表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/75

視える世界、知らない交わりの話。

 顔色の戻ったリーパーは「ありがとう」と立ち上がり、それから奥の台座へと向かった。まだ痺れの残る魔法剣士は、その背中を視線だけで追っていく。


「そういえばリーパー。なんでこの場所がわかったの? この子のことだって……」

「あぁ、それなら簡単だよ。何せ、お行儀の良くない輩は全てにおいて中途半端だ。隠す気もないのかな。腐蝕クロージィと言ったか、よほど自信家なんだろう」


 リーパーは顎に手をやり台座を見つめ、しばし唸ると「やっぱりこれは……」と呟いた。再び魔法剣士の元へ戻ると、リーパーは眠り続ける少女に視線をやる。


「リーパー? 何か気になることでもあるの?」

「……昔、“虹の国”と呼ばれる地があった」

「虹の、国……」


 リーパーは頷き「でも」と苦笑する。


「歴史の話はまた今度にしよう。そうだね、簡潔に言うなら、今よりもっと文明が発達していた国があった。この技術は、そこで使われていたものだ」


 痺れがある程度引いたのか、魔法剣士は「よいしょ」と少女をおぶってから立ち上がった。そして台座まで歩いていくと、まじまじと眺めてみる。


「んー、ただの台座にしか見えないけどなぁ。でもこれがその技術ってやつなら、ここは何のための場所なんだろう」


 魔法剣士の隣に並び、リーパーが中央の窪みをなぞる。


「恐らくだが、ここを守るための“何か”が置かれていたんだろう。だけどその“何か”が無くなり、この場所が見つかってしまった」

「それをあの金髪の男が……?」

「さて……。どちらが先なのか、今の状態ではわからないね」


 未だ記憶に新しい、狭間の世界で出会った男を思い出し、なんとも言えぬ悔しさが胸の内へと広がっていく。少女が眠ったままで良かったと安堵すると、魔法剣士は辺りを改めて見てみる。


 部屋の中央に台座。少し離れた場所に扉がひとつ。どうやら出入口らしきその扉には、“黃の国”の廃遺跡でも目にしたあの絵が描かれていた。

 そう。盃に、ローレルの葉が巻き付いたような、あの絵だ。

 聞きたいことは山ほどある。が、今はそれを聞いている場合でないのも確かだ。魔法剣士は扉の前まで歩き、リーパーを振り返る。


「とりあえずここから出よう。お姉さんがあいつに捕まったままなんだ。早く助けないと!」

「それはわかった。だけどどうやって助けるつもりなんだい?」

「それは、ぶん殴って、斬って、燃やして……」

「そして元に戻る、と」

「……」


 魔法剣士は何も言えず、俯くしか出来ない。そんな魔法剣士の隣に並び、リーパーは扉を開けた。


「ボクたちの“命”。それは魔法石だ」


 その声に魔法剣士が顔を上げる。するとリーパーは自身の胸辺りに手を当て、身体の中へゆっくりと手を差し入れたのだ。


「リーパー!? 何して……」

「……っ」


 中へ入っていた手が再び外へ出てきた時。手には、白い光を放つ、手のひらほどの石が握られていた。


「綺麗だ……。それがリーパーの“命”?」

「そう。ただキミたちの知るそれとは違って、そう簡単に壊れる代物しろものじゃない。もちろん壊せないし、斬ることも、魔法でどうにかすることも出来ない。見かけでは消えたように見えるけどね」

「じゃ、どうすれば石を消せるの?」


 リーパーは石を体内へ戻し、今度は懐から青色の魔法石を取り出した。“黃の国”にて、煉獄インフェルノが消えた際に落としたあれだ。それをリーパーは黙って見つめ、次の瞬間、その石を口に含んだ。


