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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第095話

ワイルド・ベアとの遭遇から3日、ギルバートは将軍達と北の森を捜索していた

フランドールとアーネストも捜索には加わっていたが、別の部隊と一緒に行動していた

あれからワイルド・ベアには遭遇出来なかったが、代わりにオーガと何度か交戦で来ていた

その成果もあってか、兵士達は以前よりも士気が上がっていた


北の森ではオーガとの戦闘が行われていたが、南の平原は比較的平和で魔物も少なかった

兵士は毎日ゴブリンやワイルド・ボアを狩って過ごし、少しづつ戦闘に慣れてきていた

そうした事もあってか、緊張が続かず油断していた

ゴブリン程度では、兵士には簡単な狩りに感じられていたのだ


今日もエドワード元隊長に指揮されて、多くの歩兵と弓兵が森に来ていた。

彼等は今日もゴブリンを狩っていて、些かその数にうんざりしていた。

ほとんどのゴブリンが、弓兵の攻撃で倒されている。

歩兵の主な仕事は、逃げたゴブリンの狩りである。

その他は遺骸の手足を、切り裂いて死霊化を防ぐぐらいであった。


「はあ

 今日も小鬼と追いかけっこか」

「そう言うなよ

 お前もうんざりしている様だが、みんな同じだ」

「そうだぞ

 この程度では訓練にもならない」

「はあ…

 早く向こうに加わりたいな」

「そう思うなら真面目にしろ」

「そうそう

 今のオレ達では、オークでも厳しいからな」


数人の兵士が倒したゴブリンの遺骸を処分しながら、溜息混じりに愚痴を溢していた。

ここで実戦経験を繰り返して、スキルを一つでも身に付ける。

そうしてスキルを身に付けた者が、オークを狩りに東や北の森に向かう。

スキルが身に付いていない兵士では、オークの討伐でも難しいからだ。


彼等は士気も下がって、毎日の繰り返しに慣れ切っていた。

そうした姿勢が、スキルを身に付ける心構えを失わせる。

しかしその事を、彼等はまだ知らなかった。

そこへ別の部隊の兵士が、息を切らせながら駆け込んで来た。


「大変だ!

 コボルトの群れとオーガが出たぞ」

「何だって!」

「お、オーガ?」

「そんなの無理だろ」


ここに来て、これまで出なかった大型の魔物が出現したのだ。

それも厄介なコボルトの群れと共に。

オーガともなれば、部隊長以上の者でしか倒せないだろう。

ましてやコボルトの群れとなれば、熟練の兵士達でも苦戦する。


「エドワード隊長は何処へいらっしゃる?」

「隊長なら向こうの警戒に残っている

 そっちの林の中で魔物の痕跡を探っている」

「分かった

 至急相談して来る」

「マズいな…」

「ああ

 こんな時に、将軍達は森の中だし」

「間に合わないだろうな…」


伝令の兵士が隊長代行を呼びに駆け出す中、残った兵士達は仲間の無事を祈った。

兵士達だけでは、コボルトの討伐も難しい。

隊長が同行していても、群れとなれば厳しいだろう。

それに加えて、今回はオーガまで現れている。

今は一刻を争ってでも、隊長を呼ぶ事しか出来なかった。


「隊長

 エドワード隊長」

「む?

 何だね、騒々しい

 ここにはまだ魔物が潜んで居るかも…」

「それが緊急なんです」


兵士は息を吐きながら、事の経緯を伝える。


「向こうでオーガに追われたコボルトの群れが現れ、みんなは身を潜めていますが危険なんです」

「なんと!

