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いきますとも、君と共に。な話。

 野宿を何日か繰り返し、それなりに大きな町へとやって来た一行。その町は、この時代“風の町”と呼ばれたそれなりに有名な場所でな。風車によって、町の生活施設をほとんど賄っている。


「この間の町より、大きいなぁ」

「お前さ、町に入る度お登りさん丸出しなのやめろよ」

「まいちゃんだって初めてのくせに!」

「オレはいいんだよ!」


 恒例になりつつあるこの騒がしさも、こいつらにとって無くてはならないものになりつつある。まぁ、それでも煩いことに変わりはないので、師匠殿に二人して頭を小突かれてしまった。


「アンタら、もう少し静かに出来ないのかい? 毎夜毎夜二人で組んでんだから、口喧嘩も控えめにしときな」


 師匠殿に言われ、魔法剣士は「……はい」と渋々ながらも返事をするが、舞手は舌打ちを返しただけだ。


「全く。この町に森妖精エルフに詳しい商人がいると聞いてきたけど……」


 一口に商人と言ったところで、その種類は多岐に渡る。薬売りに武器商人、どこかの財宝を売り捌く輩もまた、商人と言っても過言ではないだろう。

 あぁ、それから大事な商人を入れるのを忘れていた。


 魔法石商人だ。

 その石は、魔法力を入れることが出来る不思議な石でな。例えば火の魔法を込めると、簡単に、誰でも、火をつけることが出来る。まぁ、料理程度に使えるくらいの弱いものだが。


「商人、商人かぁ」

「森妖精に関わるのだし、魔法石じゃないかしら」

「その魔法石商人ってどのお店だろ?」


 少女の手を引いていた聖女は、頬に人差し指をやり考えた後「わからないわ」と微笑み、大体予想していた答えを言った。


「んなもん、誰かに聞きゃいいだろう。迷う必要すらねぇ」


 舞手は鼻を鳴らし、大股で歩いていくと、近くを通りがかった男を呼び止めた。


「おい、そこのお前」

「ひ、ひいっ。乱暴はよしてくだせぇ!」

「おい待てって。話を……」

「誰か! 殺される!」


 男は舞手の話も聞かず騒ぎ始めた。そうすればあとは勝手に外野が集まってくるものだ。集まってきた外野に、男が「乱暴された! 助けてくれ!」と叫び、誰かが呼んだであろう衛兵が一行を押さえつける。


「わわわ! まいちゃん、乱暴するから!」

「してねぇ! 見てただろうが! ハメられたんだよ!」


 まぁ、濡衣であることに間違いはないのだが。

 屈強な衛兵たちに囲まれては、今のこいつらに対抗するすべなど、どこにもなかった。




 両手を縛られ、目隠しをされ、そうして連れてこられたのは、この町でもそれなりに立派なお屋敷の地下だ。

 乱暴に部屋へとぶち込まれ、やっと目隠しが外れて見てみればいるのは舞手のみ。どうやら男女で別の部屋へ連れて行かれたらしい。

 魔法剣士は薄暗い部屋を見渡した。牛のような入れ物や、人型の棺のようなもの、それから小型の舟に、蜂蜜の入った瓶もあるな。それらの器具を何に使うのか、この鈍い男にはわからないだろう。


「あれ? あの子がいない……」

「あ? あのピンクなら一応メスだろうがよ」

「違う違う、そうじゃなくて」


 魔法剣士が言おうとしたところで、背中を衛兵に力強く蹴られ、二人は床へと転がった。


「痛い!」

「何すんだ!」

「やったのはまいちゃんです、僕じゃありません!」

「お前は黙ってろ! てか何もしてねぇだろうが!」


 受け身も取れずに顔面をぶつけた二人は、鼻やら額やらを赤くしながらも、言い合う元気はあるようだ。しかし衛兵に、煩いと言わんばかりに首元に剣をチラつかせられては、黙る他ない。


