第一話『ユメ』①
七月も半ばを過ぎ、学生は目前に迫る長期休暇に浮つき始める、そんな時期。
市立逢之川中学校に通う生徒たちもその例に漏れず、皆思い思いに夏の予定を語らいながら学び舎を出ていく。
そんな人の減った教室の隅に、少年の姿はあった。
ぼーっと窓の外を眺めながらその日の授業をやり過ごしたマコトは、側から見ても心ここにあらずといった具合だった。
窓に映るのは、広大な田畑。あるいは、古い木造の民家。はたまた、鬱蒼と生い茂る森。こんな片田舎の景色なんて、どれだけ眺めていても面白くもなんともない。
そうして無駄な時間を過ごして、今日も一日を終える。「あの出来事」以来、マコトは完全なる無気力人間だった。
「マ、マコト……。ねえ、マコト」
ふと、降りかかる声があった。
声の主は、恐る恐るといった様子でマコトの目前で手を上下に振る。
「……カズ」
カズ、と呼ばれたその少年は、おそらくは図書室の本と思われる数冊を脇に抱えながら眼鏡をくい、と持ち上げた。
「マコト、その……まだ彼女のこと……」
「……」
彼女。マコトにとって、それが誰を指しているのかは明白だった。
「校長先生も集会で言ってたじゃないか。彼女のことで思い詰めてはいけない、これはこの村で生きる以上仕方のないことだからって……」
「ああ、言ってたな」
マコトは相槌こそ打つものの、その表情は険しく固まっている。
納得がいかない。まるで顔にそう書いてあるかのようだった。
「……あっ、ほら! そろそろ時間だよ。みんな集まってる頃だ。夏の予定、決めるんでしょ」
眼鏡の少年の言葉は、その場の気まずい空気をごまかすためのものであったが、しかし同時に事実でもあった。
いつものメンバーで夏休みに全力で遊ぶ。その予定を立てるために、学校の空き教室に集まるのだ。
「……みんなを待たせるのは悪い。すぐ行くよ」
マコトは教科書を適当に鞄へ放り込み、席を立つ。しかし、その足取りはどこか重たく、沈んでいた。
いつものメンバーに、彼女はもういない。
楽しいはずだった今年の夏は、もうこない。
あの出来事が起きてから、すべての歯車が狂い始めてしまった。
それは、一ヶ月前の出来事だった。
☆★☆
ユウナは、誰にでも分け隔てなく接するおっとりとした少女だった。
おしゃべりと甘いものが好きな、どこにでもいる中学二年生。
テストの点は平均よりちょっと下で、数学が苦手。
少し抜けているところがあって、天然気味。だけどそこがまた可愛らしく、同級生から先生に至るまで、誰からも好かれるような性格をしていた。
そんな彼女が、唐突に姿を消した。
先月のことだった。ある日を境に、ユウナは学校に姿を見せなくなった。
当然親に連絡が行ったが、母親は「いつも通り学校へ向かった」と答えるのみ。
つまりユウナは、家を出てから学校にたどり着くまでの一瞬の間に足取りが掴めなくなったということだった。
この件に関して警察は──動かなかった。
事件としては扱われず、粛々と「行方不明」ということで話がまとめられていった。
当然マコトや、その友人たちは反発した。なぜ彼女を探さないのか。もしかしたら何かの事件に巻き込まれたのかもしれない。今すぐに彼女を探してくれ、と。
しかし、この村──逢之川村に住む大人たちは、口を揃えてこう言った。
ユウナは、ユメカガミの神隠しに遭ったのだと。
☆★☆
三年四組。村全体の人口が減少傾向にあるのが影響してか、空き教室になっているその部屋。積まれている机と椅子を五つほど崩して、適当に円形に並べてある。
集まっているのは合計四人の男女。
身長が低く眼鏡をかけた少年、カズキ。
コワモテで近寄りがたい雰囲気を持つ男子生徒、コウスケ。
セミロングの髪をポニーテールにまとめた勝気な瞳の紅一点、アスカ。
