〜始まりの日〜
今年で俺も定年か…
タバコに火をつけ長い様で短かった刑事生活を感傷に浸りながら振り返る。
屋上から広がる目の前の夕日がよけいそんな気持ちにさせているのだろう。
引き継ぎもほとんど終わり、自分の関わってきた事件はほぼ一通り片付けた。
思えば、辛い事の方が多い日々だった。
感謝をされたかったわけではないが、憎まれる事の方が多かった。
自分の無力さを痛感し、悔しさでいっぱいになる。そんな日ばかりだった。
誰かの為にやっていると、そう考えてしていたのではない。
ただ、がむしゃらに目の前の事に食らいついていたのだ。沢山の人間を見てきた。普通に暮らしていたら見なくて済むものまであっただろう。何がここまで俺を突き動かし脇見もせずに働いてきたのだろう。働く?いや、違う。俺の全てだった。人生だった。
定年を迎え、残りの時間を共に過ごし歩んでいく人も、何かも、なにもない。俺はこの先、これまでの人生を悔いる事はあるのだろうか。
もっと別の何かに時間をさくべきだったのだろうかと。
残されたわずかな刑事としての時間の中、やり終えなければいけない事があると思っていた。
これを残しては終われないとずっと胸のつかえになっていたもの。
この事件の再捜査にあたり、所長にも話は通してあった。
15年前の事件を洗い直す為、タイムリミットを残していた。
通いなれた廊下を進む。いったい何度ここへ来てこのドアを開けたのだろうか。
《資料保管室》
プレートにはそう書かれてあった。ドアを開け、部屋のさらに奥へとつながるドアノブに手をかける。【未解決事件保管室】
部屋の隅の棚、ダンボール箱が綺麗に並べ重ね置いてある。どの箱も少し古くホコリをかぶっている。その中に一つだけホコリもなく、時間の経過もあまり感じさせない箱があった。
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一ノ瀬杏 失踪事件 そう記載されている。
箱を抱え資料室の机に置く。
蓋を開けると、そこには楽しそうに笑う5人の小学生の集合写真が一番上に置かれていた。写真の中で5人はとても楽しそうで、ありきたりな表現だが、キラキラと輝いている。この写真を見る度に、俺は
自分の無力さを思い知らせる感覚に陥入る。
ガチャ
急にドアが開き誰かが足早に入ってきた音が聞こえた。
棚で入口が見えず、ここからでは誰がきたかはわからない。
「あっ!龍さん!!いた!なにしてんすかこんなトコで?あれ?それ未解決の事件ですか?」
そう言って近づいてきのは、俺が指導係を務めている移動したての新米刑事だ。
息を切らしているところから、かなり探しまわっていたようだ。
「ああ、お前にも話そうと思っていたんだが、定年前に再捜査したい事件があってな。」
「え!?捜査ですか!?やります!!」
食い気味に返事が来る。
なにやらずいぶん嬉しそうだ。まあ事件・捜査と聞けば昔の俺でも同じ反応をしただろう。
「少し前の事件になるし、所長に許可は取ってはいるが、2人での捜査になる。お前にはいい経験にはなると思うが、はしゃぐんじゃないぞ。」
「大丈夫です!!龍さんの刑事生活最後の捜査頑張りますよ!!それで…、その事件ってゆうのは?」
「なんで最後と決めつけるんだよ!まあ、恐らくそうなるがな。ちょうど15年前の事だ。この町で小学生女児失踪事件が起きたんだ。少女の名前は、一ノ瀬杏。当時はかなり騒がれたんだが、結局事件は未解決のままでな。」
「その事件なら知ってますよ。自分そのコと同い年なんです。当時TVで見ていましたから。」
「そりゃ俺も歳をとるわけだな。その事件は俺が担当の事件でな。なんとゆうか、思い入れの強い事件なんだ。」
時間の経過とゆうのは、つくづく残酷だなと感じる。あっという間に15年が過ぎようとしているのだ。
この事件は当時、なぞがなぞ呼ぶ失踪事件と言われ、現代の神隠しと騒がれた。
15年経つ今でも、死体も目撃者も出ない。結局今でもなにもわからないまま。
少女が生きてるのかも、死んでるのかも。
ガラガラ
カウンター席しかないラーメン屋の店の引き戸が勢いよくあけられた。
「大将ー!つけ麺!今すぐ!大盛りー!!」
そう言って勢いよく開けられた扉の向こうには、どこか幼さが残る顔をした女が立っていた。
