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スキル【ベットコイン】でいくらでも金貨が手に入ります。だけど……

作者: まさな

一話完結、読み切りの短編です。5000字なので、所要時間5分~10分くらいかと。

 マイスは今年15歳になった。

 15といえば、この世界で一人前の大人だと認められる年齢だ。

 

 同じく15歳を迎えた村の他の子供達とともに、マイスは教会で「恩恵」のスキルをもらい受けた。

 

「マイスのスキルは……【ベットコイン】じゃ!」


「「「おおっ……んん???」」」


 村人達もマイスも困惑気味だ。


「聞いたことが無いぞ、そんなスキル」

「んだんだ、ベッドなら分かるが、ベットってなんだべや?」

「だが、コインと言うからにはお金に関するスキルじゃろう。マイス、使ってみるのじゃ」


 神父様に言われて、マイスはスキルを使ってみた。すでにスキルの使い方は両親から教わっている。


「あっ、何か出た」


「おお、虹色のコインか。これは見事な」


「よしっ、買うぞ! マイス、ワシがその珍しいコインを金貨と交換してやろう!」


 村長さんが言った。村長さんは村一番の金持ちである。


「えっ、金貨と?」


「マイス、もう一枚、出せるかどうか、やってみるんだ」


 父が真剣な顔で言う。


「分かった。あ、出た」


 試してみると、同じ虹色のコインが手のひらにパッと出てくる。


「もう一枚」


「うん、また出たよ」


「よし、何枚でも出せるなら、一枚くらい売ってもいいだろう」


「うん、そうだね。じゃあ、村長さん、どうぞ」


「おお、ありがとう。これは街までもっていけば、高く売れそうだ、ぐふふ」


 村長さんはあくどい笑みを浮かべたが、マイスも街まで同じコインを売りに行けばいいのだ。別に損はしていない。


「じゃ、マイス、スラれないように、気をつけるんだぞ」


「はい、お父さん」


 マイスは村長さんや護衛の戦士さんと一緒に馬車に乗り、隣街へと出かけた。

 モンスターに出くわしたものの、一行は無事に隣街にたどり着くことができた。

 馬車を降りるなり、村長さんが言う。


「じゃ、マイス、ワシはこれを商人ギルドで売ってくるから、お前は道具屋に行きなさい。同じ物を同じ所で売ろうとしても、一枚しか売れないかもしれないからな」


「分かりました」


 たぶん、商人ギルドのほうが高く売れるのだろう。けれど、金貨一枚で売れればもう大金である。マイスはお土産に塩と果物が買えればそれで充分だったので、素直に道具屋に向かった。



「おおっ、こ、これは……よし、金貨三枚でどうだ?」


 道具屋の主人は、マイスが見せたコインに目の色を変えて申し出た。


「ええ? そんなに? 分かりました。それで売りましょう」


 そんな高値が付くとは思っていなかったので、マイスはびっくりというより、今起きていることがちょっと信じられなかった。


「しかし、これはどこで手に入れたんだい?」


 道具屋がコインとマイスを見比べながら胡散臭そうに聞く。


「それは……内緒です」


 父がスキルであることは内緒にするようにと言い聞かせていたので、マイスはその通りにした。


「ううむ。まあいいか。もう一枚、手に入れてきたら、同じ値段で買ってあげよう」


「本当ですか! 実はまだあるんです」


「おお、それを早く言ってくれよ。買おう」


 マイスは新たに三枚の虹色コインを出して道具屋に売ってやった。

 金貨が十枚以上も手に入ってしまった。


「このスキル……凄いや! これで家族みんな、たくさん食べて幸せになれる! 今日から僕はお金持ちだ!」


 マイスは跳び上がって喜んだ。

 