 遂にここまでオーガが出て来たのか」

「はい

 すぐに来てください」

「ううむ…」


今までは草原で見晴らしも良く、林や森の中に集落を築いた魔物を狩っていた。

見晴らしが良い分危険な魔物が住み着く事も無く、安全に魔物との戦闘訓練が出来ていたのだ。

それがオーガとなると、まだ兵士達には荷が重かった。

いや、正直なところ、エドワード隊長でも勝てないだろう。


「それで

 兵士達はどうしている?」

「はい

 向こうの森の外れから出て来たので、慌てて森の中に避難してます

 ただ…オーガが暴れていて危険なんです」

「そうか…

 下手に近付けば危険だが、森の中も危険だろう

 どうしたものか…」


幸いにも森に逃げ込んだ為、兵士達は今のところ無事らしい。

しかし、いつ見つかるか分からない。

それに逃げ出したコボルトが、森にも潜んで居るかも知れない。

急がなければ、逃げた兵士も危険なのだ。


「オーガだけならコボルトを蹴散らして食ったら…

 それで満足するだろう

 しかし兵士達が見付かれば…」

「どうします?」

「むう…」


エドワードは兵士達を集めて、助けに向かう事を決断した。

このまま考え込んでいても、彼等の危険が増すだけなのだ。


「止むを得ん

 この場は坊っちゃんに任された、みなの命が懸かっている

 全員装備を点検して、救出に向かうぞ」

「は、はい」

「しかし、大丈夫なんでしょうか?」

「魔物はコボルトだけではありません」

「オーガも居るんですよ?」

「うーむ

 分からん」

「ですが我々は…」

「ほとんどがゴブリンやワイルド・ボアぐらいしか相手にしていません」

「コボルトならなんとかなりそうですが…」

「オーガなんてとても」

「しかしな、仲間は見捨てれんだろう?」

「はい…」


エドワードは平原を移動しながら、兵士と相談を始めた。

本来は隠れて移動したいところだが、生憎とここは平原な為に遮蔽物が無い。

加えて早急に現地に着かなければ、現場の状況も分からない。

早足で移動しながら、兵士と弓兵に配置を指示する。


「先ずは私を先頭に、歩兵でオーガの注意を引く

 弓兵はその間にオーガの眼や急所を狙うんだ」

「隊長…」

「大丈夫でしょうか?」

「我々も危険では?」

「うむ

 並みの矢なら効かんだろうが、今回は良い素材が手に入っている

 弓も矢も以前とは違う

 それに眼や弱い部分を狙えば、少しは効くだろう」


これは賭けだったが、これで効果が無いなら次の魔物の侵攻でも役には立たないだろう。

これは言わば前哨戦の様な物だった。

ここでオーガに攻撃してみて、その成果を確認する必要もあった。

だからエドワード隊長は、弓兵にオーガを狙わせる事にした。

問題は当てた後に、彼等が狙われる恐れがある事だった。


「兎に角目や首筋、関節など効きそうな場所を狙って撃つんだ

 それなら…

 見えてきたぞ」

「う…」

「あれがオーガ?」

「あまりに大きいですよ」

ウガアアア

ギャン


オーガは大木の様な腕を振るい、コボルトを殴り殺していた。

彼等は腹を減らして、コボルトを食らう為に追っていたのだ。

それで同じ魔物であるのに、コボルトの群れを襲っていた。

そしてコボルトの方も、食われまいとオーガに反撃していた。


グルルル

グガアアア


コボルトはオーガを囲み、果敢に仲間を救うために攻撃する。

しかし一撃で胴や頭が潰されて、その命が奪われて行く。

オーガは武器を持っていなかったが、その膂力は十分に危険なものだった。

振り回した腕に、コボルトの身体は簡単に打ち砕かれる。


しかしコボルトも負けられないと反撃し、粗末な剣や槍で向かって行く。

恐らく死んだ兵士の持ち物であったろう武器は、碌に手入れもされていない為あちこち傷んでいた。

それがオーガの一撃や、固い表皮に当たって壊れていく。

武器を失ったコボルトは、戦意を失って逃げ出すかオーガの拳に打ち砕かれる。


「これは…酷いな」

「あのコボルトが一撃で…」

「しかしオーガは、コボルトに集中しています」

「これは」好機では?」


コボルトの群れは、最初は50匹以上居た様だ。

だがその半数近くが死んでおり、死体はほとんどが原型を留めていなかった。

腕や脚など致命傷を避けれた者も、撃たれた衝撃で起き上がれていない様子だった。

まだ戦意は残っているものの、その攻撃は軽るくて大きな傷は与えれていなかった。


「止むを得ん

 このまま突っ込んで、オーガに少しでも手傷を与える」

「行くんですか?」

「ああ

 あそこの開けた場所なら、コボルトを避けつつ攻撃出来るだろう」

「ですがこのままなら、あのオーガもコボルトに…」

「いや、コボルトでは無理だろう

 それに我々も見付かる恐れがある」

「ですがわざわざ…」

「忘れたのか?

 あの近くには友軍の兵士が居るのだぞ?

