〜開始〜
あー。疲れた。
龍さんはいつも16時頃を目安に署から消える。ずるい。絶対飲みに行っているのだろう。
書類仕事は全部俺がやる事になる。
あの世代全般にみられる傾向だ。
はー。駅のホームのベンチに座る。
人も少ない。そりゃそうだ。
「今何時だ?あー、もうすぐ23時じゃないか。」
その時、携帯がなった。
出たくはないが、電車はまだ来ない。
「何?親父。」
「健一郎元気か?ちょっと心配でな。」
「心配?元気だよ。親父は?」
「お前まだ家じゃないのか?仕事か?」
質問が多い。
俺はもう子供じゃないのに。
冷たくしたいわけじゃないが、どうしても疎ましく感じてしまう。
「今帰りだよ。ちゃんと飯食って寝るから、今日はもう疲れたからまたかけるよ。」
「ちょっ、待て待て。お前また杏ちゃんの事件調べてるのか?」
「そうだけど。これはちゃんとした仕事だし親父には関係ないだろ。」
「あるだろ!お前いつまでそうしてるつもりなんだ?もっと周りに目を向けろ。」
「向けてる。向けてるからだ。杏とは関わりのない親父には何も思えないだけだろ!俺は絶対に見つける。」
「俺はお前を心配してるん..」
途中で電話を切った。
確かにおかしいのかもしれない。
あんな小さい頃に一緒に遊んでいた女の子をずっと追いかけてるなんて。
俺はずっと友達が出来なかった。
出来なかったとゆうか、友達になりたいと思えるやつが周りには居なかっただけだ。
まあ、簡単に言うといつも1人で強がっていたって事だ。
こう思えるようになったのも、大人になった証拠だろう。
なんでそんな子供になったかは、親にも原因があると言えるだろうな。
俺が4歳の時に親が離婚。
原因は母親の不倫。男に夢中だった母親から親権を勝ち取った親父は、俺を引き取って男手ひとつで俺を育ててくれた。
俺が警官できてるのも親父のおかげだ。
どこにでも転がってそうな話だが、俺はこれでも親父には感謝している。
俺が6歳になった頃から、色々落ち着いた母親は俺への罪悪感からか、たまに預かりたいと親父に申し出た。
もちろん親父は断ったが、友達のできない俺を見て、母親の居ない環境が原因なのではと考え始め月に1度2日は母親の元に行く事になった。
母親には2つ離れた妹がいて、2人はとても仲が良く、離婚した後に母親は妹の居る地元に引越していた。
俺からしたら叔母にあたる存在だ。
その叔母の1人娘が杏だった。
俺が母親の家に泊りに行ってる時は杏がいつも側にいた。明るくて優しく、TVに出てくる芸能人のように可愛かった。
俺たちの関係は従兄弟同士だが、杏は初恋だった。
近くの踏切がカンカン音を鳴らしてる。
電車がきたか、もうすぐやっと布団に入れるな。
目の前に電車が到着しドアが開いた。
また携帯がなった。
うんざりしながら携帯を見る、知らない番号からだった。
「もしもし?」
「もしもし渡部さんでしょうか?」
「はい。そうですが、どなたでしょうか?」
「突然のご連絡すみません。緊急連絡先がこちらになっておりまして。わたくし日下部市立病院の市川と申します。島崎龍さんが先程運ばれまして、あまり状況が良くありません。ご家族の方ですか?」
俺は今来た階段を駆け降り駅をすぐ出てタクシーに飛び込んだ。
「すみません!日下部の私立病院まで!急いで下さい!!」
なんで龍さんが?