「おー陸か!ってオイ!コラ!てめー金ないんじゃなかったっけ?」
店主が女に話しかける。
「え?ない…翔のおごりじゃ…」
「こっちは商売でやってんだよ!てめーに恵む飯はないんだよ!」
「はー?ケチ!ハゲろ!!」
そう言って悪態をつく女の後から、
2人の男が入ってきた。
1人はがたいがよく、袖から見える肌はよく陽に焼けた色をしている。
もう1人は対象的で、背が低くく頼りなさそうだが、その分優しそうな顔をしている。
「またやってんのかよ…うるせーな!山神お前もヒマだよなー」
がたいのいい方が女に話かける。
「陸…またお金ないの?じゃあ俺出すよ?」
優しい面持ちの方がそう言った。
2人は女の隣に並んで座った。
女は2人を見て笑顔で話しかけた。
「あーーー!貴に優ちゃん!お疲れー!皆んなソロちゃったね」
3人が座るのを確認した店の店主が冷蔵庫を開けながら、麺を3つ取り出す。
「じゃあ…ラーメン3つな!」
「おい!翔!て抜くんじゃねーよ。まだ頼んでないだろ!」
店主の言葉に、貴と呼ばれた男が答える。
笑い声が場を包む
私はこの場所が好き。
皆んなが集まるこの場所が…
人は不思議なもので、いい事でも悪い事でも何か一つの出来事がその人同士の繋がりを強くする事がある。
あの夏の日、私たちの繋がりは深くなった…多分、必然的に。
あーやっぱ皆んなと居ると落ち着く、そう思っていた時、隣にいた優ちゃんに話しかけられた。
「そういえば…陸にこないだ無視されたよ。」
「え?いつ?どこ?」
「えーと。確か3日前!夜中2時頃にうちの前歩いてたでしょ?」
「はー??普通に寝てるし!見間違いでしょー」
「本当に見たんだって!あれ陸だったよ!!」
「だから違うって本人が言ってんじゃん!!」
「あーもう!お前ら静かに飯くえねーのかよ!」
貴に怒鳴られ、陸は肩をすくめ優ちゃんを見ながら変な顔をした。
優ちゃんに同じ顔を返され2人はクスクスと笑った。
その時、扉の方から笑い声が聞こえた。
「相変わらず賑やかだねーここは。やっぱり皆んな揃ってるんだ。」
ドアの先には一人の若い男が立っていた。
その声に、陸は顔を向ける事なくため息まじりに答える。
「…なんだ。ケンケンか。たまたまだよ。ココはうちらの地元だしね。ケンケンには関係ないでしょ。」
わざと棘のある言い方をする。
男は、3人の横に席をひとつ空け腰を下ろした。
陸はあからさまに嫌悪感を顔に出している。その顔を横目に男は気にも留めない様子でいる。
「そう嫌がるなよ。
冷たいねー、俺は地元が違うしな…。だけど、仲良しこよしの皆さんに一つ報告。捜査がまた始まる。担当だった刑事の定年が近いのをキッカケにね。」
「なんの話?」
陸はそう言うが、目を合わせようともしない。
男にとっては想定内の素っ気ない返答だ。
「またーとぼけなくてもいいだろ?一ノ瀬杏の失踪事件だよ。」
「あー島崎のおっちゃんね…てか今に始まった事じゃないでしょ。ケンケンだってうちらに付きまとって調べてるクセに。」
「陸やめとけ!」
店の店主が仲裁に入る。
「イヤだ!意味わかんないけど、うちらを犯人扱いしてるんだよ?」
とんだ被害妄想だ。犯人扱いはそもそもしていない。
「人聞き悪い事ゆーなよ。俺も友達だろ?それにお前ら4人してなんか隠してるのは事実だろ?実際15年前、一ノ瀬杏はお前らと放課後かくれんぼの最中に失踪、未だに手がかりなしだ。…今日だろ?失踪日。見事に皆んな勢揃いだね。それに俺個人で調べてたのとはわけが違う、正式な捜査だよ。」
「で?それが言いたくて来たわけ?」
「まさか〜、翔のラーメン食いにきたんだよ。翔、つけ麺。」
確かに、飯を食いきたは嘘。
この4人には秘密がある。
少なくとも俺はそう確信してる。
あの日の事件の捜査報告書は何度も読んだ。
斎藤翔 、宮田貴之 (みやたたかのり) 、成坂優馬、 山神陸 、一ノ瀬杏 (いちのせあんず)
当時 12歳小学6年生で同じクラスだった5人は、放課後の校内でかくれんぼをして遊んでいた。
家の厳しかった山神陸に合わせて、見つかっても見つからなくても、5時半に校庭中央のけやきの木に集合と決めていた。
だが、5時半を過ぎても一ノ瀬杏は来なかった。