 見付かれば…」


今はまだ、オーガはコボルトの血の臭いに酔っている。

しかしコボルトを倒し切れば、その死体を食い始めるだろう。

それで満足すれば良いが、満たされる保証は無い。

そうなれば近くに隠れている、兵士達が見付かる可能性も高い。


エドワードは右のコボルトが少ない場所を指して示し、そこからオーガに攻撃する事を提案した。

しかしコボルトはまだ20匹は残っており、それは危険な行為でもあった。

コボルトとオーガの、両方を相手にする必要がある。

上手く立ち回らなければ、危険な戦いになるだろう。


「乱戦になるかも知れんが、手傷を与えてオーガが退けば…

 なんとかなるかも知れん」

「分かりました」

「うう…怖えな」

「しかし、やるしかないだろ」

「なるべくコボルトをオーガの間にして、我々は遠方から攻撃するぞ」

「はい」


兵士達は恐怖で竦みそうな脚に力を込めて、歯を食いしばって戦場を見る。

弓兵はそっと回り込み、コボルトをオーガとの間に挟む様に展開する。

そこから矢を放ち、少しでも手傷を与えるつもりなのだ。

そうして他の歩兵達は、逃げ惑うコボルトを押し込む。

コボルトを盾にすれば、こちらの被害を少なく出来るからだ。


「良いか

 武器に魔力を込める事を忘れるな

 そうすれば身体強化が加わってなんとかなる…

 筈だ」

「は、はい」

「無理に倒そうとするな

 オーガの方へ追い込めば良い」

「はい」

「兎に角コボルトを盾にして、少しでも手傷を与えるぞ」

「はい」


普段は優しい言葉遣いのエドワードだが、今回は危険を孕んでいる事を重々承知している。

だから厳しい言葉遣いで、兵士達を鼓舞する。

兵士達もその言葉で、自分達の役目を改めて確認する。

彼等の行動次第で、仲間を救う事が出来るからだ。


「それでは行くぞ」

「はい」

「掛かれー!」

「おう!」

「うわああ」

「喰らえええ」

ヒュンヒュン!

ギャウ?

グガアア…ア?


不意に聞こえた鬨の声に、魔物達は思わず振り向く。

そこに弓兵達から、先ずは一斉に矢が放たれる。

それはオーガに当てる為に、先ずは風を読む様に大まかな場所を狙って放たれた。

そして兵士達は剣を構えて、オーガに向かって駆け出す。

その兵士の行動を見て、コボルトは慌ててオーガの方へ逃げようとする。


「うおおおりゃあ」

ガキーン!


兵士の数名が、コボルトを追い込みながらオーガに近付く。

そのままでは、コボルトと共に攻撃されるだろう。

それでオーガが動き難くなる様に、脚を狙って切り付ける。

脚を負傷すれば、オーガもさすがに走れなくなるだろう。


最初の兵士がオーガの足元に取り付き、剣を抜き放って切り付けた

しかし魔力が十分に通っていなくて、それは頑丈な表皮に阻まれる。

兵士は驚いたが、慌てて後方に下がった。

そうしてコボルトの群れに紛れる事で、オーガに狙われない様に注意する。


「魔力を込めるんだ

 せりゃああ」

ザシュッ!

グオオオオ


エドワードが声を掛けつつ、魔力を込めた剣で切りつけた。

それは十分な威力を持って、オーガの右足の付け根を浅く切り裂いていた。

オーガは急に加わった人間の兵士達に戸惑い、脚に受けた傷に怯んだ。

それを見たコボルトも、武器を構えつつ逃げ腰になる。


「今だ、撃てー!」

「はい」


そこを見逃さず、弓兵達が次々と矢を放つ。

この場で急所に当たれば、少しでも手傷を与えられる。

幾つか弾かれたが、眼や左腕の関節部に矢が通った。

オーガは苦悶の声を上げて、激しく腕を振るった。

腕を振り回す事で、飛んで来る矢を弾こうとしたのだ。


グガアアア

ブンブン!

「今だ!」


オーガは矢の攻撃に怯み、無茶苦茶に腕を振り回す。

それで隙が出来て、足元が狙い易くなっていた。

エドワードはその隙を逃さず、オーガに向かって駆け出す。

先程狙った右足ではなく、今度は左脚に向かって駆け込んだ。


グ、グオオオオ…

ブオン!


