ダラダラとキレる
体を洗い終えたあと、俺は自分の部屋に戻ってダラダラとしていた。
特別する事もない。何か仕事があるなら手伝おうかと思ったが、さっきの今でクロと顔を合わせるのは気まずそうだ。
外に出て村の人達とお話する、なんていうのはちょっとガラじゃない。俺はどちらかというとコミュ症の人間だ。
このまま毎日ここの宿屋に居候して貰えるならそれはそれで楽なんだけどな。
コンコン。
半分眠りながら都合のいいことを考えていると、部屋のドアが二回ノックされた。体を起こして、はい、と返事をする。
ドアの隙間から顔を出したのはランの方だった。
「タモヒサさん、少し早いかもしれませんが、お昼はいかがなさいますか? ご要望がありましたらおっしゃってください」
「ああ、もうそんな時間なんですね」
「ここは昼前から忙しくなるので、その前に聞いておこうかなと。都合のいい時にお声掛けいただければ持って来ますよ」
一階は大きな食堂に見えた。昼から忙しくなる、というのは恐らく飯を食べに人が集まるからだろう。
その時間にご飯を頼むのは少し忍びない。
「2人は今から食べるんですか?」
「今から準備をして、そのつもりです」
「じゃあご一緒させてください。聞きたい話もあるので」
クロとのアレもそろそろ許してくれる頃だろう。
「ええっと……わかりました。ついてきてください」
ランは少しだけ目を泳がせたが、コクリの頷いてドアを全開にした。
階段を降りる背中に俺もついていく。
一階にあるテーブルの1つでぼんやりと待っていると、ほどなくして料理が運ばれてきた。
「お待たせしました。簡単なものですが、お口に合えば嬉しいです」
ランの後ろに隠れるようにしてクロが続き、二人で大きな皿を3つ持ってきた。
目の前に置かれた料理からはチーズのようないい香りがする。細かく千切られたパンの山のようなものにとろとろの白いソースがかけられていて、上に干した肉がたっぷりと乗っていた。
見るからにおいしそうな湯気を上げるそれに、思わずよだれが出る。
「では、いただきましょう」
「いただきます」
席に着いた二人はそう言ってから目を閉じて、静かに祈りを捧げ始めた。やっぱりこういった村のような場所では紙に対する信仰心が強いのかもしれない。
あいにくと神がどんな野郎かは知っている。あまり祈る気にもなれないが、見よう見まねで俺も続いた。
「いただきます」
静かな時間があってから、スプーンのような食器を取り、料理に口をつける。
柔らかい触感と濃厚でコクのあるソースの味。塩気の強い干し肉が、味にパンチを与える。
俺が食べたことある料理に例えるなら、まさしくチーズリゾットのような味だ。
「おいしいです」
「それはよかったです。私もクロも、作ったかいがあります」
俺の言葉にランはほほ笑んだが、クロは不自然に目をそらした。やはりまだ少し恥ずかしいのかもしれない。というかそういう反応されると俺も恥ずかしいからやめてほしい。
「この村のこととか教えてくれませんか。なんでもいいので」
話題をそらすために適当な疑問を振る。
「村の名前はガーデン。あまり広く村人の数も多くはないですが、昔からある村と聞いています。鉱石が取れる山のふもとにあり、今でも毎日、鉱山夫が山に出向く。そんな村です」
やたらと手慣れた説明に目を丸くしていると、ランは恥ずかしそうに笑った。
「宿屋を継ぐにあたって、練習していたんですよ。タモヒサさんのような旅人さんのために」
「ああ、そうなんですか。どうりで。……鉱山というのは、近くにある山のことですか?」
「はい。今から忙しくなるというのも、鉱山夫の方たちが昼食を食べにここに来るからなんですよね」
「なるほど。そういうことでしたか」
料理を口に運びながら考える。正直やることがなくて暇だ。1日部屋にこもってるにしても本当にやることがない。
「よろしければ、お手伝いをさせていただけませんか?」
「いえ、お客様の手を借りるような程では……」
「そうよ。あなたは客なんだから、おとなしくしてればいいの」
ランに続いて、クロが小さく反論する。そのセリフには少し恨みがこもってるな? さっきの俺は何も悪くないはずなんだけど。まぁいいもの見せてもらったから悪い気はしてないんですけどね。
心の中で愚痴りながらも、笑顔で答える。
「俺も泊めていただく手前、何もしないっていうのは嫌なんです。ぜひ手伝わせてください」
「そこまで言うのでしたら……」
ランがチラッとクロの方を見る。クロは少し眉を寄せながらも、拒否する様子はない。
「変なコトしないならいいけど……お姉ちゃんも無理なことはさせないでよ」
「もちろんです。クロもわがままは言わないでね」
思わず笑顔になるようなやり取りがあって、そうと決まればと俺はご飯を掻き込んだ。
めちゃくちゃ美味かったけど馬鹿みたいにあつい。舌がやけどするかと思った。次はやらん。