45.決闘の申し込み?
「はい、みんな揃ったわね。じゃあミーティングを行うわ。とりあえず来月に迫った体育祭。今日の議題はこれがメインね」
生徒会室に集まった皆を前に生徒会長の優愛が言う。副会長のルリに会計の計子。書記の琴音はノートにメモを始め、その隣に優斗が座る。優愛が資料を配りながら説明する。
「そこに書かれているのが昨年の体育祭の種目。基本これと同じで今年も行くけどいいかしら?」
配られた資料には体育祭の種目が書かれている。100m競争、障害物リレー、綱引き、借り物競争に玉入れ。大玉転がしに騎馬戦、そして最後を飾る男女混合リレーだ。計子が尋ねる。
「新しい種目を追加することもできるのですか?」
優愛が答える。
「その種目の長さによるわね。短いのなら追加できるし、長いのならどれかを削って……、まあひとつぐらいなら問題ないかな」
優愛は手にした体育祭スケジュールを見ながら答える。計子が言う。
「バケツリレーなんてどうですか? 昨年地区の運動会でやってすごく盛り上がっていました」
「バケツリレーねえ。まあ、バケツは備品でたくさんあるから問題な……」
「ひゃっ!?」
突然優斗が声を出す。優愛が驚いて尋ねる。
「な、なによ、急に!?」
突然優愛の口から『備品』と言う言葉を聞いて驚いた優斗。そんなに気にしていないつもりだったが、久しぶりに言われて驚いてしまう自分に驚いた。ルリが尋ねる。
「ねえ~、バケツリレーって何やるの??」
名前を知っていていてもルールは知らない。計子が説明する。
「水を一杯に入れたバケツを持ってこぼさないように走ります。水をこぼした分だけタイムが加算されるので慎重に走らなければなりません」
「ふ~ん、そうなんだ」
ルリが頷いて答える。優愛が言う。
「じゃあ、あとは男女混合リレーのメンバーね。アンカーはあなたでいいの?」
そう言って優斗と見る優愛。優斗が親指を立てて答える。
「ああ、任せてくれ!」
(『任せる』……)
その言葉を聞いた琴音のペンが一瞬止まる。優愛が言う。
「分かったわ。残りは各クラスに希望を聞くけど、誰も出なかったら、ルリ、あなた出てくれる?」
「えー、私なの~??」
「そうよ。あなた足だけは速いでしょ?」
背が高く意外と運動神経の良いルリ。特に足の速さには皆が一目置いている。
「だけって、酷~い!! ルリは脳筋じゃないよぉ~」
ピンクの髪を揺らしながら上半身をくねくねさせて言うルリ。
「そんなことは言ってないわ。男女混合リレーは最後を飾る花形種目。絶対勝ちたいのでその時はルリ頼むわよ」
「は~い」
ルリも渋々その依頼を受ける。
「じゃあ、それぞれの種目について細かく詰めて行きましょうか」
優愛はすこし眩暈を感じながらも必死にミーティングを続けた。
日曜の午後、最近行けていなかったスポーツジムへ向かった優斗。たくさんの買い物客で賑わうショッピングセンターに入り、エレベーターボタンを押そうとすると後ろから声が掛かった。
「こんにちは」
(ん?)