「え、食べ、え?」


 目を見開く魔法剣士を他所に、石を取り込んだリーパーから苦しげな声が漏れる。心配するように手を伸ばした魔法剣士を制し、リーパーが「大丈夫」と息をひとつ吐いた。


「何度やってもこれには慣れなくてね……」

「何をしたの?」

「取り込んだんだよ。それだけさ。まぁ、もうひとつ方法があるにはあるんだが、そっちは魔法力を必要とするから面倒くさいんだ」


 それだけ。本当はそれだけではないことくらい、魔法剣士にもわかっていた。だが魔法剣士は「そっか」と薄く笑い、


「じゃ、腐蝕の中から魔法石を取り出す感じでいいのかな」


と歩き出した。リーパーも隣を歩きつつ「いや」と首を横に振る。


「あの性格なら、誰にも見つからない、けれども、誰に見られても構わない場所に飾りつけてあるだろう」

「矛盾してない? それ」

「ボクらからすれば理解出来ないだろうね。それとも理解したいのかい?」

「したくないかなぁ……」


 ある程度歩くと、通路が二手に分かれており、つきあたりに美しい女性の像が一体、見えてきた。その両手で大事そうに持っているのは、小さな緋色の石だ。指先ほどの大きさしかないそれを見、リーパーは「趣味が悪い」と吐き捨てた。


「まさかこれ? 小さくない?」

「他にも飾ってあるんだろう。手分けして回収しながら上を目指そうか」

「じゃ、とりあえずこれは僕が……」


 魔法剣士が石を摘み上げた。途端に像が腐り落ち、魔法剣士は小さく悲鳴を上げる。


「なんで!? これ石像じゃなかったの!?」


 慌てる魔法剣士を横に、リーパーは屈むと、


「あぁ、人間の女性だね。捕らえて、自身の魔法石の力で腐らせずに保存し、たまに鑑賞にでも来ていたんじゃないかな」

「……リーパー、あの」

「もう無理だよ。この状態にされた時点で、彼女たちには死ぬか、動けない悪夢の中を永遠に彷徨うしかないんだ」


とその腐り落ちた身体を労るように撫でた。


「魔法剣士くん。辛いならボクと一緒に行動するかい? 向かうのは遅くなるだろうが……」

「ううん。やるよ、僕」


 はっきりと言い切った魔法剣士の顔は、確かに辛さが滲み出ているが、その腹は決めているようだった。


「ずっとあいつに見られるなんて可哀相だし、何より、これ以上君に任せてらんないしね」

「そうか、わかったよ」

「よし! じゃ、僕はこっちから! リーパーはそっちを頼んだよ! たくさん見つけたほうが勝ちだからね!」


 言うだけ言うと、魔法剣士は一目散に走り出した。すぐに消えていった背中を見送り、リーパーはため息をつき反対側へ歩き出す。


「全く。そう言われたら負けられないじゃないか」


 リーパーも同じなのだ。あの優しい少年に、なるべく負わせたくはない。その役目は、誰がなんと言おうと自分が被る。


「今さら一人二人、いや百人増えたところで変わりはしないのだから」


 微弱な魔法石の力を頼りに、通路を歩く。元が微弱だというのに、ここまで分割されていては探るに探れない。

 それにしても、とリーパーは立ち止まった。遠い、遙か昔に置いてきた記憶と重なり、リーパーは目を伏せる。


「まさか――が……?」


 無意識に出たその“名”に、リーパーは首を振ってそれを追い払った。今は考える時ではない。そう思い直すと、負けないように、再び通路を進み始めた。





「ひいいい」


 また目の前で腐り落ちた像に、魔法剣士は情けない声と共に緋色の石を握りしめた。


「でもよかった、この子が起きてなくて」


 そう安堵し、魔法剣士が息を漏らしたところで、


「ぅ」

「ん?」


 背中から声が聞こえ、まさかとは思いつつ横を向けば。


「う、う!」

「あああ起きてるうう! いつ起きちゃったのおはよううう!」

「うー!」

「しかも話せるようになってる! リーパーが何かしてくれたのかなぁ」


 無事に帰ったら聞けばいいかと思い、魔法剣士は再び歩き出した。自分の手の中には石が四つ。あとどれくらいあるのかはわからないが、これが続くのかと思うと気持ちが沈む。

 それでも、と。


「もう、誰かに頼ってばかりは、駄目だから。ね?」

「うー」


 少女の手が魔法剣士の頭を撫でる。それに頬を緩ませ「ありがと」とまた進もうとし。


「うー!」

「あ、はい、おんぶじゃなくて抱っこをご所望なわけですねっと」


 一旦少女を降ろし、その手に緋色の石を持たせてやる。それから少女を抱き上げると、魔法剣士もまた歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