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晩秋の月。

 晩秋の月、二日。


 僕は、自分の首に手をかける青髪の親友を、声が出ない喉を震わせて、なんとかその名を呼ぼうとする。だけど、何度それを試しても、僕の口から彼の名が出ることはない。


「やめ、るんだ……。彼はキミの、友人、なんだろ?」


 胴体を切り離された白髪の彼が、残った上半身をなんとか這わせて、こちらへ向かってくる。普通の人間なら死んでるんだろうが、生憎彼は、そこらの普通には当てはまるような奴じゃない。

 義妹の黒髪少女が、僕から親友を引き剥がそうとその身体を揺さぶってはいるが、あんな小さい子供じゃ期待は出来ないだろう。もちろんその気持ちは嬉しい。

 離れた場所では、屈強な男が斧を振り回し、迫りくる傀儡の群れを薙ぎ払っている。それをサポートしているのが、この親友の姉である聖女様だ。


「……ま、い……ちゃ」

「……」


 僕はもう一度彼の名を呼んだ。なんの反応も示さない彼は、もう僕との思い出なんか忘れたのかもしれない。

 あぁでも、確かに仕方がないかも。

 いつも彼とバカばっかりやってたし、僕はそれが楽しくて、楽しくて、これからもそれが続けばいいな、なんて思っていたけど。彼はいつも怒っていたし、内心では僕を憎んでいたのかも。

 それこそ、こうして殺したいほどに。

 だったら僕は謝りたい。独りよがりの気持ちだとしても、なんだかこのまま死ぬのも癪だし。


「ご……ん、ね……」


 大事な部分が掠れたら駄目じゃないかと、自分で自分を怒りたくなった。伝わったのか見たかったけど、生憎視界は段々霞んできて、彼がどんな表情かおをしているのかすらわからない。

 ただわかったのは。

 僕の頬に落ちてきた雫が、その答えな気がした。





 どうやら、自分はまたあの店に迷い込んだらしい。見覚えのある瓶や飴玉、変な草が並んでいる。

 そしてカウンターにいるのは、やはりあの銀髪のエルフだ。やけに顔立ちが整っており、まるでそれは物語の中に出てくる人物のようで、ここが現実なのかと疑いたくなるほどだ。


「貴様あの時の……。なんだ、また迷ったのか?」


 そうだと言うのも癪なので黙っている。反抗したところで、このエルフには全てお見通しな気がするので、無意味な気がするのだが。

 やはりエルフは薄く笑って、それから前と同じ椅子を示した。座れという意味だと受け取って、渋々ながら、いや実はそれなりに楽しみにしながら座る。

 けれども、一向に話す気が見られず、こちらがソワソワしていると、


「ん? あぁ、話してほしいのか? あの魔法剣士の話を」


と意地の悪い笑みを向けてきた。答えず黙っていると、エルフは「まぁ、待て」と奥へと消えていく。

 しばらく待っていると、その手にはお盆を持っており、湯気の立つカップが二つと、クッキーらしきお菓子が乗せられていた。

 それを机に置くと、エルフは今日は椅子に座り「さて」と話を切り出した。


「どこまで話したか。あぁ、次は奴らが“黄の国”に着いたところからだったか。さて今回奴らは何を……、いや、聞けばわかるか」


 そう言い、エルフは語りだす。かの魔法剣士が、何に出会い、何を求め、何を手にしたのかを――。



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