それどころか、一ノ瀬杏はオニであるにも関わらず、誰かを見つけることも、誰かに見つかることもなく消えてしまったのだ。
4人は心配になり職員室に残っていた教諭に助けを求める。
すぐさま家に電話で確認をとり、警察へ連絡。
当時4人から助けを求められた教諭の話では、4人共少し変だったとの事だった。
斎藤翔はなぜか全身がビショビショに濡れており
宮田貴之は右足を捻挫しており足を引きずっていた
成坂優馬は外見的にはなにも変わりなかったが、落ち着きがなくひどくオドオドとした様子だったとの事だった
山神陸は衣服が乱れており右頬には何かあたったような腫れがあった。
4人の中でも特に一ノ瀬杏が居ない事に焦っていたのが山神陸で、
「杏が居ない!早く探して!!」
と必死な様子だったとの事だ。
当時の様子から見て、あの日一ノ瀬杏以外の4人にも何かあったのは間違いない。
ただ、だれ一人その時の事を話さないのだ。
…やっぱりここのつけ麺はうまいな。
「翔、ご馳走様。うまかった、また来るよ。」
「もー来んな!」
「おい!陸!いいかげんやめとけ。」
喧嘩腰の陸を翔が引き止める。
「また近い内に会いに来るよ。島崎のおっちゃんは俺の指導係だからな。俺も担当刑事だよ。」
男はそう言い残し、笑顔でヒラヒラと手を振りながら店を出ていった。
「死ね!お前なんか2度死ね!!」
刑事に向かって殺気を込めて陸が言い放った。
「コラ!陸!お前もう27だぞ?大人になれ。」
「わかってるよ。でもあいつわざとだ…わざと今日来た…」
翔に怒られ、ボソボソと陸が文句を言っていると、貴之が陸の背中をポンと叩いた。
「そんなの皆んな分かってるよ。笑 そんな事よりも、健一郎も帰ったし俺らも行くんだろ?」
貴之の言葉に翔が立ち上がり皿を片し始めながら言った。
「そうだな、今日はもう客も来なそうだし、店閉めるか!」
「ねーコンビニ寄ってこうね。」
「お前それビール買ってくつもりだろ?」
「せーかい!5本ね!」
陸は、ニコニコしながら3人に向かって手のひらを見せ大袈裟に5本とアピールした。
私たちの毎年恒例行事となった事がある。
杏が居なくなり、あの日の後悔と懺悔の意味も含め毎年ココに集まり杏の事を思う。
そうこの学校に…
もう夜の12時前、門は固く閉ざされてる。
あの時あんなにでかく高く感じた門も今じゃたいした事ない。なんなく登り校庭までやってくる事ができる。
「毎年思うけどさ…静かだよね。」
「確かに!」
「てか雨降った事なくない?」
「確かにw」
「じゃあとりあえずビール飲む?」
「確かに!!w」
笑い声が響きわたる。
私たち以外誰も居ない…
静まり帰る校庭。
「ねー杏ー!!もう15年も経っちゃったよー。」
急に大声を出した陸に驚き、翔が注意する。
「バカ!あんま大きな声出すなよ」
「いいじゃん別に。でもさ…なんかいつの間にか時間だけが経って、俺たちだけ取り残された感じだよな。」
そう呟いた貴之の言葉に皆、それぞれ想いを巡らせ呟いた。
「確かに…」
「ねえ!覚えてる?5人で朝礼台で撮った集合写真!」
「覚えてるよ。一ノ瀬が朝礼台がいいって言ったんだよな?」
「そーそー!それで杏が真ん中だった。」
自然と4人はあの時の記憶を思い浮かべた。目の前の朝礼台へと歩みを進めていく。
見慣れた風景の中には、一つだけいつもと違うものがあった。
それは言葉では言い表せないような異様な雰囲気を醸し出していた。
「ね…なにこれ?手紙?」
そう言いながら陸が手を伸ばした。
朝礼台の上には白い封筒が置かれていた…
ガタンッ
勢いよく門を越えようとして、足を引っ掛け落ちてしまった。
「いたっ」
服の上からは見えないが、おそらく膝は血で滲んでいるだろう。その証拠に、痛みに鋭さがある。
あいつらやっぱココに来たか。
まあ俺も毎年後追ってここにはきてるけど…
毎度収穫ゼロ…
酒飲んで楽しそうに話しをして最後は皆んななぜか黙って物思いにふけて帰る…
そして俺は大量の蚊に刺される…
あー、何で毎度ここに来るかもわかんなければ大きな動きがあるわけでもない。
正直この日にあいつらを尾行する意味を見失いかけてる。
ただ今日は15年で節目の日…
なにかあるのではと少し期待はしてるものの…
うん?あいつらなんであそこでたったままなにしてるんだ?
