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ツンデレ生徒会長に『備品』呼ばわりされた俺、これから君に無双します。  作者: サイトウ純蒼
第五章「優愛のいない体育祭」
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48.優愛のいない体育祭【後編】

『優愛ぁ~、どお?? 調子は~??』


 アパートのベッドでひとり寝ていた優愛は、枕元に置いてあったスマホを持ち元気な声のルリに答える。


『うん、まあまあかな。今日はごめんなさい』


『いいって~、早く元気になってね~』


『ええ……』


 電話の向こうからは体育祭のみんなの声援やアナウンスが聞こえる。生徒会長として体育祭実行委員として頑張って来たのに大切な時にいない。そんな自分を思うと悲しくなる。優愛が尋ねる。



『対決はどう? 勝ってる?』


『う~ん、残念だけどちょっと負けてるかな~』


 宮西と宮北。両者一歩も引かないまま一進一退の攻防が続いている。アウェイで互角以上に戦い続ける宮北はさすがである。優愛が言う。



『リレー、頑張ってね』


『了解~、その時は映像、繋げるね~』


『うん』


 優愛は通話を切るとスマホを枕元に置き、そっと目を閉じた。






「優斗ぉ、昼メシ食おうぜ」


 体育祭も午前の部が終わりお昼休憩となる。

 必至に戦い続けた両校だが、お昼の時間は和やかな雰囲気が辺りを包み込む。

 がやがやとレジャーシートを広げてお弁当を食べ始める生徒達。椅子に座ったままの優斗に友人が声を掛けた。優斗が答える。



「あ、ごめん。俺、これから買いに行くんだ」


 優斗はそう言うとひとり立ち上がり小走りでその場を立ち去る。今日、購買は休み。近くのコンビニでも行くのかと思った友人がその背中を見つめる。



「あ、優斗さん。お昼、一緒に……」


 今度は優斗を見つけた琴音と計子が声を掛ける。


「ごめん! 俺、ちょっとやることがあるんで!!」


 そう言って優斗は校舎の方へと消えて行く。



 ジャーッ


「ゴクゴクゴク……」


 優斗は誰も居ない体育館横の手洗い場の蛇口をひねると、流れた水をがぶ飲みし始めた。



「ぷはぁー、ああ、うめぇ」


 優斗は濡れた口元を拭いてからひとり歩き出した。






「頑張れ、宮西っ!!」

「行け!! 行けーーーっ、宮北っ!!!!」


 午後からも両校はお互いのプライドをかけて白熱した戦いを繰り広げる。

 既に年間勝負では宮西の勝ちは決まっているが、全勝したい宮西に対して全敗だけは避けたい宮北の意地が火花を散らしぶつかり合う。

 そして宮北が数点リードしたまま最終種目である男女混合リレーを迎えた。



「優斗さん、頑張ってください!!」

「これに勝てば私の計算上、宮西の勝利です!!」


 リレーに出場する優斗とルリに琴音達が声を掛ける。僅差で負けている宮西だが、このリレーに勝てば逆転で勝者となれる。優斗が赤い鉢巻を頭に巻きふたりに言う。



「じゃあ、行って来るわ!」


「はい! 応援しています!!」


 優斗は軽く手を上げ歩き出す。ルリは自分のスマホを取り出しこっそりと琴音に手渡して言う。



「リレーの中継頼むね~」


「了解です!」


 そのスマホ画面には『優愛』の文字が映っている。ルリはふたりにウィンクをすると優斗の後へと駆け出した。




【それではお待ちかね、最終種目の男女混合リレーを始めます!!!】


 グラウンドに響くアナウンスの声。

 僅差で宮北を追う宮西の生徒からは大きな声が上がる。



「宮西、勝つぞオオオオ!!!」

「ファイト!!! 宮北っ!!!」


 ここに来て今日一番の盛り上がりを見せる体育祭。両校のプライドと意地がぶつかり合う。