オーガはそれを警戒して右手で殴りかかるが、片目をやられて遠近感が狂ったのだろう。

オーガの拳は空を切り、エドワードはそれを躱して踏み込んだ。


「つ、えりゃあああ」


エドワードは声を張り上げながら、オーガの右足の甲を踏み、膝を踏み台にして右腕に向かう。

そのまま右腕を足場にして飛び上がり、身体を捻りながらオーガの首に剣を叩き込んだ。

それはまるで、ギルバートかフランドールの様な素早い動きであった。

とても負傷して、動きの切れの悪い様には見えなかった。


彼は肩の痛みも忘れて、全力で剣を頭上から振り下ろす。

奇しくもそれは、スキルのバスターの構えであった。

彼の身体はスキルの補助もあり、鋭い振り下ろしがオーガの右の首筋に叩き込まれる。

そのまま頸動脈を断ち切り、首筋から鮮血が迸った。


ズザン!

ブシャアアア…!

グガ…


オーガは一瞬、苦悶の声を上げる。

腕を振り上げようとするが、そのまま大きくよろめくと仰向けに倒れた。

その間にエドワードは、オーガの脚元に着地した。

しかしここで痛みを感じて、彼はふらついて膝を着いた。


グギャア

ギャガアアア


それを見たコボルトが2匹、チャンスと見て向かって来る。

しかし兵士達が、彼を庇う様に横から切り付けた。


「させるか!」

「この野郎!」

ズバッ!

ギャワン

ザクッ!

ギャウウ


「大丈夫ですか?」


すぐさま兵士達が集まり、エドワードを守る様に構えた。

彼等も最初は、エドワード隊長の剣技に見惚れていた。

しかし魔物の動きを見て、慌てて彼を守る為に前に出たのだ。

それを見た残りのコボルトは、勝てないと見て逃げ出し始める。


ギャワン

グギャギャ


魔物は悔しそうに、その場を慌てて去って行く。

そもそもが彼等は、オーガに追われてここまで逃げて来たのだ。

それがオーガを倒されて、このままでは勝てそうにも無い。

そうなれば、ここは逃げ出すしか無かった。


「す、すまない

 さすがに、今のは…

 無理し過ぎた」


エドワードは肩の古傷の痛みに顔を顰めつつ、兵士に肩を借りて立ち上がる。

オーガに切り付けるまでは、スキルの効果で身体が動いていた。

しかし切り付けた後は、スキルの効果も切れていた。

それで着地する際に、彼は古傷の痛みに膝を着いていた。


「本当ですよ」

「まさか、あんな事をするなんて…」

「まるで坊っちゃんかフランドール様の様でしたよ」

「いやすまん

 年甲斐もなく張り切り過ぎた…」


しかし兵士達は、先ほど見たエドワードの剣捌きを褒めて喜び合っていた。

それはとても老年の兵士の、剣技には見えなかったからだ。

それにエドワードは、昔の戦闘の傷で満足に剣が振れない筈だった。

それが咄嗟とはいえ、あれ程の剣技を放ったのだ。

兵士達が喜ぶのも当然だろう。


「しかし見事な剣捌きでした」

「ああ

 あんな事が出来るなんて」

「さすがは元警備隊長です」

「いや、帝国と戦った元英雄ですよね」

「いや、そんな大した者じゃないよ

 傷を負って引退した、ただの老兵ですよ」

「いやいや…」

「あんな剣技を放っておいて、それは無いでしょう?」

「そうですよ

 坊っちゃんやフランドール様に、負けない技でしたよ」


兵士達の歓声を聞きつつも、エドワードは苦い顔をしていた。

確かに若い頃は帝国とも戦ったし、それなりの武勲も挙げていた。

しかし今は肩の負傷で思う様に戦えず、先の様にすぐに痛みで動けなくなる。

オーガに止めを刺せたのも、スキルの恩恵があったからだ。


「わたしなんぞ…」

「そんな事はないでしょう」

「ええ

 見事な剣捌きでした」

「いや

 剣の強化が無ければ出来なかったですよ」


エドワードは、兵士達に支給されている剣を見詰める。


「これがあれば…

 君達でも訓練次第で、あれだけの事は出来ます」

「え?」

「古傷で満足に動けない私が出来たんです

 君達にも出来る筈ですよ」

「え?

