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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第094話

熊の魔物、ワイルド・ベアに遭遇したギルバート達は、予想外の苦戦を強いられた

それは単なる熊の魔物と思っていたのが、予想外の攻撃手段を持っていたからだ

強烈な咆哮による恐怖感

それは兵士達から、思考する力を奪っていた

原初的な恐怖に襲われて、彼等は恐れから逃げ惑う

恐怖に恐慌状態に陥り、そのまま発狂する者まで現れていた


物理的な威力は無いものの、並みの兵士では恐慌状態に陥りそのまま行動が出来なくなる

それは攻撃の手が止まるだけではなく、無防備に魔物に狙われる危険も孕んでいる

そして無事な仲間が庇う為に、更なる危険も増えてくる

その対策を講じる為に、ギルバートはフランドール達を連れて邸宅に戻った


邸宅の執務室で、アーネストは街の資料を整理していた。

それはフランドールの従者の二人も同席させて、資料の纏め方も覚えさせる為だ。

今はアーネストが主に熟しているが、いずれはフランドールかその側近がしなければならない

その為に彼は、従者達を補助にする為に今から覚えさせていたのだ


「では、こちらの作付けは例年通りでよろしいので?」

「ええ

 兵士が増える分、糧食の確保は重要です

 昨年の数では少ないので、こちらの畑も利用しましょう」

「ですが、糧食ならば魔物の肉が増えたのでは?

 ワイルド・ボアが捕れる分、余裕が出来ませんか?」

「うーん

 それを当てにするのは危険ですよ?

 家畜みたいに定期的に安定してない分、いざ捕れないと食材が不足します

 多く捕れた分は干し肉にでもして、いざという時の備蓄に回すべきです」

「なるほど

 確かに安定してない分、そちらに期待するのは危険ですね

 そうなると、家畜の分を保存に回し、余剰の肉は非常用に確保ですな

 さっそくギルドと交渉してみます」

「はい

 そちらはお願いします

 ギルドとの交渉にも慣れていただかないと」


今日の議題は今期の作物の収穫量と、それの分配についてだった。

単純に税収で上がる分だけ保存していては、兵士への配給や食事で消えてしまう。

それらを踏まえて、魔物の侵攻などに備えた備蓄を考えていた。

魔物が現れては、街の外での調達が難しくなる。

また、住民に被害が出れば、その分収穫量が減ってしまう。

そういった事態を想定して、備蓄を進めないといけない。

そういう知識も伝えるべく、アーネストは従者達に学ばせていた。


これはフランドールが統治に関しては未熟なのと、政治手腕に長けた者を連れていない事が原因だった。

フランドールは確かに、小規模な領地の経営は出来ていた。

しかしそれは、王都の中にある貴族領での話である。

より正確に言えば、領主の官邸とその周辺の畑程度の統治である。

ダーナほどの大きい街の経営には、まだ不安があったからだ。


横で支える者が居れば、少々のミスでも取り返せるだろう。

しかし現状では、それが出来る者も連れては居ないのだ。

ここで信頼できる、貴族の婦人でも娶っていれば違ったのだろう。

そうすれば主な経営の方針は、その婦人の主導で行われていた。

しかしフランドールは、未だに婚約者も居なかった。

それは彼が、ザウツブルク家の嫡男から外されてしまったからだった。


婚約者も婦人も居ない以上、彼自身が経営を一手に担わなければならない。

そこでアーネストは、フランドールの従者達を鍛える事にしたのだ。

彼等は兵士としては微妙だったが、その性質や頭の切れは良かったからだ。

尤もそれだからこそフランドールの従者を買って出ていたし、こうして熱心に勉強しているのだ。


アーネスト達が備蓄の量を計算していた時、部屋のドアが開かれた。


「どうぞ

 すぐにお茶をお持ちします」


執事のハリスがお辞儀をして、ギルバート達が入って来る。

彼等は着替えもせずに、薄汚れたままの姿で入って来る。

将軍も手当てを受けていたが、包帯を巻いたままの姿で追従していた。

普段ならこんな格好では、ハリスに叱られて着替えさせられていただろう。

しかしハリスは、そのまま彼等を執務室に通したのだ。


「おや?