そして、今も上の空なマコトだ。
「夏っつったらやっぱ海だろ」
コウスケは、これしかないとばかりに宣言をした。しかしそれに対し、アスカは下敷きでパタパタと顔を扇ぎながら反論する。
「あたし、潮風でベタつくのって嫌いなのよね。屋内プールとかで十分よ」
「はぁん? 潮風を全身に浴びながら大海原へ乗り出すのが男のロマンってもんだろうがよ」
ま、アスカには分からないだろうがな、とコウスケは嫌味を込めて付け加えた。
「あ、あのさ。そもそも、海まで遊びに行くお金なんてあるの……?」
この場にいるのは全員中学二年生だ。金銭的に余裕がある者なんておらず、カズキの指摘は図星だった。
「でもよぉ、この村にいても何にもねえぜ? なんつうか、こう……息苦しいだけだ」
コウスケは少し苦々しげな顔をして、俯いた。
「それに、いろいろ思い出すんだよ、この街にいると」
「……」
言いにくそうに口をもごもごさせるのは彼らしくもなかったが、その話題をする以上誰もが閉口せざるを得ないのは、間違いのないことだった。
いたたまれなくなったカズキは、つい目を背ける。しかしその視線の先に映るのは、一つだけポッカリと空いた椅子だ。
本来、ここに座っているはずだった少女。
面影を感じるたびに心が重くなるのであれば、いっそこの椅子は片付けておくべきか。カズキがそう思った時だった。
「……みんな」
今日この場所に集まってからマコトが口を開いたのは、これが初めてだった。
「みんな、やっぱりおかしいと思わないか」
「何が」という部分が抜け落ちていたにも関わらず、その場にいた三人は正しく意味を理解していた。理解した上で、コウスケは改めて問うた。
「何が、おかしいってんだよ」
「ユウナだよ」
まるで禁忌の言葉を口にしたかのように、三人の表情が暗くなる。その名前を口にするのは皆が避けていたのに、マコトは堤防を決壊させてしまった。
そして、決壊して溢れだした濁流が、言葉となって押し寄せる。
「マコト、いい加減現実を見ろよ。俺だって辛いけどよ……もうあいつがいなくなって一ヶ月だぜ」
「忘れろ、なんてあたしには言えないけどさ。切り替えて、先のことを考えないと。そうしないと、いつまでも辛いままでしょ……」
二人の言葉は正論で、マコトにもそれは分かっていた。分かってはいても、心で納得できるかどうかは別問題だ。
マコトにとって、「もう一ヶ月」ではなく「たった一ヶ月」だ。時間を使って、ひたすら考えた。そして結論付けたのだ。事の真相をこの目で確かめるまでは到底納得できないと。
だからこそ、マコトは皆に問いかけた。
「じゃあさ、みんなの気持ちを聞かせてくれよ。大人に『ユメカガミの神隠しだ』って言われて、正直納得できたか? はいそうですかって、割り切れたのか?」
その言葉は痛烈だった。その場に、神隠しについて納得している者なんて一人もいなかったのだから、当然だ。
「マコトの気持ちは分かるけど……でもどうすんのよ? 鈴鳴神社まで行って、ユウナを返してくださいって手でも合わせるわけ?」
「あ、あそこには近づくなっておばあちゃんが言ってたよ……」
「それも大人の言い分だろ。それに、理由も言わずに近づくなってのも変な話だ」
「結局、何が言いたいわけ? 回りくどいわよ」
本題に入れと急かすアスカの言葉に、マコトも頷いた。気心の知れた仲だ。余計な前置きはいらないだろうと、マコトは隠していた本心を口にした。
「僕は、大人が何か隠してるんじゃないかと思ってる」
「隠すって、何をだよ」
「分からない。だが、変な感じがするんだ。何か……うやむやにされているような。誤魔化されているような」
要領を得ない発言ではあったものの、不思議と誰も突っ込みは入れなかった。それはつまり、皆が同じような感覚を持っているということに他ならない。
