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うん。だから僕は行くんだ、な話。

 それは昼食を終え、食後の談笑に勤しんでいた時だ。


「そういえばお姉さん、本のほうはどう?」


 隣の少女にリンゴを食べさせながら、魔法剣士が言う。聖女はカップを両手で持ち「それがねぇ」と物憂いげにため息をついた。


「読めるには読めるのだけど、専門用語が多くてねぇ。わかったのは、あれはお姉ちゃんたちじゃ使えないってことだけねぇ」

「どういうことだよ、姉貴」

妖精王フィーニちゃんも言っていたけど、お姉ちゃんたちじゃ魔法力が圧倒的に足りないのよぉ」


 舞手が「はぁ?」と声を上げ、舌打ちをして妖精王を睨みつける。


「おいもやし、お前嘘の本を渡したんじゃねぇだろうな」

「嘘?」


 呆れた視線を舞手へやり、それから左手で円を描いた。そこから出てきたのはあの本だ。


「ボクは嘘は言っていない。魔法剣士くんが言ったのは、“ここから出る方法”だ。ボクはそれに対する答えを渡したはずだけど。ま、使える使えないは別の話だ」

「この、屁理屈屋が……!」

「そういうキミこそ、魔法剣士くんやお姉さんに頼ってばかりで、何もしていないんじゃないのかい? 今回一番足手まといだったのは誰だったのか、ない頭を捻って考えるといい」


 それは舞手にぐうの字も言わせなかった。舞手本人も理解し、そして感じていたことを、この妖精王は何も被せることなく言ったのだから。

 俯き、握りしめた拳が震えるのを見、戦士が「魔法剣士殿」と腕を組む。


「魔法を使っていたようだが、使えなかったのではないか?」

「あぁ、あれはね」


 自慢するように鼻を掻く仕草をし、それから魔法剣士は鼻を鳴らした。


「あれは僕だけが使える勝利の魔法だよ。かっこよかったでしょ」


 その様子に妖精王は首を傾げ、


「使えないというより、キミの場合は制御しきれていない、が正しいんだろうね。寝てる間に少し見させてもらったが、キミの中には全ての魔法力が備わっている。だからこそ、それらが互いに打ち消し合い、結果として使えない状態になっているわけだ」


とだけ言い、話はもうないとばかりに席を立った。手に持ったままの本を少し持ち上げ「返しておくよ」とだけ言い残して。

 舞手は何も言えずに見送り、魔法剣士が「え、え? ツッコミなし?」と慌てて言う。そんな一同に戦士が苦笑いをし、


「さて義弟おとうとよ、鍛錬の続きをしようぞ。魔法剣士殿も久しぶりに体を動かさぬか?」


と豪快に笑う。頷いて立ち上がる魔法剣士に続いて、少女もついていこうと椅子から飛び上がる。


「ほら、まいちゃん。一緒に頑張ろう!」

「……まいちゃんって呼ぶな。ったく」


 苦笑いしながらも立ち上がる舞手は、先ほどの暗さはもう見えない。皆を明るくさせ、引っ張っていけることが、この魔法剣士の強さでもあるのだが。

 奴自身がそれに気づくのは、いや、こいつはこれからも、それに気づくことはないんだろうな。




 夜。

 少女に頬を叩かれて、魔法剣士は目が覚めた。


「んぁ……? どうしたの?」

「……」


 身体をもじもじしながら、何かを言いたげな少女。魔法剣士をちらりと見上げる瞳は、どこか恥ずかしそうだ。


「……もしかしてトイレ?」

「……」


 小さく何度も頷く少女に、魔法剣士は「おっけおっけ」と頭を撫で、隣で眠るロディアを起こさないようにベッドを降りた。

 少女を抱き上げ、薄暗い廊下を歩いていく。窓から差し込む明かりを頼りに歩き、目的の場所まで着くと、少女を降ろしてやった。チラチラと振り返るのが、ついてきてほしいのか、それとも待ってろの意なのかはわからなかったが、ついていくのも躊躇われた為、「待ってるから」と少女を見送った。


