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ツンデレ生徒会長に『備品』呼ばわりされた俺、これから君に無双します。  作者: サイトウ純蒼
第六章「最高の文化祭」
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52.文化祭ミーティング

(可愛かった……)


 優愛は朝一番に登校したクラスでひとり椅子に座りながら、土曜の夜に優斗が泊りに来ていたことを思い出していた。

 土曜日から三連休だったので義妹の夜愛は連泊、優斗は初日だけ泊って帰って行ったのだが、夜目が覚めて台所に水を飲みに行った際に見た彼の寝顔がずっと優愛の頭に残っている。



(お、男の寝顔を見て可愛いだなんて……)


 優愛はムラムラと抱きしめたくなる衝動を抑えながら黙って水を飲んだ。

 翌朝も起きて来た優斗の乱れた銀色の髪、ラフな寝間着姿に優愛の心臓はずっと大きく鼓動していた。



(でもあいつ、その後すぐに帰っちゃったよね。女と約束でもあったのかしら!!)


 朝食を夜愛と三人で食べた後、優斗は『行くところがある』と言ってひとり帰ってしまった。夜愛とボイトレがしっかりできたのは良かったが、途中で帰ったのはどうも納得いかない。



(腹が立つけど、立つんだけど、夜愛のことは本当に感謝してる……)


 長い間疎遠になっていた義妹の夜愛。原因は大人になれなかった自分のせいであったが、ずっとどうすることもできなかった。その溝を優斗が埋めてくれた。まだ時間は掛かるがスマホのアドレスの交換もしたしまた泊りに来ると言ってくれた。



