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Close A Wound   作者: 大和彗
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〜火種〜

病院に着くとすでに貴之と翔が健一郎と話し込んでいた。

「遅くなってごめん!タクシーなかなか捕まらなくて。陸はまだなの?」

優馬は駆け寄りながら3人に話しかけた。

「あいつもそろそろ着くと思う。」

そう貴之が言ったすぐ後に、陸の声が後ろから聞こえた。

「ちょっと!いったい何があったの?」

陸の表情はこわばっている。

皆んなが揃ったのを確認して、健一郎が話始めた。


「翔と貴之が少し早く着いたから先に話したんだけど、龍さんが22時過ぎ頃に日下部駅の近くの工事現場で倒れているのが発見されたんだ。」

「え?ちょっと待って!駅前の工事現場?」

健一郎の説明に陸は驚いた。

だってつい何時間か前までは一緒にいたのだ。

「わたしさっきまでっていうか、つい何時間か前まで一緒にいたんだけど…」

「そうなんだよ。それをさっき健一郎にも話してたんだ。俺とお前の顔を見に駅前に飲みに来てたって。」


驚きを隠せずにいる陸に翔が説明をした。

「なんなの?事故?おっちゃんは大丈夫なの?」

まだ容態については何も聞いていないのに涙が出そうになる。

おっちゃんは事件の時も、その後も、ずっとわたし達を気遣ってくれて大切にしてくれた大切な人だ。

今どんな状況なのかを聞くのがこわい。


「俺もわからないんだ。誰も教えてくれないんだ。」

健一郎がうなだれながら話した。

「ただ、現場の状況からみてよくない事は確かだ。さっきかかってきた同僚の話によると、恐らく高い所からの落下だって言ってた。多分現場のビルだと思う。下にコンクリートを打ってる途中でシートが被されていた上に落ちたおかげ即死にはならなかったみたいだ。でもそこから出ていた鉄製の棒に刺さってしまったみたいで、出血もひどいみたいなんだ。たまたま忘れ物を取りに戻ったガードマンに発見されたんだよ。発見が早かった事が不幸中の幸いだと思う。」

「そんな…。」

「俺らが居たって意味ないけど、俺は少しココにいるよ。陸も一緒にいるか?」

力が抜けその場に座り込む陸に優しく貴之が声をかけた。

「ありがとう。うん。今日はこのままココに居たい。」


結局、健一郎以外の4人は病院に残る事にした。

健一郎は今回の原因を調べる為に、現場に向かった。


どうしてこんな事になったんだ。

タクシーの中でずっと自問を繰り返す。

工事現場のビルから落ちたなんておかしい。

全然進まなかった捜査が少しづつ動き始めていた。

このタイミングでこの事故、何か絶対に関係しているはずだ。

健一郎は確信していた。龍さんは何か見つけたんじゃないかと。

翔達には捜査内容は共有すると話したが、もう一度15年前に見落としがないか調べよう。洗い直すんだ。

実際俺の知らなかった事も出てきた。

15年前に死んだ高松登の件を調べ直す必要がある。

陸ごめん。また1人で調べるよ。

罪悪感を残しながら健一郎は心の中で呟いた。


陸は手術中の赤いランプをずっと見つめていた。

あの時、おっちゃんはあいつを追いかける様に出て行った。

もしかしたらと思った。

あいつがおっちゃんに何かしたんじゃないかと、翔達に言うべきだろう。

そう思うのに言えずにいた。

もし、あいつがそんな危険な奴だったら?

人を平気で殺す事ができるやつだったら?

皆んなを巻き込みたくない。

それに翔達はあの事を知らない。

健一郎なら?おっちゃんの事件の事だけでも伝えておくべきなんじゃないか。


その時、赤いランプが消えた。

「終わったみたいだよ!」

優馬が立ち上がった。

少しして中から手術着に身を包んだ医者が出てきた。

「ご家族の方ですか?」

「はい!そうです!」

陸が医者に駆け寄る。

「無事なんですか!?大丈夫なんですよね!?」

「手術は成功しました。」

その言葉にその場の全員がホッとする。

「ただ、高い所からの落下と棒が刺さった事による内臓の損傷が激しいです。手術は成功しましたが、このまま息をひきとる可能性もあり、非常に危険な状況にはかわりありません。」

