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不穏にキレる

「あ、タモヒサ!」


 返ってきた俺の姿を見るなり、クロはパタパタと俺に近づいてきた。


「教会には行った!?」

「いや」

「じゃあ、お姉ちゃんとすれ違ったりしなかった!?」

「見てないな。何かあったのか」


 矢継ぎ早に繰り出される質問から焦りが感じられる。俺の予感、アスカの予言じみた忠告が早くも的中したってのか。


「何かあったってわけじゃないけど、鉱山の人たちもお姉ちゃんもみんな呼び出されて、何か大事なことがあるみたいなの」

「大事なことか」

「私はタモヒサが帰ってきたときのために残ってなさいって言われたけど……あ!」


 クロが顔を上げ俺の背後を見る。振り返ると、夕日を背にランが帰ってくるところだった。

 軽く地面に落とされた表情は、影に覆われてみることができない。


「お姉ちゃん! どうだった? 何の話だったの?」

「もう、落ち着いて中で話しましょう。大丈夫、変な話ではないから」


 飛びついたクロに向けられた表情は優しい。

 俺はその微笑みに裏を感じずにはいられなかったが、クロはそれで安心したようだった。

 一階の丸い小さなテーブルに、三人で向き合うようにして座る。


「念のために確認しますけど、俺が聞いてもいい話なんですか?」

「ええ。むしろタモヒサさんから聞いていただけることに感謝しています」


 どうやら重要な話であることに変わりはないらしい。

 手を膝に置いて、集中して聞く。


「今日、王国の方からこの村の領主であるファシネウス様が来られました」

「ここの領主って、どういうこと?」

「この村の土地の持ち主ということです」


 いまいち理解が行ってなさそうなクロに、俺が補足を入れる。


「この村の人間は、そのファシネウスって人に逆らえないってことですね?」

「あまり後ろ向きなことを言いたくはありませんが、そうですね」


 クロが心底驚いた顔をする。この村が自分たちのものではないということすら知らなかったのだろう。


「みんなこの村から追い出されちゃうの?」

「そういうわけではありません。今日来られたのはこの村の様子を見に来ただけ、らしいです。明日、村の全体を見て回ると聞きました」


 ランの言うことはアスカから聞いていた話と同じだ。


「余計な心配をかけさせましたね。クロ。ようは明日、貴族様が来られるのでここをキレイにしておこうという話です。父さんから受け継いだこの場所で、粗相があるわけにはいきませんからね」

「ああ、そういうことか。心配させないでよ、お姉ちゃん」


 そういってから笑いあって、クロは勢いよく椅子から立ち上がる。


「お客様であるタモヒサさんにお願いするべきことではないのですが、よろしければ手伝っていただけませんか?」

「いいですよ」


 ランの願いにこたえて、俺も椅子を立った。

 今の話を聞いただけならば大丈夫そうだ。俺もこの二人の力になりたい。

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