「で、でも、具体的にどうするの? 大人に聞いても何も教えてくれないよ」
「……まずは、郷土資料館だ」
郷土資料館。村の中心部にある役場に隣接した建物で、この逢之川村に関する歴史や記録等が保存されている建物だ。
「あそこで、ユメカガミについて調べる。大人には頼れない。言っても反対されるだけだ。だからこれは、僕らだけでどうにかしなきゃいけない問題なんだ」
村人ならば誰でも閲覧可能で、鈴鳴神社や、そこに祀られるユメカガミについての記述も見つかるかもしれない。それがマコトの考えだった。
「別に手伝ってくれとは言わないよ。だけど、そういうことだから……今年の夏は、僕はどこにも行けない。悪いな」
それを聞いて、三人は顔を見合わせる。
「んだよ、水くせえな」
「そうだよ。僕らも納得してるわけじゃないし……ユメカガミが何なのかは、気になるところだからね」
「ま、この夏はどこかに遊びに行くって気分じゃないのは確かね」
皆が頷く。マコトはありがとう、と小さく応え、立ち上がった。
「明日から行動開始だ。……これで全部、はっきりさせよう」
☆★☆
どうしてユウナなのだろう。
あの出来事以降、マコトの脳内は常にそれだった。
マコトとユウナは保育園時代からの幼馴染だ。今となってはどうやって知り合ったかすら覚えていないが、逆に言えばそれほど昔からの仲だった。何をするにも常に一緒で、昔はマコトの後ろをトコトコとついていくユウナという構図が年中見られていた。
中学校に上がってそういう年頃になったというのもあり、毎日一緒に登下校するようなことはなくなったが、それでも二人の距離は常に一定を保っていた。中学から新たに加わった仲間のアスカも加えて、五人で過ごすことが増えた。
ユウナは誰にでも優しく、学校ではマコト以外にも多くの友人がいた。対するマコトは捻くれ者で、自分なんかとつるまずにみんなと仲良くすればいいのに、というのがマコトの見解だった。しかし、ユウナが彼のそばを離れることはなかった。
「なあ、なんで他の奴らとつるまないんだ?」
あるとき、マコトは聞いたことがあった。去年の春……つまり、中学にあがった頃の話だ。
「えぇ? なんでって、どういうことー?」
「おまえ、他にも友達多いじゃん。わざわざ僕らとつるまなくても、引く手あまただろ」
「ああ、そういうねー」
なんだそんなことか、とユウナは笑った。彼女は、心の底から大したことではないと思っているようだった。
「そりゃ、決まってるでしょ。私がいないと、マコトが一人ぼっちになっちゃうからだよ。ま、今はカズくんとかコウくんとか、アスカちゃんとかいるから、昔よりはマシだと思うけどねー」
「なんだよ、それ。僕がぼっちだって言いたいのか?」
「違うの?」
「違う。他人と話すのは疲れるから、あえて一人でいることを選択しているだけだ」
「そういう態度だから友達が少ないんだねー。本当は寂しがり屋なくせに」
「やかましい。おまえみたいな社交性は僕にはないんだよ」
「うんうん。そのほうがマコトっぽくていいよ」
どういう意味だ、と詰め寄ると「あははー」と笑いながらユウナが躱す。
これが二人のやり取り。これが二人の呼吸だった。
なんでもない、日常の風景。
今はもう戻ってこない、あの頃の思い出。
☆★☆
明くる日の放課後。マコト、カズキ、コウスケの三人は、いつもの帰り道を逸れて、郷土資料館に向けて足を進めていた。
「そういえば、アスカはどうしたんだ?」
「今日は部活だってさ。夏の大会前で、さすがに外せなかったみたいだよ」
「そりゃそうか」