「そんな…。じゃあ、じゃあどうする事もできないんですか?」

「後は、本人次第です。今やれる事は尽くしました。ここからは本人の生きたいと思う力にかかっています。もう少し詳しい話は別室でお話しいたします。本当にご親族の方ですか?」

あまりにも風貌の違う4人を見て、医者が不審そうに言った。

実際どう見ても似ていないし、同年代の4人組はどちらかと言うと元教え子とかその類に見えるだろう。

「おっちゃ…えっと龍さんには妹さん家族しか親族はいません。ただ、旦那さんの実家に住んでいてすぐにはこれません。すでに連絡はしていますが、到着は明日になるとの事でした。」

「じゃあ明日ご親族の方にお話しいたします。」

「でも!!…」

抗議しようとする陸の肩に翔が手をかけ無言で首をふった。


わかってる。わたし達は家族じゃない。

でも、わたしのせいかもしれない。

それをわたしはまた言わずにいる。


「とりあえず、手術が終わった事を健一郎に知らせよう。」

優馬がそう言って電話をかけ始めた。

手術も終わったのでここには居られない。まだ会える事もできないとの事だったので、4人はとりあえず待合室に移ることにした。

優馬からの電話を受けた健一郎は署に戻って来ていた。

現場のビルの4階に龍さんの靴が落ちているのが発見されたのだ。

この事からして、4階からの落下で間違いなかった。

靴は放り出された状態になっており、鑑識の話では靴を脱いで階段を上がってきているとの事だった。

龍さん以外の足跡も見つかっており、状況から見て、足跡を立てないよう靴を脱いで誰かをつけていたと考えられた。

誰を追っていたのか調べる必要もあり、健一郎は過去の取調べリストなどを調べに戻ってきていたのだ。

龍さんは新しい発見があれば絶対に言ってくれたはず、だったら過去に怪しいと思った奴に出会ったに違いない。

何かを感じてそいつを尾行したんだ。

そして高松登の事件、いったい誰に聞いたらいいんだろう。

公にはしてない死亡事件、人が死んだとなれば鑑識が絶対動いてるはずだ。

一ノ瀬杏の捜査時の鑑識官の名前を探した。

当時、失踪にあたり学校の池や近くの雑木林などの捜索も行っていた。

報告書には龍さんの名前、胸がギュッと締め付けられた。

そして担当鑑識官の名前を見つけた。


鳥宮宗一郎(とりみやそういちろう)


知らない名前だった。

鑑識の人間に聞いた所、すでに定年を迎え退職しているとの事だった。

幸い名簿から現在の連絡先を聞く事ができた。

今すぐにでも電話をして話を聞きたかったが、時計はすでに午前4時をさしていた。

電話は数時間後にしよう。


「陸どこ行くの?」

席をたち出口に向かう陸に気づき優馬が声をかけた。

「わたし、少しでもおっちゃんのそばに居たいって思ってたんだけど、やらなきゃいけない事があって、また後で連絡する、」

「ちょっと待って陸。こんな時にやらなきゃいけない事って?」


皆んな家に帰る事なく病院におり、疲労は溜まっていた。

翔と貴之はすでに待合室で座りながら眠っている。

いつもなら最後までこの場から離れたくないと言いそうな陸が用事があるからとこの場を後にしようとしている事に優馬は驚いていた。


「優ちゃんごめん。こんな時だからなの。また後でちゃんと連絡するから。」

そう言い残すと陸は半ば強引に優馬を振り切る形で病院を後にした。

外は明るくなっていた。

この朝方のだんだんと明るくなる感じが陸は苦手だった。


「もしもし、鳥宮宗一郎さんのお宅でしょうか?」

健一郎は署内の電話から、担当だった鑑識官の家に電話をかけた。

「そうですけど」

少ししゃがれたぶっきらぼうな返事が返ってきた。

声の感じから本人だろうとわかる。

「朝の早い時間からすみません。15年前の事件の件でお伺いしたい事があるんです。日下部警察署の渡部といいます。」

電話の向こう側は、うんともすんと言わない。

「あの…、15年前に公にされなかった死亡事件の件なんですが、えっと、もしもし?」

「ちゃんと聞こえてる。なんで知りたい?なんで知っている?」

不機嫌とゆうよりは、怒りに満ちているように感じた。

「今、15年前の失踪事件の再捜査をしています。手がかりがほしくて。死者が出ているのに公にしなかった事に疑問も感じていて、実際知っている方にお話しをうかがいたかったんです。詳しい状況や鑑識官の立場からのご意見をお聞かせ頂けないでしょうか?」

