第096話
ギルバートが帰還した時、街では小さな混乱が起きていた
事情を聞くと、オーガが森では無く平原にまで現れたと知った
実際には森に出たオーガが、平原までコボルトを追って来たわけだが結果は同じである
森に比べれば安全な筈だった平原が、昨日より危険な場所になったのだ
ギルバートはフランドールが帰還するのを待ってから、事後の相談をしようと思った
このまま放置しては、隊商が往き来できなくなってしまう
それはダーナにとっては、大きな痛手になってしまう
フランドールの部隊には、アーネストも魔法の運用試験の為に同行している
明日からの狩場の相談や部隊編成をするにしても、アーネストの意見も必要だろう
彼の方が、魔物の生態に関しては詳しいのだ
フランドール達は夕刻前、4時を過ぎてから帰還した。
成果としてはギルバート達と大きく変わらず、オーガが数匹とワイルド・ボアを数匹狩っていた。
違う点はアーマード・ボアが1匹狩れた事と、幾つかの魔物が魔法の炎で損傷していた事だ。
どうやらアーネストが使った魔法で、想定外の損傷を与えてしまった様子である。
「いやあ
炎の魔法は加減が難しい
失敗して素材が駄目になってしまった」
「そうだね
威力が高くて討伐が早くなる代わりに、魔物の損傷が激しい
折角狩れても、これじゃあ素材が台無しになってしまうね」
「申し訳ない」
「いや
知れた事が大きいだろう?
その辺は今後の課題だね」
「そうですね
素材を損傷しない為には、マジックアローや拘束の魔法の方が良いのかな?」
アーネストはフランドールと、魔法の運用について話しながら歩いていた。
二人はまだ、街の異変には気が付いていなかった。
そこで城門の中に待ち構える、二人の様子に驚いていた。
「ん?
どうしたんだい?」
「何かあったのか?」
ギルバートが将軍と待ち構えて居るのを見付けて、二人はようやく周りの様子に気が付く。
数人の兵士が忙しく動き回り、物資を南の城門へ向けて運んでいた。
「二人を待っていたんだ」
「え?
どうしたんだい?」
「まさか魔物の侵攻が早まったのかい?」
二人はギルバートの様子に驚き、勘違いをしてしまった。
実際に兵士達の慌て様は、魔物が攻め込んで来たかの様だった。
「予定なら後4日はある筈なのに
そんなに侵攻が早いのか」
「弱ったな
まだまだ兵士の技量は未熟なのに…」
「いや、そうじゃないんだ
そうじゃないんだけど…
別の件で問題が…」
「問題?」
「そう、問題だ
南の平原にオーガが出た」
「なんだって!」
「で、被害は?」
「被害は無かった
まあこちらには…
オーガは1匹だったし、コボルトを追っていたから
そこにエドワード隊長が奇襲を掛けたらしい」
「そうか…
良かった」
二人はオーガ出現に驚いたが、被害が無くて良かったと安堵した。
しかし問題はそこでは無かった。
今回は被害が無かっただけで、今後の被害が予想される。
オーガが頻繁に現れるとなれば、隊商の護衛も油断が出来ないだろう。
「オーガはエドワード元隊長が退治してくれた
さすがは元警備隊長だ」
「うむ
彼が負傷していなければ、本当に隊長として召喚しているのにな
それでもオーガなら狩れる技量はあるんだ、兵士には見習わせたいよ」
将軍はエドワードを褒めつつも、兵士達に鋭い視線を送った。
兵士達はそれに気まずさを感じて、俯いてしまう。
ベテランの腕利きの隊長と比べるのは酷だが、負傷している隊長でも討伐出来るのだ。
五体満足で元気な兵士には、それぐらいの結果を望むのは仕方が無かっただろう。
「そうか…
さすがは噂に聞いた隊長さんだ、その腕前を存分に示したんだな」
「そうか…
しかしオーガが相手ではな…」
「そうか?
あれは脳筋だろう?」
「力任せに攻撃して来るだけだ
それさえ防げれば…」
「それはギルやおじさんだけだろ…」
「ははは…」
「そうかなあ?」
「ううむ
オレはやり易い相手だと思うがな…」
「…」
フランドールもその報告を聞いて、エドワード元隊長の評価を改めて高くした。
しかしアーネストは違っていた。
そして聞いていた兵士達も、慌てた様子で首を振っている。
彼等からすれば、先ずはその力が脅威である。
身体強化を習得出来ても、対処出来るという自身は無いのだ。
エドワードが倒したという事は、兵士達ではどうしようも無かったのではないか?