 お帰り

 今日は早かったんだね」

「お帰りなさいませ」


従者達はフランドールの姿を見て、素早く立ち上がって礼をした。

それを見て、フランドールは労いの言葉を掛けた。


「ああ

 今戻ったよ

 二人共、勉強中だったかな?」

「はい」

「今日は食料の備蓄について教えていただいてました

 これから魔物が来ますし、少しでも備えておかなければ」

「うん

 しっかり学んでいる様だね

 内務は暫くは任せるから、よろしく頼むよ」

「はい」


二人は元気よく返事をすると、会議の邪魔にならない様に資料を持って退出した。

アーネストも他の場所で続きをやろうと、彼等に続こうと立ち上がった。

ハリスがそのまま通したのだ、余程の事態が起こったのだろう。

自分は呼ばれるまで、隣の部屋で資料の整理をしようと思ったのだ。


「あ、っと

 すまない、アーネストは残ってくれ」

「え?」

「緊急の要件が有る」

「ん?

 そうか」


アーネストはまさか、自分に用事があるとは思っていなかった。

今日の討伐の標的も、オーガを狩る事であった。

将軍の負傷も、そのオーガから兵士を庇ったものだろうと考えていたのだ。

それほど事態を、アーネストは楽観視していたのだ。


「すまない

 君達だけでやっててくれ

 分からない事は後で答えるから」

「はい」


従者の二人は纏めた資料を小脇に抱え、図書室へ向かって移動した。

それからみなが席に着き、話し合いが始まった。

先ずは最初に口を開いたのはアーネストだった。

どう考えても、この会議に自分が必要な事が不自然だったからだ。


「それで?

 今日は将軍まで来ているけど、早く戻ったのはそれが原因かい?」

「早いって言っても、もう3時を回っているぞ」

「ん?

 そうか、外が明るいから勘違いをしていた」

「まったく

 議論に熱中して…

 また時間を忘れていたのか?

 あの二人も大変だなあ」

「まあまあ

 私も助かっていますし

 アーネスト君のお蔭で、二人も領地経営を学べて喜んでいます

 これからもお願いします」

「え?

 …はあ」


ギルバートの忠告も、フランドールには意味が無かった。

ギルバートの言いたかったのは、彼等を酷使し過ぎという意味なのだ。

アーネストも毒気を抜かれて、間の抜けた返事になってしまった。


「それで?

 何が起こったんだい」

「それなんだが…

 マズい事になった」

「ん?

 マズい事?」

「ああ」

「一体何なんだ?

 オーガ討伐が…」

「ワイルド・ベアが出たんだ」

「ワイルド・ベア…

 遂に現れたのか」

「ああ」

「それで?

 まだ戦った事が無かったんだよな

 何がマズいんだ?」


フランドールは戦っていないので、将軍とギルバートが話を続ける。

実際に戦った者しか、その脅威は理解出来ないだろう。

先ずはギルバートが、その魔物について説明を始めた。


「ワイルド・ベアなんだが

 攻撃自体はそれほどでも…

 単純な突進と、そこから立ち上がって爪や牙を使った攻撃

 むしろ熟練した兵士ならなんとか躱せるだろう」

「殿下

 それは過小評価ですよ

 あれだけのスピードなら、躱すのも必死ですよ

 オレは剣でガード出来ますが、兵士では…」


ギルバートの説明に、将軍が思わず突っ込みを入れる。

普通の兵士では、あの攻撃でも十分に脅威だと感じたのだ。

しかし将軍の言葉に、一同は色々と突っ込みたいのを堪える。

何せ将軍がガード出来たのは、恐らく将軍の膂力と身体強化が有ってだろう。

並みの兵士では剣ごと叩き折られるか、吹き飛ばされて大木にでも叩き付けられるかするだろう。

どちらにしても、兵士では無事には済まないだろう。


またスピードについては、これは将軍の動きが遅いのもあるから当てには出来ない。

勿論ギルバートは、身体強化でかなりの素早さがある。

それも踏まえて魔物の速度は速いが、必ずしも追えない速度では無いだろうと判断出来る。

問題は、それよりも別の所にあった。

アーネストは瞬時にそう判断し、それでも危険な事が気になった。


「速さはまあ、極端な二人の話だからまだ不明だ

 フランドール殿が戦っていれば、信用できる証言なんだが…」

「そりゃないだろ」

「そうだぞ

 それじゃあオレ達が…」

「兵士とでは比較にならんだろう?

