中冬の月。
中冬の月、一日。
人生で、こんなに幸せな日があっていいんだろうか。いや、いいに決まってる。
少し豪華な船に、少し豪華な料理、それから娯楽施設。そこかしこに、目を奪われるほど綺麗な女の人や、僕とは比べ物にならないほどの格好いい男の人。
もうちょっとお洒落してくればよかったなぁと、僕は自分の薄汚れた服を見て、小さくため息をついた。
「「こんにちは、旅の人。飲んでますか?」」
沈んでいた僕に、男女の二人組が声をかけてきた。確か、船に乗った時に一言三言話した気がする。
そっくりな顔に、息ぴったりな声、背丈も似ている二人は、双子の兄妹なのだと聞いた。
「僕は飲めないんだよねぇ。まだ未成年なんだ」
「「それはそれは、とてもとても残念。でも大丈夫。飲めなくても食べればいい!」」
「あはは……」
なんだっけ、片方だけじゃなく、こう両方から聞こえるのって。声のトーンまで同じだから、正直どっちが話してるのかわからない。ま、同じことを言ってるみたいだし、あまり気にする必要もないのかも。
それはそれとして。
確かに食べるのはアリだと思う。実際、可愛い我が義妹は、見たことのない豪華な料理に目をキラキラさせているし。その隣で、白髪白目の最年長者が、義妹の言った通りの料理を皿に盛っている。
美人姉弟に至っては、流石の見た目といわんばかりに、周囲に人集りが出来ている。ああいう美人のこと“びめしゅうもく”って言うんだっけ?
僕は最後の望みをかけて、見た目より老けている(失礼)おっさんを目だけで探す。迷子になったらしい小さい子を肩車して、ご両親を一緒に探している。こういう時に高身長はズルい。
「はぁ……」
「だーりん、だーりん」
知らずうちに、どうやら盛大にため息をついていたようで、僕の頭にちょこんと乗っているピンクの友達が僕を呼んだ。
「わたちがいるでち。わたちはだーりんひとすじでち!」
「ありがと。でも結構毒吐いてくるよね?」
「だーりんのみみが、わるくなっただけでち」
「ほら! 今、ほら!」
「わー、だーりん、せっきょくてきでちー」
友達を両手で持ってふにふにする。うん、今日も毛ざわりは良好だ。きちんとブラッシングした甲斐があった。
そう笑いながら仲間たちを見ている僕の視界は、突如として硝子のようにヒビ割れ、そして、砕け散っていったのだけど。
※
この店に来るのももう慣れた。彼の魔法剣士の話もだいぶん聞いたが、正直今の彼が魔王になるとは想像出来ない。仲間を慕い、そして慕われ、人々を大切に想っているのに。
いつも通り、あのエルフが「またか」と面倒くさそうにため息をついた。その態度にも慣れたので、自分は先程の疑問をぶつけてみる。するとエルフは鼻で笑い、
「それは魔王軍も同じだろう。部下を慕い、そして慕われ、魔族を大切に想っている。便宜的に、人間、魔族、妖精と呼んではいるが、その本質はどれも変わらんということだ」
と湯気の立つカップをテーブルへ置いた。それに簡単に礼を述べてから手を伸ばした。
あぁ、でもそうかもしれない。自分たちだって、何も変わらないのに争いは起こるし、それを止めることはいつだって難しい。
「納得は出来んだろうが、理解することは大切だ。さて、次はどこからだったか」
そう頬杖をつき、エルフはゆっくりと語りだす。“赤の国”へと向かう、航路での物語を――