寧ろこれからの討伐で影響が出ないだろうか?
隊長が上手く、彼等を指導出来れば良いのだが…
アーネストはそんな不安を感じていた。
古傷で思う様に動けない隊長でも、オーガは倒せるとなれば奮起をするだろう。
しかし逆に隊長との技量の差を感じては、自分達では討伐は無理ではと尻込みしてしまうだろう。
それか結果として討伐に影響し、失敗したら更に自信を無くしてしまう。
そこら辺を上手に、隊長が指導出来ていれば良いのだが…。
兵士達の様子を見る限りでは、まだ無理そうであった。
「それで
ここで待っていたとなると、明日からの狩場の相談かい?」
「ああ」
「それと兵士の振り分けもだな」
アーネストは二人の様子から、おおよその相談事を推察する。
下手に兵士を出しても、オーガが出るなら危険である。
今まで南の平原に出ていたのも、戦い易いゴブリンが主だったからだ。
オーガが出るとなれば、それを倒せる者の同行が必要となるだろう。
「狩場としては、隊長からは東の森に出てみたいと相談されている」
「東へ?
あそこは今は、魔物が少ないんじゃないかい?」
「そうだな
昨日まではオークぐらいしか居なかった」
「そうだろう?
何で東なんだ?」
「それが…」
「オークと戦わせたいらしい」
「そうか、オークとねえ…
しかしオーガが森から出て来たとなれば、東の森にも来ている可能性もあるのでは?」
「オーガが?」
「ああ
南の平原に出たとなれば、東の森にも来ている可能性が高い」
「ええ
恐らくは北から南下して来ているんでしょう
ですから東に出て、オークとオーガを狩りたいと」
「オークだけでなく、オーガもか…」
隊長の言い分は分かる。
兵士の技量を上げる為にも、今の平原よりは東の森の魔物の方が、より手強くて良いだろう。
既にコボルトでも、倒せる技量にはなっている。
このままオークを倒せる様になれば、彼等の自信にも繋がるだろう。
しかし問題は、そこにもオーガが現れる危険性だ。
「しかし危険ではないかい?」
「そうだねえ
オーガがどれくらい移動して来ているのか
それが多いなら危険だろう」
「今回は1体だけだった
しかし複数となると…」
「如何なエドワード隊長でも、危険だろうな」
フランドールもアーネストも、オーガが多く来ていては兵士が危険だと判断した。
エドワード隊長一人では、兵士を守って戦えないだろう。
それはギルバート達も同じだった。
それでも兵士の技量を上げる為には、多少の危険も冒すしか無いのだ。
「お二人の言葉ももっともだ
しかし、今技量を上げる為には、危険を冒してでもやるしか無いのでは?」
「それに、そこも含めて兵士の編成を考えたいのです」
「なるほど…
今の編成では危険だが、オーガに対抗できる手段があれば…」
「その為の編成の変更ですか?」
「ああ」
問題になるのは、オーガが群れで現れた場合だ。
それさえ対処出来るのならば、オークは絶好の訓練対象となるだろう。
その為の編成の変更を、ギルバートは求めているのだ。
しかしオーガを複数体相手となると、なかなか戦える技量の者は居ない。
「オーガを討伐出来そうな騎兵達を数人
歩兵部隊の護衛に回せないかと」
「うーん
それは良い考えだと思いますが
そうなれば北に向かう部隊の人数が減りますね」
「そうです
そこが問題になります」
「そもそも
騎兵だけで倒せるのか?」
「そこは数が少なければ…」
「それなら兵士達でも、何とか倒せるのでは?」
「出来るのか?」
「騎兵とどれぐらいの差があるか…
そこが問題だな」
3人はそこで考え込んでしまった。
今の人数では、オーガ1体を相手では過剰になる。
しかしワイルド・ベアが出たら危険になってしまう。
出来れば北に人数を回して、少しでもワイルド・ベアの討伐に慣らしておきたい。
しかしそこで兵士達だけで、東の森に放り込むのも危険である。
彼等だけでは、オークは討伐出来てもオーガでは危険である。
その辺を考えて、編成を上手く考えなければならない。
そこでアーネストが口を開いた。
「あのお
これは提案なんですが」
「何だ?」
「何か良い策があるのか?」
「ええっと
策と言うか…」
アーネストは少し悩んだが、思い切って提案してみた。
今回の戦闘で、魔法による戦闘にも自信が付いていた。
彼自身で無くても、それなりに魔法が使えれば戦えるのでは無いか?