アスカは逢之川中学テニス部に所属しており、二年生にしてすでにエースと呼ばれるだけの実力を持っている。そんな彼女が、この大切な時期に部活に顔を出さないなんてわけにはいかないだろう。
「んでも、あいつ練習なんてしなくても十分強えだろ」
「そりゃ、僕らから見ればな」
アスカは(マコトやカズキとは正反対に)いわゆるスポーツ万能型で、どんな種目でも少し触れば人並み以上の実力を発揮できるタイプだ。それゆえに彼女は、一年生の頃は様々な運動系の部に助っ人として活躍していた、という過去を持つ。
天才型だからこそ、周りからの恨みを買うこともあったようだが……ユウナと友達になって、それからマコトたちと行動を共にするようになってからはそういった面倒事とも無縁のようだ。部活もテニスに絞り、真剣に取り組んでいる。
ゆえにマコトは、アスカを調べ物に無理に付き合わせるのは悪いように感じていた。
「仕方ない。僕ら三人で調べよう」
「俺、活字読んでると五秒で寝るタイプなんだが……」
「これも事件の真相を解明するためだ」
「分かってっけどよぉ……」
文句を言うコウスケを宥めていると、そこでようやく目的地が見えてくる。
郷土資料館。さほど大きな建物ではないが、入り口に木彫りの看板が掲げてある。
逢之川村に住む学生であれば、小学校の時に一度は連れてこられる場所だ。ただし、小学生が村の歴史などに興味を持つはずもなく、不人気な行事の筆頭だった。
しかし、そんな場所に今日は自ら乗り込む。
「……行くぞ」
『ユメカガミ』とは何なのか。ユウナを奪ったその鏡についての情報を知るべく、三人は郷土資料館へ足を運んだ。
☆★☆
「……なぁ、おい。まだ続けんのか? 俺ほんとに、もうダメだぁ……ふわぁぁ……」
「寝るな寝るな。新聞担当だろ? コウが進めないといつまで経っても減らないんだぞ」
「ボクらはもっと量の多い文献を読んでるんだから、新聞くらい頑張ってよ」
何十年分も溜め込まれたこの村にまつわる資料を漁る三人。机の上にはよく分からない本や資料が散乱しており、これまでの努力が伺えた。
「夏休みの自由研究で村について調べるんです」と適当なホラ話をでっち上げ、郷土資料館で調べ物を開始して既に三時間。勉強慣れしているカズキはともかく、座学より体育を地で行くコウスケにとっては、それなりにストレスが溜まってくる時間帯だった。
「なあカズキ。結局何か分かったのかよ」
「ううん……分かったような、分かってないような」
「何だそれ」
「それが、どの資料を見ても詳しいことが書いてないんだ」
カズキは机の上の山から一冊の本を掘り出し、ページをめくる。
「ここだ。鈴鳴神社について」
カズキが見つけたとある資料には、大人の身長を超えるほど大きい円形の鏡のスケッチとともに、こう記載されていた。
鈴鳴神社について。逢之川村が「逢之川村」という名前になる前から存在しており、由緒正しい神社。祀られている『ユメカガミ』は、古くからこの村に住む人々を見守ってきた。その鏡は内なる己を映し出すと言われており、心の奥底に隠された願いを明らかにするという――。
「あぁ? んだよ、古くからこの村に云々ってのは」
「そう、すごくふわっとしてるんだ。そして、この続き……」
カズキはそこに連なる文章を指し示す。
『ユメカガミ』は、人々に『ユメ』を見せる。ユメとはつまり、心の奥底に隠された願いだ。しかし、その対価として時折『贄』を求めるという。贄に選ばれた者は、ユメカガミが見せる『ユメ』に囚われ、その一生を鏡の世界で過ごすことになると言われる。特に若い子供はその影響を受けやすいとされ、ユメカガミに近づくことは禁じられている──。
「これが、大人たちが言ってた神隠しのことなんだろうな……」
しかし、横から覗き込んでいたマコトは違和感に気がつく。
「でもこれ、実際に行方不明になった例に関しては記載がないよな」