健一郎はできる限り失礼のないように話した。ただ緊張して自分でもうまく話せているかわからなかった。


話を聞いた鳥宮はどうしようか迷っていた。

あの事件の事は自分の汚点だと考えていたからだ。

鑑識の仕事は現場の状況や証拠、それらを元になんの感情に左右される事なく答えを出す事だ。

自分の仕事には自信もあったし誇りもあった。


「これは、、ひどい状況ですね。」

島崎に呼び出され、鑑識道具を一通り抱えてもってきた鳥宮は現場の状況に血の気が引いた。

「鳥宮さん急に呼んで申し訳ない。」

「大丈夫です。しかしなぜ、1人で来いと?この状況なら複数で鑑識作業を行う必要がります。」

目の前には首がありえない方向に曲がっている男の死体があった。しかも場所は小学校の校内だ。

この状態で、1人だけ呼ばれ少し不信感を覚えた。

だいたいわたしは島崎とゆう男は初めから苦手だった。

わたしより若いが、同期のようになれなれしい。

「まあそう言わず仕事をして下さい。あなたなら腕は確かだ。」

とりあえず、やるだけやって早く帰ろう。

いくつかの証拠は持ち帰った。

現場は屋上へつながる最上階の踊り場だった事もあり。普段からの掃除も行き届いていたうえに、備品もない場所だった。死体以外はとても調べやすい状況だった。

急ぎで調べて欲しいと要望がありその日はほぼ徹夜で調べ、翌日資料を持って島崎の元へ向かった。

「とりあえず調べられる所までしらべましたよ。衣服に子供の靴跡らしきものが複数見られる。サイズから見て1人の物だろう。」

そう言いながら資料を島崎に手渡した。

島崎は何も言わない。その態度にイラつきながらも話を続けた。

「靴跡が死後かその前かは検死官から報告がくると思う。それと現場に落ちてた毛髪のDNA検査をするので関係者のDNAサンプルをもらいたい。」

そこまで話すと島崎がやっと口をひらいた。

「今回の件は、公にはしないでおこうと思います。」

「何を言っているんですか?まさか冗談でしょう?」

島崎は何も言わず首をふった。

「そんな。そんな事ができるわけないでしょう!」

普段から感情を表に出さない鳥宮もこの時ばかりは声を荒げてしまった。

「実は死体も検死官の所には送っていません。」

「な、、これは立派な法律違反になる!なんでわたしにそんな話をするんですか!」

「あなたは仕事もプライベートも真面目な方だ。後から騙すような事はしたくありませんでした。」

「わたしは反対です!わたしから上に報告させてもらいますからね!」


そして、結局そうしなかった。

奴とはこの件以降、仕事以外の話をしないようにした。

それしかできなかった。

理由があっての事だったのだろうが、とても肯定する事はできなかった。


「それで?渡部君とやらはなぜこの事を知っている?」

「龍さん。あ、島崎龍さんから聞きました。」

「ほーあいつから聞いたのか。じゃあ詳細も島崎から聞いたらいいだろう。」

健一郎はできる限り今までの経緯を説明した。

龍さんは今、意識不明な事。15年前の失踪事件の再捜査の事、そして龍さんは何かを見つけたんじゃないかって事。

鳥宮はそれを一通り黙って聞いていた。


「そうか…。実は、島崎には黙って死体に着いてた毛髪のDNA鑑定を当時していたんだ。」

「え?鑑定内容はどうだったんですか?」

「自分で見るといい。わたしの家に取りに来なさい。」


健一郎は車で市立病院に向かっていた。

車の助手席には鳥宮から預かった事件資料とDNAの鑑定書が置かれていた。


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