「全く、煩いハエ共ですねェ」


 やけに甲高い、気に障る声に、なんとか首だけ動かすと、キノコ頭の男が立っていた。耳やら指につけている貴金属類を見るに、それなりに金を持っているように見える。


「貴方たちが我が町を荒そうとやって来た賊ですかァ?」


 見下すような目つきで二人を見、男は持っていた扇で口元を隠した。

 魔法剣士は剣を突きつけられているのも構わず、首だけなんとか動かすと、舞手のほうを必死で示しながら、


「まいちゃんがそうです! 僕は違います!」

「おいヘタレ! ヘタレも度が過ぎると怒るぞ!」

「いつも怒ってるからもう怖くないぞ! やーいやーい、まいちゃん動けないでやんのー!」


 芋虫のようにモゾモゾする光景は、中々に気持ちが悪い。それに苛ついたのか、男は忌々しげに扇を真ん中から割った。


「少しは黙りなさい! いいですか、これをご覧なさい!」


 そう言い、衛兵から何かを受け取ると、男は二人によく見えるように前へと移動していく。その手に握られていたのは、なんとピンクの毛玉、そうロディアだ。しかし気を失っているのか、いつものように魔法剣士を呼ぶ声はしない。


「ロディア! くそう、ロディアを離せ! ロディアはな、ふわふわじゃないと機嫌を悪くするんだ! セットが崩れちゃうだろ!」

「後で直してやれよ!」

「きいー! だからお黙りなさい!」


 話を聞いているのか聞いていないのか。

 兎に角、ロディアを手中に握られていては、特に魔法剣士は悔しくも黙るしかない。


「こほん。いいですか、罪人共。我は貴方たちに慈悲を与えようと思っております。何、簡単なことです。こちらのお願いを聞いて頂きたいだけです」

「その“お願い”を聞けば、姉貴や毛玉を離してくれるんだな?」

「えェ、もちろんです。聞いて頂ければ、ですがね」


 随分と含みのある言い方ではあったが、どのみち断るすべはない。舞手は不本意ではあったが、その要求を呑むことにした。


「で? どんなお願いだ?」

「僕は違うよね? まいちゃんだけだよね? 僕はロディアの毛づくろいしながら待ってるからさ」

「簡単なことです。最近、魔族の目撃情報がありましてね。その場所へ赴き、魔族を殺して頂きたいのです」

「ねぇねぇ、話聞いてる? まいちゃんだけだよね?」

「魔族だと? それこそ衛兵の出番だろ」

「なぜ貴重な人材を、みすみす失うような真似をしなければいけないのです? 罪人にうってつけのお願いではありませんか」

「おおい、僕は行かないよ? そんな怖いとこ行きたくないなぁ」


 合間合間に魔法剣士が抗議をしていた気もするが、もちろんそれが受け入れられれば苦労はしない。二人は再び目隠しをされると、どこかへまた連れて行かれてしまった。




 町から町への移動手段には、徒歩の他に馬車がある。しかし高い金を払わないといけない為、自分の馬車を持っている富豪か、もしくは稼ぎのいい熟練冒険者辺りしか乗れない。

 そしてこの男は前者だ。馬車に乗せられた二人が再び目隠しを取られると、そこは深い谷底の前だった。下から吹き上げる風に足がふらつく。


「な、何、ここ……。わ、悪い奴はどこ?」

「ちっ。ハメやがって」

「どういうこと!?」


 あと数歩も歩けば崖下に真っ逆さまだ。魔法剣士は恐怖で足が竦む。


「ぁ、あああ……」

「魔族なんていないんだろ!? オレらを体よく始末しやがる気だな!」


 腰に剣先を突きつけられながらも、舞手はいつも通り虚勢を張ろうとする。が、若干声が震えているのは、自分でも気づいているようだ。


「魔族はいますよ。この下に、ねェ」


 にたりと気持ち悪い笑みをし、控えていた衛兵に合図を送る。衛兵は敬礼をしてみせると、二人を崖ギリギリへと歩かせる。吹き上げる風が髪を揺らすのを感じながら、魔法剣士が言ったのが、


「あ、それはそれとして、森妖精のことを知ってる商人を知りませんか?」

「おいヘタレ! 空気読めよ!」

「だ、だって情報は聞かないと……」


 なんとも阿呆の言いそうなことだろう?

 しかし男も気分が良かったらしく、


「あぁ、いましたよ。魔法石商人の……、そうだ、愚かな賢者たちの現当主でしたかねェ。そうだ、もしお会いしたらお伝え下さい。“白き妖精王ヴァイフィーニの居場所は掴んだ”と」

「白き妖精王……?」

「では、お願いしますよ」


 腰の砕けた力無き身体は軽々と担がれてしまい、そのまま、魔法剣士もまた深い谷底へと放り投げられてしまった――。



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