 村に戻って一週間後。

 貴族の使いだという騎士が村にやってきた。


「虹色のコインを持つ者はいるか!」


「マイスだ」「あいつが持ってるよ」


 村人達がすぐにマイスの名を騎士に教えた。


「マイスはどいつだ?」


「は、はい、僕ですけど……」


 マイスは、やや緊張しながら名乗り出る。


「おお、お前か。お前が持つという虹色のコイン、金貨十枚で我が主が買おうと仰せだ。無論、売ってくれるな?」


「ええ、もちろんです。そういうことなら、いくらでも」


 マイスはたくさんの虹色コインを出したが、騎士が持ってきた金貨の数では足りなくなったので、持ち合わせで買える分だけ、取り引きをした。


「虹色のコインを持つ物はいるか!」


 今度は国王の使いだという聖騎士が村にやってきた。

 マイスは同じように虹色のコインを差し出し、両手で抱えきれないほどの金貨を得た。


 その夜――


「しかし、不思議だなぁ。どうしてみんな、虹色のコインをあんなに競って買おうとするのだろう?」


「そうね。あんなもの、綺麗だけど他に使いようもないのに」


 マイスの両親が首をひねるが、どうも金持ちはそれが欲しくて我慢できなくなるようだった。

 しかし、村人の他の人間は、興味は示すものの、欲しいとは言わないのだ。

 

「とにかく、マイス、うちはもう大金持ちになった。これ以上の金はなくていいし、あるとかえって心配だ。泥棒がやってくるかもしれない。だから、もうそのスキルは使うな。村人達には使えなくなった、と言えば良い」


「そうね。それでみんな信じるでしょう」


「分かったよ、父さん、母さん。僕も実はちょっと怖かったんだ」


 たくさんお金が入るのは嬉しいけれど、使い道の分からないコインに目の色を変える人達を見てマイスは恐怖心を抱いていた。それだけではない。取り引きすればするほど、虹色のコインは高値になるのだ。

 

 どうも、おかしい。

 何かが、おかしい。


 マイスや両親はそう思った。



 翌朝、村人達が空を見て騒ぎ出した。


「なんだあれは!」

「あれは飛空挺じゃ!」

「船が空を飛んでいるなんて!」

「降りてくるぞ!」


 村の広場に着地した飛空挺から、派手な服を着た人物がお付きの護衛を連れてやってきた。


「虹色のコインを持つマイスはおるか! 我が名はアイロン=ザックバルド! フェイス帝国の皇帝である!」


 はるか遠く西の大国から皇帝がやってきてしまった。

 村人が恐れおののき、すぐにマイスを指さした。


「アイツだ!」「アイツがマイスです!」


「おお、お前か!」


 皇帝自ら、目を爛々と輝かせてマイスの前にやってくる。


「虹色のコインはあるか?」


 マイスはゴクリと唾を飲んだ。ここでハイと答えたが最後、またとんでもない人が虹色コインを高値で買いに来るだろう。それは危険だ。どう危険かまでは分からないけれど、今も身の危険をひしひしと感じる。


「あ……ありません」


「なんだと!」


 皇帝は激怒した。黒い騎士が前に出てくると、マイスの首を掴んでギリギリと締め上げる。


「皇帝陛下をあまり怒らせるなよ、小僧」


「く、苦しい……!」


「や、やめてください! マイス、いいからコインを出すんだ。命には代えられないぞ!」


 父が叫ぶ。

 それもそうだ。マイスは諦めてコインを手のひらから出し、地面に落とした。

 

「おおっ、これが噂のベットコインか。何と素晴らしい……! よかろう、マイスよ、お前には褒美として国を一つくれてやろう。それで取り引きだ。よもや、嫌とは言うまいな?」


「も、もちろんでございます」


 マイスと両親は飛空挺に乗せられ、皇帝から与えられた国の城に住むことになった。


「どうしてこんなことに……」


 マイスの父は頭を抱えた。昨日まで村人だったのに、一日で国王の家族になったのだ。


「ごめんよ、父さん、母さん。僕のスキルのせいで」


「いやいや、マイス、お前が謝ることではないよ」

「そうよ。あなたのおかげで、私達はとても良い生活ができているもの。ただ……」


 母親が浮かない顔をしたが、この国の平民達はとても貧しいのだ。

 着ている物もみすぼらしく、食べ物も充分ではないようで、痩せこけている。

 

 マイスは貧しい家の生まれであったから、彼らのことを他人事とは思えなかった。

 すぐに大臣に命じて税金を安くし、この国の全員に銅貨を配ることにした。

 

