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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

薬術の魔女関連

どうやら俺は主人公じゃないらしい。

作者: 月乃宮 夜見


 戦争孤児は、別に珍しい話ではない。


 戦争を始めてしまった国では、戦争に巻き込まれてしまった国では、嫌でも生まれてしまう。


 『俺』は、戦争孤児だ。

 外国が国土を焼いたそれに巻き込まれて、両親は死んだ。

 それをとある魔術師が助けてくれた。

 彼にあこがれて魔術兵を目指して努力を続けた。


 そして、『俺』は転生者だったらしい。

 俺が『俺』を自覚したのは、随分と小さい時だった。

 初等部に入る前の、4、5歳ぐらいの歳だ。


 それからある日。

 あこがれていた人が『宮廷魔術師』だったのだと知る。

 『宮廷魔術師』は、難しい試験を突破しなければなれない。生憎、自身が入学できる場所からでも宮廷魔術師にはなれるらしい。


 前世の記憶と知識を持つ俺には、運良く魔術の才能があった。だから、努力を重ねることにした。


×


 魔術の才能があった俺は魔術科のある学校に通い、そこで友人や同級生、場合によっては上級生や下級生達と切磋琢磨して好成績を残した。


 学校で出会った奴の殆どが嫌なやつだった。

 金持ちの貴族とか。


「平民は努力しても無駄」


 だと笑われた。


 だが、それを応援してくれる相手が現れる。

 同じ平民出身で、宮廷魔術師になる志の人物だった。


 すっかり友人となり、切磋琢磨をして高め合う仲になった。


 そして、宮廷魔術師になるために試験を受けた。俺には宮廷魔術師になれるような血筋やコネなんか持ち合わせていなかったからだ。


×


 宮廷魔術師の試験は、宮廷の一部で行われた。

 ほとんどが身なりの良い奴ばかりで、俺みたいな平民のような奴は別会場だったり、時間差で試験を受けたりするらしい。


 試験内容は筆記試験、実践試験、魔力測定だった。


×


 そして、試験に合格する。


 友人や仲間と一緒だ。

 バカにしたやつは中心人物だった奴と少しくらいは受かっていたが、他は受からなかった。

 そりゃあそうだろう。馬鹿みたいに試験は難しく、ちょっと成績が良いだけの奴は受からない仕様だから。


 バカにしたやつは驚く。そして「見直した」と言われた。

 でも「お前みたいな平民なんて認めない」と言う奴もいた。


×


 宮廷魔術師になったので、先輩の魔術師の下に付く必要があるという。

 具体的に言えば、研究室に入ってそこで自分の希望に近い研究を行うようになっている。

 募集している研究室を探してそこに入ると良いらしい。


 あこがれていた人は取り敢えずで募集していたので、そこを希望した。だが、そこを選ぼうとすると周囲から止められる。


 友人や仲間にも止められた。


「あまり良い場所ではない」と噂になっているそうだ。人数も二人だけと極端に少なく、仕事量も非常に多いらしい。


 馬鹿にしてきたやつも心配そうにしている。つまり、相当に覚悟が要るやつだと悟った。


 それを全て振り切って、研究室に入る。


×


 研究室には、圧がすさまじい二人がいた。


 片方は、とある『古き貴族』当主の、通称『女帝』だった。もう一人は、非常に背の高い男。性格の悪さゆえに、裏で『悪魔』と呼ばれているらしい。

 俺が憧れていた人だ。

 周囲はあまりそうじゃないみたいだけれど。


「音を上げても良い」「嫌になったら勝手に出ていけばいい」「部屋は他にもある」と言われた。

 だが「必死に食らいつきます」と宣言したら、二人は一瞬驚いた表情をして、「好きにしたら良い」と答えてくれた。


×


 取り敢えず入ると、地獄のようなしごきが待っていた。


 魔力の増強のためにお世辞にも美味いとは言えない魔獣肉を食べる羽目になる。

 『女帝』の方はそれは食べないらしいが、『悪魔』の方はいつも食べているらしい。

