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ABC詩集シリーズ

どん底から這い上がる者

作者: 仲仁へび





 技術の進歩は人を豊かにした。

 多くの人を幸せにしていった。

 けれど、全ての人を満たす事はどうしてもできなかった。





 その世界は、誰もが褒めた称えるユートピアだった。


 科学技術は発展し、清潔な居住空間も自然もすべてきっちりと用意されていて。

 誰もが優しく、労り合って過ごす事ができていた。


 けれど、私にとってその世界はディストピアでしかない。


 ある日、世界が一転したのだ。


 多くの人を幸せにできても、全ての人を幸せにはできなかった。


 だから、その世界が取り決めたのは、わずかな不幸で誰かに背負ってもらい、身代わりになってもらう方法。


 そこは、犠牲者を決めて、この世の全ての罪と穢れを押し付ける、生贄の世界。






 私達家族はそれに選ばれた。


 多くの者達から悲しまれ、労られ、名誉ある死だと言われたけれど。


 私達が欲しかったのは、そんな言葉じゃない。


 そんな感情なんかじゃない。


 自分達は幸せになれないけど、その代わりに生きて良いよって言ってほしかった。


 生きててほしいって言ってほしかった。


 でも、最後までそんな言葉はなくて。


「ごめんね」と「ありがとう」しか、かけてもらえなくて。


 優しいユートピアの、幸せな者達の言葉で、私の心は粉々に砕かれた。






 納得なんてできなかった。


 はりつけにされて、生贄にされるその瞬間まで。


 生きたいと願い続けていた。


 そんな私を救ったのは一発の銃弾だった。


 意思を持つ銃。


 昔、ユートピアになる以前の世界で、戦争のために使われた銃。


 その銃を手に取った私は、世界を壊す事を決意した。







 銃は私の意思の力に比例して、その力を強くするらしい、


 だか私はできるだけ迷わないように行動した。


 振り返らないように心掛けた。


 だって、もう後には引き返せないのだから。


 大切なものは全て粉々になってしまったのだから。


 壊れてしまった幸せに代わるようなものなんてない。


 でも、そんな私にも迷う時はあった。


 ほんの一瞬だけ見えた幸せな幻想。


 怪我をした私を手当てしてくれた人たちがいた。


 彼等と生きる世界も、悪くないかもしれないと思った事があった。


 そんなザマだから、迷いに揺れた私の銃はろくに扱えなくなってしまって、でもその時はそれでも良いのかもしれないと思った。


 疲れていた。


 休みたかった。


 そういった思いが影響していたのかもしれないけれど。





 けれど、結局その人達も失ってしまうのだ。


 彼等は私は犯罪者だった事を知らなかった。


 知らずに助けてくれただけなのに、共犯者として処分されてしまった。


 また失ってしまった。


 絶望に飲み込まれそうになった。


 膝を落としそうになった。


 でも、そんな時に、銃が語り掛けてきたのだ。


 失ったものは、これで全て?


 本当に?


 私は気が付いた。


 いいや、違う。

 まだ私があるのだ、と。


 なら、この私がなくなるまで、まだ立ち止まれない。


 立ち止まる事は許されない。


 いつか、この身が砕け散るその日まで、私はもう迷わないと誓い、再び歩き出した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 短いながらも、ダークな雰囲気がよく伝わってきました。 [気になる点] 設定についての説明が物足りなかったです [一言] 個人的には好きな世界観でした。 突然のコメント失礼しました。
2021/10/28 12:09 退会済み
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