以前どこかで聞いたような声。優斗が振り向くと、そこには黒く長い髪で整った顔立ちのイケメンが立っている。
「あ、お前は確か……」
黒髪のイケメンが冷淡に言う。
「世良です。宮北高校の副会長。あなたには名前を呼ばれたくありませんので」
優斗はその長髪のイケメンを思い出していた。ライバル宮北の生徒会長にぞっこんのM男。慇懃無礼な男で、初対面でいきなり殴られたのを思い出す。優斗が言う。
「で、何か用か?」
トートバックを肩に担ぎ、優斗が少し面倒臭そうに言う。世良は顔にかかった長髪をかき上げながら答える。
「体育祭、男女混合リレーに出て頂けませんか?」
「リレーに? どうして」
やや構えながら聞き返す優斗をじっと睨むようにして世良が言う。
「私と鈴香様も出場します。正直なところ、私は宮北が勝とうが負けようがどちらでもいいのです。ただ鈴香様が勝利を嘱望されたからお手伝いしているだけ。しかしそれとは別の事情がありまして」
「別の事情?」
優斗が腕を組んで聞き返す。
「ええ、あなたには個人的に絶対負けられないのです」
「はあ?」
意味が分からない優斗。世良が恨めしそうに言う。
「あなたは鈴香様を弄びました。一時の気の迷いか、鈴香様はあなたを追いかけております。それを惨たらしく弄んだ。許されないことです」
「おいおい、それは誤解だ。あいつが勝手に俺の追っかけやってただけだろ?? 俺は何もしていない!」
説明する優斗に世良は馬鹿にしたような表情で言う。
「見苦しい言い訳を。私の目の届かぬ所できっと何かしたに違いない。でなければあなたのような男に鈴香様が興味を持つはずがない」
「お前一体何言ってんだよ……」
いい加減面倒臭くなって来た優斗がため息交じりに言う。世良が熱く語り出す。
「鈴香様は孤高にて完璧なるお方。男に靡いたり媚を売ったりするなどあってはならぬことなのです。そんな崇高な鈴香様をお前は……」
感情が高ぶって来た世良がはっと我に返り、大きく深呼吸してから言い直す。
「失礼した。お見苦しいところを。つまるところ、次の体育祭の混合リレーであなたと勝負したい」
「勝負?」
「ええ、リレーではアンカーをやって欲しい。私もすでにアンカーが内定している。そこで男同士の勝負をしたい」
「勝負? なんで」
世良が乱れた黒髪を整えてから答える。
「その勝負で勝った方が鈴香様にお仕えすることができるとする。どうだ?」
「要らん。お前が仕えればいいじゃん。やるよ」
「な!?」
予想外の返答に戸惑う世良。優斗が言う。
「ただ勝負は真剣にやる。俺もアンカーだ。宮西が勝つために全力を尽くす。鈴香のこととは関係なしにな」
世良が震えながら尋ねる。
「お、お前は鈴香様に好意を抱いているのではないのか……??」
「好意? そんなもんじゃねえ。鈴香はただの知り合い。ま、友達かな?」
「友達……」
世良が優斗の言葉を小さくつぶやく。そして低い声で言った。
「やはり貴様は鈴香様を弄んでいたのだな……」
「何でそうなる……」
一向に噛み合わない会話に優斗も嫌気がさす。世良が近付いて言う。
「お前は鈴香様に殴られたり蹴られたり、罵倒されたくはないのか?? 最高だろ??」
「ない。何でそんなことされなきゃいかんのだ」
もう一刻も早くこの場を立ち去りたくなった優斗がぶっきらぼうに言う。世良が優斗から離れて髪をかき上げながら言う。
「とことん君とは合わないようだな」
「合いたくねえよ。じゃ、俺はもう行くから」
そう言って立ち去ろうとする優斗に世良が言う。
「リレーの勝負は受けるように。逃げないことを願っているよ」
優斗は歩きながら軽く右手を上げ立ち去る。
(全く面倒臭せえ奴だ……)
そう思いながらエレベーターに乗りスポーツジムへと向かう。
「優斗様あぁ!!!」
エレベーターを降りスポーツジムへ向い出した優斗に奥の方から大きな声が響く。
「鈴香?」
それは腰まである赤いツインテールに大きなリボン、パンツも見えそうな短いスカートを履いた鈴香であった。優斗の前まで来て赤髪同様頬を赤くしながら鈴香が言う。
「ずっとお待ちしておりました。最近こちらへいらっしゃらなくて鈴香は寂しい思いをしておりました……」
(まさか毎週待っていたのか……??)
そう思いながら優斗が尋ねる。
「ちょ、ちょっと忙しくてな。あ、それより鈴香少し聞きたいことがあるんだが……」
「はい、何でしょうか。何なりと」
鈴香は上目遣いで優斗を見つめながら言う。
「あ、ああ、その、鈴香は俺を見て殴りたくなるとか、罵倒したくなるとか、そんな風に思ったりするのか……?」
全く予想外の質問にポカーンと口を開けて瞬きする鈴香。すぐに首を左右に振って否定答える。
「ま、まさか! なぜ鈴香が優斗様にそんな酷いことを……」
「だよな……、いや、ごめん……」
頭に手をやり答える優斗に鈴香が尋ねる。
「それとも優斗様はそれをお望みとか……」
「要らん!! そんなもん、要らん!!」
優斗が首を左右にブンブンと降って否定する。鈴香が優斗の腕にしがみついて甘い声で言う。
「鈴香は優斗様のお望みなら何でも致します~、どうぞご命令あれ」
「ば、馬鹿! 離れろって!!」
そう言いながらも薄い鈴香の服からじかに感じる胸の膨らみを、優斗はやはり意識しない訳にはいかなかった。




