ブチギレ転生
お待たせ。まった?
髪の毛を引っつかまれ、頭だけ上げさせられる。
視界の先では、大きな樽とたいまつを持った兵士が宿に向かって歩いていた。
「やめて! お願い!」
「嫌だ! 嫌だぁ!」
二人の叫びを拾うものはいない。仲良くしていた村人の皆も、貴族に逆らうのは恐ろしいらしい。
力だ。力がないものは結局、こうして屈服するしかない。
「力……?」
ここまで来て、やっと俺は思い出した。いや、考えないようにしていただけかもしれない。
自分のステータスを見る。腕は動かせなくても念じるだけでそれは表示された。
Lv.6
HP 98/98
MP 6/6
上がっている。こうして俺が確認している間にも、レベルは7に変わった。
そう、心のどこかでは理解しているんだ。自分がどうしたいか。でもそれを封じて生きてきたから、我慢に我慢を重ねて生きてきたから、自分に嘘をつくことだけ上手くなってしまっていた。
それが一番くそったれだって事には、とっくの昔に気付いているのに。
「はは……」
拳を握り締める。ちょうどそこにあった草が、小気味いい感触と一緒に根から離れた。
お前の持つレベルとスキルは絶対的な力ダ。
アスカの言葉が繰り返される。
もう恐れなくていい。もう理不尽に屈しなくていい。選択権は俺にある。
俺の行動で少しでも未来が良い方向に変わるなら、それでも何もしないほど俺は腑抜けに落ちぶれたのか?
「あれだけ言われてたのに気づくのが遅いんだよ」
力のまま横暴を繰り返す貴族にも。
剣を振りかざして威張り散らかす兵士にも。
正しくないとわかっているのにビクビク震えて動かない村人にも。
そして、俺自身にも。
全部、全部全部全部全部全部全部全部全部!!
「あッッッッッッッッッたまにキたぜッ!!!!」
俺を抑える兵士たちを薙ぎ払う。あれだけ重苦しく感じていたはずの枷はびっくりするほど簡単に吹き飛んだ。
「な、何!?」
「え……」
騒ぎ出し始める周りをよそに、今まさに樽の中身をブチまけようとしていた兵士の腕をつかむ。
「ぐあ! 何を!」
「お前は黙ってろ」
空いた手で、たいまつの火を握りつぶした。肉が焼ける音。経験したことのない痛み。
だが俺が手を開いてやけどを確認するころには、その傷はきれいさっぱり無くなっていた。レベルを見ると、もはや秒刻みというレベルで上昇している。
ゴブリンに襲われたときに軽く疑問に思っていたことが確信に変わった。
レベルが上がるとHPが全快する。つまり俺がキレている間は、どんなにダメージを受けようがすぐに回復するわけだ。
無敵だな。
「ふふ、ははは」
「ひぃ!」
全能感に思わず笑ってしまったが、それがよほど恐ろしかったのか兵士は尻もちをついて後ずさる。
「痛くないの……?」
凍り付いたような静寂の中、一つの声が上がった。
それは俺が初めて出会い、俺をここに導いてくれた声。
「ここが燃やされるよりマシだろうが。俺は俺が正しいって思ったことをやる」
こちらをじっと見つめる視線に振り向く。気圧されて、兵士の何人かがクロから手を離した。
「だからクロ、最後に一つ教えてくれ。お前の本心の気持ちを。俺は今からコイツらをブン殴るつもりだが、いいか?」
最後に俺を縛るもの。こんな状況で口にするのも陳腐だが、もしかしたら余計なお世話なんじゃないかというしょうもない確認。
貴族に従っていれば手に入った金とか、村の発展とか、そういうのは要らないのか? と。
「俺も嘘が大ッキライだ。お前の本心を教えてくれ」
「もちろん、そんなの決まってるでしょ」
フフッと噴き出してから、クロは答えた。
「お願い! どれぐらい感謝すればいいかわからないけど、私たちを助けて!」
「いいぜ。ここで食う飯は格別だからな」
最後の心配事は吹き飛んだ。これで思いっきり暴れられる。
「ふざけるな! これだけの人数を相手に、生身の人間がたった一人で……」
「さっきから一番ゴチャゴチャうるせえんだよお前がぁ!!」
クロに刃を向け、ランを侮辱したクソ兵士。奴が前に出たので、ちょうどいいといわんばかりに殴り飛ばしてやる。
鉄が折れ曲がり、骨が砕ける音。重い鎧に包まれた体は10mほど宙を舞ってから地面に激突した。
「ひぇっ!」
「うわああああ!」
「覚醒者!? なんでこんな村にいるんだ!?」
その光景にビビり散らかして、兵士は一目散に俺から距離をとった。
ランとクロの前に立ち、俺はバキバキと拳を鳴らす。
「火がついちまった。コイツはそう簡単に消えねぇからな?」
数だけはやたら多い。今までの八つ当たりにはちょうどいいってもんだ。




