腕を上げたが、兵士はスキルの力で素早く前へ出ていた。

剣が首筋を切り裂き、兵士はスキルで移動しながら左肩の先を駆け抜けた。


これは以前に、フランドールがやっていたスキルでの移動しながらの攻撃だった。

兵士はその話を聞いて、自分にも出来ると思い込んでいた。

しかし一歩間違えれば、そのまま魔物に激突する可能性もある危険な技だ。

それで無くとも、振るった腕に叩き潰される可能性もある。

フランドールが成功させたのは、彼が素早く動けるからだった。


オーガの左腕は空を掴み、そのまま力なく倒れた。

彼の攻撃が成功したのは、あくまでもオーガが弱っていたからだ。

それと彼が信じ切って、全力で向かって行ったのが成功した要因だろう。

これほどの技が決まるのは、運が良かったとしか言えない。


ズズーン!


巨体が倒れて、最後の魔物が死んだ事を告げる。

辺りには他の魔物は居なく、またこの戦闘音を恐れて逃げ出していた。

そうで無ければ、追加の魔物が現れていただろう。

今のこの付近には、オーガより危険な魔物は居なかった事が幸いした。


「今のは危なかったな」

「そうだよ

 上手く避けれたから良かったが、下手したら死んでるぞ」

「へへ

 坊っちゃんやフランドール様が、格好良く決めたって聞いたからな

 オレにも出来ると…」

「馬鹿野郎!

 あれは坊っちゃんが強いからだ」

「そうだぞ!

 死んだらどうする気だったんだ」

「え?

 でも…」


騎兵達は魔物に止めを刺した兵士に、一応注意をしていた。

倒す事が出来たとはいえ、些か危険な行為だったからだ。

幾ら身体強化が出来ていたとはいえ、まともに攻撃を受けていたら重傷は免れなかっただろう。

事実軽傷とはいえ、他の兵士はオーガの振り回した腕に当たって怪我をしていた。

身体強化が出来ていない者は、巻き上がった石の礫で怪我をしている者も居た。


「そうですよ

 今のは危険でしたよ」

「はあ

 隊長もやってらしたんで、出来ると思ったんですが…」

「そうですね

 確かに身体強化があれば、アレは可能でしょう」

「そうですよね」


エドワードの言葉に、兵士は嬉しそうにする。

しかしエドワードは、静かに首を横に振った。

いくら出来ると言っても、今のは危険な事には変わりが無い。

エドワードがやったのは、兵士達を守る為に仕方が無い事だった。

しかし今の彼のは、必要の無い派手な攻撃だった。


「それでも

 もう少し手傷を与えてからやっても良かったんじゃありませんか?

 もし少しでも見誤れば、君は死んでいましたよ」

「は、はい…」

「君の技量は見事でしたが、今後はもう少し自重してください

 でないと私の心臓がもちませんよ」

「はい」


エドワードの諌めの言葉に、兵士はしゅんとして大人しくなった。

実際に調子に乗って、危険な行動をしたのだ。

話しに聞いていたのと、実際にするのでは違っている。

それに躱せたとはいえ、魔物の攻撃は確かに危険だった。

空振りした時の、風圧は失禁しそうなほどに恐ろしかったのだ。

彼は調子よく答えていたが、内心では心臓が激しく鼓動していたのだ。


「とは言え、オーガを無事に倒せたのは見事でした

 おめでとう」


エドワードはそう言うと、パチパチと拍手をした。

叱るばかりでは、兵士は伸びない。

だからこそ褒めるべき事は、しっかりと褒める事にしているのだ。

それに釣られて、他の兵士達も拍手をして彼を褒めた。


「すげえな」

「よくあんな事を思い付いた」

「立派だったぞ」

「坊っちゃんの真似か…」

「オレ達には出来ないな」

「いやあ

 咄嗟に身体が動いたんですよ」


兵士は照れながらも、自分が倒したオーガを見た。

今さら振り返れば、よくあんな馬鹿な事をしたものだと思う。

1匹倒した事で、気が大きくなって調子に乗ってしまったのだろう。

気が付けば夢中になって、魔物に向かって駆け出していたのだから。


確かにどうかしてたかも知れない

思わず向かって行ったけど、隊長の言うように危険だった

もう少し手傷を負わせて、動きが鈍くなってからの方が安全だったよな…


兵士は今更ながら、自分が無謀な行為に及んだのだと実感していた。

上手く決めれたけど、何で自分が隊長の様に出来ると思ったのか分かっていなかった。

しかし彼は、オーガをスキルで倒した事で称号とジョブを得ていた。

それがオーガを倒す前なのだか、後なのだかは夢中で気が付かなかった。

しかし気が付けば、自分の頭の中に戦士としてのスキルや力がある事が理解出来ていた。


「さて

 先ずは5匹を討伐しました

 次に向かいましょう」

「え?」

「まだやるんですか?」

「当然でしょう?」

「…」

「今日は何匹狩れるのか

 他の部隊に負けない様にしましょう」

「え?」

「勝負する気なんですか?」

「当然ですよ

 勝ったらワイルド・ボアのステーキですから」

「え?」

「そ、それは…」


エドワードはニコニコと言っていたが、兵士達はげっそりとして聞いていた。

確かにワイルド・ボアのステーキは魅力的だが、それ以上にオーガとの戦闘が大変だった。

さっきの戦闘で、彼等は必死になって戦ったのだ。

それをそう何度も、出来そうには無かった。

だからさらに倒すと聞けば、より疲労感を感じていた。

彼等は溜息を吐きながら、鼻歌を歌う隊長の後を追うのであった。

まだまだ続きます。

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