タクシーに乗りとりあえず陸に電話をかけた。
「もしもし、優ちゃん?どうしたの?」
僕はどうしても昨日の夜の事が気になって陸に電話をかけていた。
「陸、仕事中?」
「ああ、今日もう全然お客さん来なくて。先あがっていいって店長に言われて今帰るとこ!どうしたの?めずらしいね電話とか。」
どう説明したらいいのか、何て聞いたらいいのかわからない。時計はもうすぐ23時を指そうとしている。
陸は全然普通で、いつもの陸だ。
「あのさ、杏が持ってた鈴覚えてる?」
「え?何その質問。この時間にかけてきてそれ聞きたかったの?」
「いや、なんか気になっちゃって眠れなくなっちゃたんだ。覚えてる?」
「まあ、わたしが優ちゃんと仲良くなったきっかけだもん。覚えてるよ笑」
そうだった。
あの鈴は陸と仲良くなったきっかけの鈴だ。
何か大事な事を忘れてた気がする。
僕と杏は、家が近くて保育園の時から一緒だった。
僕は背も低いし、あんま自分にも自信がないしで、いつも杏にくっついてた。
周りからは、金魚のフンってよく馬鹿にされていた。
小学校にあがって、2年生の時に杏とクラスが離れてしまったが、杏と同じクラスになったのが陸だった。
陸はショートカットでいつもパーカーにデニム、女の子ってゆうよりは男の子に近かった。
元々誰にでも優しかった杏にすぐ陸が懐いて、いつも一緒に居るようになった。
「りく、ゆうちゃんだよ。」
そう紹介された僕の事を見て、陸があからさまに嫌そうな顔をしてたのは思い出す度に笑える。
その後も、陸は僕とは全然仲良くするつもりはなかったようで、3人で居てもほぼ無視されていた。
そんな中あの事件が起きたのだ。
放課後、僕が杏の鈴を見せてもらってる時に陸がやってきた。
「それなに?」
「へんなおとがきこえるんだよ。」
僕は陸に説明した。
陸が手を伸ばすと、杏がめずらしく陸にやめてと言った。
「りく、これはやさしくさわって。だいじな鈴なんだ。」
それを聞いて陸は恐らくショックを受けたのだろう。
僕が普通に触っているのに、自分は杏に注意を受けたからだ。
「なんで優ちゃんがいいのに陸はダメなの!こんなのしらない!!」
陸は僕の手の中の鈴をむしりとって窓から外へ投げたのだ。
あれは衝撃的だった。
すぐに窓の外をみたが、どこにいったかは見えない。
「りくのバカ!キライ!あれはおばあちゃんがくれたの!おばあちゃんはもういないの!!」
さすがの杏も泣きながらそう言うと走って教室を出て行ってしまった。
投げた陸本人もことの重大さに気づき動けず、もちろん僕も呆然としていた。
その後、陸は泣きながら外をずっと探していた。
そんな陸を見て、正直好きではなかったが、かわいそうになり僕も一緒になって探す事にしたのだ。
「ご、ごめんね、、ごめん、なさい」
一緒に探す僕に陸は泣きがら何度も言っていた。
そしてとうとう茂みに落ちていた鈴を僕が見つけた。
「りくちゃん!あったよ!」
「ゆうちゃん、、ありがとう。いままでごめんね。ありがとう。」
泣きながら陸にそう言われ僕も泣いてしまったっけ。
その後、杏に謝りに行った時も、もちろん陸は泣いてた。
そしてやはり僕もなぜか泣いていたのを覚えている。
「あんず、ごめんなさい。キライにならないで。」
その上、謝られている杏も泣いてしまい結果3人で一緒に泣いた。
この出来事で僕と陸は仲良くなれる事ができたのだ。
「ガムランボール。」
「え?」
「だから、杏の鈴!ガムランボールっていうの。」
ああ、確かにそんな変な名前の鈴だった。
「懐かしいよね、あの時わたし本当ひどい事したなーって思うよ。」
「うん。本当にひどかったよね。」
「ちょっと、そこはそんな事ないよじゃないの?笑」
「僕が見つけたから、今笑って話せるんでしょ。」
「確かにそうだね。ありがとうございました。笑」
「ところで陸、その鈴持ってる?」
「え?何言ってるの?持ってるわけないじゃん。」
「陸昨日夜何してた?」
「何って、夜は普通に家に居たけど?なんか優ちゃん変じゃない?どうしたの?」
「うちの方来てない?」
「いや、だから家に居たって。なんか前も同じこと聞いてなかった?」
陸は本当に何も知らない様子だった。
じゃあ、あれはいったいなんだったのだろうか。
その時、スマホにキャッチが入った。
健一郎からだった。
「陸、健一郎から着信入ってるみたい。また電話するね。」
「ああ。皆んなにかけてるのか。わかった!今度なんだったのか教えてねー。」
陸との通話を終え、優馬は急いで健一郎に電話をかけた。
「もしもし、健一郎ごめん。何かあった?」
優馬の問いに、健一郎が怒鳴る。
「お前ら昔からなんで電話に1回で出れる奴がいないんだよ!」
陸…。さっき健一郎の電話わざと無視したな。
「え?何?急用?」
とわいえ、今回はいつもと様子が違う。だいぶ苛立っている様子の健一郎に優馬は少し驚いていた。
陸と話しているうちに健一郎は皆んなに一通り電話をかけていたようだ。
「龍さんが危ないんだ!今、日下部の私立病院に居る!俺はこのまま皆んなに連絡し続けるから、お前は急いで病院に来てくれ!」
え?病気か何か?優馬はそんな風に一瞬思ったが、健一郎の態度から何か起きたのだと思った。
詳しい事情は聞く事ができず、とりあえず病院でとの事だった。
病院。知ってる人間が大変な事になって呼び出されるこの状況、鼓動が早くなるのを感じる。
何か起きてる。よくない事が。
早く病院に向かわないと!