「そうなんだ! そこが不思議なんだよ」
何か新しい知識に触れているときのカズキは興奮気味になることが多いが、これもその一つに該当するらしい。カズキは本を睨みつつ、顎に手を当てている。
「どれだけ探しても、『実際に失踪した人』の記録がないんだ。コウスケの代わりに新聞も目を通してるけど……やっぱりどこにもそんなことは書いてない」
「んだそれ、おかしいだろ。だってよ――」
コウスケは決して頭の回転が早い人間ではないが、それでもその違和感を指摘することくらいはできた。
「だって、俺たちのよく知るユウナは本当にいなくなっちまったんだぜ?」
「……」
ユウナは鏡の世界へ消えてしまったという。しかしユメカガミによる神隠しは、伝承だけが先行して前例に関する記録がない。
そういうものと言われればそれまでではあるが、事実ユウナは消えているのだ。自分たちの知り合いだけが神隠しに遭うなんて、そんな都合の良い話があるだろうか? ――少なくとも、マコトたちにはそう思えなかったのだ。
「ああ、今になってようやく実感が湧いてきたぜ。マコトが言っていた違和感……お前の言ってることは、単なる絵空事じゃないのかもしれねえ」
「なんだよ、適当言ってたと思ってたのか?」
「そんなことはねえよ? でもよ、そう簡単に受け入れられる話でもねえだろ」
マコトとしても、コウスケの言っていることは正しいと感じた。
そもそもの話、「鏡が人を贄として連れ去る」なんて、そんな現実味のない話があるかということだ。都市伝説か、怪談でしか聞いたことがない。
ユメカガミにまつわる話には、何か気持ちの悪い違和感みたいなものがつきまとう。それこそ、鏡が見せる幻に包まれているかのように。
「やっぱり僕は、ユウナが神隠しに遭ったなんて言われても、そう簡単に信じられない。自分のこの目で確かめるまでは、納得したくない」
もちろんそれは、ユウナがいなくなったことを認めたくない気持ちも込みだ。だが、それ以上に、大切な人がいなくなったことを曖昧な理由のまま片付けたくないという気持ちが大きかった。
そしてその話を黙って聞きつつ、資料に関して考察を進めていたカズキが一つの結論を出した。
「結局ユメカガミが何なのかはイマイチわからなかったけど、でも一つ収穫もあったよ」
「収穫? カズ、何か分かったのか?」
「うん。もう一度資料を見てよ」
カズキは資料を指し示し、二人はそれを覗き込む。二人には何も気づけなかったが、カズキはこの限られた情報から何を導き出したのか。
「この資料を見る限り、鏡によって神隠しに遭った人間は『死んだ』とは一言も書いてないんだ。つまり……」
「……まさか、ユウナもどこかで生きてる可能性がある、ってことか!?」
椅子を蹴って立ち上がったコウスケに対し、「そうと決まったわけじゃないけどね」とカズキはあくまで慎重な態度を取った。
「ボクらにとって、ユウナは大切な仲間だ。もしわずかでも彼女を取り戻せる可能性があるのなら……」
尻すぼみではあったが、カズキの言葉に二人も異論はなかった。気持ちは同じだ。
一縷の望みに懸けて彼女を追い求める――これは大人にはできない、彼等だけの戦いだった。
「にしても、今回はカズキが大活躍だったな。俺にゃさっぱり分からなかったぜ。眠気もどっか吹っ飛んじまった」
「元からコウスケに頭を使うことは求めてないよ」
「んだと」
カズキに食ってかかるコウスケを見て、マコトもつい笑みを零してしまう。
思えば、久しぶりに笑ったような気がした。これも、二度と取り戻せないと思っていた彼女が帰ってくるかもしれないという希望ゆえか。
なんにせよ、行く先に僅かながらも光が差した。それだけで、ここに来た意味はあったはずだ。