 そうなんですか?」

「本当かなあ?」


エドワードの言葉に、兵士達は疑問を抱きつつも自分達にも出来るのだろうか考え始める。

最初から出来ないと思っていては、どんな事でもやれはしない。

出来ると思って修練に励むから、困難に打克つ事が出来るのだ。

それに彼等は、エドワードの様に大きな傷を負ってはいないのだ。

痛みを感じたり、その傷の痛みで動けなくなる事も無い。


「鍵は渡されているのです

 後はやる気と努力ですよ」


エドワードは優しく微笑み、兵士達に自信を与えようとした。

今回の事は、思わぬ危険な魔物との戦いとなった。

しかしコボルトが居たお陰で、こちらには損失は無かった。

それに加えて、弓がオーガに有効である事が確認出来た。

そうなれば、彼等でもオーガを倒せる可能性が高くなる。


「本当に…出来るんでしょうか?」

「ええ

 ただし!

 それ相応の努力が必要ですがね」

「あ…」

「努力か…」


頑張って腐らずに鍛えれば、彼等も今以上の動きが出来る様になる。

今回の戦いを逆に利用して、エドワードは彼等に自信を与える事にした。

古傷のある自分にも出来た事を、彼等にも出来る筈だと。


「さあ

 危険は去りました

 私達の手柄を持ち帰りましょう」

「は、はい」


エドワードの明るい言葉に、兵士達は頷いて返事をした。

今さっき隊長が、オーガを倒せる事を証明してくれたのだ。

これは彼等に、大いに自信を与える事になった。


斯くしてエドワード達は、オーガを1体という戦果を挙げて無事に南の城門へと帰還した。

兵士達は剣の強化方法のコツを掴む為、剣に魔力を伝えながら魔物の遺骸を抱えた。

最初は戸惑ったが、エドワードに言われるままに試してみる。

すると持てないと思っていた魔物の遺骸が、数人掛かりで持ち上げる事が出来た。


「出来ないと思うんじゃありません

 出来ると思えば出来る様になるんです」

「おお…」

「オレ達にも身体強化が…」

「こんな大きな魔物の遺骸を…」

「これが出来る様になれば、二人でも運べますよ」

「ふ、二人で?」

「そんなに強力なのか?」

「素晴らしですね」

「ええ

 そして力だけではありませんよ

 素早さも上げれる筈です」

「それは凄い」


事実、最初は6人で抱えていたが、慣れてくると4人で運べる様になってきた。

このまま強化を使い慣れてくれば、戦いは更に優位になるだろう。

今までは力負けしていたが、こちらの力も上がるのだ。

もしかしたら、オーガの攻撃ですら凌げるかも知れない。


城門の兵士は、最初はオーガの死体を運ぶ兵士達にひどく驚いた。

今までの彼等では、そんな物は狩って来る事は出来なかった。

それに遺骸を兵士達が、抱えて来た事も大きかっただろう。


「な、なんだ?」

「オーガ…だと?」

「何でオーガが?」

「それよりも、あいつ等が狩って来たって事だぞ」

「出来るのか?」


慌てて城門が開かれたが、それをエドワードが窘める。

気持ちは分かるが、周囲の安全の確認が疎かにされていた。

もし魔物が潜んで居れば、この隙に侵入されていただろう。


「気持ちは分かりますが、些か慌て過ぎですよ」

「はあ…」

「でも…」

「私達だけではなく、魔物が周りに居ないか確かめましたか?」

「あ…」

「すいません」

「坊っちゃんや将軍達がいらっしゃったら、叱られていますよ」

「す、すいません」

「申し訳ありませんでした」

「うむ」


注意された兵士は、しょんぼりと項垂れてしまった。

これ以上叱っても、彼等の為にはならないだろう。

今後に注意するのなら、今は許す事も必要だった。

何よりも今は、兵士達を休ませる必要もある。


「まあ、何もなくて良かったです

 早く入りましょう」

「はい」


一行は早々に門内に入り、城門を再び閉じた。

周囲に居なかったとはいえ、魔物が近付く危険はあるのだ。

早目に街に入って、城門は閉めておく必要があった。


「他の部隊にも帰還の要請を出してください

 まだオーガがうろついている可能性があります」

「はい」

「すぐに向かわせます」


エドワード隊長達の部隊は、何事も無く戻って来れた。

しかし他にも、魔物を追ったオーガが居る可能性もあるのだ。

彼等が危険な目に遭わない為にも、一時帰還させた方が良いだろう。

直ちに伝令が用意され、他の狩に出ている部隊に報せに向かった。


「で?