アーネストはそう考えていたのだ。
「素材の状態が多少悪くなるかも知れませんが
どうでしょう?
魔術師部隊を作ってみては?」
「魔術師?」
「魔術師達を戦場に立たせてみるのか?」
「ええ
魔術師達を部隊として編成し、東の森のオーガ対策にするんです」
「なるほど…
魔法を…」
「しかし使えるのか?」
アーネストの考えはこうだ。
まだ人数こそ少ないが、そこそこ攻撃用の魔法を使える者が出て来ている。
彼等を同行させて、魔物との戦闘に慣れさせるのだ。
上手く魔法で倒せる様になれば、城壁からの攻撃でも役に立てる様になる。
いや、寧ろ城壁から攻撃魔法を運用させる為にも、今から慣れておく必要があるのだ。
「うーむ
しかしそうなると、体力の無い魔術師達を同行させる為には…
行軍速度は遅くなるだろうな」
「それに
魔力が切れたら只の人
その辺も考えないといけませんね」
「ええ
ですから、効率的な魔力運用や魔法の発動練習も兼ねて、同行させてみてはどうかと
まあ、初日は大変でしょうが…」
正直なところ、アーネスト自身も危険な事だとは自覚している。
魔力が無くなれば、彼等は足手纏いでしか無い。
それに体力が低いので、走って逃げる事も出来ない。
そう考えれば、安易に連れて行くのは危険である。
しかし危険だからこそ、今から慣らしておく必要があるのだ。
「大丈夫なのか?」
「最初は危険だろうから…
先ずは周辺で慣れさせる必要があるだろうね」
「そうだろうな」
「だけど慣れないと、いつまで経っても役立たずだろう?」
「それは…」
「なるほどな
確かに慣れれば、彼等も残りの魔力も考えて行動出来るか」
「それに、魔物に臆する事無く魔法を使える様に、魔物に対峙した時の練習も出来る」
ギルバートと将軍は納得したが、フランドールは懐疑的だった。
確かに、アーネスト程の魔力があれば、オーガ相手でも十分に太刀打ち出来るだろう。
実際に今日、アーネストはオーガに臆する事無く魔法をぶっ放していた。
それが出来れば、魔術師達はかなり頼れる存在になるだろう。
だが問題は、他の魔術師がそう出来るかどうかだった。
「だがしかし、本当に大丈夫だろうか?」
「と言うと?」
「実際に魔術師達がオーガを目の前にしたら…
驚いて腰を抜かさないかい?」
「あ…」
「それは…」
「そこが問題なんですよね」
そこで4人は再び黙り込む。
正直なところ屈強な戦士である兵士達でも、あの大きなオーガの前では尻込みしてしまう。
魔術師というのは、普段は街の中に居て、安全な場所でのんびり魔法の研究をしている。
そんな彼等が、実際の戦場で役に立つのだろうか?
魔物を目の前にしては、腰を抜かして役に立たないのでは無いだろうか?
こればかりは、実際に連れて行って試すしか無いだろう。
私は大丈夫だと言う者でも、腰を抜かして逃げ出すかも知れない。
その為にも、先ずは周辺で試しに同行させるしか無かった。
「これからギルドに出向いて、有志を募ってみます
何人集まるか分かりませんが、集めれる様なら東の森に向かいましょう」
「そうだな
先ずは何人が来れるか」
「度胸がある魔術師なんて…
何人居るのやら」
ヘンディーからすれば、魔術師という者達は臆病者の集まりである。
魔物の前に出るなど、彼等に出来る事では無い。
ましてやオーガなどという大型の魔物の前になど、普通の兵士にも出来ない事だ。
だからヘンディーは、それは無理な事に感じられていた。
結局、部隊編成はそのままにする事となった。
先ずは明日の魔術師達の集まり次第で、歩兵達が東の森に出るかを決める事になった。
彼等が集まらない事には、配置を変える意味が無いからだ。
魔術師が集まらないと、ヘンディーは考えていた。
そこでアーネストは、早速ギルドに顔を出す事にした。
「では、行ってきますが期待はしないでください
報告は夜の食事時にでもしますね」
「無理だろう」
「そうですね
普通ならそうなるでしょう」
「むう?