「……!」

「ちゃんといるよー」


 少女の声が聞こえたわけではないが、安心させる為に声をかけてやる。そうして待っていると、少女が小走りで戻ってきた。


「じゃ、寝ようか」

「……」


 そう抱き上げてやれば、シワがつくほどに服を握られ、魔法剣士は背中を撫でて安心させてやる。暗闇がそれほど好きではないのかもしれないと解釈し、部屋へと足を向けた。

 途中、あの日に妖精王と話した書庫の近くを通りがかり、魔法剣士は意図せずそちらへと歩いていく。

 やはりというべきか。妖精王はまた本の山に埋もれるようにして、静かにそのページをめくっていた。


「またキミは……。こんな夜中に子供を連れ歩くなとあれほど……」


 呆れた視線で見られた魔法剣士は一瞬「う」と言葉を詰まらせ、


「違いますぅ。僕がトイレに行きたかったんだけど、怖いからこの子についてきてもらったんですぅ」


と少女に「ねー」と同意を求めた。少女が慌ててコクコクと首を振るのを見て、妖精王はそれ以上何も言わず、また視線を本に落とした。

 それ以上言うことも見当たらず、魔法剣士が戻ろうとして、ふと気づく。少女が本棚のある本を見ていることに。


「“お星さまと僕”? 童話かな?」

「その辺りには童謡や童話を並べている。気になるなら持っていって構わないよ」


 その本棚は、他の場所と違い、魔法剣士やこの少女でも取れる位置にあった。どう見ても、考えても、この妖精王には不必要なものだ。

 それこそ、妖精王が必要とする本を近場に置けばいいのに、だ。

 魔法剣士は一冊手に取ると、妖精王の隣へと腰を降ろした。それから懐に入れていたあの本を手に取ると、代わりのようにそれを妖精王に差し出した。


「これは……」

「読むって言ってくれただろ? あんまり書けてないけど、暇潰しにでも読んでよ」


 妖精王は少し躊躇い気味に受け取ると、最初のページを開いた。途端に少女が寒そうにクシャミをしたものだから、妖精王が自身のローブを魔法剣士へと渡してやる。


「風邪を引かせるつもりかい?」

「いやぁ、すぐ戻るつもりだったからさ」


 ローブを少女にもかかるようにかけてやり、魔法剣士は童話を音読し始めた。その心地いい声と暖かさに、少女はすぐにウトウトしだす。


「初秋の月、十日。ん……? “助けてよ、白き妖精王(ヴァイフィーニ)”? ちょっと待ちたまえ、ボクはこんなに非道じゃない」

「え。でもぉ、将来僕の子供が読んだ時にぃ、かっこよく見せたいじゃん?」

「キミ、自分が結婚出来るとでも思っているのかい……?」

「おかしいな、なんか涙出そう」


 泣き真似をする魔法剣士にため息をついて、妖精王は渋々続きを読みだす。そうしていくばか読んだところで、妖精王が「キミさ」と魔法剣士を見る、が。


「……こんなところで寝るかな、普通」


 道理でいつの間にやら声が聞こえないと思えば。魔法剣士もまた夢の中へといざなわれており、そこには二人揃って床に転がる姿が。


「全く。キミの歴史書はだいぶ史実とは異なっているようだが、まぁ、それも味なのかもしれないな」


 そう姿を消し、また現れた妖精王の手には、毛布が握られていた。




 次の日。なぜ自分がこんな場所で寝ているのかはわからないが、かけられた毛布から察するに、妖精王辺りが呆れてかけてくれたのだろう。

 心配して探しに来てくれたロディアが「さみちかったでち!」と頭で跳ねる。それに軽く謝りながら、未だ起きない少女を抱きながら、魔法剣士は広間へと急いだ。


「皆、おはよぉ」


 扉を開けてみれば、旅立つ支度が出来ている仲間たちが一斉に魔法剣士を振り返った。


「あれ? どっか行くの?」

「どっかってお前なぁ……」


 呆れた舞手が魔法剣士に近寄り、ぽかんとしたままの額を軽く小突いた。


「もやしが“外界に繋がる扉から外へ出る”ってんだよ。確かに急だが、そのチビのことを考えれば早いほうがいいだろ?」


 確かにそうだが、妖精王があの古代魔法とやらを使えれば話は早いのではないだろうか。