「優斗様ぁ~、一緒に参加できて鈴香は嬉しいですぅ~!!」


 グラウンドのスタート地点に集まった選手達。真っ赤なツインテールに大きなリボン、頭には白い鉢巻をした鈴香が優斗の傍に来て言った。



「お手柔らかにな、鈴香」


「これに勝てば優斗様は何でもいうことを聞いてくださるんですよね~??」


「は? 何のことだ??」


 意味が分からない優斗。その横に立った世良がにらみを利かせて言う。



「よく逃げなかったな。まあ、ここで私の前に敗北する姿を皆の前に晒すがよい」


「はいはい」


 優斗はやや疲れ気味にふたりに返事をする。




「第一走者の方、こちらへ!」


 そんな優斗達に体育祭実行委員が声を掛ける。鈴香とルリがバトンを持ってスタート位置へ向かう。鈴香が言う。



「あら、あなた。一番手だったの~?」


「頑張りましょうね~」


 ルリは自分とキャラが被る鈴香が苦手だった。できればあまり絡みたくない。真っ赤なツインテールと、ポニーテールに結ばれたピンクの髪の両者がスタートラインに立つ。




『優愛ちゃん、見えてる?』


 クラス応援席。椅子に座った琴音の手にはルリのスマホがグラウンドへ向けられている。



『うん、ばっちり。ありがとう、琴音』


 そのスマホの画面には生徒会長優愛の姿。ルリの計らいで優愛も応援に加わる。




 パアン!!!


 スターターピストルの音が青空に響く。

 それに合わせてふたりの少女が一斉に駆け出した。



「頑張れ、ルリ!!!!」

「鈴香さーん、ファイトォ!!!!」


 スタート前の静寂が一変、大歓声へと変わる。いよいよ最後の戦い。両校の生徒が立ち上がって応援を始める。



(は、速いじゃん!!!)


 ルリは少し前を走る赤いツインテールを見ながら内心思った。ルリとて長身を活かした短距離走は得意で学年でも上位の成績。そんな彼女ですら敵校の生徒会長には少しずつ差を開けられる。



「鈴香、速ええな」


 優斗もそんな彼女の姿を見て感嘆する。そしてそのアクシデントは起こった。



「きゃ!!」


 グラウンドの声援が一瞬静まる。

 鈴香の後ろをぴったりついていたルリが、突如足を滑らせ転倒してしまった。



『ルリ!!!!』


 思わずスマホの画面を見ていた優愛が叫ぶ。ルリはすぐに起き上がり、再び全力で駆けだす。



「ルリちゃーん、頑張れ!!!!」

「宮西、ゴーゴー!!!」


 宮西の応援がこれまでで一番大きくなる。

 しかしその赤いツインテールの生徒会長との差は半周ほどついてしまい、敗北の文字が宮西の生徒達にの心に浮かび始める。容姿、学力、運動神経。どれをとっても一流の鈴香はまさに敵校のボスに相応しい存在であった。



「はい!!」


 大きくリードして鈴香が続く陸上部員へバトンを渡す。走りのスペシャリスト。細い手足を振り勢いよく駆け出す。



「はい、お願い!!」


 半周遅れてルリも陸上部員にバトンを手渡す。



「大丈夫か、ルリ!?」


 優斗達が地面に座り込むルリの元へと集まる。



「ごめんなさ~い、私、転んじゃって……」


 いつも明るい陽気なルリ。しかしその目からはボロボロと涙がこぼれだしていた。

 宮西全勝を懸けた負けられない戦い。その意味を十分理解していたルリが自分のミスを思い涙する。優斗がルリの頭をポンポンと叩いて言う。



「大丈夫、俺が全部抜かしてやるから!!」


「ごめんねぇ、ほんとに……」


 よろよろと立ち上がるルリ。怪我はなくて良かったのだが、戦況は悪化を続けた。




(速いな、あいつら……)


 二番手三番手はお互い陸上部員。ハイレベルの戦いを繰り広げたが、リードされた差は縮まるどころか更に開きつつあった。三番手の選手が走り出すと、アンカーである宮北の世良がすっと歩き出す。



(これだけの差、苦戦は間違いないな……)


