力の使い方にキレる
「一応聞くけどよ、どこを目指してるんだ?」
アスカと一緒に歩き始めてからそこそこ時間が経っている。その足取りから、何か目的の場所があってそこに進んでいるようには思えない。
「何か話をするのにいい場所がないかと思ってナ」
「見当たらないのか」
「近くにはなさそうだナ。面倒だ、もうその辺でもいいカ?」
そう言って指さした先を見ると、座るにはちょうどいい大きさの岩が2つ並んでいた。
「俺はどうでもいいけどよ。聞いた話だがここにはもう一つおっきな宿屋があるんだろ? お前はそこに泊まってるんじゃないのか?」
「あそこも無理じゃないけど、おすすめはできないゾ」
「何かまずい理由でもあるのか」
「それは、そうだナ。お前の話が面白かったら話してやル」
いじわるそうに笑ってからアスカは岩に腰かけた。
俺ももう一つの方に座って、向き合う。
「さて、まずはお前の話からダ。その内容でどこまで話すか決めル」
「わかった」
俺は自分が別の世界から来た人間であること。この世界のことはまるで知らず、気が付けばあの森の中にいたことを話した。
話を聞いてる間に、アスカの表情は何とも言えないものになっている。
「ふーム」
「納得はできないかもしれないが、俺から話せることはこれで全部だ。つまらなかったらすまない」
「いや良イ。十分に面白かったゾ。よそ者のブッ飛んだジョークセンスも、真面目に聞いてやれば悪くないナ」
この小バカにし腐った感じ、絶対信じてない。
「いきなり頭のおかしいことを言ってる自覚はあるけどよ、本当のことなんだ」
「コフク」
「……は?」
弁明をおさえるように放たれた言葉に俺は首をひねる。
「コフク、がなんだ」
「本当に何も知らないみたいだナ。お前の話、信じるしかないかもしれなイ」
「そのコフクの意味ならわからないけど不服の意味なら知ってるぜ。今の俺の気分がそうだ」
俺を置いてけぼりにして勝手に納得しないでほしいですねぇ。
不満のオーラを全身から出していると、アスカはゆったりと足を組み替えてこちらを覗き込んだ。
「そうカリカリするナ。お前のききたい話はレベルとスキルについての説明だったカ。あとはそう、さっきの宿屋の話も伝えておくかナ」
「おう。頼むぜ」
切なる気持ちが伝わったのか、アスカはやっとちゃんとした説明をしてくれるらしい。
「まずレベルだナ。これそのものがどういうものかはなんとなく察してるだロ?」
「まぁ、レベルが高いヤツほど強いみたいな認識はできてる」
「それで間違いなイ。だがもう1つ、お前が知らない重要な事があル。そもそもレベルは、誰もが持ってるものじゃないんダ」
「なるほど?」
「例えばお前が助けた女にレベルはなイ。レベルは選ばれしものが覚醒することで力をあらわシ、じっくりと時間をかけて高めるものダ」
俺はこの世界に来た時点でレベルは持ってるし、そのレベルも条件付きだが割と簡単にポンポン上がるようになってると。
こう話を聞くと、俺のスキルが随分とイカれた奴なんじゃないかと思えてくる。
「スキルもレベルの上昇に合わせて使えるようになル。高レベルになればなるほど強力になるが、低レベルでも十分な強さダ」
「お前はそのスキルをいくつ持ってるんだ」
「戦いで使えるスキルが7、それ以外が5。どうでもいいのが3だナ」
全部合わせて15か。結構な数だな。感心していると、アスカの顔がずいっと近づいてくる。
「わかるカ? お前はすさまじい力を持っているんだゾ?」
「そのレベルやスキルってやつがか?」
「そうダ。レベルは絶対の力ダ。レベルを持つものに持たざるものは勝てなイ。この世界はそうできている」
「何が言いたいんだよ」
「お前は大半の人間を従わせる力を手に入れたんだヨ」
アスカの言葉に眉をひそめる。なんとなく、嘘は言っていないとわかった。
相手を従わせる力か。
「どうしタ? 実感がないカ?」
「いや、そういうわけじゃない」
「そうカ。今までそんな力を持ったことがなく、絶対的な力に従ってきたんだナ? だから使い方がわからないんだロ?」
「……」
アスカの笑顔はそんなものじゃないはずなのに、俺が見慣れたクソッタレな笑みと重なってしまう。
誰がただ従って生きてきた人間だって?
それは俺の一番嫌いな人種だぞ。
静かな怒りがふつふつと沸いてくる。
「力の使い方がわからないなら面白いことを教えてやル。このことを宿屋で話さなかった理由ダ」
「なんだ、教えてくれ」
「わざわざこんな村に大きな宿屋が建つのはおかしいと思わなかったカ?」
それはクロと話したときに感じた違和感だ。その答えすらこいつは持ってるってのか。
ゴクリ、とつばを飲み込んでアスカの言葉の続きを聞く。
「今日、貴族が軍隊を引き連れてここに来ていル。数はそんなに多くないがナ。私が案内しタ」
「貴族って、目的はなんだ」
「具体的な話は聞いていなイ。そういう契約ダ。だが自分の領地の様子を見に来た、とは言ってたナ」
領地ということはここの土地はその貴族のものなのだろう。だったら安全だとわかってるはずだ。わざわざ軍隊を出す理由はなんだ。
何か嫌な予感がする。
「私も今日来たばかりダ。他に知ってることはなイ。だからお前にはアドバイスしかできなイ」
「アドバイス?」
「お前の持つレベルとスキルの力は絶対ダ。忘れるナ」
その言葉を最後にして、じゃあナ、とアスカは歩き去っていった。
空はすでに赤く色づいている。
全くノドを通ってくれないモヤモヤを残しながら、俺はクロの宿屋に戻った。