視線の先の4人はなぜか校庭前方に集まり話もしない様子で立っていた。
大好きな皆んなへ
かくれんぼがまた始まるね
ねーみんな
杏と遊ぼう
ずーっとまってるんだよ
今度はみんながオニのばん
杏をみつけて…
さあはじめよう
「陸ー!!まだー??優ちゃん達待ってるよーーー!」
玄関先での少女の問いかけに、バタバタとせわしない足音を立てながら少女が1人家の中から走って出てきた。
「杏またせたー!いこー!」
「……陸、口に粉ついてる…ドーナッツ食べてたでしょ!?」
「あはははは!ごめん!!」
笑い声を響かせながら小学生らしき2人の少女が駆けて行く。
小学校の校庭には、5人の子供。
「よーし!そろったな!今日は、学校全部使って…かくれんぼをしまーす!!」
リーダー格っぽい男の子の言葉に歓声が響き渡る。しかし、その横ですぐに小競り合いが始まった。
「山神のせいでスタート遅くなっただろ!!」
「なんでそんな怒るの?タカってすぐ怒る…」
「まーまーそれより早くやろうよ!鬼は??なにして決めるの!?」
「喧嘩してたら、2人で鬼になってもらうからね。」
杏と呼ばれたコと、背の低い男の子が2人の間に入った。
そう言われ、2人は不服そうではあるが静かになった。
「じゃあやっぱあれだな!」
「そうだね!あれだね!!」
5人は互いの顔を見合わせ円になる。
沈黙…かけ声はないのに5人同時に声を出す。
「出さなきゃ負けだよ最初はグー!ジャンケンポン!!」
「えー」「やったー」「決まり!」
一喜一憂
「一ノ瀬ドンマイー!!」
「じゃあ100な!!」
「えーー100⁉︎えー!!」
「全部な!!学校全部!」
「えーーーー全部!?わかったよ!だいたい陸達隠れそうな場所わかるからいいもん!!」
そう言いながら、一人の少女が数を数え始める。
ゆっくりと大きな声で。
いーち!にーーぃ!さーん!よー…
ワン!ワンワン
カーテンから朝日が覗いている。隣では、目を輝かせながら、早く起きてと尻尾を振りながら朝ごはんの催促をしている。
あぁ…またやらかした。
枕元のスマホに手を伸ばし時間を見る。目覚ましをかけわすれた。
それにしてもさっきのは…夢?妙にリアル…なんかあの日の記憶の中に行ったような。不思議とそんな気持ちになった。
それに昨日のあの手紙。あれは杏が書いたものなの?
そんなわけない…そんなのありえない…
そうだ、後でケンケンに連絡しよう。
あいつら一体いつまであそこに突っ立てんだよ。
なにかあったのか?ここからでは遠くてよく見えない。
「おい!何してんだ!?」
我慢できずに声をかけてしまった。
「健一郎??お前、つけてたのかよ!?」
「再捜査が始まったって言っただろ!尾行も捜査だよ。」
「どーせ毎年つけてんだろ…」
「そ、そんな事はない。」
絶対気づかれてはいないと思っていたが、俺は顔に出るタイプだししょうがない。
それにしても4人の視線のせいでいやに気まずい。
少しバツが悪そうにしていると、陸が身を乗り出すように話しかけてきた。
「それよりさ、ケンケン…事件解決したいんだよね…?」
急な質問に面食らう。
「あたりまえだろ。なんだよ急にどうしたんだ?陸は俺と話したくもないんじゃなかったっけ?」
「これ!調べて!!」
それだけ言い、陸が白い封筒を差し出した。
「…なんだよコレ?」
俺の返答に、貴之が言いづらいそうにとんでもない事を言った。
「一ノ瀬からの手紙?みたいだな。」
は??また、こいつらは何を言ってるのか意味がわからない。
「ココに置いてあったんだよ。まさかお前の仕業じゃねぇだろーな?」
貴之が鋭く睨んだ。
「は?そんな悪趣味な事はしないよ。」
渡された封筒には大好きな皆んなへの文字
中には白いカードで、かくれんぼをしようと書いてある。
そして自分を見つけてほしいと。
字が幼い。
健一郎には、どこか見覚えのある字だった。
どこでみたんだ?記憶を辿り思い出そうとする。もう少し、もう少しで思い出せる。