どういう意味だ?」
「そこはお楽しみにって事で」
「あ!
おい!」
アーネストはそう言って、いそいそとギルドへ向かって行った。
含みを持たす言葉に、ヘンディーは困った様な表情を浮かべる。
こういう事を言う時に、甥っ子は碌でも無い事を考えている。
それがとんでもない事で無い様にと、ヘンディーは祈るしか無かった。
アーネストが魔術師ギルドに到着すると、中には多くの魔術師達が居た。
普段はそんなに居ない筈なのに、今日はほとんどの魔術師達が集まっていた。
その人数は総勢で76名も集まって居た。
「あれ?
何でこんなに居るんだ?」
「おう、アーネスト坊
待っていたぞ」
ギルド長はニコニコと笑顔でアーネストに近付くと、早速今日の狩の事を聞き始めた。
どうやらギルド長は、今日の狩りの成果を聞きたくて待っていたらしい。
他の魔術師達が集まっているのも、魔物に効果があるのか気になっていたからだ。
魔法を行使する事よりも、その効果がどうなるか気になっていたのだ。
こういったところが、魔術師が奇異な集団と評される要因である。
「どうだったい?
狩は上手く行ったのかい?」
「え?
ええ…まあ」
「ん?
どうしたんだ、浮かない顔して」
「狩自体は上手く行きました
ただ、素材が幾らか燃えてしまって」
「ああ、なるほど
炎の魔法は使えねえか」
「ええ」
「そうなると…
お前さんが最近調べた、雷の魔法も不味いかな?」
「そうですね
気を付けないと同じ様に燃やしてしまいますね」
「ふうん
そうなるとマジックアローが一番良いのかい?」
「ええ
後は拘束系や睡眠や混乱の雲ですね」
「そうか…
そっちはまだ、使える奴は少ないな」
ギルド長はそう言うと、集まっている魔術師達を順番に見る。
そうしながら手元の羊皮紙に、何やらメモ書きを取り熱心に頷く。
「何をしてるんです?」
「ん?
ああ、使える奴と魔法の種類を記録していてな
また魔物が来るらしいじゃないか
その時にどいつがどこに立つか決めとかねえとな」
ギルド長はそう言いながらもメモを取り、次にカウンターの上の地図とにらめっこを始めた。
地図には既に数名の名前が記されており、そこへ新たな候補を書き加えてゆく。
今の書かれている名前は、魔力が高い数名の名前だけだった。
そこに拘束の魔法が使える者の名が、新たに加えられた。
「あのお…
今日はどういった集まりなんですか?」
「ん?
ああ
こいつ等も魔物の事が気になっていてな
それを報告して欲しいんだ」
「報告ですか?」
「ああ
どの魔物にどの魔法が有効か
それと使っちゃならねえ魔法があるかだな」
「はあ…」
「これとこいつ…
よし、これで良いだろう
ではこっちへ来てくれ」
結局彼も、魔術師であるのだ。
魔物が怖い存在であるが、それにどの様な効果があるか気になるのだ。
その為には、多少の命の危険も省みない。
魔術師という者は、その様な奇異な者達の集団なのだ。
ギルド長はアーネストの裾を掴み、ギルド長が演説する為の演台に引っ張る。
そしてそこに立たせると、背中をバシバシと叩いた。
ギルド長は老齢だが背はしゃんと伸びている。
しかし身長が低いので、150㎝ぐらいしか無いアーネストよりも低かった。
だからこそ演台が必要だったのだ。
アーネストはここで報告しろと言う事だと判断して、みなの前で話し始めた。
どの道明日からの事を考えると、ここで魔物の事を報告する必要があった。
その上で、魔術を試す為の命知らずを募る必要があった。
しかし現状を見れば、その様な者達が少なからず居る事は確認出来た。
「えー…
それでは報告させてもらいますね」
「おう」
「先ずはどんな魔法が有効か…
だな」
「そうだな
オレの拘束魔法が効くか…」
「それよりも炎の魔法だろう?
燃やし尽くしてしまえば、魔物なんて屁でも無いさ」
「そんな事をすれば、貴重な素材が燃えて無くなるだろうが」
「ああん?
