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聖十字にキレる

「行け! いくら覚醒者といえど数がこちらが上なのだ! 押しつぶせ!」


 貴族の声にも焦りが見える。覚醒者ってのはレベルを持ってる人間ってことか?


「そんな大層なもんじゃねぇよ。覚醒者? 違うね。俺はお前をブン殴る者だ」


 その力があるかどうか。それは、今に見せてやる。

 鎧を着た、レベルのブーストがない人間よりもこちらの方が素早く動ける。怒涛のように押しかけてくる兵士をそのまま力で押し返した。

 やれる。今の俺にはそれができる。


「邪魔だ!」


 腕を振り回し、目の前の兵士を突き飛ばす。それだけで10人近くが地面に倒れた。

 圧倒的だ。このままあの貴族をブッ飛ばしてやる。


「いけ! 少年!」

「やっちまえ!」


 村の人間も無責任なヤジを飛ばしてくる。多少仕方ないとはいえ、クロ達のことを見捨てていたくせに。

 まぁこっちの味方に付いてくれるなら好都合だ。これでこの一件が終わった後も、クロ達は苦労をしなくて済む。

 どれだけの人数でかかっても意味がないのを察したのか、兵士たちは突撃をやめて再びじりじりと距離を取り始めた。


「何をしている! 早く奴を倒さんか!」

「で、ですが我々には手を付けられません!」

「くっ……おい、出番だぞアモン!!」


 貴族の男が横を向いて怒鳴る。誰か隣にでも座っているのか?


「御意」


 ジッと睨みつけていると、馬車の中から大きな影が飛び出してきた。

 太陽の光を阻むように空を飛んで現れた巨躯が、俺の目の前で派手に着地する。

 有象無象の兵士とは比べ物にならないほどの圧。派手な装飾が施された分厚い鎧をまとい、右手には十字架を模した長いハンマーを持っている。

 見るからに重そうなそれを軽々と振り回し、その先端を俺に突き付けた。


「我が名は聖十字の騎士アモン。辺境の覚醒者よ。名乗るが良い」

「お前も覚醒者なんだろ? 聞かなくてもわかるんじゃないのか」


 アモン Lv.32


 俺の視界にはそう表示されている。アスカの言葉を信じるならコイツも俺のレベルと名前を確認できるはずだ。その絶望的な差も。

 俺のレベルはあともう少しで3桁になろうとしている。


「古き決闘の習わしである。名乗るが良い」

「ああ、融通が利かないんだなお前。俺の名前はタモヒサだ。こっちじゃ珍しいか?」


 あだ名を名乗ると、アモンは少し間を置いた後、ハンマーを高く振りかぶり構えた。


「事情は知らぬがこれも天の導き。押し通る」

「お前も敵になるんならブン殴るだけだ」


 拳を握り締めて距離を詰める。その長い武器は近距離だと使いづらいだろ。

 一気に懐に潜り込んで、無防備な腹に向かって拳を振りかぶった。


「むん!」


 渾身の一撃を振りぬく前に、アモンが柄で俺の拳を振り払う。体勢を崩された。

 防御の薄くなった所にハンマーの一撃が迫ってくる。

 どんだけレベルの差があると思ってやがる。片手で受け止めてやればいい。

 手のひらを突き抜ける凄まじい衝撃。肘の肉を食い破って、中から骨が出てくるんじゃないかと思うほどの、そんな破壊力。


「ぐっうっ!」


 倍以上のレベル差があるはずの俺はいとも簡単に弾き飛ばされた。

 全身で地面を掴み、すぐさま立ち上がる。もう痛みはない。レベルが上がり続けている間は、やはり無敵だ。

 だからこそ、今の一撃に不自然さを感じずにはいられない。


「修羅のごときレベル。挑んでみればただのハリボテか」


 ハンマーを構えなおしながら、アモンは俺を挑発する。


「言ってろ。負けて後悔するのはお前の方だぜ」


 俺も拳を握りなおした。

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