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無感情の少年は母親を亡くす。

初投稿です。よろしくお願いします。

──僕は、生まれつき感情がなかった。


赤ん坊の頃から涙を一切流さず、笑い声をあげる事すらしなかった。嬉しいから笑う、悲しいから泣く、苛立たしいから怒る。そんな当たり前の事すら僕は出来なかった。


──僕は、色がわからなかった。


何もかもがシロとクロでしか判別できない。どんなに綺麗な宝石を見ても、外に落ちている石と同じにしか思えなかった。


──僕は、痛みを知らなかった。


転んで膝を擦りむいても、落とした皿の破片で指を切っても、なんの感情も得られなかった。



僕は、一体…なんなんだろう?





──────────────────────


──僕は、愛を受けていた。


お母様は僕を必死に愛してくれたと思う。お父様は僕の事を『兵器』としか見ていなかったし、お兄様は僕のことを避けていたけど。それでも、きっと僕は愛されていたんだと思う。


お母様は僕の代わりによく泣いていた。そんな風に産んでごめんねってずっと泣いていた。なんで泣くの?って聞いたら貴方に申し訳なくってって返された。…自分のためじゃなく、誰かのために泣く事は優しい人しかできないって教育係のおじいさんが言っていた。だから、お母様はとても優しい人なんだ。そんな人を僕は泣かせてしまった。だから僕も生まれてきてごめんねって言ったらお母様はもっと泣いてしまった。僕はまたお母様を泣かせてしまった。


──僕は、恵まれていた。


この国の建国に深く関わり、現国王を排出する家である、アルトルージュ家。それが僕の家だった。と言っても、僕自身は建国に関わっていないのだし、貴族や平民の差なんて僕にはわからないからあまり実感はないのだけれど。


それでも、アルトルージュに生まれたのは恵まれているのだろう。教育係のおじいさんも、僕とまだ話をしてくれた頃のお兄様も誇らしげに教えてくれた。アルトルージュはこの国で一番恵まれた家であると。


──僕は、才能があった。


小さい頃から剣と魔法の訓練を始めた。教育係のおじいさんは目を見開いて驚いていた。どうやら僕は『天才』らしい。この世界には魔王という僕らの世界を壊そうとする人がいて、その人に対抗できるかもしれないらしい。教育係のおじいさんは嬉しそうに僕に語った後お父様に報告しにいった。僕は、誰かを傷つける才能はあるらしい。そんな力要らなかったのにって呟いたらお兄様に叩かれた。俺には才能がないのに、ずるいって言って叩かれた。お兄様は目に涙をためていた。…ああ、悲しませてしまったんだ。お兄様、ごめんなさい。謝ったらお兄様は何処かへ行ってしまった。


やっぱり、僕は人を傷つける才能があるらしい。





──────────────────────


7歳の頃、お母様に道化師というものを見せてもらった。もしかしたら笑ってくれるかもしれないからとお母様は寂しげにわらった。お母様は僕に笑って欲しいみたいだ。…人を傷つける才能はある僕だけど、傷つけたいわけではない。僕は道化師さんの笑顔を真似してみた。…少し、不格好なものになってしまった。こんな笑顔じゃ、お母様は喜んでくれないだろう。練習してみよう。綺麗に笑えるように。


───お母様に、喜んで貰えるように。






8歳になって少し月日が過ぎた頃、お母様が倒れた。僕が剣の練習をしていた時に、メイドさんが発見したそうだ。僕は急いでお母様の部屋へ向かった。


部屋にいたお母様は、何度もごほごほと咳き込みながら急いで入ってきた僕を見つめた。お母様は、優しげな顔をして僕の名前を呼んだ。


「…ノア。」


ノア。それが僕の名前。いつもメイドさんや教育係のおじいさんに呼ばれているはずなのに、何故か久しぶりに呼ばれた気がした。そう言えばお母様と話すのは久しぶりだ。最近は、剣や魔法の訓練しかさせてもらえなかったから。お母様とも、話せていなかった。


「はい、お母様。どうかなさいましたか?」


「…ノア、もっとこちらへ来てもらえるかしら。貴方の顔をちゃんと見たいわ。」


「はい、これで大丈夫ですか?」


ベッドに横たわるお母様と視線が合うように床に膝を着いた。


「…ええ、ありがとう。

───ノア、大きくなったわね。」


「…?はい。身長は去年に比べて大きくなりました。」


「それだけじゃないわ。貴方は心も大きくなった…。

あんなに、小さくて壊れそうだったのに。…優しく、強く育ってくれて嬉しいわ…。」


そう言いながらお母様は僕の髪をすくい上げるように撫でた。そのまま僕の顔を優しく触っていく。


「貴方を産んだことに後悔はないのだけれど…ずっと、申し訳なく思っていたわ。貴方の心と色を奪って産んでしまった事。そして…それを可哀想だと決めつけた事。」


お母様の独白は続く。


「…私は、貴方の人生を勝手に決めつけてしまった。親失格ね…。」


「…そんなこと、ないです。お母様は僕を愛してくれました。」


僕は、人の親なんてお母様とお父様しか見たことがないけど。それでもお母様が親失格だなんて思えなかった。


「…お母様、僕…笑えるようになったんですよ?未だに心はわからないですけど、たくさん練習したんです。道化師さんが来た時、お母様言ってましたよね。僕が笑えるようにって。」


そう言って僕は笑顔を作った。最初の時に比べて綺麗な笑顔を浮かべてるつもりだ。鏡を見ながらお母様の笑顔を参考にして練習したから違和感はないと思う。


すると、お母様は目を見開いて涙を流した。…どうして?また泣かせてしまった。傷つけてしまった。笑顔、出来てなかったのかな。


そう思ってるとお母様は笑顔を浮かべた。涙を流しながら。僕には、その表情がわからなかった。涙は、悲しい時に流すもの。笑顔は、嬉しい時に浮かべるもの。なら、両方はなんなんだろう。


「ノア…。愛しているわ…。本当に…。貴方の笑顔が見れて…本当に、幸せ…。」


僕にはよくわからない表情を浮かべながら、お母様は続ける。


「ねえ…ノア。…貴方は…本当に優しい子…。だから…貴方も…幸せになって…。」


そして、お母様は目を閉じた。涙を流しながら、笑顔を浮かべて。



────その後、お母様が目覚めることはなかった。

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