貴族にキレる
鎧を貫く感触。その先にはそれよりも硬い筋肉があって、深々と拳が突き刺さっている。
「ぐ、見事なり」
短い称賛を残して、アモンは地面に倒れた。
「ひ、ひいいいい!!」
「アモンさんがやられたならおしまいだああああ!」
申し訳程度に貴族を取り囲んでいた兵士が、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
もはや奴のそばに残る人間は一人としていなかった。
「おい! 待たんか! 貴様ら!」
「もう誰もお前の言うことなんか聞かねぇよ」
俺を恐れて震えている馬車の馬を撫でて落ち着かせてやる。その身を包む拘束具を、力技で外してやった。ブルル、と鼻から息を吐きだして、自由になった馬たちは思うがままに駆け出していく。
さて、残るは奴一人だ。
馬車の中に手を突っ込み、必死に逃げ出そうとしていた所を引きずり出す。
「ひぇ」
耳が腐り落ちるような醜い悲鳴。その体はもう人のものとは思えないほどにブクブクと肥え太っていた。
「わ、悪かった。何が欲しい? 金か? そうだ、アモンの代わりにお前を雇ってもいいぞ! 待遇は保証する。な、何が望みだ?」
「お前やっぱ何もわかってないな」
胸ぐらをつかみ上げて立たせてやる。二本の足で立つことすら久々なのか、そうしてやってもおぼつかない様子だった。
マジで豚だな。触りたくもねぇ。
「俺の望みは強いて言うならお前をぶん殴ることだけどよ」
「ひっ」
「その前に、お前は謝るべき相手も間違っている」
俺はクロとランの前に、貴族の野郎をぶん投げた。べちっという音と醜い呻き。貴族が顔を上げた先には、怒りの形相で見下ろす二人の顔がある。
周りを見れば、村人の誰もがそんな顔をしていた。
「悪かった! この通りだ! 傷ついた箇所があれば弁償する! タダで建て直してもいい! 許してくれ!」
「そういう話じゃないよ……」
「タモヒサさんの言う通り、何もわかってらっしゃらないのですね」
貴族はもうプライドのすべてを投げうつように土下座するが、その謝罪は二人には逆効果だったらしい。
ため息が貴族の元に降りかかる。
「わ、私はどうすればいいのだ……?」
もはや自分で考えることすらやめて、貴族は知能の足りてない顔で二人を見上げた。
ランとクロは顔を見合わせる。
「コイツをどうしたいか、決めていいってよ」
俺は貴族の頭を掴んで、二人に微笑みかけた。
貴族の顔がひくつく。
「えっと、どうしよう、お姉ちゃん」
「さっきのでわかりました。この人は話してわかっていただけるような人ではありません」
怒りすら通り越した全てを諦めている冷たい目。これほどまでに恐ろしい顔を俺は見たことがない。
「タモヒサさん。お願いします」
「あいよ」
こいつをブッ飛ばせるなら俺だって本望だ。
無造作に投げ飛ばし、地面を転がしてやる。丸々と太った体はボールみたいによく跳ねた。
「な、何を!? いや待て、待つのだ!」
「命乞いすらマトモにできねぇ奴に生きてる価値はねぇんだよ!!」
1、2、3歩。大股で踏み込み、足を振り上げる。
「死ねッッッッ!!!!!!!!」
全身全霊、全力の蹴り。つま先が柔らかい脂肪の中へどこまでも突き刺さる。
打ち上げられた体は、とおく遥か彼方に飛んで行った。
次辺りで完結します
人気が出たら続ける予定でしたが、そう上手くは行かなかったので