「他の研究室でもやっている」と言われたので頑張って食べた。


 吐いた。


 それでも何度も食べて、ようやく魔獣肉への拒絶反応が出なくなった。それから、体内の魔力を練る練習が始まった。


 魔術の訓練をし、他の時間は魔術の研究。


 自身で魔術について考えなきゃ行けないし論文も書かないといけなくてかなり大変だったが、自分は楽しかった。


×


 『春来の儀』。


 今までは『早く来ないかな』とぼんやり待ちぼうけていた。だが、強制的に考えを改めることになった。

 地獄のような儀式だった。


 神に選ばれた8名が、結界内で『春の神』を呼び出す儀式。


「認めない」と言ってたやつは精神の脆弱さでここで死んでしまった。


 仮に嫌なやつだったとしても。同期だった奴が、知っていた奴が死ぬのは酷く悲しかった。


×


 友人だと思っていた一人が実はスパイだった。


 ある意味、宮廷は戦争の最前線だ。

 その事実を嫌な方法で思い知ってしまった。


 元友人は『聖十字教』の信徒で、幹部からの命令で学校に通い宮廷魔術師になったらしい。


「殺せるか」そう、当人に問われる。


「殺せない」そう答えたら襲われて死にかけた。


 平民であり何のコネも持たない俺を助ける奴なんてそう居なくて。

 同じ研究室の人達は明らかに普通より忙しい人達だった。彼らに迷惑をかけられない。


「きっとここで死ぬ」と、目を閉じた。


 その時、誰かの声が聞こえた。


×


 気付いたら、白い天井が目に入った。


 そして、泣きそうな顔の……


 どうやら、俺を馬鹿にしていた奴が助けてくれたらしい。それから、研究で忙しいだろうに、付きっきりで看病をしてくれた。


 それから、俺達はたくさん話をして、価値観を共有して親友になった。


×


 ある時、とある国が戦争を仕掛けた。


 その理由は今はもう分からないのだが、「豊かな資源が欲しかった」からなのかもしれない。

 国の大半が戦渦に巻き込まれ、焦土と化した。


 その世界では「魔術兵」は重宝された。

 何故なら、魔術を熟知しているうえに、()()()()()()を知っているからだ。


 魔術兵は少なくとも一般の歩兵10人くらいの戦力を持つと言われている。


 だから、宮廷魔術師や魔術兵が敵国に捕まる事は()()()()()だった。


×


 親友が捕まったと聞いた。


「助けたい」と訴えるも「無意味だ」と無情に言われる。


 そして、敵国に改造され「魔術兵器」となった友人と対峙した。

 もう自我が残っているようには見えなかった。


 だから、泣きながら友人を殺害した。


×


 『悪魔』が戦線に立った。


 国の命令でようやく、宮廷魔術師による攻撃が許可されたのだ。


 彼の使う魔術式は複雑で、まるで『魔法』のようだった。


 放つ魔術は量も質も範囲も桁違いで、涼しい顔で高威力の魔術を何度も行使して、戦線をあっさりと退けていった。


 国の命令がもう少し早ければ、俺の親友はああならなかったかもしれない、と、ドス黒い感情が湧いた。


 そして、俺は悟ったのだ。


「ああ、俺は主人公じゃないらしい」


と。


×


 戦争が終わった。


 相手国が『魔女』の化学兵器、要するに魔術の込められた砲弾により大量に人が使えなくなった為、降伏したという。


 『魔女』のおかげで、この国は平和を取り戻した。


 あの強力な魔砲を見て思った。


「どうやら、戦線を退けた彼も主人公ではないらしい」


と。


 宮廷に戻ると、殺したと思っていた親友が全身を拘束された状態で牢に入っていた。


 どうやら、『魔女』が元に戻してくれるらしい。完璧でなくとも、なるべく近い状態にまで戻す、と言っていた。


 それを、他人事のように俺は聞いていた。


×


 今の俺は、以前よりは片言の言葉を話す親友と一緒に、魔術の研究をしている。


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