「妖精王はあの魔法使えないの?」

「使えるよ。だけど、あれは目的を鮮明に視覚化しなければいけないし、何より失敗すれば木になった人間たちのようになる。それでいいなら」

「やっぱり扉でお願いします」


 即答した魔法剣士は、すぐに部屋へ戻ると着替え、外で待つ仲間たちの元へと急いだ。


 その扉は、屋敷から離れた森の中にあるという。それほど道のりは険しくなく、辿り着いた先にあったのは只の石碑に見える何かだった。


「これが扉?」


 途中で抱っこをせがんだ少女を抱いて、魔法剣士が腰ほどの高さの石碑を見つめる。触れてみるが、なんの反応も見られない。


「お前さ、もう少し危機感持てよ……」

「え? 何が?」

「それだよ。いきなり触るとか、普通ねぇだろ」


 舞手に言われ、魔法剣士は慌てて手を石碑から離した。もちろん何も起こってはいないが、まぁ確かに少しは警戒したほうがいいのも一理ある。


「ボクが使わない限り、こちらから動くことはないよ。あちらから迷い込むことはあるかもしれないが」

「そういう危ないもの、あっちに置かないでくれる?」

「触る触らないはボクの知るところじゃない」


 妖精王が軽く石碑に触れ、何かしら言葉を言う。それは魔法剣士たちには聞き取れない音のような言葉であったが、石碑が反応して光りだしたのを見るに、どうやら動いたようだ。


「さ、これで行けるよ。ボクの手に……、嫌かもしれないが、今だけは捕ま」


 最後まで言わせず、魔法剣士は躊躇いもせずにその手を力強く握る。驚いたように視線を上げた妖精王に笑うと、魔法剣士は「し、湿ってた、かな?」と頬を掻いた。


「……いや。全く本当にキミは」

「え? 何か言いたいことあるなら言ってくれると嬉しい、かも」

「いや。愚者には愚者の集まりがお似合いってことだよ」

「それは妖精王も、だよね?」


 返事の代わりに妖精王もまた強く握り返す。


「あー……、外に出たら妖精王じゃ目立つ、よね?」

「そう思うならキミの好きなように呼ぶといい。名などとうに忘れてしまったしね」


 そう苦笑した妖精王。魔法剣士は何かを考えるように頭を捻ると、


「じゃあ、収穫者リーパーで」


とふにゃりと笑った。戦士が妖精王の肩に手を置き笑う。


「ほう。理由を聞いてもよろしいか?」

「鎌持ってたからさぁ。草刈り似合いそうだし」


 なんとも微妙そうな表情かおを妖精王はするが、好きに呼べと言った手前、今さらやめてくれと言えるわけもない。舞手がニヤニヤしながら、妖精王の頭を乱暴に撫でる。


「よろしくな、草刈り野郎」

「草も刈れなさそうなキミに言われたくはないね」

「よかったわねぇ、まいちゃん。お友達よぉ」

「こいつとは一番友達になりたくねぇ!」


 聖女は控えめに腕を掴み、舞手に微笑みかけている。ロディアは魔法剣士の頭から妖精王の頭へと飛び移り、


「だーりんよりいいにおいでち!」


と、これでもかというほど匂いを堪能する。魔法剣士が「どういうこと!?」と喚くが、ロディアは匂いを嗅ぐのに夢中だ。


「じゃ、よろしく頼んだよ」


 最後に師匠殿が戦士とは反対の肩に手を置いたその時。

 石碑は虹色の光を放ち、妖精王、いやリーパーを仲間に加えた七人と一匹は、次なる地へと消えていったのだ。





 おや? どうやら貴様が帰る時間が来たようだな。続きが聞きたい、だと?

 そうだな……。また貴様がこの店に迷い込んだその時、話してやろう。魔法剣士たちが着いた先、二つの勢力がぶつかり合う“黄の国”の話を、な――。




 いつもありがとうございます、とかげです。

 これにてEpisode1は終了となります。五月中にはEpisode2を上げますので、またお読み頂けますと嬉しいです。

 最後になりましたが、よろしければ感想、イイネなどお待ちしております。ではとかげでした。

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