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ローズマリーは婚約破棄してほしかっただけ

作者: 砂臥 環

──事の起こりは一件の婚約破棄劇からだった。


「ローズマリー! 私が寵愛しているベティへの嫉妬からの、数々の嫌がらせ……最早捨て置けぬ! その品性の欠片もない行為、国母どころか王子妃としても相応しくない! 貴様との婚約を破棄する!!」


「ぃよっしゃあぁぁぁぁぁー!!!!」


なんと完璧たる淑女と名高い筈のローズマリーは、婚約者である第一王子が卒業パーティーで婚約破棄を宣言するや否や、間髪入れずにそう叫んだだけでなくガッツポーズまでとったのである。


「いや~殿下、とうとう決断なさいましたか! ありがとうございます! ありがとうございます!!」


その勢いに圧倒されたのは、今しがた婚約破棄を行った第一王子も。

とりあえず、涙ながらに訴えるローズマリー……というところは予定通りではある。

ただし『(歓喜の)涙ながらに(感謝を)訴える』というかなりの齟齬は存在するが。


「いやあの、我が愛しいベティへの嫌がらせを謝罪……」

「謝罪? え~と、私はなにもしておりませんが……」


まだ瞳に(歓喜の)涙を滲ませながら、ローズマリーは子供のようにあどけない表情で問うた。それを機に再び勢いを取り戻す第一王子。


「言い訳とは見苦しいぞ!」


ベティ・某とかいう木っ端令嬢も、第一王子に身体を擦り付けながら、さもか弱い少女風に発言する。


「殿下……私は謝って頂ければそれで……」

「ああ……ベティ! 君はなんて慈悲深いんだ!! ローズマリー」

「あ、わかりました!」


第一王子の言葉に被せ気味に了承したローズマリーは、なんとその場で土下座したのだ!

……なにもやってないのに!!


「申し訳ございません!」


「「!!!!」」


第一王子とベティだけではなく、当然その場の全員が固まった。


今、一体なにが起こっているのか──!!

貴族はプライドで生きている(笑)生き物ではないのか!!


たっぷり一分は土下座をした後で、ローズマリーはベティをチラリと見た。慌ててベティは『やめてください!』とローズマリーに駆け寄る。


「……謝罪を受け入れてくださいます?」

「ええ!」

「これで遺恨はなし、ですね?」

「ええ!」


立ち上がったローズマリーは、とても誇らしげな顔をして観衆に向き直った。


「私は、ローズマリー! 目的の為には手段を選ばぬ女ッ!! 私の謝罪ひとつでなにもかも丸く収まるのならば、頭を下げることなど厭いません!! ただし今の私はローズマリー・フラウボアに非ず! これは貴族ではなく、ただの個人として『ベティ嬢に勘違いさせてしまった件』への謝罪ですわ! 皆様お聞きになりましたわよね?! 第一王子殿下は私とはこれで無関係! 婚約者ではありません!! ベティ嬢は謝罪を受け入れ遺恨はないそうですわ!」


無茶苦茶だが、そもそも婚約破棄劇自体が無茶苦茶なのだ。

ローズマリーの(先程まで土下座していたとは思えぬ)堂々たる姿と勢いのある弁舌に呑まれた観衆(主に生徒達)は、最早なにが正しいかわからないか、わかってても口には出せないか。


当然ながら、一から十まで正しくない。


ローズマリーの弁が終わり、一瞬の静寂。だが誰かが手を叩き出したのをきっかけに、場内に沸き起こる、謎の拍手と歓声。


それはまるで戦場の(とき)の声直後の兵士らを彷彿とさせた。




後でローズマリーは叱られたが、無事、婚約は破棄になった。しかも割と円満な感じで。


この事件が齎した結果──第一王子は廃嫡、件の令嬢と婚姻。ふたりは市民に落とされる。



ベティ嬢の婚約者で蔑ろにされていた子爵令息は、ベティとの婚約破棄後ローズマリーの言葉に感化され、努力の結果初恋である伯爵家のご令嬢との婚約を勝ち取る。その伯爵令嬢を政略的な意味合いから息子の婚約者として狙っていた侯爵家だが、子爵令息の活躍により、婚約を期に合同で……と、話を進めている事業計画があまりに侯爵家に有利な条件であることが判明、計画は頓挫。子爵令息と同級生でもある侯爵家令息は、父の強引な事業計画やその為の政略結婚をよしとしていなかった。後の伯爵代行となることが決まった子爵令息に話を持ち掛け、きちんと双方の利になる形で計画を見直しながらいくつかを改善したところ、侯爵を唸らせる程の計画に。侯爵は別に悪どい人間ではなく、息子可愛さ故の愚行から利に走っただけだった。彼はそれを猛省し、息子に爵位を譲り自分は補佐に回ると決意。この件で侯爵子息の為人(ひととなり)を知った伯爵令嬢は、予てからの親友であり、侯爵子息に恋焦がれていた辺境伯令嬢と彼を引きあわせる。ふたりは婚約。辺境伯令嬢に淡い想いを抱いていた辺境伯家令の息子は彼女の婚約にショックを受けたが、普段はツンケンしている幼馴染に失恋を慰められ気持ちを切り替えた。それ以降、彼は彼女のことが気になっていたが、幼馴染なので距離を上手く縮められず、ふたりは却ってよそよそしくなってしまう。しかし直後に起こった隣国との小競り合いの際に、傷を負った彼を献身的に介抱してくれた彼女に勢いでプロポーズし結ばれた。そして生まれた息子は少し気が弱いが健康で、心の優しい少年としてすくすくと成長していった。ある日彼が身体の弱い友人の見舞いの手土産に、とたまたま花を詰みに森へと足へ運んだところ、謎の卵を発見……それはなんと、とうの昔に滅んでいたと思われた竜の卵。『私はベッドから殆ど出れないから』と言う友人がそれを温めたところ、孵化に至る。彼女は神格化した竜の親からの加護を受け『竜の巫女』となり、病に蝕まれていた身体は完治。『竜の巫女』となった友人を護るために、気弱だった辺境伯家令の孫は鍛錬を重ねていった。そんな折に丁度2000年の時を経て復活する魔王。ふたりは『竜の巫女』と『勇者』として、魔王討伐の旅に出ることになるのであった──


だが、それはまだ誰も知らない。




余談だが、この出来事は『第一王子による婚約破棄事件』ではなく、『ローズマリー様ご乱心事件』として、後々まで語り継がれることとなる。

異世界恋愛にしようと思ったんですが。

なんでこうなったんだか自分でもよくわからない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本編よりもエピローグ後の追伸がほぼ主題なところ それぞれのエピソードで短編1本どころか、巫女と勇者の物語に至っては長編いけるね( ゜Д゜)b
[一言] 風が吹いたら桶屋がもうかって石油王が木星についたよとかそういう感じの
[良い点] 人って、縁をたどっていくと凄い人に繋がるものだなぁと思いました。 壮大なお話を有り難うございました!
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