 せめて部隊長の意見でもあれば…」

「え?」

「そうか

 誰か連れて来れば良かった」

「全く…」


将軍が不満そうだが、他の問題が気になる。

ただ素早い事や、膂力が強い程度では無いだろう。

それならば、こんなに早く相談には来ない筈だ。

少なくとも、将軍の手当てをしっかりしてから来るべきだった。

だからこそアーネストは、その先の話を促す。


「それで、何がマズいんだい」

「ああ

 話が逸れた」

「そうだな」

「ワイルド・ベアなんだが、咆哮が危険なんだ」

「咆哮?」

「そう、咆哮だ

 ヤツが上げる咆哮は、聞いた者に恐怖を与える様なんだ」

「それを聞いた兵士達が、恐怖で動けなくなってしまった」

「それは、単純に兵士が臆病って事じゃ無いんだね」

「ああ

 オレが連れていた兵士、全員が恐慌状態になって…

 中には戦闘が終わっても震えていた」

「オレが連れていた方も、ほとんどの兵士が震えていた

 ハウエルの叱責で何とか立ち直ったけどな

 それが無ければ全員逃げ出したか…

 あるいは震えて動けなくなっていただろうな」

「そうか、それほどか」


アーネストは暫く熟考し、書物を1冊取り出した。

オーガとの戦闘でも、咆哮の恐怖は問題視されていた。

しかしそれも、慣れれば耐えられる程度の問題であった。

原因が魔物に対する、見た目の恐怖があったからだ。


しかし今回は、それだけでは無さそうだった。

ギルバートですら危険視するとなれば、相応の効果があると見て間違い無いだろう。

アーネストは魔物の図鑑を開いて、そこに記載された魔物の特徴を調べる。

この図鑑には様々な魔物が載っており、ランクや特徴も記されていたのだ。


「この本には…

 ほら、このランクFにワイルド・ベアは入っている」

「はあ…

 あれでもランクFなんだよな」

「殿下

 それよりも問題は…」

「ああ

 オレでも一瞬、身体に負荷を感じたんだ

 あれは何かあるな」

「ええ

 オレも動きが鈍りました」


そこにはワイルド・ベアが描かれており、ランクFでは比較的弱い魔物と記されていた。

二人の会話を聞いて、フランドールは怪訝そうな表情を浮かべる。

てっきりワイルド・ベアは、もっと危険な魔物だと思っていたのだ。


「え?

 あれで弱い魔物?」

「そうだね

 大きな特徴もなく、特殊な力が有る訳でもない

 まあ、オーガやトロールと同ランクの魔物だね」

「オーガやトロールとか…」

「うーん

 そうは思えないがな」

「いや

 私からすれば、オーガでも十分な脅威ですが?」


アーネストの言葉に、三人は首を捻った。

書物の内容からしてワイルド・ベアには特殊な力は無く、あの咆哮もなんでも無いとなる。

そう考えれば、あの咆哮は何なのだろう。

魔物自体が持つ、特殊な能力では無さそうなのだ。


「これは…

 オレは戦闘は出来ないから分からないけど、ゴブリンやコボルトでもあるんじゃないか?

 普通の住民では、恐怖で震えてしまうだろ?

 それと同じ事じゃないかな?」

「そうすると…

 恐怖を克服するしか無いのか」

「そうだな

 ワイルド・ベアじゃなくても良いから、多くの戦闘で恐怖心を無くすしか無いんじゃないか?

 だからハウエル部隊長も大丈夫だったんだろう」

「そうだな…」

「それでは魔物に対する恐怖心から?

 それであの様な?

 しかしオレには…」


ワイルド・ベアの咆哮が効くのは、あくまでも兵士が未熟だったから。

心が鍛えきれていなかったから、恐怖心に負けて恐慌状態になったんだろう。

そうなれば咆哮はワイルド・ベアの個体のスキルではなく、他の魔物も使って来る可能性がある。

これは対処方法は無く、心を鍛えるしか無いだろう。


「将軍まで効いたのは問題があるな」

「おい!」

「そうだな

 ヘンディー将軍でも恐れるとは…」

「殿下…

 オレはそれほど鈍感では…」

「いや、そうじゃ無くてな」

「鈍感だろう?

 エレンさんの件もあるし」

「アーネスト!

