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空のお散歩

作者: 山菜歩

私の大好きなもの:空。

そんな性格は、名前にも反映している。

ううん。そんな名前だからそういう性格になったのかもしれない。


そう。私の名前は「そら」。

名前の読み方を変えて「くーちゃん」と呼ばれる事もある。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


私が大嫌いなもの:お勉強。


今は夏休み。

せっかくのお休みなのに、お勉強なんてしたくない。

子供は風の子、元気の子。

昔からそう言われているのに。


"いっぱいお勉強しなさい"

ママはそう言う。


"お勉強して何になるの?"

"いい学校に入って、いい会社に入るのよ"

・・・・・・・・・。


私はそんな「当たり前の」将来に興味がなかった。

私にはひとつの夢があった。




"空を、飛んでみたい"

これが私の小さい頃からの夢。

ピーターパンのお話が大好きで、空を飛べるようになった子供達が羨ましかった。

黒服の魔女の女の子が主人公のお話しも大好きで、実際におばあちゃんの家に置いてあったホウキにまたがって「飛べ!飛べ!」って念じたこともある。

鳥になりたい人が集う番組も、毎回欠かさず観ている。


どうやったら、空を飛べるんだろう・・・?


窓の外を見た。

庭に植えてある木々が、ざわざわと葉擦れの音を立てて枝を揺らす。

さんさんと輝く太陽の光が、葉っぱの間から風に合わせて、ゆらゆらと水面のように揺れる。

外は雲ひとつない、いい天気。

青い空には鳥さん達が気持ちよさそうに空を飛んでいる。


鳥さん達、いいなぁ・・・。

鳥になりたい人が集う番組に出演しようかなぁ・・・。

でも、お勉強しないとできなさそうだしあぁ・・・。

シャーペンを転がしながら、取りとめのないことを、ずっと考えていた。

そらを、とべたらなぁ・・・。

・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


気が付いたら、私は空中にいた。

"え・・・?"

ちょっとだけスカートの裾を気にしながら、周りを見回す。


眼下には、赤い色の私のお家の屋根。

回りは見慣れた住宅街。

ママが近所の奥さん達と"いどばたかいぎ"をしてる。


ふわふわと浮かんでいるだけかなぁ?「もっと速く飛んでみたい」と思ったら・・・

"きゃああああっ!?"

ぐんっと急加速して、ツバメさんみたいに飛べた。

"止まってぇぇぇぇっ!"

急停止する。危うく電柱にぶつかるところだった。

"ああ、びっくりした"

私は胸を押さえる。

空を見上げ、「雲に触ってみたいなぁ。もっと高い所に行きたいなぁ」って思ったら・・・。

風船のようにふわりと浮かび上がることができた。


ああ、自分が思った通りに飛べるんだ。


よぉし!

くるりと空中バク転一回、私は飛び初めた。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


気持ちいい・・・。

私、空を飛んでる!鳥になってる!


高層ビルの間を飛び回り、パパがいる会社を探してみたり。

雲の間を縫って飛び回り、学校のお友達の家を探してみたり。

鳥さん達と競争したり、雲の上に乗ってみたら、落っこちそうになったり・・・。

(後で知ったんだけど、雲って水滴の集まりだったのね)


風を切り、雲を抜けながら、私は「空のお散歩」を満喫する。


ひときわ厚い雲を抜けた先には・・・。

(うわぁ・・・)

青い空をそのまま映したような、青い海が目の前に広がった。


潮騒の音に混じって、かもめさんの鳴き声が聞こえる。

私も仲間に入れてもらって、一緒に風に身を任せた。

風に乗って空を滑り、「低くなってきたかな?」と思ったらまた浮かび上がって・・・。

一羽のかもめさんが、急に海に向かって急降下した。

(何だろう?)

私はその様子を見守る。

急降下したと思ったら、またこっちに戻ってきた。

口には魚をくわえている。


鮮やかなかもめさんの技に、私は思わず拍手をした。



楽しい時間って、あっという間に過ぎちゃうんだよね。


気が付いたら、もう夕方。

最後に、夕日に向かって、行けるところまで飛んでいってみた。


夕日色に染まった雲と海に名残惜しさを感じつつ、私はお家に帰ろうとした。

早く帰らないと、ママに怒られちゃう。

私の部屋に帰ってみると・・・。

あれ・・・?


何で私がいるんだろう??



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


私は机の上でうとうとと眠りこけていた。

何だぁ、夢だったのかぁ・・・。

・・・・・・

・・・・・・・・・。


でも。

風を切る感覚、浮かんでいる感じ、そして景色を観た感動は、夢とは思えないほどリアルだった。


はらり


私の肩から、木の葉が落ちた。

お庭の木の葉っぱだ。

何で着いているんだろう・・・?


ふと、机においてある鏡を見る。

わぁ!髪の毛がぐしゃぐしゃ!?

寝てただけなのに、何で?


私はひたすら混乱するばかりだった。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


外を見ると、すっかり夜になっていた。

満天の星が散りばめられている。


そして、目の前の机には、絵日記が開かれている。

お勉強ばかりしていて何も書くことがない、一番頭の痛い課題。


「くーちゃん!」


友達の声が聞こえた。

あ、今日天体観測の日だったっけ・・・。


"空ちゃん、お友達が来たわよ"

ママの催促に、私は出かける準備を済ませて・・・ちょっと思いとどまった。


・・・・・

・・・・・・・よし!


今度こそ本当に、部屋を出たのだった・・・。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


空のいなくなった勉強机には、さっきとは違うノートが置かれていた。

ノートの表紙には「ゆめ日記」と書かれていた。


開けっ放しの窓から、ごう、と風が吹き込む。

風に吹かれるまま、バラバラと音を立ててノートの紙が踊る。


風がおさまり、開かれたそのページには・・・。


そこには、青い空を飛ぶ少女の姿が描かれていた。



タイトルは「空のお散歩」




fin...


「空のお散歩」

最後までお読み頂き、誠にありがとうございます。



少々解説をしたいと思います。


*黒服の魔女の女の子が主人公のお話

ジブリ作品「魔女の宅急便」のことです。


*鳥になりたい人が集う番組

言わずと知れた「鳥人間コンテスト」の事です。


「鳥人間コンテスト」を見ている小学生、ってどうなんだろうと一瞬思いました。

(友人に言わせると、「あり得ん」との事です)


*本当のことを言うと・・・。

私も空ちゃんと同じく、小さい頃は空を飛んでみたいと思っていた子供でした。

可愛い時代があったものです(苦笑)

ただ、今でもパラグライダーをやっている人を見ると、「あ、いいなぁ」って思います。


空中飛行は永遠の憧れです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 夢落ちだったんですね^^; でも、ほんわかと穏やかで暖かい感じのお話で、読んでいて優しい気持ちにさせてくれますね。私も昔は本気で念じれば、いつかきっと空を飛べる、そう信じていた無邪気な時代が…
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