ハリボテにキレる
放つ拳はすべて長い柄によって裁かれる。返しで放たれるハンマーは両手で防がなければならないほどに重い。
何故だ、ここまでレベルに開きがありながら、なんで。
「疑問か」
分厚い兜の奥で、アモンは低い声を鳴らす。
「どうやってそこまでの領域に至ったかは知らぬ。だが刃を交わせばわかる。貴公、こうした決闘は初めてであろう」
「それがどうした」
「我がレベル、貴公から見れば低いものかもしれぬ。だがこれは数々の敵との決闘の末に高めたもの」
セリフの合間にハンマーが振りぬかれる。不意を突かれて回避が遅れた。両手でガードせざるを得ない。
ミシミシィ……!
骨がきしむ音。もう一度、俺の体は紙くずのように飛んだ。
「重みが違う。だから貴公をハリボテと言った」
地面に倒れ伏す俺。それを見下ろす、絶対的で巨大な影。
またこの構図か。
「はっ、俺が軽いだって?」
奴が決闘で高めたレベルなら、俺のは怒りで高めたレベルだろう。
俺が何か悪いことをしたのか? 俺は何もしてないよな? それはそうだ。お前らが俺の自由を奪ってるんだから。じゃあなんで俺はどんどん苦しくなっていくんだ?
何でもいいから行動を起こせと? ロクな結果にならないことは知っているんだ。どうしろって言うんだよ。なぁ、親父。
こんなもの、人間をやめてやるしかないじゃないかよ。でもそれができるならとっくの昔にやってんだ。
お前に俺の何がわかる。
この煮えたぎる感情が薄っぺらいって言うんならそうかもな。事実、俺は空っぽだったよ。だがな。
自分のためって大見得を切った手前だが、今はちょっと、半分ぐらいは誰かのためにキレてるんだ。
「そういうお前はなんでここに来て俺と戦ってるんだ? そこの貴族に指示されたからか?」
「我は騎士。王命に従うのみである」
「じゃあそこの貴族の命令が正しいことだと思ってんのかよ」
「……我の意志は関係ない。導きこそが正しいのである」
「お前も結局空っぽ野郎じゃねぇか!」
この怒りが軽いだと? 何も考えずただ戦ってるだけのお前より、俺の拳が軽いだと?
よく言えたもんだ。
「うおあああ!!」
「ふんッ!!」
ハンマーの先と拳がぶつかる。鼓膜が破れそうな衝撃音が響いた。
力比べは一瞬の間だけ互角だった。だがすぐに俺の拳が砕けて、ハンマーに払われる。
「があっ!!」
体に直撃して吹き飛ばされる事は避ける。どうせ骨が砕けてもすぐに元に戻るんだ。関係ない。
続く横薙ぎの一撃を左腕で受け止める。少し体が浮いたが、すんでのところで踏みとどまった。
右腕はもう回復している。拳をアッパー気味に振りぬいた。
「くうッ!」
苦しげな声を出しながらも、アモンは素早く後ろに飛び下がる。重い鎧を着ているとは思えない動きだ。マジでハリボテなんじゃないか、それ。
「フッ、さっきの言葉は取り消そう。貴様は我が絶技で葬る」
「あっそ!!!!!」
今の一連の攻防で確信に至った。間髪入れずに距離を詰める。
「はあああああ!!」
アモンが叫びながらハンマーを握り締める。鍛え上げられた鋼鉄の十字架が、激しい光をまとい始めた。
体を大きく回転させ、そのまま大きく振りかぶる。
「聖十字一閃!!!」
叩きつけられるハンマーの軌跡が大きな十字を描く。アモンの全身全霊の一撃。
両手を掲げ、それを受け止める。
「うおおおおおおお!!」
「ハアアアアア!!」
地面にヒビが入るほどの、強烈な技。
だが。
「あああああ!!!!」
全身全霊で叫び、腕に力を込める。
ビシッ! バキィッッッ!!
アモンのハンマーが粉々に砕け散った。光の束がはじけ飛び、太陽の日差しの中に溶けていく。
俺のスキルはブチギレベル。キレればキレるほどレベルが上がり、強くなる。
今、俺の怒りがお前を上回った。
先端の無くなったハンマーの柄を左手で掴み、グイッと引き寄せる。
「あばよ、鉄人形」
その無駄にでかいどてっぱらに、ようやく右の拳を打ち込んでやった。




