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階段

作者: 蜷川緒鶴

ショートストーリーです。

初めて自殺という気持ちが芽生えたのは確か小学3年生の事だと思う。

当時の私は一切の勉強が出来ず、毎日の様に何かを忘れものしては教卓の前に立たされ

クラスメイトに呆れられ、先生に怒られる日々を過ごしていたのだった。

まだ子供の発達障害という言葉が世間で出回っていない頃、明らかにわかる身体、知的の障がいのある子供以外は全て健常者として扱われる時代であったのだ。

大人になってから気づくが私はADHDという発達障害を持っていた。


大きく分けて3つの種類がある。

ADHD(注意欠如多動性障害)とは

「不注意(物事に集中することができず、忘れ物や物をなくすことが多い)」

「多動性(落ち着きがなく、じっとしていることが苦手)」

「衝動性(思いついた行動を唐突に行う・順番待ちができない)」

の3つを中心的な症状である。


私の場合多動性はなく不注意と衝動性の2つの発達障害を持っていた。

もちろん両親、大人たち、そして私も知る由もなかった。


それはある日の音楽の授業の事だったろうか。

私は相も変わらず忘れものをした。リコーダーだったと思う。

その1時間は苦痛であった。何も出来る事もなく、ただ下に俯き。

机に出された教科書の譜面を読む訳でもなく目には大粒の涙が今にも零れてしまいそうだった。


どうして私はこんなにも忘れものをするのだろうか。

どうして私は先生の授業が一切わからないのか。

みんなが頷きながら当たり前に理解する事が私はどうして一緒に頷く事が出来ないのか。


子供の私には答えが出る訳もなく。

両親にも理解出来ない私の努力が足りないと怒られ。

クラスメイトには馬鹿のレッテルを貼られる。


苦痛の毎日だった。

不登校は当然許されない。

サボるなんて考えは当時の私には無く、泣きながら登校を続けたのである。


苦痛の授業が終わりチャイムが鳴る。

いそいそと先生は出ていき、クラスメイトも自分たちの教室に戻る為に

4階の音楽室から2階に戻ろうと階段へと急いだ。


私はノロノロと最後に鍵を閉め、せめて職員室に鍵を返す役目をと階段に向かった。


ふと、目の前が真っ白になった。

それはどこか朝焼けの眩しさの様な。

夢の中にいるモヤの様な。


とても不思議な空間に入った気分になった。


私は階段を見下ろしている。


ここから落ちれば。

頭をぶつければ。

もしかしたら。


私は死ねるのかな。


誰か心配するだろうか。

両親は怒るのだろうか、悲しむのだろうか。

クラスメイトや、担任の先生は馬鹿が居なくなって良かったと思うのだろうか。


今思えばこの時間は一瞬で

きっと5分もかかっていなかった。


だが私にとっては何時間も階段の前に居た気がする。


「どうしたの?」


上級生に声をかけられハっとした。


「な、なんでもない。。。です」





あの時、声をかけられなかったら。

あの時、足を踏み出していたら。

あの時、私は。





幼い子供の初めての自殺願望だったのかもしれない。









おしまい。


ありがとうございました。

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