「その字…昔過ぎて正直はっきりとは覚えてないけど、杏の字に似てる…。」
陸の言葉にハッとした。
いつになく陸が動揺してるように見える。
「健一郎調べられない?」
うまく喋れない陸に変わり優馬が聞いてきた。
「何をだよ?」
その言葉に貴之が身を乗り出す。
「指紋とか色々あんだろ!とにかく陸もあんな感じだし調べてくんね?」
またこいつらは何をゆうのかと思えば…。
「お前以外にもおふざけで俺たちが杏の失踪に関わってるって言ってた奴らもこの町にいたから、そいつらのタチの悪い嫌がらせかもしんねーけどな。」
翔が言いたい事もわかる。
ただ、刑事の仕事を甘く見過ぎだ。
だいたいペーペーな俺が単独でそんなの調べられるわけがない。
だが…、結局このきみの悪い手紙を預かってしまった。
どうすんだよ…
龍さんにはもちろん俺が事件について調べている事も、あいつら4人と面識がある事も言っていないし言えない。
とりあえず鑑識持ってくか!
って…無理か…
いやしかし、陸がやけにこの手紙に動揺してたな。まー元々なにか隠してるとすれば陸が一番怪しいけどな。
性格もあるが、あいつの俺へのつっかかりは異常だし、あの事件の話に一番過剰に反応するのが陸。
まあ確かに、親友が自分達と遊んでる最中に失踪ともなれば誰もが過剰反応するとは思うが、陸にはそれ以上のなにかを感じる。
俺があいつらと会ったのは陸がきっかけだ。
きっかけとゆうよりは意図的ではあった。
当初より一ノ瀬杏の失踪に疑問を感じていた俺は個人的に調べようと思っていた。
ただどこから調べたらいいか、むしろ調べ方すら分からなかった。
なにせ事件の時、俺はまだ小学生だったからだ。
ただただ、納得のいかない捜査だと幼いながらTVを見ていた。
いつしか高校生になり、悶々としたまま日々の日常を過ごしてた時にたまたま、隣の高校との合コンに誘われ、乗り気じゃなかったが、メンバーに山神陸も居ると聞いて参加した。
あいつらに近づく絶好のチャンスを逃してはいけないと思った。
陸と仲良くなってからは早かった。元々幼馴染みのような関係だった5人は一ノ瀬杏の失踪でさらに深い絆が生まれていたのだと思う。
仲良しの3人って形で陸から翔・貴之・優馬を紹介され、よく5人で遊ぶようになった。
だが、そんな俺にも4人はあの日の事はなにも語らなかった。
まるでそんな事はなかったかのように。
次第に、俺自身もあいつらが大切な友達となっていった。
本来の目的を忘れかけていた時だった、陸が急に「あ!そーだ、ケンケンって今度から呼ぶね!」
「え?あ、ああいいけど。」
「なにその間ー!笑」
杏と同じだった。久しぶりにその名で呼ばれ戸惑った。
まさか陸に杏と同じ呼び名で呼ばれるなんて。
一瞬、杏がだぶって見えた。
なんだかわたしを捜す事をやめないで、
そう言われてるようだった。
踏み出せばきっと陸たちとの関係にヒビが入る。
この繋がりも失うだろう。
そう思い止まって戸惑っている自分に我ながら驚いた。
それだけ俺の中で陸たち4人との繋がりは大切なものとなっていたのだ。だが、杏との繋がりだって俺には大切だった。俺は覚悟して自ら積極的に行動を始めた。
これまで仲がよかった分、誰と誰が仲が良いなどの情報は把握していた。
まずは翔達の周辺への聞き込み。
自分といない時の行動。
4人を監視していて、毎年皆んな揃って一ノ瀬杏の失踪日に集まり学校でなにかしている事もつかんだ。
ただ、一ノ瀬杏の事に関しては誰も話しをする者は居なかった。
もうすでに当人達から情報を聞き出さない限りは前に進まない状況だった。
あの日、優馬の家に集合だったのに時間になっても俺と優馬しか集まらない状況で一か八か俺は優馬に聞いてみた。
「優馬、お前らは最初から4人で仲良かったのか?」
「え…?どうしたの急に?」
「お前達は一ノ瀬杏と一緒に居たんだろ?」
その言葉に一瞬ではあったが、優馬の表情が変わった。