優馬は急いで部屋を出た。
元用務員の男は公園のベンチに腰掛けていた。
手には缶コーヒー。口元が緩む。
今日はなんていい日なんだ。
まさかあの子に会えるとは…、歳はとったが見てすぐそうだと気づいた。
歳の割には、昔のままの面影だ。
ゾクゾクとした。これは神からのプレゼントだ。
俺は毎回ついている。こんなに人生を楽しんでいるのだから!
笑がこらえられない。静かな公園に笑を押し殺すが漏れ出る小さな音が響く。
島崎はその様子をずっと見ていた。
男が店を出た後、どうしても尾行せずにはいられなかった。
陸の態度や、男の雰囲気。
どうしても気になって後をつけてきてしまった。
予想通りと言うべきだろう。
あれはなんかしら犯罪を過去に起こしてる犯罪者の顔だ。
男は何か思い立ったように立ち上がりまた歩きだした。
男が入っていったのは建築中の工事現場だった。
「一体なんでこんなところに?」
まさかすでになにか起こしているかもしれない。
気づかれないよう、少し距離をとり工事現場に入っていく。
ビルの建設途中なのだろう。建物自体はできてきているがまだ壁もない状態だ。
男は造りかけの建物内へと入っていった。
急いで建物内へと入ったが見失ってしまった。
どうやら各フロア自体は出来ており、階段で上にも登って行ける事ができるようだった。
階段の方から物音が聞こえた。
音を立てないよう急いで階段に向かう。
どうやら上へと登っていっている。
音が立つのを恐れ靴を脱ぎ手に持つ。
一段一段慎重に登って行く。
階段を登る音が消えた、どうやら4階で登るのをやめたらしい。
階段から気づかれないようにフロアを見るが男の姿は見えない。
少し身を乗り出す。大丈夫。居ないようだ。
一フロアがだいぶ広く端から端までは資材もあり見渡す事できない。
すぐ近くから下を見ようとした時だった。
ドンッ
後ろから押されふらついて落ちそうになる。
そしてすぐ2回目が押された。
恐らく一瞬の出来事だっただろう。
しかし色々な事が頭によぎった。
顔は見えなかったが多分あいつで間違いない。
なぜ渡部に電話をしなかったんだろうか。
電話をするべきだった。
あいつは事件に関与しているかもしれない、もっと陸に詳しく話を聞くべきだった。
このままでは危険が及ぶ可能性がある。
次の瞬間激しい衝撃と鈍い音が聞こえた。
まだ死んでない。しかし血が出てるように感じるし全く身体が動かせない。
奥から溢れ出る物を吐き出した。苦しい。熱い。口から何か流れ出ている。
だんだん寒くなってきた眠い。
暗い、周りが暗い。
陸…。
「はぁ、誰だあいつ?つけてきてるのはわかってたんだよ。気持ち悪いなー。」
男は下を見ながら呟いた。
あれじゃ死ぬな。
まあ別に構わない。せっかくいい気分だったのに、まったくだいなしにしやがって。
下で反省したらいい。
男はしばらく見下ろしていようとしたが、誰かが入ってきたのに気づき足早にそこを後にした。
「おい!!!!大変だ!救急車を呼ぶんだ!人が倒れてるぞ!!」