三話
あれから俺とレオンは魔法の腕を競い合い続けている。
悔しいが今はレオンの方が上手だ。
あいつは天才肌で、新しい魔法を見せたら俺よりも上手く発動してくる。
ただ木の棒を使ったチャンバラごっこでは、なんとかレオンと互角の勝負をできていた。
何故か最初からレオンは剣の扱いが上手く、初めて素振りをしたときには視認することすら出来なかったほどだ。
今では動体視力が鍛えられ見切ることもできるようになったが、当時の衝撃は忘れられない。
まじでコイツ勇者とかだったりしてと思ったのも一度や二度ではない。
まあ小説じゃあるまいし、勇者とかそんなもんあるわけないか。わはは。
そんな風に過ごしていると気がついたら俺とレオンは六歳の誕生日を迎えていた。
「おめでとう!レオン、ルトガー!」
「「「「「「「おめでとう!」」」」」」」
「おめでとう、二人とも」
今日は俺とレオンの誕生日ということで、孤児院のみんなが祝ってくれた。
捨て子だった子達は、孤児院にやってきた日を誕生日としていて、その月の初めに祝うのがお約束である。
俺とレオンはほぼ同時期にこの孤児院にやってきていたので今日は二人の誕生日なのだ。
ちなみに暦は前世の地球と同じだった。
最初に名前付きで祝ってくれたのが、この孤児院年長者のケビン、十四歳だ。
いつも皆んなを助けてくれる、面倒見の良い頼れる兄貴分だ。
俺とレオンもよくお世話になっている。
その次に祝ってくれたのがケビン以外の孤児院仲間だ。
八歳から十二歳の子達でいつも孤児院を賑やかにしてケビンやシスターに叱られている。
最後がシスターである。
見た目六十歳くらいのお婆ちゃんって感じの人で、怒ると怖いが普段はとても優しい。
そしてなんとシスターは個人でこの孤児院の経営をしているらしい。
昔は他の人がこの孤児院を経営してたがその人が亡くなったことで、シスターその後を継いだそうだ。
「ありがとう!俺もついに六歳だー!」
「皆んなありがとう」
六歳になったからと言って特に何かあるわけじゃないけど、レオンがすごい喜んでいる。
だが、その気持ちも分からなくもない。
誕生日ってなんだか特別な感じがするし、子供の頃だと成長したって気がするもんな。
「さあ、冷めないうちにいただきましょう」
シスターの言葉で食前の祈りを捧げ、皆んな待ってましたとばかりに各々の皿に盛り付けられた料理に手をつける。
皿に盛られている料理を見ると、硬い黒パンと野菜屑と塩辛い干し肉が少しだけ入ったスープがある。
シスターよ…今日はえらく奮発したじゃないか!
普段はもっと硬くてボサボサしたパンの切れ端と野菜屑すら滅多にお目にかかれないスープのお湯割だというのに。
誰かの誕生日の料理はいつもと違い、こういった風にちょっぴり贅沢にしてくれるのだ。
孤児院の皆んなはとても嬉しそうに食べていて、特にレオンなんて「うめぇうめぇ」とか言いながらすごい勢いで食べている。
俺も久々のご馳走にいつもより早いペースで食べ進めていく。
暫くして、ご飯を食べ終わり皆んなで雑談していたところ、急に玄関のドアがノックされた。
来客だろうか。
だがもう日も暮れるような時間だ。
皆が訝しんでいると再度ドアがノックされた。
シスターが俺達に隠れるよう言い、ケビン以外の子供達は別の部屋に移動した。シスターはケビンにも隠れておくように説得したが、彼は頑としてその場に残る姿勢を見せ、諦めたシスターは溜息を吐いた。
本当は俺もあちらに残りたかったが、シスターとケビンが許してくれず無理矢理こちらの部屋に移動させられた。
俺達はその部屋で息を殺しながら、何か有ればすぐに飛び出して二人を助けられるよう身構えつつ聞き耳をたてていた。誰も逃げようとしないことに苦笑が溢れる。この孤児院の皆んなは俺含め、血は繋がっていなくとも互いのことを家族だと思っているのだ。
子供達全員が移動したことを確認したケビンは、返事をし玄関のドアを開けた。
そこに居たのはーー。
「このような時間に突然の訪問となり申し訳ありません。私はマルテラリア王国騎士団副団長、アルフレート・エルレンマイアーと申します。予言に従い勇者様をお迎えに上がりました」
お読みいただきありがとうございます!漸くあらすじの部分まで来ました…。