「健一郎…なんで杏の事知ってるの?あ!周りから聞いた?俺ら悪く言われてた?笑」
優馬は明らかに動揺していた。
自傷の笑みで話をそらそうとした。
「いや…知りたいんだ。あの日の事教えてくれないか?」
その瞬間だった
バン!!大きな音と共に強い力でドアが開いた。そこには殺気立った陸が立っていた。
「ケンケンどうゆう事!?影でウチらを嗅ぎ回ってるの?八百屋の源さんから聞いた!ケンケンが最近色々聞きまわってるって!」
ある程度の事は想定していたが、今迄に見た事ない陸の剣幕に、俺は面食らってしまった。
「陸、俺はただ知りたいだけだ!なんで一ノ瀬杏に関してお前達は何も言わない?何もふれない?」
「なんでケンケンが杏の事知りたがるの!?」
「そ、それは…俺は地元の仲間じゃないけど、お前らとは長いのに、4人で殻にこもってるようで、なんでなにも俺に話してくれない?」
「当たり前でしょ!楽しかった良い思い出じゃない!皆んなで楽しく話す会話でもない!誰も触れなくてもおかしくない!」
「嘘ゆうな!お前らが毎年失踪日に集まってるのも知ってる!」
「なっなんでそれ、、調べたの!?」
一瞬だが陸がひるんだのがわかった。
「ちょっと2人共落ち着いて…」
「頼む!あの日なにがあったか教えてくれ!!」
部屋が静まりかえった。
陸はうつむき、迷ったような顔した。
表情はみるみる曇っていく。
「……あの日…」
小さな声で、話始めた瞬間だった。
「山神!言わなくていい!!」
貴之と翔が入ってきた。
「健一郎…俺らと杏は確かに仲が良くて、おまけに失踪したあの日も一緒に遊んでた。」
「だけど…それだけなんだ。あの日以降俺たちが失踪に関与してるって裏で色々言われたし、取材も悪質なものが多かった。幼いながら俺らも傷ついたんだよ。お前が何でそんなに知りたがるのかはしらないけど、興味本位ならやめろ。」
「健一郎。悪いもう今日は帰って。」
……
……
あーなんか鮮明に思い出してしまった…
あの時、今にも泣き出しそうだった陸の顔を忘れられない。
陸、あの時何を言おうとした?
だめだ!こんな物思いにふけっていては見つかるものも見つからない。
さっきからタンスを開けて探し物をしてる中、懐かしいものが沢山出てくる為、その都度色々な記憶が蘇ってくる。
「確か…ここら辺にあったような…おぉ!あったあった!」
俺はタンスの奥で眠ってた古びたアルミのカン箱を見つけ出した。
中には小さい人形やらガチャガチャの怪獣やらが入っている。その下に向日葵がらの便箋…
そっと開き目を通す。
ケンケンとあそぶのは大好きだよ!
なかなかあえないけどこれからもたくさんあそぼうね♪
こんどはケンケンがあそびにきてね!
学校のともだちにもあわせるね!
あんず
そこには、幼き日にもらった杏からの手紙。
背筋にゾクッとするものを感じた。
手が震える…
そんなはずない…
まさかとは思ったが字が一緒なんて…
そんな事あるはずない…
ブーブー..
マナーモードにしていた携帯が鳴った
携帯の画面には龍さんの文字
我に返ってすぐ電話に出た。
「もしもし?渡部今大丈夫か?」
「あ、はい!どうしました?」
「明日なんだが、前言った再捜査の件で再度話聞きにいくからな。」
「わかりました!誰に聴取しに行くんですか?」
「まー焦るな。聴取ってほどでもない。被害者の友人4名だ。当時担当刑事だった事もあってあいつらとは色々あってな。知らない仲じゃないし気ははらなくていい。それと現場も再度見に行く。」
「わかりました。」
そう言って電話を切ると、しばらく携帯の画面を見つめていた。
龍さんが一緒の時に陸たちと会うのは初めてだな。
とゆうか、この手紙の事をなんて言おう…
あいつらには俺と杏の事は言ってないしな。
俺が追ってるものは一体なんなんだ?
今までも、事件からそれそうになる度に、陸に杏の影を見て我に帰る。
それを繰り返していた。
俺はお前に導かれてる気がしていたんだ。
杏…またわからなくなった。
お前は今…生きてるのか?