だが亡者にはならないだろう?」
「そりゃあそうだが…」
「ああ…
話を聞いてくれ」
それから1時間ほど、アーネストは報告と言う質問攻めにあってしまった。
最初は大人しく聞いていたものの、さすがは研究馬鹿が集まるギルド。
一通りの結果を聞いた後は、各自の魔法の持論や効果を挙げて、それが有効か質問された。
実戦に有効な魔法なら兎も角、中には戦闘に関係無さそうな魔法まで上がっていた。
一々真面目に答える必要は無かったが、ここは研究馬鹿の集まる場所。
答えなければ後々しつこく付き纏われる。
しまいには、アーネストは苛立ちを爆発させてしまった。
「ですから、この洗濯用の洗浄魔法がどの様に作用するのか…」
「ああ!
いい加減にしろ
そんなに知りたきゃ一緒に戦場に出ろ!
そこで試せば良いだろう」
「え?」
「それだ!」
アーネストの一言に、ほとんどの魔術師達が沸き立つ。
そして次々と演台に詰め寄っては、ギルド長に許可を求め始めた。
実際に試してみれば、彼等自身の探究欲求も満たされる。
彼等は我先にと、森の狩りに同行させてくれと嘆願し始めた。
「ギルド長、私を出させてください」
「いえ、私の方が役に立ちますぞ」
「いやいや、私の洗濯魔法の方が…」
「お前は引っ込んでろ!」
ギルド長は集まる魔術師達にもみくちゃにされ、一段落着く頃にはボロボロになっていた。
先ずは今回は、拘束魔法を使える者を同行させる事に決まった。
その他にも、多少は攻撃魔法を使える者も選ばれていた。
洗濯魔法の彼は、いずれも習得していないので除外されていた。
ようやく騒ぎを落ち着かせると、ギルド長はアーネストの方を向いた。
「それで…
どうなんじゃ?
坊っちゃんは許してくれるかのう?」
「ええっと…」
アーネストは少し思案した。
確かに、最初は魔術師達に協力を得るつもりでギルドに顔を出した。
まあ顔を出さずとも、この様子では遅かれ早かれ召喚されていただろうが。
しかし実際に出すとなれば、彼等が安全か心配になっていた。
戦場で魔法を試したいという申し出と、戦場での戦いの協力要請では内容が違う。
このまま彼等を連れ出して、果たして無事に済むのだろうか?
いや、かなり不味い気さえしてくる。
無茶な魔法を放って、却って危険な状況を作り兼ねない。
「えー…
ギルが、坊っちゃんが望んでいるのは攻撃魔法による支援です
それを使える者が必要なんだ
だから攻撃魔法以外は駄目だよ」
「それなら、オレ様の得意の炎の魔法はどうだい」
「んー…
炎か…」
「しかし炎は駄目じゃろ
素材が焼けてしまう」
「そこは調整して…
駄目かい?」
「いや、素材に関しては出来れば欲しいけど…
危険を避ける為なら止むを得ないだろう」
「よし!
それならオレ様は行けるな」
「なら、私も雷の魔法が使えます」
「オレも眠りの雲を出せる」
そこから我も我もと、再び一気に43名が立候補して来た。
中には拘束の魔法を得意とする者も居て、彼等は試しとして同行させる事となる。
そこから魔力の高い者を、優先して選んで行く。
「良いのかい?
相手はオークやオーガ
強力で危険な魔物だよ」
「やらいでか
オレ達は街を守る為に魔法を研鑽している」
「それに、今度の侵攻に対する予行演習だよね?」
「だから実戦で魔法をばかすか撃たないと練習にならないや」
「おいおい
撃ち過ぎて倒れるなよ」
「そうだぞ
この中では、お前が一番魔力が低いんだ」
「そうだぞ
魔力枯渇で倒れるなよ」
「ああ
ポーションも用意しておく」
攻撃魔法が使える魔術師達は、明日から魔物と戦えるとあって気合も十分だった。
思えば、今までは城壁の中から消極的に、防衛の為にしか撃てなかった。
それが憎き魔物を相手に、思う存分魔法が使えるのだ。
中には日頃の夫婦生活や子供の反抗期のストレスを抱えた者も居たのだが、それでも乗り気だった。
ただ、生活魔法しか使えない者はしょげていた。
水を溜めたり、火を起こしたり、裏方で働くには十分だったが、戦場では活躍出来ないからだ。
いや、寧ろ危険な足手纏いにしかならないだろう。
老齢の魔術師がボソリと呟く。
「ワシの…
洗濯魔法は使えんかのう?
洗浄だけに戦場では役に…」
「お前は(あんたは)黙ってろ!」
魔物の群れが到着する予定まで、あと4日を切っていた。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。