 それは今、関係無いだろう」

「え?」

「何の話ですか?」

「良いから

 今は先ず、魔物に対する話をしましょう」

「そうか?」

「気になる…」


エレンさんの事は気になるが、今は魔物の事が重要だった。

将軍は何とか、魔物の咆哮の話しに戻そうとする。

そうしなければ、婦人との話に向いてしまいそうだからだ。

内心甥っ子っを睨みながら、将軍は必死に話を戻そうとした。


「兎も角

 魔物の咆哮は防ぎ様が無いのだな?」

「だろうね

 そもそも記録が無いんだ」

「うーむ

 しかし困った

 恐怖心に打ち克つとか、言葉では簡単だが実際は難しいぞ」

「そうですね

 兵士達に怖くないって言っても、そんな簡単に堪えれるとは思えません

 それだから恐慌状態になったんだし」

「そうなれば

 残る日もなるべく出て、少しでも魔物との戦闘に慣らすしかありませんね」

「ええ」


結局、ワイルド・ベアの咆哮に対する有効な手段が見付からなかった。

そもそもが咆哮に関して、明確な記録が無いのだ。

つまり魔導王国の者達は、それほど危険視していなかったのだ。


また、明確な記録が無いという事は、他の魔物の咆哮も同じなのだろう。

だから他の魔物に関しても、咆哮による恐慌状態が起こる可能性はあるのだ。

他の魔物でも同様の事態が想定される以上は、多くの戦闘で慣れるしか無かった。

街に逃げ込んで縮こまっていても、結局は街ごと攻め滅ばされてしまうだろう。

ベヘモットも言っていたが、街は容易く落とされる可能性が高いのだ。

それだけアモンという使徒が、戦闘狂の危険な人物であるのだろう。


それに下手に逃げ出しても、追い付かれて殺されるだけだろう。

そうならない為には、魔物と戦って打ち克つしか無い。

魔物を討伐する事で、その恐怖に打ち克つしか無いのだ。

こうなった以上は、魔物と徹底抗戦しかないだろう。


「魔物が来るまであと6日

 残る5日で徹底的に鍛えるしか無いですね」

「そうだな

 私兵の訓練もだが、守備部隊もまだまだ弛んでいる

 今度は逃げ出さない様に、しっかり扱いてやる」

「うわあ…

 お気の毒に…」


将軍の獰猛な笑みに、三人は兵士達の悲劇を想起して悼んだ。

これからの5日間、兵士達に安息の時は無さそうだ。

しかし恐怖心を忘れるのは、それしか方法が思い浮かばない。

しっかりと訓練をして、倒せる自信を持つしか無いのだ。


「そうだ

 ワイルド・ベアを倒したのなら、素材も取れたんだよね」

「ああ

 今頃は商工ギルドに運ばれているだろう」

「どんな素材が取れるか確認しなきゃ」

「あ!

 おい!」

「殿下

 ああなると停まりませんぞ」

「そりゃあ分かっているが

 具体的な対策が…」

「訓練するしか無いでしょう」

「そうだな

 私も兵士を扱くとしましょう」


アーネストは上機嫌で執務室を出て行く。

丈夫な毛皮や爪や牙もだが、一番の関心はやはり魔物が持っている魔石だろう。

強い魔物程、強力な力を秘めた魔石を持っている。

それは魔物が大気に溶け込んだ魔力を吸収して生きており、その成長過程で魔石が大きくなるからだ。

強い魔物ほどより多くの魔力を吸収しており、その吸収量で個体差も出て来る。


実は将軍が苦戦したのは、将軍が相対した魔物の方が強かったのもあった。

持ち帰られた魔物の遺骸を比べると、将軍の倒した方が一回り大きかった。

恐らくは親の熊であり、狩りの為に離れていたと推測される。

その爪や毛並みも、残りの3頭に比べても美しかった。


部屋に残された三人は、明日からも北の森に出て訓練する事にした。

そうする事しか、兵士を恐怖心に負けない様にする方法が無いからだ。

今日よりも多い兵士を、森に出して魔物と戦わせるしか無かった。

それには部隊長も全員出る必要があり、その間街の警備が手薄になる可能性もあった。


先日の逮捕劇で、街に潜んで居た不穏分子も粗方片付いていた。

それに残っていたとしても、あれだけの騒ぎを見た後では迂闊には動けないだろう。

後顧の憂いは残したくは無いが、街を守る為には兵士の実力を底上げしなかればならない。

ここは多少の危険を冒してでも、森で鍛える必要があるだろう。

三人の意見は一致し、一部の未熟な兵士は南に出し、残りは北で狩に出る事となった。


「北は私とギルバート殿、将軍で行くとして…

 南はどうします?」

「南か…

 兵士だけでは危険かな?」

「ふむ

 熟練で無い兵士だけでは確かに危険だが…

 今は休んでおられるエドワード元隊長にお願いしましょうか」

「エドワード隊長?」

「誰ですか?