 さすがの優斗も半周以上つけられた差を見て難しい顔となる。そして宮西の三番手が走り出すと優斗も世良が立つスタートラインへと歩き出す。



「……」


 無言。ふたりのアンカーは立ったまま無言でレースの経過を見つめる。優斗と世良。背が高いふたり。世良は細身だがその運動能力は悪くないことは先の水泳大会で証明済みだ。



「正々堂々と勝負してきたことは褒めてあげますよ」


 並んだふたり。先に声を掛けたのは世良の方であった。


「お手柔らかに頼むぜ」


 優斗は必死に走る陸上部員を見つめながら答える。世良が低い声で言う。



「無論、そのつもりですよ」



 そしてそれは起こった。



「え!?」

「おい、どうしたんだ!?」


 宮北の三番手の生徒が大きく差をつけて戻って来た。アンカーである世良はバトンを()()()()()受けとる。そしてそのバトンをポンポンと手で叩きながら宮西の走りを見つめ始めた。

 全く走り出さないアンカーに驚く観客席。優斗が尋ねる。



「どうしたんだ?」


 世良が近付いて来た宮西の三番手を見ながら答える。



「正々堂々と言いましたよね? こんな()()()、私には不要です」


「なるほど、了解」


 そして宮西のバトンが優斗に手渡される。並ぶふたり。そして優斗が言う。



「じゃあ、行くぜ! スタート!!!!」



 その言葉と同時にふたりの男が全力で走り出した。

 何が起こったか分からない状況に呆気にとられていた応援席だが、いきなり走り出したふたりを見て再び盛り上がる。



「頑張れー、宮西っ!!!」

「走れ、走れ、宮北っ!!!!」


 大勢の声援を受けて走る優斗と世良。序盤はいい勝負をしていたふたりだが、やがて優斗が少しずつ差をつけ始める。




 パアン!!!


 そしてゴールのピストルの音が一面に響く。スマホを持って応援していた琴音が涙声で言う。



『優愛ちゃん、勝ったよ。優斗さん……』


『うん……』


 優愛も同じく涙声でそれに答えた。






 ピンポーン!!


 その日の夕方過ぎ、優愛のアパートのチャイムが鳴らされた。



「……はい?」


 少し遅れてドアの向こうから優愛の不安そうな声が聞こえる。女の子のひとり暮らし。訪問者にはいつも恐怖を感じる。



「あ、俺。優斗だけど」



 ガチャ


 その言葉を聞いてすぐに優愛がドアを開ける。Tシャツに短パン。髪も寝ぐせが付いたままの優愛が出て来て言う。



「ど、どうしたのよ??」


 優斗が笑顔で答える。


「今日の報告。あと一応お見舞い」


 そう言って手にしたビニール袋に入ったリンゴを見せる。



「は、入って……」


 優愛が優斗を部屋の中に招き入れる。



「お邪魔しまーす!」


 優斗もそれに応え部屋に上がる。



「体調はどう?」


 リンゴをテーブルに置いた優斗が尋ねる。


「ええ、もう大丈夫。今日はごめんなさい。迷惑かけちゃって」


 優斗が首を振って言う。



「いいって。それより今日の結果だけどもう聞いた?」


 優愛が咄嗟に首を左右に振る。優斗が言う。



「宮西の、勝利~!! イエーイ!!!」


 そう言って片手を上げ笑う優斗に優愛もハイタッチで応える。



「凄い、本当に凄いわ。ありがとう……」


 優愛の目が少し赤くなる。優斗が言う。



「俺、めっちゃ頑張ったんだから。優愛との約束、宮西全勝の為にさ!!」


「うん、分かってる……」


 優愛は乱れた髪を少しかき上げ頷いて答える。優斗が言う。



「だから優愛も俺との約束も果たしてくれよ!」



「約束?」


 何の話だろう、優愛が優斗の顔を見つめる。



「え、忘れちゃったのかよ? 体育祭の日は弁当作ってくれるって話」


「あっ……」


 優愛が思い出す。そして朝作った弁当はそのまま冷蔵庫の中に入れたままだ。優斗がテーブルに座って言う。



「俺、まだ昼メシ食べてないんだ。腹ペコだよ。早く食わせて~」


「え? な、何で食べてないのよ??」


 優斗が笑顔で言う。



「俺の今日の昼メシは、優愛の弁当だからじゃん」



「バカ……、し、仕方ないからあげるわ。約束だから……」


 そう言って冷蔵庫から弁当を取り出す。そのまま電子レンジへ。優愛は流れ出る涙を見られないように背を向け、彼の為に作った弁当を温め始めた。

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