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第4話【スタート】

 学校に行った世愛せなを見送り、部屋に一人残された俺は朝風呂に入ったあと、再びソファの上をパンイチで仰向けになって考えごとをしていた。


『昨日から思ってたけど風間さん...ちゃんとお風呂入った方がいいよ?』


 一応毎日ネットカフェでシャワーを浴びてはいたが、服に関しては全く洗濯していなかったので多少臭うのは当然といえば当然。

 本人的にはオブラートに包んだ言い方でも、JKに言われるのはなかなかショックだった。

 顔をテーブルの方へ傾ければ、そこには先ほど世愛から受け取った諭吉が20枚、封筒から出された状態で雁首揃がんくびそろえて置かれている。

 お金を受け取っても未だにこの状況がよく理解できない俺の口からは、どうしたものかと自然と嘆息が出る。


「俺みたいな素性もはっきりしない人間を家に入れるだけでなく、その上俺を父親として住み込みで雇うだなんて......さっぱり目的が読めん」


 どっちにしても、この絶望的状況を打開するには世愛の申し出を受けるしかないわけで。

 というかもう引き受けてちまったからな。

 今さら断ってここを追い出されるのも困る。

 情けないようだが、ここはしばらく世愛の厄介になるしか手段が見当たらない。

 ああだこうだ考えても仕方ないよな、と頭を無理矢理切り替え俺はソファーから立ち上がると、


「......とりあえずは、この部屋をどうにかしないとな」


 お世辞にも綺麗とはいえない部屋の中。床には衣類や下着等が散らばり、カウンターキッチン周りも物でごちゃついている。

 自分の家が多少汚くても気にしない俺だが、人様の家が汚いと嫌に気になってしまう面倒なタチでな。

 せめてリビングだけでも俺自身の精神安寧せいしんあんねいのために片付けたい。

 洗濯乾燥機から全ての工程を終えたアラームが鳴るのを待つ前に、俺は行動を開始した。


 まずはリビングのいたるところに放置された衣類を一点にかき集め脱衣所まで運んで行く。

 次に下着類――昨日も思ったんだが、見た目の清楚系とは裏腹に、煽情的なデザインの濃い色ばかりでなんだか変な気持ちに侵される。

 パンイチで散らばったJKの下着を拾う26歳独身男性......今の絵面はさぞシュ

ールだろうさ。

 衣類と同じようにして脱衣所に運ぶも、さすがにこれは俺が洗濯しないほうがいいだろうという結論に達し、ランドリーボックスにぶち込んだままにしておく。


 その二つを片づけただけでも大分床が見えるようになったな。

 あとはゴミらしき物が入ったスーパーの買い物袋を大型の不燃用ゴミ袋に放り込み、掃除機をかけたいところなんだが......軽く探した感じ見つからなかった。

 仕方がない、世愛が学校から帰ってきたら訊いてみるか。

 

 ***


「ひょっとしてこれ全部、風間さんがやってくれたの? すごーい!」


 壁にかけられた時計の針が16時を回った頃、世愛は学校から帰って来るなり、そのハスキー寄りの声質で喜びの声を上げた。 


「...まぁな」


 たかが床を綺麗にしたくらいでそんなに喜ばなくても。

 恥ずかしくてケツの辺りがむずむずしてくる。


「一宿一飯の恩義じゃないが、部屋の中があまりに散らかってたんでな。女だったら少しは綺麗にする努力しろよ」


「何で?」

「は?」

「部屋が綺麗・汚いに男も女も関係ないと思うんだけど」


 ......おっしゃるとおりで。

 最近のJKは核心を突くのがお上手なんだな。

 言葉を返すことができねぇ。


「――それより掃除機はどこにしまってあるんだ? せっかくだからかけたいんだが」

「無いよ」

「いや無いってお前、そんなことないだろ。今までどうやって掃除してきたんだよ?」

「したことないよ、掃除」


 ......昨日から思ってたんだが、コイツの発言には毎回驚かされる。


「よく掃除機も無しで生活ができるな」

「コロコロさえあれば全然平気。ほら、こうすれば自分の生活スペースだけは綺麗になるし」

「そこだけはな」


 掃除どころか、キッチンすらまともに使った形跡の無い部屋に住むJKの言動はやはりぶっ飛んでいた。

 これはどうやら自費――というか貰ったばかりの金から使うしかなさそうだ。


「了解。世愛が帰ってきたら外へ買い物に行く予定だったから、ついでに掃除機も買ってくるわ」

「別に無くても困らないのに」

「お前は困らなくても俺が困るんだよ」

「はいはい......もしかして風間さん、潔癖症? 男のくせに?」


 世愛はそこまで口にして『あ』と声を漏らした。

 見事なブーメランをどうもありがとう。


「じゃあ私も行こうかな。どのみち夕飯も買いに行かないとといけないし」


 苦笑を浮かべ、こめかみを掻きながら誤魔化すように話を逸らした。


「そいつは助かる。生活必需品以外に掃除機も買うとなると、俺一人じゃ厳しいからな」

「わかった。ちょっと待ってて」


 世愛はリビングを出て自分の寝室に入るなり、ものの数秒で戻ってきた。

 先程との違いは通学用リュックが無いという点だけ。


「着替えなくていいのか?」

「だって風間さん、この姿の方がJKとデートしてる気分を味わえて嬉しいでしょ?」

「制服姿の娘とデートして嬉しい親がどこにいる?」

「そのセリフ、いかにもパパみたいでいいね」


 俺の腕に体を巻きつかせ、世愛は上目遣いで微笑んだ。

 ――父親生活初日。

 ひょんなことから世愛と買い物デートすることになってしまった。 

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