 その方は?」


将軍の言葉に、二人は首を傾げる。

ギルバートは、隊長の事は覚えていた。

しかし隊長が、休んでいる事は知らなかった。

つい先日も、父であるアルベルトの訃報の報せの際に出会っていた。


そしてフランドールは、隊長自体に出会っていなかった。

実はオーガの襲撃の後にも、彼は暫く兵士を率いていた。

森で残党の魔物を、狩る為に出ていたのだ。

しかし無理が祟ってか、傷の具合が悪化してしまった。

それでフランドールが来る少し前から、休んで休養していたのだ。


「そのお方はどんな人なんです?」

「元は歩兵部隊を率いる隊長だったんですが…

 暫く実戦から離れているし、怪我が思わしく無いですよね」

「うむ

 長時間の戦闘は無理だが、コボルトぐらいなら大丈夫だろう」

「それに、弓兵の訓練もしておきたい」

「弓兵ですか?」

「ああ

 城壁からもだが、平地での訓練も積ませたい」

「しかし、オーガやワイルド・ボアには効かないのでは?」

「そうですね

 それでも城壁を護る為には必要ですし、新しい弓の訓練もしておきたいので」

「そうですか

 それでは南はエドワード殿にお願いして、補助として弓兵を配置するという事でよろしいですか?

 連絡はお願いできますか?」

「はい

 オレが伝えておきます」


歩兵の扱いならば、彼でも十分に出来るだろう。

さすがにオーガでは荷が重いが、オーク程度には負けない腕を持っている。

急遽エドワード元隊長も参加する事となり、翌日からは大規模な狩が行われる事となる。

弓兵や周囲の魔物の掃討は、他の部隊長が率いて行われる事になる。


初日は南はゴブリンばかりで、コボルトは少数しか狩れなかった。

そして、北ではワイルド・ベアの報告は無く、オーガが少数ながら狩られた。

数は少なかったが、兵士が中心となって戦闘が行われ、スキルやジョブを獲得出来た者もいた。

そうして得られた素材は運ばれて、新たな武器の開発に回された。


スカル・クラッシャーも数本作られたが、新たにクリサリスの鎌も作られていた。

部隊長からは、大剣よりも鎌の発注が求められていた。

彼等は主に馬に乗るので、大剣よりは鎌の方が相性が良いのだ。

そして接近戦では、大剣よりも長剣の方が使い勝手が良かったのだ。


「スカル・クラッシャーが将軍にも渡せたし

 これで兵士にも何人か回せました」

「クリサリスの鎌ですが、部隊長と騎兵に優先して配備させます

 身体強化はスカル・クラッシャーほどでは無いです

 その代わり切れ味と強靭さが上げてありますので、少々固い魔物に当たっても安心です」

「オーガの骨から作られた鎌ですか

 何か罰当たりな気もしますが、大丈夫ですかね?」

「うーん

 問題は無いと思いますが

 それなら他の武具も魔物の骨や皮から作っていますから」

「それはそうですね」

「はは

 まさか女神様も、魔物の骨で作るとは考えていますまい」

「でしょうね」


将軍とギルバートは、ワイルド・ベアの皮で作られた鎧を着ていた。

毛皮は濃紺の毛に覆われて、美しい群青色の鎧に加工されていた。

フランドールの分も作られているが、完成が遅れていてまだ届いていなかった。


「この皮鎧も、ワイルド・ベアから出来ています

 耐久と強靭さに特化していて、身体強化の代わりに炎と毒に対する耐性の強化が入っています」

「炎と毒ですか?」

「ええ

 毒を消したりはしませんが、毒の効果を抑えるみたいです

 炎は燃えにくくしてますので、その分炎に堪えれるという話ですよ」

「それは頼もしい

 早く私の分も出来ないかなあ」


羨ましそうにしているフランドールを見て、ギルバートはクスリと笑う。

毛皮の部分も頑丈な毛が覆っているので、マントや肘、膝当てに使われていた

素材の特性なのか思ったほど重くは無く、動きが制限される事は無かった。

何よりも魔力を受けると、その毛が強靭な鎧と変わるところであろう。


一見すれば、そのまま毛皮の鎧にしか見えない。、

しかし魔力を流せば、その毛は鉄製の剣を弾くほどに強靭な鎧と化す。

それに加えて、魔法陣の効果で炎と毒に対する耐性も上がる。

それでこの鎧は、より強力な鎧と変わるのだ。


「今日は出ませんでしたが、引き続きワイルド・ベアは探しましょう

 骨はまだ加工出来ていませんが、鎧は良さそうですから」

「そうですね

 部隊長の分は作りたいですね」


魔物の到着予定まで、あと5日と迫っていた。

それまでに少しでも、この様な装備は増やしたかった。

兵士全てには無理でも、せめて部隊長には至急したかった。

だからこそ、ギルバート達はさらに魔物を狩りに出る事にしていた。

まだまだ続きます。

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