 これはどういった事態なんです?」

「うむ

 これから説明しましょう」


城門の警備担当主任の兵士が、エドワードにオーガの事を尋ねる。

理由はどうあれ、安全な筈の平原でオーガを狩ったのだ。

そうなれば、他にオーガがうろついている心配がある。

だからこそ彼は、事態の詳細を知りたかった。

エドワードは先に起こった事を掻い摘んで説明し、いよいよ魔物が南下して危険な事を説明した。


「ふむ

 他の魔物を追って…」

「ええ

 恐らく餌になる獣が減って、それで他の魔物を襲ったのでしょう」

「分かりました」

「これからどんどん強い魔物が増えるでしょうな

 狩に行くのも注意が必要です」

「そうですね

 今日はまだ早い時間ですが、狩は終了にしましょう」


まだ昼過ぎであったが、今日の狩は終了にして後の行動は相談してからにする事となった。

迂闊に出ては、またオーガの様な大型の魔物が居るかも知れないからだ。

そうなってしまえば、狩りどころでは無くなる。

逆に兵士達が、狩られる側に回ってしまうだろう。


「兵士達の訓練の為には、寧ろその方が望ましいんですがね…」

「え!」

「勘弁してくださいよ」

「そうですか?」

「ええ」

「いくらなんでも

 いいきなりオーガは…」

「そうですかねえ?」


兵士達は、さすがにオーガとの戦闘は自信が無かった。

しかしオーガでは無くとも、オークならなんとかなるだろう。

森のオークが平原に出てくれば、それだけ訓練の幅が増える。


「そうなると…」

「当面はオークで訓練ですね」

「そうでしょうね」

「それなら、明日からは東の森に出ては如何ですか?」

「東ですか?」

「ええ

 あそこは昨日まで、オークが少数見付かるだけでした」

「オーガの遭遇の危険がありますが、南よりは強い魔物が出ます

 兵士達も大分強くなったでしょうし、鍛えるには良いのでは?」

「そうですね

 坊っちゃんに相談してみましょう」


城門の兵士達とエドワードが相談する中、兵士達は不安がっていた。

このままでは、明日からオークとの戦闘が当たり前になってしまう。

彼等の多くが、まだオークとの戦闘には自信が無かった。


「おい

 明日から東の森みたいだぜ」

「大丈夫かな?」

「でも、今日はなんとかなったからな…」

「まだオークなら」

「そうだよな

 あのオーガと戦うのなら…」

「まだマシか…」


兵士達がひそひそと話していると、エドワードが後ろから近付いて来た。

兵士達が不安がっているのを見て、彼なりに考えての言葉を掛ける。


「やるなら徹底的にですね」

「え?」

「オーク等と言わずにオーガも狩りましょう」

「それは…」

「なあに、身体強化を上手に使える様になれば、君達にも出来ます」

「出来るんでしょうか?」

「出来るのかなあ?」

「フランドール様はそのつもりみたいですよ

 元々、君達にはオーガをも倒せる様に鍛えて欲しいとお願いされていますから」

「え!」

「フランドール様…」


兵士達は強力な魔物との戦闘と、尊敬する領主代行からの期待に複雑な表情を浮かべた。

いくら期待されても、それはさすがに無理だと考えていた。

しかし先ほども、その無理を何とかこなしていたのだ。

それで彼等も、もしかしたらと考え始めていた。


「さあ

 今日はもう外へ出ませんが、折角ですから訓練場で練習しましょう」

「え?」

「今からですか?」

「先ほどの経験を活かして、身体強化の訓練です」

「ええ!」

「はあ…」

「とほほほ…」

「もう休めると思ったのに」

「訓練の後の方が、酒は美味いんですよ

 さあ、行きましょう」

「はあ…」


エドワードは生き生きとして訓練場へ向かい、兵士達は渋々と従った。

どうせこのままでは実戦では生かせない。

それならば経験を活かせる様に、今の内に訓練した方が良いのだろう。

それに少しでも意識しないでも使える様に、訓練をしないといけないのだ。


兵士達は気付いていなかったが、この経験が彼等の技量を大幅に上げていた。

身体強化が使えるという事は、それだけ戦闘では優位に立てるのだ。

今までとは違って、身体強化で身体は軽く感じられる。

先の経験を活かし、彼等は身体強化を使いながら訓練に励んだ。


訓練は夕刻まで続けられ、帰還した他の兵士達も合流して来る。

彼等も仲間の訓練に触発されて、身体強化を教わりながら訓練を始める。

そうして僅かな時間ながら、彼等は身体強化を維持出来る様になっていた。

後は繰り返して使って、戦闘に活かせる様にするだけだ。


魔物が街に到着する予定まで、あと4日になっていた。

まだまだ続きます。

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