 ――またひとつ、リストが叶ったな。


『妹に謝る』と言う願い。きっとひとりではできなかったもの。偶然が重なったとはいえ優斗のお陰であることは間違いない。




「……ぁ、優愛ぁ~??」


「ん?」


 教室の椅子に座り思い耽っていた優愛の前に、副会長のルリが顔を近づけてじっとこちらを見ている。



「わっ、ルリ!? どうしたのよ??」


 驚く優愛にルリが言う。


「どうしたのじゃないよ~? ずっと声かけているのに優愛こそどうしたのよ~??」


 自分の世界に入り込み過ぎていた優愛が苦笑いして答える。ルリが言う。



「今日のミーティングはぁ、文化祭でしょ~?? また忙しくなるよね~」


「そうね。あと来月は新生徒会の選挙もあるからその準備もしなきゃね」


 12月は新しい次の生徒会が発足、活動を始める月でもある。昨年の優愛達も文化祭のすぐ後の選挙で選出されて、年始から活動を始めている。



「もうあれから一年が経っちゃうんですね、優愛ちゃん」


 いつの間にかやって来た茶色のボブカットの琴音。彼女も優愛が生徒会長になってすぐに指名されたメンバーのひとりである。優愛が答える。



「そうね。本当にあっと言う間の一年だった」


「本当だね~」


 ルリが相槌を打つと、その後ろから男の声が掛かった。




「よお、皆で何の話してんだ?」


 それはすらっと背の高い銀髪の男。朝から笑顔が眩しい。



「優斗さん、おはようございます!」


 琴音が笑顔で挨拶する。


「おはよ、琴音」



「お、おはよ……」


 優愛が頬を赤らめ下を向いて言う。頭には一昨日の優斗の()()()寝顔がまだしっかり残っている。皆が知らない特別な彼を見てしまった優愛。何だか恥ずかしい。



「何の話?」


 そう尋ねる優斗に琴音が答える。


「来月の生徒会選挙で私達の仕事ももう終わりって話です!」


「ああ、そうだよな……」


 分かっていたが改めて言われるとそのことを実感する。



「まだ文化祭が残ってるよん~」


 それを聞いたルリが軽い調子で言う。優愛が答える。



「そうね。文化祭は一番のイベント。今日の生徒会ミーティングは文化祭の打ち合わせね。同時に年末の選挙の準備もしましょう」


「了解~!」


 ルリが敬礼のポーズでそれに応えると担任が教室へやって来てみな席に着いた。






 夕方、生徒会室に集まった皆を前に優愛が言う。


「じゃあこれで計子以外の全員が揃ったわけね。ミーティングを始めましょうか」


 計子はこの日欠席。風邪とのことだが仲のいい琴音が心配する。ルリが尋ねる。



「優愛ぁ~、うちの出し物はどうなってるの~??」


 出し物とはつまり宮北との対決になる舞台での最重要イベント。今年宮西はバンドを行う予定だ。優愛が答える。



「ええ、軽音楽部の人達と一緒に何度も練習をしているからきっと大丈夫よ」


 優愛は義妹の夜愛との訓練、軽音楽部の部員との合わせの練習をこなし夏の頃に比べると随分自信をつけてきている。琴音が言う。


「優愛ちゃん、歌上手いもんね」


 優愛が首を振って答える。



「カラオケレベルの上手いじゃあダメなんだよ。琴音」


「そうなの?」


「そう、きちっとボイストレーニングを行って歌について学ばないと。まあ()()には分からないことよ」


 ちょっと前までその素人だった優愛。何も知らない琴音にマウントを取る姿を見て優斗が苦笑する。ルリが尋ねる。



「優愛ぁ~、勝てそうなの??」


「当たり前でしょ。向こうは何をするのか知らないけど私が負けるはずがないわ!」


 どこからその自信が出てくるのかと優斗や琴音が笑う。優愛が言う。



「バンドは順調だからいいとして、今回も会場は宮西と宮北の二か所になるわ。向こうの生徒会ともしっかり連携して運営しなければならないので気を引き締めておいて」


 文化祭はその規模から両校の共同開催となる。もちろん宮北を管理するのは宮北の生徒会。あまり会いたくない十文字鈴香がいる生徒会だ。優愛が言う。



「あ、それから今日はその宮北とネットで打ち合わせするから」


 そう言ってテーブルの上に置かれたノートパソコンを指差す。琴音が言う。


「だからパソコンが置いてあったんだね」


「そう。これで向こうとミーティングをするわ」


 そう話す優愛の顔はやや面倒臭そうに映る。



「さて、そろそろ時間なので繋いでみるわね」


 そう言ってパソコンを起動しソフトを立ち上げる。




『優斗様ああああ!!!』


「ぎゃっ!?」


 突然パソコンから聞こえる大音量。思わず優愛が仰け反る。慌ててノートパソコンを覗きに行く皆。そこには宮北の生徒会長の鈴香の顔のドアップが映し出されていた。優愛が言う。



「ちょっと、あなた!! 顔しか見えないわよ、退きなさいよ。邪魔邪魔っ!!」


 画面いっぱいに映った鈴香が笑いながら言う。



『な~にを仰ってるのかしら?? 私には皆さんの顔がはっきり見えていますわよ~』


 鈴香も機械オンチなのか、と優斗が苦笑する。優愛が言う。



「文化祭の打ち合わせをしたいけど良いかしら?」


『問題ないですわよ~』



(いや、問題あるだろ……)


 ノートパソコンの画面いっぱいに映った鈴香の顔を見ながら優斗が内心突っ込む。優愛が尋ねる。




「文化祭のステージイベントだけど、そっちは何をするのか決めたの?」


 それはある意味情報戦。鈴香に答える義務はないし、無論優愛が言う必要もない。鈴香が答える。



『決まっていますわよ~』


「何やるの?」



『バンドですわ』



「え?」


 優愛が画面いっぱいの鈴香の顔を見つめる。



「バンド? 歌を歌うの?」


『当然ですわ』


「誰が?」



『私ですわよ~』



 それを聞いた宮西の面々が固まる。

 ステージイベントの内容は同じバンド。しかも相手はあの十文字鈴香が歌うという。画面いっぱいの鈴香が尋ねる。



『こちらだけ話すのもフェアじゃないですわよね~、そちらは何をされるのでしょうか??』


 一瞬黙り込む優愛。必ずしも言う必要はない。だが優斗は確信していた。



「バンドよ。あなた達と同じ」



『あら? そうでしたの~、どなたが歌うのかしら??』


 優愛は画面を見つめながら自分を指差す。鈴香の顔が更にアップになり驚いて言う。



『あらあら、それはそれは。神崎さんは、お歌も歌えるのですね~。これは楽しみですわ~!!』


 優愛が腕を組んでそれに言い返す。


「ふん! ここまでうちが全勝。最後も勝って完全勝利をしてあげるわ!!!」


『それはどうかしらね~、おーほほほほっ!!!』


 画面いっぱいに映った鈴香が大声で笑い始める。呆れた顔をしていた優斗に琴音が尋ねる。



「……優斗さん、鈴香さんはお歌も上手なんですか?」


「さあ、聞いたことないけど、あいつなんでもできるからな」


 優愛と同じく才色兼備の鈴香。西の神崎に北の十文字。本来ならば両校の対決もいい勝負のはずだったのだが、『優斗』という強力なカードを得た宮西がこれまで圧倒的戦績を残している。優愛がドンと椅子に座って言う。



「もういいわ。それよりミーティングを始めましょう」


『あら、鈴香はそのつもりでしたけど?』


 どうやっても馬が合わないふたり。結局両校の打ち合わせは優愛と鈴香がずっと火花を散らしながら続けられた。






「本当に頭に来るわ、あの女!!」


 宮北との打ち合わせを終え校舎を出た優愛が鈴香とのやり取りを思い出して苛立つ。すっかり秋も深まり、いつもと同じ時間の下校道も既に薄暗い。優斗が言う。



「優愛、そんなに興奮するなよ」


「うるさいわね! これから帰って練習よ、練習!! じゃあね!!」


 そう言ってズガズガと歩き出す優愛。ルリも苦笑しながらそれについて歩き出す。残された琴音が優斗に言う。




「あの、優斗さん」


「なに?」


 ふたりならんで歩く帰り道。琴音は少し緊張しながら言う。



「もしよろしければこれから計子ちゃんのうちに行きませんか?」


「計子の?」


 優斗が聞き返す。



「はい。ノートを見せて行きたいし、ちょっと体調も心配だし……」


 優斗は特に用事もないので頷いて答える。



「そうだな。見舞いにでも行くか」


「はい!」


 秋の冷たい風が吹き始める中、ふたりは並んで駅へと向かって歩き出した。

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