「おお、ありがたや、ありがたや」

「マイス国王万歳!」

「名君だ!」


 国民達はこぞってマイスを褒め称え、これでみんなの暮らしが良くなるだろう……誰もがそう思ったのだが。


「マイス様、大変でございます! あちこちの商店で、金貨が不足しております。売買ができず、物流が滞り、潰れる店もたくさん出ています」


 大臣が慌てふためいて報告にやってきた。


「店が潰れてる? 金貨が足りないって、それは何が原因なんだ?」


「それが……不明です!」


「そんなはずは。とにかく調べてくれ」


「はっ」


 大臣は、賢者や学者を集め、金貨が消えている理由の調査に乗り出した。

 マイスが国王になってから、大臣はたくさんの給料をもらっていた。時間外労働もなくなっていた。この国王のためならば、と昼夜を問わず必死に原因を探った。

 

 すると、商人ギルドの大商人が金貨を大量に集めていることが分かった。

 大臣は騎士を派遣し、その大商人を引っ捕らえ、マイスのもとへ突き出した。


「陛下、この者が、大量に金貨を集めておりました。この国の金貨不足や店の倒産は、こいつが原因ですぞ」


「お、お許しを!」


「まず、ひとつ聞こう。どうしてそんなに金貨を集めていたんだい?」


「それは……虹色のコインを買うためです」


「ああ……」


 マイスは悟った。

 あのコインが全ての元凶であったのだと。

 虹色のコインに金が集まりすぎてしまい、代わりに他が足りなくなっているのだ。

 金貨がなくなったのではない。一カ所に偏りすぎたのだ。


「虹色のコインが悪いのは分かった。でも、どうすれば……」


 マイスにはコインを出すことはできても、それを消す事は無理だ。


「マイス様、たくさん虹色コインを出せば、全員にコインが行き渡るのでは?」


 騎士の一人が言う。

 

「ダメだ。一人で何枚も集めたがる者がいる。かくいう私も、三枚ほど集めているが、もっと欲しくてな」


 大臣が言った。


「仕方ない。では大臣、国中の虹色コインを集めてくれ」


「しかし、マイス様、買い集めるにしても、今や虹色のコインは相当な高値ですぞ。十枚で国一つが買えるほどの」


「構わない。とにかく集めないと」


「分かりました」


 大臣は反対したい気持ちも強かったが、名君マイスの言った命令である。

 自らの主と心に決めていたので、その命令に従った。


「マイス様、なんとか八枚ほど集めました。金持ちの家は兵士が捜索し、隠していた虹色コインも強制で買い上げました。私が持っている三枚と合わせて、これで国内のコインはすべてかと思われます」


「うん……ご苦労様。それで、市中の金貨の流れはどうだい?」


「は、かなり改善されております。皆も普通に取り引きができるようになったと報告が入っております」


「やっぱりね……だけど」


 マイスは顔を曇らせる。


「そうですな。虹色コインは我が国だけが持っているわけではありません。国外に金貨が流出するのを止めるのはなかなか難しいでしょう。関所で、金貨の持ち出しを禁止し、国境を兵士に見張らせるしか……」


「いや、ダメだ、それだと国外から物を買って仕入れられなくなる。金貨を禁じたところで、銀貨や銅貨が出ても意味が無い」


「では、いったいどうすれば……」


「手紙を書く」


「手紙? 誰にですかな?」


「大陸中の王だ。アイロン皇帝にもね」


「なるほど。マイス様の策が読めましたぞ」


 大臣はニヤリと笑って目を輝かせた。


「ああ。虹色コインが倒産の元凶なら、それを各国の王に報せて、取り締まってもらえば解決だ」


 マイスはただちに親書を書いて兵士に持たせた。

 各国の王は自分の国の不況に頭を悩ませていたので、マイスからの手紙ですぐに動いた。

 虹色のコインは国王監視のもと、溶鉱炉にくべられると、綺麗な色を失い、ただの鉄くずとなった。

 

 そうして、世界は元通りになった。

 

 マイスは「虹色の国王」と呼ばれ、『世界を破滅させかけた王』、『その世界を救った王』として名が知られることとなった。

 めでたし、めでたし。

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[気になる点] 〇ットコインネタなんだろうけど意味がわからんww
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